99 みんな猫が嫌い
仮想の肉体だからといって疲労を感じないわけではない。走り続ければ息切れを起こすし、膝が笑い始める。
「結構、移動していただろー」
マンクソームを見つけることには苦労しなかったジェームズだが、お茶会の場所は話が別なのか、なかなか辿り着けないでいた。彼に対して不平不満を抱くことはないが、しかし、思い通りにならない進行に愚痴のような子供の我侭に似た弱音がましゅ麻呂の口からこぼれる。
嵐の前の静けさとばかりに、蔦が絡み合い揺れる音しか聞こえてこないのも彼の神経に障った。
「バラけて探せないのが辛いな」
世間話をするようなテンションで、オミはましゅ麻呂の愚痴に被せる。脱兎の如く走り出した一同だったが、今は駆け出す手前の速度で歩を進めていた。
「あのクソ猫が言っていたセーフティーゾーンの意味が判ったよ」
「ぼんやりとしか、教えてくれなかったからな」
通路内でラッシュが起こるということは、死に戻り確定と宣言されたようなもので混沌が好きなプレイヤーであっても出来れば避けたいと願う。時間内に何とかお茶会まで辿り着けないかと足掻いてみたものの、運命のダイスはゾロ目を出さなかったらしい。
「ジェームズ、方角と時間」
分岐となる場所で一旦足を止め、進むべき方角と現在時刻を確認する。ほぼ五分おきに行われるこの確認は、ましゅ麻呂の体内時計の正確さが出ていた。
「先ほどから南を指すポイントは動いていない。南北のラインに入ったのだと思う。この位置から外れないよう北上するか、更に南下するかだが」
「南だろ」
他を選ぶ余地がないとばかりにエイタはリムを傾け、手にした弓で方向を指す。エイタの意見に皆がどう思っているのか確認するように、ましゅ麻呂はそれぞれの顔を一巡した。
「k、南だ」
概ね同意と捉えたましゅ麻呂が決断を下すが、ジェームズが待ったをかける。
「猶予は、あと三分もない」
「嬉しくないお知らせで」
無限沸きが起こると気づいて以降、ましゅ麻呂の表情は真面目に引き締まったままだ。
「とりあえず、少し移動しよう。丁字や四つ角からは極力距離をとりたい」
アラベスクに促され、一本道となるように通路を進んでいく。この辺りでと、交差する通路から前後に等間隔の猶予を持たせた位置で立ち止まった。あとはラッシュが過ぎ去るまで、壁が動かないことを願うしかない。
「沢、どれだけ情報覚えてる? 」
「あー。なんかアヒルがどうとか、ねずみがどうとかだったかな」
沢蟹の記憶力が悪いのではなく、馬のサイズのアヒルがいたとか、犬くらいの大きさのアヒルとねずみが大量に沸いていたとか、それが一斉に同じ方向から走ってきた。と、書き込まれていた内容自体がイマイチ要領を得ないものだったのだ。
話を聞いたましゅ麻呂も理解できないのか首を傾げる。
「こうなるとヒャッハーしてマンクソーム狩ってる場合じゃなかったな」
「過ぎたこと、過ぎたこと」
口を曲げ、渋い顔で反省する素振りを見せるましゅ麻呂をオミが軽く流した。
マイナスの思考に傾かず、常に前向きに状況に対応しようとする<SUPERNOVA>の面々に、すぐにでも弓が射れるよう準備をしながらアラベスクは感心する。
「ユミ」
「ええ」
ジェームズに名前を呼ばれたユミは、双剣を引き抜くと彼の背中側へと移動した。自分たちが歩いてきた通路側を守るのがユミの役目となる。
「アラベスク、視界が暗くなってきている」
「判ってる」
夜の帳が下りるように、迷路の中の露光が陰りを見せ始めていた。
「ご丁寧な事で」
沢蟹はアデライードに渡されたPOTをレッグポーチから取り出すと、わき腹とベルトとの間に挟んだ。ラッシュがどの程度の時間続くのかは判らないが、もし打ち崩されたときジェームズかデミオのどちらかが生き残れば蘇生が適う。可能性としてはジェームズだが、その時に渡せるならどちらでもよかった。
