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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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83/103

83 鎮守の沼にも蛇は棲む


「安定のメンテ延長」

「終了時間未定って初めて見た」

「ま、日付変わる前までに入れてよかったんじゃない? 」


 モカの耳に、街角で立ち話をしているプレイヤーの会話が聞こえてきた。大型アップデート後の街はどこも人が溢れている。


 登録IDこそ、六百万を超えた【The Stone of Destiny】だが、同時接続数(アクティブユーザー)は、最大で四十五万程度だ。平均では、三十万くらいだろうと言われている。人気作は、百万はざらに超えるといわれるVRMMO業界では少ないほうだろう。

 だが、その分管理は安定はしている。【GM】との距離も近く、何かとイベント事には絡んでくる。

 今も、期待を裏切らない二人組みが各都市を巡り大騒ぎしていた。


「うーん、どこも人がいっぱい」


 【GM】が街の中に出没する場合、出る場所は決まっている。神殿街か、街の中央付近に設えられた噴水のある大広場だ。今回は、噴水広場を選んだらしい。マルグリットを皮切りに、今はグランカスターでプレイヤーたちと会話のドッチボールを楽しんでいる。メンタルの強さに定評のある【GM】みっちょんと、出会い頭に無言で刺してくるような【GM】カロゥシーのコンビはバランスがいいのか悪いのか判らない。

 ただ、【GM】カロゥシーは体が弱いので、一つのイベントが済むと死んでしまうらしい。現在の彼は【GM】カロゥシー三世。本当は十三世らしいが、末尾だけで数える仕様だそうだ。死ぬ気満々である。


 モカは、花壇の上に登り人垣の中心にいる【GM】二人を確認した。


 【The Stone of Destiny】というゲームは少し特殊である。やれることが多すぎて、やることがない。と、よく言われるが、それは優しい言い方だ。このゲームは、やらなければならないことがない。から、何をしていいかわからない。ゲームなのだ。

 メインストーリーは勿論ある。それは、ファルモアに暮らす全員の悲願。だが、それは一人ひとりに定められたストーリークエストを進めてたどり着けるものではない。

 運営開発側が実装して、始めて進むことが出来る物語だ。そしてそれは、やりたくなければやらなくても問題はないのだ。


 個人の物語は、個人で紡ぐもの。故に、次にこれをしましょう、これをしたらお話が進みます。といった据え置きゲームのようなストーリーは一切用意されていない。

 斡旋所で、繰り返しクエストやお使いクエストなどを受けるのも、クエストを消化すれば対価として資金や物品が手に入りますよ。というだけだ。だから、やりたくなければやらなければいい。このゲームは、自分で目標を決め、その目標を達成するためにどう行動するか。を自身で決め、遂行しなければならない。

 人が長く居つかなかったり、初見で心を折られて辞めてしまう人間が多い原因はこれだろう。人は、ある程度定められたレールを進むのが楽でいい。


 【The Stone of Destiny】は、言葉を変えれば“ほったらかしゲー”である。用意された箱庭の中をプレイヤーが好きに歩き物語を紡いでいく。

 そんなゲームが、はじめて一応のエンディングへ向けて舵を切った。この人の多さは、その期待値の高さでもあるのだろう。


『 お前ら、ちゃんと自分のユニオン確認したかー? 』

『 ポイントの交換は、神殿街入ってすぐの所に専用NPC(モリグナレプリカ)がいるので、そこで行ってください 』


 三人いた戦いの女神はそれぞれ割り振られ、各首都へと配置されている。モリグナ・ヴァハは、マルガリテス。モリグナ・バズヴは、グランカスター。モリグナ・ネヴァンはフロイデとなっていた。


 モカは、グランカスターに来る前にフロイデの神殿街でモリグナの姿は確認済みである。攻城戦に参戦した時のような大きさではなく、随分ミニマムで、さらに幼くなっていた。

 プレイヤーからのお触りが禁止なのか、鳥かごに似たデザインのガラス張りされたオブジェの中に保護されている。

 彼女たちは、ウォードの(テラニウム)箱の中を気ままに飛び回ったり、本を読んだり、昼寝をしたりと自由に過ごしているようだ。会話は勿論出来るが、ポイント交換といったシステム的な事は、オブジェに備え付けられているボードで行う。この辺りは、『時の城』のモニュメントや工房のレシピブックと同じ操作法なので、プレイヤーたちが混乱することはなかった。交換目当てなら、モリグナたちと会話する必要もなく勝手に行えるため、サイン会や握手会の長蛇の列のようなことにはならない。どこの国で交換しても同じなため、一目見て混雑していると判れば、国や時間帯を変えればいい。

