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王子様(仮)がベルを鳴らし、やって来たのはおじいさん。おじいさんだけれど気品があってかっこいい。きっと若いときはモテたはず。いや、もしかしたら今も、現役でモテモテかもしれない。
そのおじいさんに何かを言うと、おじいさんはうなずいて去って行った。
暫くすると、女の人たちがテーブルの上に食事を載せていった。この世界で女の人初めて見た。頭はやっぱりカラフルで顔はきれいだった。この世界は不細工は生まれないのだろうか?
そんなことを考えていると食事の準備が整い、女の人たちは出て行った。ちょっと残念。
今、僕の目の前には見たこともない料理が並んでいます。塔の中では固いパンと、具のほとんど入っていないスープ、水くらいしか出なかったから。
この世界に肉と魚らしきものがあるという事が今、わかりました。
フォークとナイフ、スプーンがテーブルに置かれているので、前の世界と食事のマナーは変わりなさそう。
これ、本当に僕が食べてもいいのでしょうか?
そう思って目の前に座っている王子様(仮)と、王子様(仮)の後ろに立っている緑の頭の人をじっと見る。
王子様(仮)がどうぞと手で合図をしてくれた。
わーい!いただきます!!昨日からほとんど食べていないので、まずはスプーンを持ち、スープから食べる事にした。
「!」
おいしい!今まで食べていたスープはいったい何だったんだろう!味が濃ゆい!具がたくさん入ってる!アツアツだ!この世界の食べ物がこんなにおいしかっただなんて!塔の中で食べていたスープはいったい何だったんだ!
あまりのおいしさに一気にスープを食べてしまった。とっても満足!
しまった。スープでほぼ、お腹いっぱい。具がたくさん入っていたから。メインのお肉食べたかったのに。
スプーンを置いて王子様(仮)と緑の頭の人を見る。
「*****」
「********?」
多分まだ残っているぞ。早く食べなさい。って言ってるんだと思うんだけれど、僕のお腹はもういっぱいだ。
これ以上食べたら最悪、吐く。
行儀が悪いけれど、2人にお腹いっぱいとポンポンと叩いて見せる。
2人は驚いた顔をすると、気の毒そうな顔をして僕の方を見た。
そんなにお肉やお魚はおいしかったんだろうか?温かいうちがおいしいだろうけれど、冷めてもきっとおいしいはず!また後でいただこう。僕は好きなものは後にとって置くタイプです。
おいしいものがあるって幸せだなぁと思いながら僕は水を飲んだ。多分この水はレモン水。口の中さっぱり爽快。
なんてことを思っていたら、王子様(仮)がベルを鳴らした。扉の方から女の人たちがやって来て、食事を片付けようとした。
僕は慌てて女の人の洋服を掴む。持って行かないで!後で食べるから!
首を振って持って行かないで視線を送る。そんな僕の視線を受けて女の人は困った顔で王子様(仮)を見た。王子様(仮)も困った顔をして僕を見る。何とか伝えようと頑張ったけれど、伝わらなかった。
ああ、僕のお肉とお魚がぁぁぁ。
未練がましくお肉とお魚が去って行った扉をじっと見ていると、王子様(仮)が咳払いをした。
なんでしょうと思い王子様(仮)の方を見る。
「*****」
多分名前だ。なぜそんなに僕に名前を教えようとするんだろう?もう王子様(仮)でいいじゃないか。
「*****」
やっぱり繰り返す。心の中で声に出してみる
「*****」
(ア?テ、ビィド?)
「*****」
(アルデ?ビルド?)
「*****」
うん、多分アルデビルドであっているはずだ。多分偉い人だろうから、様を付けた方がいいだろう。声が出るようになっても、うっかり呼び捨ててしまわないように。声は出ないが、口に出してみる。
『アルデビルド様?』
そう口を動かすと。王子様(仮)改め、アルデビルド様はとても神々しい笑顔で僕に笑いかけた。
そして自分の方を指さして繰り返す。
「アルデビルド」
『アルデビルド様』
うん、いい笑顔だ。僕が女の子だったら間違いなく恋に落ちていた。けれど僕は男の子だから大丈夫。
ニコニコと笑顔で僕の方を見るアルデビルド様。何がそんなに嬉しいんだろう?
首を傾げてアルデビルド様を見ると、もうたまらないといった顔で、僕の方にやって来て抱き着いた。
ぎゅうぎゅうと抱きしめられてちょっと苦しい。いや、大分苦しい。段々と息が出来なくなってきた。多分もう落ちる、と思ったところで緑の頭の人が声をかけてくれて、アルデビルド様の熱い抱擁から解き放たれた。
アルデビルド様からもの凄く謝られた。