アデライードが沢蟹たちが陥った状況を予見して、彼にステルスポーションを渡してきたとしたならば、沢蟹としては「なぜ言わなかった」と、小一時間ほど問い詰めたい心境だっただろう。だが、アデライードは準備の上に準備を重ねる理論派だ。あの散文に近いコメントの中から何かを掬い上げ準備を整えていたと思われる。それが判っているから沢蟹としても特に不満がなく、寧ろ無様に敗退して迷路から死に戻りしなくても済む命の猶予を残してくれたとベルトの上からPOTを撫でた。
「出来れば、袋小路みたいな場所がいいんだけどな」
「そうそうご都合主義的には、いかないっすよ」
「轢き殺すのは好きだけど、轢き殺されるのはなぁ」
マンクソーム一体に対しての8m四方とラッシュに対応する8m四方では状況が全く異なる。前方にましゅ麻呂とオミ、後方をユミとハヤトで真ん中の遠距離職を挟み込むような形で固まり、今から何がどう起こるのかという期待とラッシュは面倒臭いというストレスを感じながらじっとその時を待つ。
あと一分もないだろう時間の中で、胸の前に杖を掲げた状態で動かないデミオに気づいたエイタは、彼女が持つ杖の下の部分に軽く弓をぶつけて意識を自分へと向けさせた。
「寝るなよ? 」
「寝てないしッ」
すぐに反応したが、やはり心此処に在らずといった感は拭えない。
「どうした」
「お茶会がさぁ、なんか忘れているっていうか。アリスってどうやって辿り着いたんだっけーみたいな」
「はぁ? 」
それは今考えるべきことなのかと目が据わるエイタに、だってと続けようとしたデミオの口が閉じた。
「何か、音が……」
「来たぞ! 」
生木を裂くような音が周囲から響き、音の根源となる複数箇所の草で覆われた地面が盛り上がる。地面を割って姿を現したのは期待を裏切らないアヒルとネズミに似たエネミーだった。
「デカッ」
地面から湧き出た1mはありそうなアヒルとネズミは、動作処理の問題なのかすぐには動き出さす固まっている。その一瞬の隙を逃さず、<衝撃波>や<光の矢>、<必中の一矢>と反応したプレイヤーのアーツをこれでもかと浴びて秒で蒸発した。
「六体1セット? 」
「でもなさそうだ」
ポリゴンが分解され光の粒子となって消えるエフェクトの向こう、時間差で二体の新しいエネミーが湧いた。
「八体か」
「<天隕>」
初回で出遅れたハヤトが、今度こそはとアーツを放つ。湧き出た鶉モドキの上に金色に輝く握りこぶしが浮かぶとハヤトの動作をなぞる様に垂直に落下した。もう一体の猛禽類をギュッと縦に潰したようなエネミーもアラベスクとエイタのアーツによって屠られる。
これもまた一瞬で蒸発し、量産型故なのかエネミーの持つ耐性やHP自体はそう高くないことが伺えた。
「プレイヤーの周囲3mは、湧きがないと考えていいかな」
「湧き位置はランダムっぽいな」
「湧いたエネミーの周囲1mも湧かないんじゃないかな。結構、離れてた」
再び生木が裂ける鈍い音が響き、地面から新たなエネミーが姿を現す。
「三十秒」
最後のエネミーが倒されてから次のエネミーが湧くまでの時間を計っていたらしいジェームズは、涼しい顔のまま次々に<光の矢>を着弾させ湧き出たエネミーの半数を消し飛ばす。詠唱の関係上、今回デミオは攻撃に参加せずバックアップへと回り補助魔法を振り撒いていた。適材適所、攻撃か守りかどちらを主に置くかで詠唱ありと無詠唱の役割は入れ替わる。
「この程度の間隔なら問題ないな」
時差はあれど八体1セットで休憩時間もあるとなれば、遠距離職が多いPTなら辛くはない。マンクソームではそれなりに働かされたオミとしては、ここで楽が出来ると手抜きはしないが休む算段をしていた。
「オミさんよ、通路はここだけじゃねーぞ」
そんな矢先、エイタのツッコミが入る。その声に迷路が応えるように、ゲリラ豪雨の雨音のような地響きに似た草を走る足音が、遠い通路の先からじわじわと近づいてきた。
「本命来た! 」
「デミオ、範囲再生とバフの詠唱切らすな」
