87 モカをつついて、ミケがでる
■ 某動画共有サイト ■
TITLE 【The Stone of Destiny】の歩き方 坑道特別編
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動画投稿 Mocha
説明文
氷結の魔女と坑道に行ってきました。
今回は、いつもとメンバーと坑道内で会った友人たちと一緒です。
何か、面白いことになりそうって思って途中から少しだけカメラを回しました。
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コメント
・モカちゃんの声が入ってないの残念
・安定の狂戦士
・この人、『時の城』でもおかしなことやってなかったっけ?
・門の外でも湖畔の乙女狂ったように狩ってた
2件すべての返信を表示▽
・存在が升
・ましゅ麻呂が普通の人になってる
・マッシュですら止められない
7件すべての返信を表示▽
・(投稿者にだけ見えるコメントです)
・あの人意外と良心的だよ
5件すべての返信を表示▽
・このやり方って他も応用できるんじゃね
23件すべての返信を表示▽
・割と空気だった風特化が輝くのか
・湧かせて固めて凍らせればいいの?
1件すべての返信を表示▽
・剣林は複合だから、水と闇取ってないと無理。
・(投稿者にだけ見えるコメントです)
・ポーラスターと栄光の国横一列に並べて焼き払ってもらえよ
14件すべての返信を表示▽
・そこまで暇じゃない
---------More
【The Stone of Destiny】の歩き方の更新。
それは、モカにとってライフワークだ。自分が体験して面白かったもの。これは使えると思ったこと。そういったものを集めては動画にして共有サイトに上げる。
現在、ユーザーの関心事の上位に位置しているのは坑道攻略とユニオンでの効率のいいポイント稼ぎ。時間をかければ自然と集まるポイントだが、人間、限られた時間は有効に使いたい。その為、お題が発表になると高速で、その時の効率のいい狩り場や、やり方がSNSに流された。
坑道に関しては、対ムカデに対する攻略法が出て安定し始めると、今度は効率を求め始める。逃れられない人の業だ。
モカにとっては、いつもの日常に過ぎなかった。
面白かったから、役に立ちそうだったから。それを再現できるかは相手次第だが、ヒントの一つにでもなればいい。そんな軽い気持ちで、撮って出しの動画を投稿した。勿論、同行していた人間には、映っている映っていない構わず、全員に了承を得ている。メインはあくまでアデライードであり、見切れている人間はキサラギやハヤト、声の出演としてましゅ麻呂といったところだ。他はピントがずれているか、移っても一瞬でそこから判別することは困難だと思われた。
善良な彼女は、コマ送りで探し出そうとする猛者がいるなどと思いもよらなかったのだ。
ミケの持つ情報では、黒いマグスコートを着た両手持ち。長身の暗い金髪で外人。名前はジェームズ。
両手持ちは多くはない。そこから簡単に探し人まで辿れると思っていたミケだが、事態は難航していた。
実装当時は、一万分の一とされたドロップ率も含め、絶望装備とまで言われたオージンローブだが、実装から現在までのアイテムレコードを集計すると、三百人に一人は拾っている計算になる。ざらに見かけるアイテムではないが、全く見かけないアイテムではなくなっていた。
アデライードのように無駄に目立つ行動をしてくれる相手ならば、<栄光の国>じゃない白い【魔法騎士】で、大体ピックアップされるメンバーの中に含まれる。【魔法騎士】の圧倒的少なさゆえだが、「オージンローブを着た両手持ち」となると意外と情報が出てこなかった。
