録画No,1『六度目の転生』
すみません。
次の話から「登場人物紹介」として使わせてもらいます。
転生__
それは神によって与えられる次の命。
死んだ者は魂となって、神の住まう世界「天界」に運ばれ記憶を消される。記憶を消された魂は別の世界の別の場所で、新しい命となって生を得る。
この一連の工程を「転生」と言う。
それは魚や鳥、虫も例外ではない。
死を迎えた魂は全て「転生」の権利を得るが、転生に関することは神が決めるため「次は鳥になってみたい」や「転生するならチート能力が欲しい」などという願いは聞き届けられない。
転生先の世界は数え切れないほど存在し、その分転生する魂の数も多い。
生き物たちはそれぞれが生きる術を身につけてきたため、死ぬことが少なくなった。そのおかげで転生に来る魂の数は少し減ったが、多いことには変わりがない。
神々は毎日、転生の仕事で忙しいのである。
「はぁ〜『水銃 科学都市』の最終話、面白かったな〜」
「姉さん、またアニメですか?ちゃんと神の仕事してくださいよ。」
「別にいいだろ、ツェルカカ。あたしは今『ツェルララ』という仕事をしているのだ。」
ちゃぶ台、6段の棚、明らかに場違いなテレビが置かれた和風作りの六畳間。
いつも通り女神ツェルララは横になり、紅蓮の炎を思わせる自分の髪を指で弄りながら、アニメを眺めている。ちゃぶ台でいくつもある転生の書類に印を押していく妹のツェルカカは一度手を止めてだらしない姉を注意した。
「それは姉さんの名前でしょ……」
ツェルカカは働き者で、本来なら姉がするべき仕事も引き受けている。
神の役割はは主に転生に関する仕事をすること。神にとって仕事というのはとても大事なことで、働いていない神はいないくらいだ。
しかし神々の中で唯一、仕事をせず毎日をぐーたら過ごしている神がいる。それがツェルララなのだ。
「鈴斗さん、今頃どうしてるんでしょうね」
「今はな〜『リリア』とかいう女と散歩してる。正直、ムカツク。」
仕事とは呼べないがツェルララは1人、鈴斗と言う少年の転生の担当を担っている。
姉曰く「暇つぶし」だそうだ。
「そ、そうですか。」
「鈴斗のやつニヤニヤしやがって。」
ツェルララは千里眼の力を使い、転生先の様子を見ることができる。これはツェルララしかできない芸当だ。
「鈴斗さんの邪魔しちゃダメですよー」
「わかってるっ…て、あっ!あの野郎告白する気だ。あたしらが仕事で苦しんでいるのにあいつだけ浮かれるのは許さん。喰らえ必殺!『強制転生』」
「はぁ、言ったそばから……」
ツェルララは勢いよく体を起こし、訳の分からないポーズを決めて叫んだ。呆れた声を漏らすツェルカカは先程終えた転生の書類をまとめ、新たな書類を棚から取り出した。
強制転生とは無理矢理魂を天界に引き戻すというとてつもない嫌がらせだ。使えるのはごく一部の神だけで、よほどのことがない限り、使用は禁止されている。バレなければどんなことだってしてもいいと思っているのだろう。
しばらくして、顔を赤らめている10代ぐらいの少年がツェルララの前に姿を現した。パッとしない、黒髪の少年だ。
「き、君のことが…す、好きだ!俺と付き合ってください!」
「いやぁー告白って受ける方も結構照れるんだな〜」
「なっ!なんで、お前が……」
綺麗な直角を描くように鈴斗は頭を下げた。正直、恥ずかしすぎて顔を上げられそうにない。…だが、
強制転生させられた少年は『リリア』に告白するはずがツェルララに告白してしまったのだ。
ツェルララは照れて、片手で頭の後ろをポリポリとかく。ツェルララを見るなり状況をある程度理解した鈴斗は拳を強く握った。
「今度という今度は許さねぇ!テメェ、何回俺を転生させれば気がすむんだ。これで六回目だぞ!」
「あたしが満足するまで。」
「ふざけんなぁ!」
少年の怒りの火に堂々と油を注ぐツェルララ。
「まぁまぁ、鈴斗くんよ。落ち着きたまえ。あたしが次の転生世界探しておいたから………ちょっと待ってて探して来る。」
「用意してないのかよ。」
転生先の書類がしまわれている、引き出しを探るツェルララの後ろ姿に呆れた鈴斗はため息をつく。そんな鈴斗にそっと近づくツェルカカ。
「毎度毎度、すみません。私も注意はしているのですが……」
「俺は大丈夫、じゃあないけど、カカさんのせいじゃないですよ。」
曇った表情のツェルカカに苦笑いで返事をする。
ふわりと長い赤茶色の髪が揺れる可憐な姿、姉の仕事も受け持つしっかり者、まさに女神を名乗るに相応しい。
リリアには申し訳ないがカカさんは、全ての男性が思う理想の女神そのものと言っても過言ではないだろう。
実際、初めて目にした時に、カカさんの周りに花が咲いている錯覚が見えた。
「ヤッホー持ってきたぞ、鈴斗!」
ヒラヒラと1枚の紙を癒され中の鈴斗の目の前で揺らし現実に引き戻す。
「ちゃんとした転生だよな?それ。」
「もちろん、あたしに間違いなどない。」
「最初の4回、誰かさんの間違いで転生後すぐに死んだんだけど?」
身に染みた恐怖が蘇ってきた。だが、それ以上にツェルララへの腹立たしい気持ちが込み上げてくる。
「サバイバル系のアニメ面白かったからやってみようかなと思って加減間違えたとかそういうのじゃないからな。」
「どう加減間違えたら成層圏に転生するかな。おかげであの時は『死回避不可能スカイダイビング』を泣きながら楽しんだよ。」
「でも、痛覚を感じなくさせたじゃん!むしろ感謝されたいねっ!」
鈴斗はツェルララに憎悪の笑顔を向けた。だが、ツェルララは気にせず転生の準備をする。
準備をすると言っても鈴斗の転生書類に印を押すだけだ。
「よし、準備完了!」
「平和で、すぐに死なない場所に転生させろよ。頼んだからな。」
「安心してって。ちゃんと平和だから。」
もはや少しの信用も産まれないツェルララの言葉を最後に、視界が数多の光に閉ざされる。
やがて光が鈴斗の体を全て覆うと、畳へ沈んでいった。
「そういえば、姉さん。鈴斗さんの記憶消してませんけどいいんですか?」
「さぁ、いいんじゃないの?」
どうでしたでしょうか。少しでも気になってくだされば嬉しいです。
この物語の書き始めは友人との小説の勝負がきっかけでした。自分の中ではちゃんと小説になっているので無茶苦茶ではないと思います。
あまりにもおかしい点がありましたらコメントで指摘してください。よろしくお願いします。