音の根源だろう数体の黒い塊は、ユミたちがいる通路には侵入せず通路の向こうを横切ったが、後続の一体が曲がれば新しい流れが出来たとばかりに次々に後を追ってエネミーが進行してくる。
「何アレ! 」
時間経過とともに視界の薄暗さは闇色を増す中、粒揃いの1mクラスのエネミーの奥に馬並みの大きさのアヒルモドキが見えデミオの詠唱が止まった。嘴に鮫のような歯がみっちりと生えた巨大なアヒルは、アヒルというより中型の恐竜に近いフォルムをしている。白く輝く鋸歯は丈夫そうで噛まれたらトラウマ必至に思えた。
バタバタと両翼を羽ばたかせ、跳ね回りながら飛び掛ってくる雑魚アヒルモドキも瞳と嘴が異様に強調されたデザインで不気味さを煽る。
「壁伝ってくるヤツもいる! 」
「お前は詠唱切らすなって! 」
器用にツタを掴み壁を伝い走ってくるネズミモドキは、齧歯目の特徴とも言える門歯は悪意で強調され、本来なら愛らしいはずの円らな瞳は、滑るような黒さはそのままに顔の半分を占めるほどに大きく、内側からの圧に押されるように半ば飛び出している。可愛いフォルムならプレイヤーが躊躇するのではないかとわざと気味の悪いデザインにしているのだろうが、加減がおかしい。
「近寄る前に<衝撃波>と弓で散らせ」
「俺は、<衝撃波>使えねーってのっ。<狂風濤>」
<狂風濤>は、<衝撃波>の変形上位互換にあたる。剣術は、片手剣・両手剣・双剣と三種類に分かれているが、それぞれに取得するアーツは変わり片手剣と双剣は同じく<衝撃波>を使用することが出来るが、大剣を振り回す両手剣では使えない。変わりに<狂風濤>を使用することが出来た。
<衝撃波>が幅拾い三日月形の風の刃だとしたら、<狂風濤>は細かな風の刃が絡み合った塊が複数発生し、<衝撃波>と同じように狙った方向へと飛んでいく。武器の振りが遅い分、威力や当り判定の範囲を増してバランスを取っているていなのだろう。現実としては、<衝撃波>より飛距離が短く活躍の場はあまりない忘れられたアーツになっていた。
しかし、通路という限定された空間では十分に威力を発揮したようで、波のように迫りくるエネミーの先頭集団を押さえ込む。
「<暗転寂滅>」
更に、沢蟹によってまとめて足止めするアーツが被せられた。ここで塞き止められるかと思った矢先、アーツの範囲外だったエネミーが、続々と動きを止めたエネミーを足場にして駆け上り進行してくる。
「とりま、<豪気戦弓>」
エイタの宣言とともに一直線に放たれた<豪気戦弓>を追って、上空に待機していた<追撃待機>が打ち下ろす角度で地面ギリギリに迫り、初撃の<豪気戦弓>が撃ち漏らしたエネミーを巻き込みポリゴンへと変えていく。
「ディレイあるから何度も出来ねーぞ」
やっておきながらの言い草であるが彼が放った一矢は、ましゅ麻呂たちが対峙する前方の敵を一掃し、僅かな間ではあるが焦る気持ちを立て直すには十分な時間を与えた。
「こんなん、傍に寄られたら一巻の終わりじゃねーか」
レーティングの問題上、食い千切られたり食い破られるといった残酷表現のないゲームではあるが、踏みつけられて圧死というのも如何なものだろう。なかなかにハードルの高いコンテンツ問題に頭を捻りかけたましゅ麻呂の耳にバーナーで物を燃やすような火魔法独特の音と、物と物がぶつかる異音がまとまって聞こえてきた。次いで、背中から暖かな風を感じる。
「なんか今、<紅蓮の波>みたいな音が聞こえた」
「ああ、派手に消し飛ばしたぞ」
前と後ろ、どちらの戦闘にも参加するはずのアラベスクは、たまたまユミたちの方を見ていたのだろう。半目になったましゅ麻呂の疑問に同じく半目で答えた。後方、ユミとハヤトはジェームズを守るために接敵してくる周辺湧きのエネミーを狩りとるだけの作業となり、遠方からの襲来はすべてジェームズが処理している。この三人とデミオを除いたメンバーが全員で前方の敵を討ち取るような形に収まりつつあった。
「戦力比……」
「みなまで言うな」