ジェームズにたどり着けないミケの機嫌は日に日に悪くなっていく。自分の囲いに八つ当たりをしたりはしない。いつも通りだ。よく笑い、自分を大切にしてくれる相手には礼を欠かさず、失敗すれば素直に謝る。ただ、時折とても悲しそうな顔をして「あの人にもう一度会いたい」と誰に聞かせるわけでもなく呟く。
何かが欲しいなら、財力でも労力でも惜しまず尽力し、ミケに捧げればいい。だが、対象が人となると途端に難易度が増す。口伝でどうにかなるのは、目立った行動をする人間だけだ。誰しもが知っていたり、交友関係が広い人間に特徴を伝え似ている人間を紹介して貰う。それを繰り返して探すのだが、ジェームズもユミも交友関係を広く取ってはいない。そして何より、彼らを知っている人間は意図してその情報を秘匿した。
魔法職なら巻物屋と総当りで聞いてきた人間に、ジェームズの唯一の取引相手であるイチルは「黒のマグスコートって多いよねー」と当たり障りのない返答をし、危機回避する。<栄光の国>の一部にも話はきたが、彼らは総じて冷淡だった。自クランに対する選民意識が働いたからだろう。中には、ハトリやジーニーといった合点がいった人間もいたが、彼女たちにとってジェームズの存在は「いずれ<栄光の国>に」で、統一されている。話すはずがなかった。
そうこうしているうちに、吉報が齎される。モカの動画だ。
あの時、ミケを迎えに来たプレイヤーの一人がハヤトを覚えていた。
ハヤトが目立つ行為をしている問題児だとか、キャラメイクが独創的で忘れられないとかではなく、彼が職に格闘を選んでいたから記憶に残った。剣と魔法のファンタジー世界で、格闘は人気がない。エネミーとの距離の近さが主な原因だ。ある程度は、格闘スキルを伸ばしておくと便利なので取る人間は多いが、主として使い続けるとなると人口ががた落ちする。そんなスキルをメインに扱っているということで珍しく思い記憶に残ってしまった。
彼は、ミケの敬虔な信者だった。
目を皿のようにして件の黒マグスがいないかと動画を見返す。ほんの一瞬、コマ送りにしてふたコマ。そこに、ぼんやりとだが黒マグスがいた。黒マグスだけではない、あの時一緒にいた弓使いも映っており、彼は確信する。投稿者が言ういつものメンバーとやらに、ミケが探しているプレイヤーがいるのだと。
きっかけさえあれば、あとは早い。モカは自分のクランを公表している。彼女の目的は、自分が楽しむもあるが、初心者支援も目的としていた。拠点としてる街、大体のログイン時間、連絡をくれるならこちらにどうぞとクランメンバーが集まるタヴァンの名前や位置までユーザープロフィールに詳細に記されている。
彼は、ミケを喜ばせようと意気揚々と報告した。
グリム・リーパーからの忠告をモカが軽んじたわけではない。ミケを喜ばせたいと思う執念が、勝っただけの話だった。
◆ ジェフサ王国・王都フロイデ ◆
「フロイデって、やっぱりワイワイしてるねー」
ハヤトを見つけた男性プレイヤー、カナヤに連れられ、ミケは足取りも軽くフロイデの街を歩く。城がある都市としての規模は、マルガリテスやグランカスターに及ばないが人の数だけは多い。露天を出すプレイヤーも多く、商業の街とも例えられる。何より、国としての歴史も浅いこの国を最初に選び、冒険を始めたプレイヤーたちは国の発展とともに成長してきた。その思い入れがあるからか、横の繋がりが強くグランカスターとは違った意味でシャウトが飛び交う。活気に満ち溢れた街であった。
「こっちだよ。離れないようについておいで」
露天に引き寄せられそうになるミケをカナヤが呼び戻す。彼女は素直に返事をすると、カナヤの肘に手を伸ばし袖を掴んだ。
「これなら、はぐれないよね」
上目遣いに彼を見て笑う。他の取り巻きを置き去りに、ミケを一人で連れ出せただけでデート気分のところをそんな仕草まで見せられては堪らない。鼻の下が伸びそうになるのを必死に抑え、カナヤは『黄金の上で眠る黒猫亭』へと急いだ。
