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出勤小咄

作者: 白本 裕士郎

あるサラリーマンが出勤のために終着駅に向かって電車に乗っていました。

電車は満席で、立っている人がちらほらいます。

サラリーマンは優先席の端に座っていました。


ある停車駅につきました。

お年を召したおばあさんが乗車してきました。

サラリーマンの横の高校生が

「かわりますよ。」

と言い、席を立とうとしましたが

「結構です。」

とおばあさんに言われ、バツが悪そうに座り直しました。

サラリーマンはほくそ笑みました。


次の停車駅につきました。

座っていた人たちが何人か降車したので、おばあさんは席にすわりました。

座席はみるみる内に乗車した人たちで埋まりました。

すると、おじいさんが乗車してきました。

横の高校生も今回は動きませんでした。

サラリーマンはイヤホンで音楽を聞きながら寝たふりをしました。


次の停車駅につきました。

この駅はいつも乗る人もいなければ、降りる人もいないような駅です。

ただ今日は横の高校生が降りていきました。

前の駅で乗車したおじいさんは、その席にすわりました。


次の停車駅につきました。

赤ん坊を抱いたお母さんが乗車してきました。

電車が発車して間もなく赤ん坊が泣きはじめました。

サラリーマンはイラっとして

「うるせえんだよ!」

とお母さんに言いました。

お母さんは

「すみません...。」

と申し訳なさそうに頭を下げました。

サラリーマンは舌打ちをして、音楽のボリュームを上げて眠りにつきました。


いくつか先の停車駅につきました。

寝ているサラリーマンは誰かに肩をたたかれました。

ふと見ると目の前に気弱そうなおじさんがいました。

「すみません、少し音量を下げていただいても宜しいですか?」

おじさんがそう言うと、サラリーマンは

「なんだお前。」

と言っておじさんの足を軽く蹴りました。

その反動でサラリーマンの肘が横の人に当たりました。

チラっと見ると、そこにはおじいさんではなく怖そうなお兄さんが座っていました。

サラリーマンは音量を少し下げて、寝たふりをしました。


終着駅につきました。

乗っている人は皆降りていきます。

サラリーマンが電車を降りてホームを歩いていると、先ほど横に座っていたお兄さんに肩を掴まれました。

「ちょっと、あっちに行こうか。」

サラリーマンは涙目になり

「すいませんでした!すいませんでした!」

と頭を下げます。

お兄さんは

「おい、お母さんやおじさんに強気でいけるなら、俺にも同じように来いよ。」

と胸ぐらを掴みました。

サラリーマンは涙を流して泣くばかりで何も言えませんでした。

お兄さんは困った表情で溜め息をつき、頭を掻きながらどこかへ行ってしまいました。


サラリーマンが会社につきました。

自分が口をきける数少ない後輩に話しかけます。

「ちょっと聞いてよ。

今日来るとき電車でさ、ババアが立ってたから俺黙って席譲ってや ったのよ。

んで、立ってたらさ、すげー音漏れしてる生意気な奴がいたから、駅で泣かせてやったよ~。」

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