職業の素養、称号による能力の底上げといった素因がある以上、少なからず格差は生まれる。現状の対比として、後方はジェームズ一人で賄えた。とはいえ、ジェームズも後ろ側にだけ集中しているわけではない。前方の処理にも参加する気は勿論ある。が、彼のMP所有量も無尽蔵ではなく、今はリズムを作るために調整してる状態だ。
「次くるぞ」
近づいてくる音にオミが大剣を構えなおす。
「ディレイ間に合わない」
「白き丘、賢帝が築きし堅牢なる砦。<石の壁>」
タイミングを合わせたかのようにデミオの<石の壁>が嵌った。一通りの肉体強化系魔法をかけ終われば、あとは効果が切れる前に掛け直すルーチンワークだ。近接の体力に気を配りつつ、MPに余裕があるようなら妨害魔法を差し込む。
「ナイスフォロー」
「駄目だ、乗り越えてくる」
尖った岩山の先に動くものが見えたオミが、周囲に湧き接敵しているエネミーを大剣を振るうことで弾き飛ばしながら報告した。
「<疾風掃射>」
<石の壁>を乗り越えて進行してきたエネミーは無視し、壁が消えてから押し留められていたエネミーがなだれ込んでくるタイミングでアラベスクがアーツを放つ。早めに撃たなかった理由は、有効射程を測っていたからだった。
全円で効果範囲を持つ<疾風掃射>は、引き絞って前方向に撃ち出せばガトリング砲のように高い連射性で小範囲を掃射できるアーツとなり、弓なりに着弾を狙って放てば広範囲に弓矢の雨を降らせるアーツとなる。運用の仕方次第で形を変えるアーツだが、有効射程の限界は20mほどで地形にも左右された。
<石の壁>のように一時的に作られた障害物であってもオブジェクトと認識し、高さが増せば増した分、距離は短く効果範囲もオブジェクトに沿って変形する。より効果的にを狙えば、多少の進入は許し、その後の平面に団子に固まっている集団を狙うのが妥当だ。
頭上から降り注ぐ弓矢の雨に晒され、エネミーは奇妙な鳴声を上げながら次々と消滅していく。それでも漏れたエネミーに、今度は沢蟹が<疾風掃射>を被せて殲滅する。
「効率は、あんまよくねーな」
「ああ」
通常攻撃を交えることでMPの回収は出来るが、際限なく湧いてくるエネミー相手ということは、鏃の方がいつ尽きるとも限らない。弓職のバッグの中身は九割が矢と揶揄されるくらいには潤沢な量を持ち歩いているが、ラッシュに対応する量を常に持ち歩いているわけではない。どんな時でも、どの職であろうと付きまとうのは重量制限なのだ。
「今んトコは、問題ねーべ」
キングサイズのアヒル以外は、沢蟹とアラベスクの<疾風掃射>でオミたちの前にたどり着く前に処理できている。二人に気楽な声を掛けたエイタは、再装填とばかりに天井に向かい<追撃待機>を放つが、彼もまた鏃の残数については不安を感じていた。
「湧き止まりがわかんねー以上、現状維持」
いくら相手のHPが低いとはいえ、この状態がいつまでも続くようならいつかジリ貧になる。判っていながらも、打開策が思いつかないましゅ麻呂は、八つ当たりに近い勢いで足元に迫った鶉モドキを蹴り飛ばしてポリゴンに変えた。羽根の無いむき出しの背に人面に見える皺がチャームポイントとして刻まれている事に気づき、無駄にイラつきを募らせる。
そんなましゅ麻呂の頬に冷たい何かが一滴伝った。
「んだ? 」
反射的に頬を拭い、手の甲を見る。そこには何も残っていなかったが、残っていなかったがために水滴だと判断した。
「雨? 」
眉を寄せ天井を見上げ確認する。パラパラとまばらに水滴が落ちてきた。
「どうやら、散水機能を完備しているらしい」
肩越しに声の主を振り返る。余程渋い顔をしていたのか、ましゅ麻呂の後ろに立っていたエイタが思わず横に退いた。
「火魔法に反応したみたいっす」
傍でジェームズの処理を見ていたのだろうハヤトが、ジェームズの代わりに答える。喋りながらも周囲に沸いたエネミーを<震央>で浮かせ、浮いたエネミーはユミがすべて<衝撃波>でポリゴンに変えていく。
「地下なのに雨って不思議ね」
