緒方勇気がだまる理由
2039年4月3日、3年1組の教室で、緒方勇気はだまっていた。
「おい、なんか言えよ」
ランドセルを背負って、早く帰ろうとしたところ、絡まれた。
いつも、自分をいじめる三人組。
「お前、むかつくんだよ」
「死ね」
「消えろ」
でも、大丈夫。だまっていれば、飽きて、帰るだろう。
「こらー!なにしてる!」
大きな声の主は、担任の志藤守先生だった。
体の大きな男の先生で僕は苦手だ。
「やべっ、逃げろ!」
いじめっ子たちは、教室を飛び出していった。
志藤先生は、僕に近づいた後、ため息をついた。
「緒方~、いつも、ビクビクしているから、いじめられるんだぞ~」
僕は、また、だまった。
これでは、いじめっ子たちと変わらない。
お説教が終わって、やっと帰れた。
帰り道、小石をけりながら、帰る。
これから先、楽しいことはあるのだろうか。
けった小石はどこかにいってしまった。
下を向いていると、音がした。
振り向くと、大きなおなかの女の人が倒れていた。
「た す け て」
僕に向かって、手を伸ばしている。
まるで、ゾンビみたいだ。
辺りを見ても、誰もいない。
足がふるえた。
声が出ない。
怖くなって逃げだした。
これから、きっと、僕に人生を楽しむことはできないだろう。
あれから、20年。
あのときの女の人は助かったのだろうか。
そんなことが知ることもなく、知る資格もないだろう。
ノックの音がした。
ドアを開けると夜ご飯と手紙が置いてあった。
手紙はそのまま、ドアの前に置いた。
きっと、また、話し合いましょうとかかれているはずだ。
ご飯を口に運ぶ。
ひきこもって、20年。
僕の人生は止まってしまった。
あのとき、勇気を出して、声を出していたら、何かが変わっただろうか。
TVゲームで敵キャラにやられた。
僕はまた、コントローラーを操作して、やりなおした。