ログイン情報を公開に設定しているユーザーならば、フレンド以外でもキャラクター名から検索をかけ、現在位置を知ることが出来る。モカはログイン済みで現在位置はフロイデと出ていた。同じPTを組んでいる場合を除き、各プレイヤーの詳細な現在位置は判らない。
モカの動画の詳細情報には、フロイデの街にいる時は、件のタヴァンにクランメンバーと共に集まっている書かれていた。移動されてしまうと無駄足になってしまうため、この機会を逃すわけにはいかない。
勿論、今現在モカがミケが探している人物と一緒にいる保証はないが、例え一緒にいなかったとしても繋がりが出来れば万々歳だ。
「見えた。あの店だよ」
ミケに判るようにタヴァンを指差した時、丁度店の中から人が出てきた。
「あっ」
ミケの瞳が大きく開かれる。彼女にとっての宿敵、タケルが当時より幾分グレードアップされた装備を身につけて店から出てきたのであった。
「あのクソ盾」
「ミケ? 」
思わず零れた呟きに、隣にいるカナヤが反応する。
「ん? 」
だが、彼が拾った言葉は幻聴だったとでも言うように、名前を呼ばれたミケは首を傾げ微笑む。ミケの笑顔にカナヤは瞬きを繰り返すと、彼女と同じように首を傾げ、顔を正面へと戻した。
自分から視線が外れたことに、男なんてチョれぇ。そんな感情が見え隠れする表情を一瞬見せ、ミケもまたタケルへと視線を戻す。今から何処かへ出かけるのだろうか。店の外へ出てきたタケルは、一緒に出てきた数人とポーチのところで立ち止まり、中から人が出てくるのを待っている。
「いたっ! 」
期待通りミケが探し続けていた人物が店の中から出てきた。掴んでいた袖を投げ捨てるようにしてカナヤから手を離し、彼の制止も聞かず一目散に駆け出す。
途中、横に広がり歩いていた集団の中を割って入り、ごめんなさいと謝りながら通り抜ける。突き飛ばされる形でよろけたプレイヤーに、後から走ってきたカナヤが深々と頭を下げた。
「見つけましたぁ」
自分の声に驚いてこちらを見たジェームズに、ミケは満面の笑顔を向けると、そのまま彼に抱きついた。
「えっ、何事っすか!? 」
「は? 」
「誰? 」
突然の来訪者に、今日の予定を確認していたアラベスクたちは騒然とする。抱きつかれたジェームズも、何が起こったのかと固まったまま動かない。
「ミケです、ミケ。この前、助けてもらったミケですー」
彼が逃げないことをいいことに、ぐいぐいと胸を押し付け自分の名前を連呼する。
「ああ」
何度か瞬いた後、ジェームズの中で彼女が誰か判ったのか、吐息を滑らせるように返事をし、頷いた。
「ずっと探していたんです。会えて嬉しい」
ミケは、自分を見下ろす相貌をうっとりと眺め見る。あの時も思ったが、彼の瞳は独特の虹彩をしている。ゲーム内に用意されているカスタム機能では、この色彩表現は無理だ。彼は現実の姿のまま、さして変更もしていないのだろう。この手のタイプは、よく言えば素直、悪く言えば幼い。懐柔すれば、ミケを誰よりも優先し尽くしてくれるタイプだ。
こんな良物件、逃す手はない。
「ばいんばいんしてた」
「うぬ、凄かった」
一方的に再会を喜ぶ女性に対し、戸惑いが広がる中。少年たちの目は、違うところに集まっていた。ボリュームこそカタリナに負けるが、見ただけで柔らかさが伝わる彼女と対照的に、突然湧いて出た女性は張りが勝負といわんばかりに弾力性がある動きをする。どことは口に出さない二人だが、今はジェームズに密着し潰れたその場所から目が離せないでいた。
「まぁ、新しいお友達? 」
モカと一緒に最後に店から出てきたユミは、出入り口を塞ぐように展開している光景を見て暢気に微笑む。その隣にいたモカは、両手で頬を押さえ、ムンクの叫び状態だった。
「トモダチ、かしらね」
ミケのあざとさを彼女が本領を発揮する前に同性の嗅覚で嗅ぎ分けたのか、カタリナは冷たい視線を一度ジェームズたちに向け、ミケを追ってきた男性プレイヤーにその視線を投げる。
「説明して、いただけるかしら? 」