ユミは通常運転だ。
「炎属性は控えることとしよう」
パラパラとジェームズが手にした魔導書のページが風もないのに繰られ、ある頁で止まると本が煌めく。彼が掲げた杖の先から<神聖魔法・範囲攻撃>が放たれた。閃光の如き風の波動は、術者を中心にドーム型に展開し、範囲内の敵を次々とポリゴンの粒へと変えていく。
本来、<科戸の風>はアンデッド系エネミーに絶大な効果を誇り、他に対してはそれなりの威力しか持たない。異形ではあるが、腐り落ちているような特徴を持たないエネミーに選択した理由が判らず、ましゅ麻呂の顔が渋みを増すが、次にジェームズが精霊魔法を使ったことでどこか張り詰めていた緊張の糸が切れたのかポカンと口を開け、ハニワのような顔になった。
「た……」
「た? 」
ぷるぷると震えだすましゅ麻呂に、早く仕事に戻れとオミは目で訴えながら聞き返す。
「試してやがる! こいつ、この期に及んで、全部の属性試し撃ちしてやがる! 」
ビシリと立てた人差し指をジェームズの背中に向け叫ぶ声は、まさに魂の咆哮であった。
「はぁぁぁあ?! 」
一斉に前方組がジェームズを振り返る。疎かになった防衛を察してか、彼らの視線を背中に浴びたことに気づいたのか振り返ったジェームズの魔導書が煌めく。前方と後方、共に通路を塞ぐように<破壊魔法・絶界>が設置された。小型のブラックホールは、範囲に入ったエネミーを吸い込み消失させていく。即座に壁が反応し、絶界の手前を封鎖すると左右の壁を取り払い新たな通路を作る。
「ふむ。やはり二箇所に設置すると些かMPに不安が出るな」
「いや、そーじゃねーだろ」
「距離近ッ、ヤバさ倍増してるじゃねーか」
「もう一度、置こうか? 」
「どうして危機感あおるの、自分から死にに行こうとするの」
「大丈夫だ。問題ない」
「お前になくても、俺らには問題ありまくりだろーがっ」
「新しい敵きたーっ」
暖簾に腕推しの言い争いを遮るように、角から顔を出した巨大なアヒルに反応したデミオが叫ぶ。
「<精霊魔法・範囲攻撃>」
距離が近くなった丁字の合流点をツタの壁が練成した茨ではない茨が地中から槍の様に飛び出し通路を塞いだ。再び通路が反応し、新たな通路を開こうとするが無限増殖する茨はツタの壁を侵食し、新たに開いた場所へも枝葉を伸ばして封鎖する。
「おま……」
「こーゆーこと出来るなら、どうしてもっと最初からだな」
怒る気も失せたと肩を落とすましゅ麻呂を不憫に思い、アラベスクが説教を始めようとしたところで蚊帳の外だったユミが発言の許可を得ようとするように手を上げた。
「はい、ユミりん」
培った習性は悲しくも反応してしまう。議長よろしくオミがユミを指名した。
「メールの返事が着たから、読んでもいいかしら」
「本当に自由だな、お前ら! 」
もう無理と嘆くましゅ麻呂の肩を沢蟹が労わるように叩く。
「メールって、さっき書いていたやつ? 」
ユミがつたない動きで指を動かしていたことを見ていた沢蟹はなんとなく尋ねた。
「そう。金の鍵について、何か知らないか聞いたのだけれど」
言いながらシステムを呼び出すユミは、ましゅ麻呂の嘆きを了解と捉えたらしい。
「誰に? 」
「イッチーよ」
「イチ? 」
沢蟹は怪訝そうに首を捻った。この迷路の攻略について知恵を借りるならイチルより雪江やアデライードにメールしたと言われた方が彼の中でしっくりくる。
「巻物屋がなんだって? 」
「んー」
メールの内容が思っていたものと違ったのか戸惑った様子を見せたユミだが、すぐにひらめいたといった顔で一度手を打つと、長文らしいメール内容を順にスクロールして目当ての何かを探す。そうこうしている間に、有効時間が切れたのか通路を塞いでいた茨が解けて消えた。三方、前後あわせれば六方からせき止められていたエネミーが溢れ出る。
「これね」
目当ての一文を見つけたユミの目が輝いた。
シャウト機能にわざわざ大きく息を吸う動作は必要ないのだが、なぜかユミは大きく息を吸い込み前のめりになりながら叫ぶ。
