録画No,5『身を捧げてのお勉強』
登場人物紹介
リース・ヴァンテ・ハウンド
…やっと目を覚ましたレルに感情が抑えきれず、只今絶賛暴走中。
レル・ヴァンテ・ハウンド
…リースとお風呂という緊急イベントを終える。部屋の棚に並べられていた色々な本の中から妙に惹かれる黒く古びた本を開くと……
ヴィスト・アルサルト
…ヴァンテ家に仕える執事。リースの専属執事となっているが、レルの身の回りのお世話もする。
窓付近で起きろと言わんばかり鳴く小鳥に目を覚まされる。
「う〜………ふぁ〜あ……もう朝か………って、朝!?」
確か俺は気を失って床に倒れたはず。なのになんでベッドに?
「あぁ、起きた?おはようレル。」
リースが朝食と黒い本を乗せたトレーを運び部屋に入ってきた。
「……ね、姉さんがベッドに運んでくれたの?」
「そうよ。床で寝るのは良くないでしょ?」
机にトレーを置き、少し離れた場所にあるイスを引き寄せベッドの側に座る。次に右手に持ったスプーンでスープを掬い、レルの口元に近づけた。
「はい、レル。あ〜ん」
「なっ!」
少し恥ずかしく思ったが、昨日の出来事に比べればたいしたことがないと思ってしまう。
はむっ
そう考えているうちに自然と口の中にスプーンのくぼみが入っていた。
一口、また一口と朝食を食べて行く。
「ねぇ、レル。魔法学に興味があるの?」
皿を重ねトレーに戻したリースは、服の袖で口に付いたスープを拭くレルに尋ねた。
急な話題にレルはキョトンとする。リースは朝食と一緒に持ってきた黒い本をレルに見せるように持った。
「これ、昨日開いたでしょ」
「う、うん」
「これはねぇ、魔導書だよ。結構古いけど……あれ、真っ白なページがある……」
レルは『魔導書』という単語にピクリと耳を動かした。想像するに、誰もが一度は考えてみた魔法を書かれている本のことだろう。
「魔法…使えるの?」
「私も使えるよ。レルも練習すれば使えるようになると思うけど……やってみる?」
「え!いいの?姉ちゃん。」
「あーでも、レル文字読めるかなぁ…」
リースはふと思い出す。レルは長い間眠っていたため、文字の読み書きができないかもしれないと。
「………無理…」
原点で行き詰まったレル。
それから毎日、文字の読み書き練習が始まった。
始めはかなり難しいものだと思っていたものの「50音」と似ている言語だったので意外と覚えるのに時間はかからなかった。それはほとんどリースがつきっきりで教えてくれたのが大きいだろう。
代償のような感じで、毎日過剰なスキンシップを行われはした。
ー練習を始めてから2週間後ー
「……っよし!できた。姉さん、全部終わったよ。これでお…じゃなかった。私も魔法が使える?」
「読み書きできても魔法を使えるようになるわけじゃないけどね……でも、すごいねレル。あっという間に覚えちゃった。レルは天才かも。」
「へへーん」
レルはリースから渡された読み書きのプリントを片手に鼻を高くする。
そんな背伸びのようなレルの可愛い一面を見て鼻血を垂らす。
「じゃあ魔法、覚えよっか。」
「早く早く!」
目をキラキラと輝かせながら、リースが手にする魔導書に注目する。リースはレルに今すぐ抱きつきたいという衝動を抑え魔法について話し始めた。
「えーとね、魔法っていうのは大気に存在する『魔想連術元素』通称『魔素』が大いに関係している。えー、魔素は他の元素が持ち合わせていない特殊な性質がある。それは人の意思に強く反応を示すことだ……」
「姉さん…わかんないの?」
「…魔法学、難しいから……」
手に持つ魔導書に目をやりながら棒読みをするリースにレルが指摘する。
レルに「ちょっと待っててね」と言い残しリースは慌てて部屋を飛び出した。
しばらくして部屋の扉が音を立てる。扉に視線を変えるとそこにはリースともう一人、赤い蝶ネクタイが付いた制服を着ている青い髪の女の子がいた。
「いったいなんですの?用って。」
背丈はリースと同じぐらいだが、胸が…絶壁である。