 過疎化間近と揶揄されるゲームだからこそ、適度に不自由な遊びを加えても批判は少ない。むしろ、不自由を自由に遊ぶことを楽しむ人間が残っているということだろう。ただ、そこに甘え過ぎれば、一気に過疎化が進む。その匙加減が、この開発チームは絶妙に巧かった。


『 俺のオススメはぁ、5ptで交換できるアニバーサリーステッカーだな。三国分、微妙に色とデザインが違うから、全部貰っておくといいぞ 』

『 ラウンド目標は零時と十二時ジャストに更新されますが、集計後に支払われるユニオンの報酬得点が個人得点に反映されるまでに三十分ほど誤差があります。ポイント交換は、ラウンド目標更新と同時ではなく、一時間程度ずらしたほうが良いでしょう 』

『 あとは、遺物偽形だ。選定の剣シリーズから四つ、報復の死、純潔の氷刃、慈悲の剣(ソードオブマーシー)不滅の刃(ビューステート)と人気の高いやつがきてる 』

『 目標は、モリグナレプリカのところまで出向かなくともインフォメーション内で確認できます。街に戻らなくても狩場から狩場へ直接移動できますので活用してください 』

『 大楯の楯持つ乙女(ヘルヴォル)もオススメだ。最初、なんで内側やねん思ったけど、あのレリーフのねーちゃん可愛いから楯装備するやつは貰っておいて損はないぞ 』

『 メンテナンス日は、終日ラウンドは行われません。後半戦に備え、生産職の方は材料を備蓄される等に当てられるといいかと思います 』

『 俺の記憶が確かなら、アレ絶対外側にデザインされてたはずなんだ。誰かが内側に『 お前は、説明する気はないのか! 』


 淡々とシステムについて説明を続けていたカロゥシーがキレた。この二人の組み合わせの場合、この流れはお約束である。しかし、各国の特色とも言えるが、マルグリットではみっちょんがふざける事は少なく、比較的スムーズに進むため滞在時間は短い。グランカスターでは脱線しがちだが、まだカロゥシーは説明や解説をしてくれる。フロイデに至っては、カロゥシーが瀕死となっていて、主目的がみっちょんの雑談になり、カロゥシーは彼を見捨てて先に帰ってしまうことがあった。


 元々、【GM】の解説など聞かなくともインフォメーションからイベントガイドを開けば、どうすればいいのか書かれているので問題はないのだが、それでも【GM】を見たがる人間が集まるため、彼らは定期的に降臨する。


 過去の所業を鑑みて、モカはグランカスターでの話だけは聞くべきだと思い、フロイデから急いでやって来たのだった。

 個性派が多いグランカスターでは、プレイヤーからの突っ込みも多く話が盛り上がる。聞いていて楽しいのはグランカスターだった。フロイデでは雑談がメインになる分、どちらかというと人生相談のようになってしまう。それはそれで面白いのだが、【GM】参加の大反省会という他のゲームではまずお目にかかれない光景は、一種の名物になりつつあった。


『 怒られてやんのー 』

『 みっちょん、カロゥシー労われよー 』

『 カロゥシーまた死んじゃーう 』


 一般会話程度の音量なら、まとまれば波の音や擦れ合う木の葉に似た音となり、一人ひとりが何を言っているか聞き取りにくいが、これはゲームである。ゲームには、聞き手の意思に関係なく声を伝えるシャウトという便利機能があり、更にここはグランカスター。他者の迷惑を顧みず、シャウトを多用して会話する集団が根城とする街だ。相手が【GM】だろうが、お構いなしにシャウトであおりにいく。


『 五関さーん、みっちょんが仕事してませーん 』

『 うっせぇ 』


 プレイヤーにノせられ、あらぬ方向に脱線しそうになるみっちょんに冷たい視線を浴びせていたカロゥシーが、無言で掛けている眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。なぜだろうか、その仕草だけでそれまで騒いでいた人間の口が、一部を除き閉じられてしまう。よく訓練されたプレイヤーは、【GM】の扱いもよく判っていた。

 周りが静かになったことを確認するとカロゥシーは、すっと右手をまっすぐ上に挙げる。


『 他、質問ある方。挙手 』


 噴水の縁に立つことで、一段高い位置から周囲を見ている二人は、カロゥシーの号令で一斉にあがる手を見て質問を受け付けていく。


「ふむふむ。ラウンド目標は、戦闘用と生産向けで二種類出るのね」


 カロゥシーたちの質疑応答を聞きながら、ブックサイズに調節したイベントガイドを開いたモカは内容を確認していく。

 通常の定期メンテナンスは、朝の十時から始まり、午後四時には終了する。今回は、分割で先にデータは着ていたが、それでも大型ということもあり朝の八時からメンテナンスに入っていた。それが終了時刻を二時間延長し、更に伸びて結局八時過ぎまで掛かった。各都市での【GM】降臨時間は三十分が目安だ。夜の十時までにはフロイデでの説明を終え、引き上げなければならない。急ぎ足にならないよう注意を払いながら、プレイヤーと交流するみっちょんたちは、慣れているとはいえ大変な作業だろう。