『 ダイナは、世界一の猫ーッ 』
「は? 」
突然のご乱心とも取れる行為に進入してきたエネミーを迎え撃とうとしていた全員の動きが止まった。ユミの奇行に慣れているはずのジェームズでさえ、動きを止める。
「え? 」
だが、動きを止めたのはプレイヤーたちだけではなく一心不乱に彼らに向かって駆け寄ってきていたエネミーも同じく時間が止まったかのように動きを止めていた。
「どゆこと」
「止まった」
「止まったっす」
「あ、動いた」
フリーズした画面が突如動き出すかのように、ギュイギュイと鳴声を上げ早回しのような速度でましゅ麻呂たちから急速に距離を取り離れていくエネミーに目を白黒させる。
「な、なに」
「いったい何が」
混乱しているのはエネミーも同様のようで、逃げようとするエネミーと新たに走ってきたエネミーが通路内で交じり合う。
『 ダイナは、世界一の猫ーっ! ニャーッ 』
今度は、デミオが叫んだ。腹を括った女性の方が、こういった場面ではリカバリが早いのかもしれない。再び、エネミー内でパニックが起こる。
「効果覿面だわ」
ふふふ。と、我が意を得たりとばかりに腹黒い表情を浮かべながらデミオが笑う。彼女もまたお茶会へとたどり着くまでのアリスの行動を思い出そうと頑張っていた一人だったからだ。ユミが叫んだことで、その場面が鮮烈に思い出された。
「いやいやいやいや」
「なんすか、これ」
瞬く間にましゅ麻呂たちがいる通路周辺から姿を消したエネミーは、遠くで駆け回るような音は聞こえるものの交差する通路の向かいにすら姿を見せなくなり、また周囲にも新しく湧き出る気配も無くなった。
「ユミ」
短く名を呼ぶジェームズの声には、説明を求める意思が込められている。
「うーん。タナボタ、かしら? 」
元々、ユミがイチルに送ったメールの内容は『金の鍵』についての質問が主だ。
金の鍵を手に入れた経緯と現在の状況説明として、迷路に入ってからのこと、チェシャ猫に出会ったこと。金の鍵を貰い、粉々に轢き殺すと呼ばれているエネミーを沢山狩って、今はお茶会の会場を探して歩いている。といった内容を添えた。
その中で、金の鍵には文字が書いてあってその意企が判らないから判るのなら教えて欲しい。というのが一番の目的であった。
それに対し、そのメールを読んだイチルはなぜか書いてある内容すべてに全力で答えることにした。即座に返事が返ってこず、一時間近く間が開いたのはこれが原因である。自分の持つ知識を総動員し、語れるものはすべて語るという得意分野については饒舌になるタイプの典型的感情の発露だ。
不思議の国のアリスが出会った物事を章の順に書き出し、そこでアリスの身に起こったこと、アリスがどう切り抜けたかの簡単な説明文。そこから予想される迷路でのギミック、対処するためのキーワードといった内容が連綿と書き連なれている。
ユミが探すのに少しだけ手間取ったのは、この熱い内容のせいであった。
メールの内容をユミが読み上げ終わると七割がた省いているのも関わらず、年少組の面々は口からエクトプラズムが口から出ているような顔をし、年上三人は地蔵のように固まって動かない。表情筋が都合によって固定されるジェームズは、涼しい顔でイチルの返信が気になるから転送して欲しいとユミに言っていた。
ましゅ麻呂は口から出た魂を吸いなおすように息をつくと、ゆっくりと首を回し沢蟹を視界に納める。
「お前んトコ、残念さんしかいないの? 」
憐憫漂うましゅ麻呂の言葉に、沢蟹は額に手を当てると深いため息を吐いた。
最近、Twitterを始めてみたのですが、運用の仕方がわからず。
日に一回は覗くのですが、
特に熱く語る内容もなければ、さしたる話題もない日常で呟く用事もなくTLを確認して終わり。みたいな。
これだからソロ狩り引きこもりボッチ体質は笑
って感じです。
何かいいアドバイスがありましたら教えてください。