「私の妹に魔法を教えたいんだけどね、ほら私って魔法学全然ダメじゃない?だからね、お願いアルマ。」
「しょうがないですわね。で、その妹さんはどこにいるので…す……」
歩いてくるアルマと目があった。嫌な予感がする。
逃げる準備をするレルだが、それは遅すぎた。まるで餌を捉えるチーターのようにアルマに一瞬で抱きつかれたのだ。
「なんですの〜可愛すぎますわ〜!」
予感的中。助けてヴィストさん。
アルマが嫌がるレルのほっぺをスリスリと自身のほっぺとこすり合せる。
「アルマ!レルは私の妹だからそれ以上続けると脳天貫くよ!」
「はぁ、わかりましたわ。これ以上抱きつくのはやめましょう。さぁ、レルちゃん私とお勉強しましょ。」
「……うん」
なんだろう。魔法を習えるのは嬉しいのだがこの人たちに頼っていて自分の心が持つだろうか。
今更のような気もするがこれも全てツェルララのせいだ。許すまじツェルララ。
アルマがレルを連れて別の部屋に入る。そこは壁が本でできているかのようにぎっしりと本で埋まっている部屋であった。
「早速だけど魔法を試してもらいますわ。」
「え、でも。お、私まだ習ってないけど…」
「魔法学は実際に試した方がわかりやすいんですの。知識より先に感覚から覚えるのですわ。」
「なるほど。」
わかるような、わからないような。そう思いながらもアルマの支持する通り実践することにした。といっても準備したのは数枚の紋章が描かれた紙だけだ。
「この模様が魔法陣と言われるもので、この陣に魔力を込めると魔法が使えますわ。」
「魔力……姉さんが言ってた『魔素』ってやつですか?」
「そうですわ。『魔素』とは人の意思に強く反応を示す性質を持っているのは知っていますわよね。その反応というのが魔法と言われるものですわ。」
「つまり、イメージすれば魔法が使えるってこと?」
「少し違いますわ。どちらかというとそれは『紋章魔法』ですわね。」
アルマは先程用意した紋章が描かれている紙に触れる。すると紋章の中心から何かわからない植物が瞬時に赤い蕾を開いた。
「おぉー」
「ふふっ…この紋章を通して魔法を使うことを『紋章魔法』というのですわ。これは魔素をこの紋章に流し込むだけで、紋章が意味する魔法が発動しますの。もう一つの魔法が『空陣魔法』と言われるものですわ。」
花が咲いた魔法陣の紙を床に置いたアルマは右腕を前に伸ばして人差し指を立てた。
「照らせ『シャイル』」
アルマが一言口にすると立てた人差し指の先に一点の光が現れた。その優しくあたりを照らす光にレルは少しうっとりとする。しかし、その光はだんだんと小さくなりやがて消え去った。
「この空陣魔法はその名の通り魔素を自分の意思で動かし、魔法陣を作り魔法を発動させるんですの。紋章魔法は魔法陣を用意しなければなりませんが空陣魔法には必要ありません。ですが、空陣魔法はかなり集中しないとできませんわ。」
「魔素が魔法陣を作ってくれるのですか?」
「いいえ、作ってはくれませんわ。」
「じゃあ、どうやってるんですか?紋章を一から描くのは難しくないですか?」
「それは『詠唱』で補うんですの。」
レルは魔法に興味津々で目を輝かせてアルマの話を聞いている。アルマもそんなレルを見て先生の気分になり、調子に乗り始めた。
アルマがレルに何か良からぬことをしていないかと心配になり、こっそり扉の隙間から覗いていたリースだが楽しそうなレルの邪魔をしてはいけないと感じその場を去る。
「ヴィスト、ちょっと出かけてくる。」
「かしこまりました。アルマ様にはどのように。」
「適当に遇らっといて。あ、でもレルに手を出したらすぐに追い出しといてね。」
「かしこまりました。では、いってらっしゃいませ。」
廊下で掃除を行なっていたヴィストに一言声をかけたリースは玄関へと歩いていく。
「はぁ……あの校長に会いたくないんだけどなぁ〜…」
ため息をついたリースは玄関の扉を開き、家を後に『国立麗学園』へと足を運ぶ。
ジャンルにバトルと入れた割に今まで一度もバトルシーンを書いていないのですが、できれば次の回に入れたいと思います。