 そんなことを考えながら、交換アイテム一覧を見てモカの顔が曇った。



■オススメ


・アニバーサリーステッカー 5pt


 マルグリット

 ワルター

 ジェフサ



■遺物偽形


・武器 5000pt


 模・報復の死(片手剣)

 模・純潔の氷刃(片手剣)

 模・慈悲の剣(両手剣)

 模・不滅の刃(両手剣)

 模・雷丸(イカヅチマル)(両手斧)

 模・正義の柱(ボワドジュスティス)(両手鎚)

 模・確かな死(シュアデマイズ)(片手槍)

 模・不死の天(アスラガヤ)(両手槍)

 模・轟雷火(ゴウライカ)(格闘)

 模・燐光長弓(シューティングスター)(長弓)

 模・楯持つ乙女(大楯)

 模・悪魔の言葉(ヴェルビスディアブロ)(杖)

 模・絶望の丘(魔導具)



■遺物偽形


・表装 300pt


 写・報復の死(片手剣)

 写・純潔の氷刃(片手剣)

 写・慈悲の剣(両手剣)

 写・不滅の刃(両手剣)

 写・雷丸(両手斧)

 写・正義の柱(両手鎚)

 写・確かな死(片手槍)

 写・不死の天(両手槍)

 写・轟雷火(格闘)

 写・燐光長弓(長弓)

 写・楯持つ乙女(大楯)

 写・悪魔の言葉(杖)

 写・絶望の丘(魔導具)



・防具 2500pt


 タブラ・ラーサ/カノン

 タブラ・ラーサ/サバトン



・アクセサリー 1500pt


 タブラ・ラーサ/クラウン

 タブラ・ラーサ/ティアラ



・アニバーサリーフード


 5pt


 アーネストコーヒー 五分間、レアドロップ5%UP

 アリスティー 五分間、ハイド効果一回。戦闘、採取行動で解除。

 エクスシアコーヒー 三分間、攻撃力+100%


 10pt


 アルケーコーヒー 五分間、VIT+20

 炭焼コーヒー 五分間、採掘での宝石ドロップ率30%UP


 50pt


 アーネストコーヒーS 五分間、レアドロップ50%UP

 アーネストコーヒーL 三十分間、レアドロップ10%UP


 100pt


 エクスシアコーヒーL 三十分間、攻撃力+100%

 マシュマルティー 三十分間、INT+10


 1000pt


 ワンダーエッグ スキルポイント0.2上昇



「これ、取らせる気あるの? 」

「生放送で言っていたろ。遺物偽形の武器は、一人二個くらいが目安だって」

「ふぎゃっ」

「全ラウンドで所属する『ユニオン』が一位取れれば、複数個取れるだろうな」

「みぎゃっ」


 画面に集中していたモカは、自分の左右から聞こえてきた声に身を縮め、震え上がった。


「なんで、いるのぉー」

「いや、ここグランカスターだし」

「だな」


 モカの足元にましゅ麻呂とグリム・リーパーが座り込んでいた。


「しかし、今回はきっついな」

「なかなか面白い組み分けしてきたと思うぜ」


 見上げればモカのスカートの中が見える場所にいるためか、顔を上げない二人に気づいたモカは慌ててスカートを押さえ、二人の間に挟まるように座り込む。


「組み分けって、どうなったの? 」


 自分のユニオンは確認しているが、他のクランがどう分けられたのかまではまだ調べてはいない。

 モカは興味津々といった顔で二人の顔を交互に見た。


「規模で分けるとは言っていたが、妙な分け方になってるのは確かだな」


 目深に被ったフードを僅かに上げ、モカに顔を見せたグリム・リーパーだったが、すぐに手を放し布の影に顔を隠してしまう。


「<栄光の国>と<ポーラスター>が一緒だ」

「あの二つが一緒じゃ、始める前から勝ち組、負け組決まっちまって、やる気なくす奴いるだろ」

「ふーん」


 軍隊アリの王国と女王蜂の帝国が手を組んだら、確かに勝ち目はなさそう。モカは両手で頬を包み、唇を尖らせる。


「<SUPERNO(オレんトコ)VA>は、赤。<スケアクロ(グリムんトコ)ウ>は、青。<栄光の国>と<ポーラスター>が、白」

「<TRUS(ウチ)T>は黒。<GIULIETTA>は、ここに来る前に聞いたけど赤って言ってた」

「黒って事は、<Schwarzwald>と同じか」


 クランの総登録数だけでも十万を優に超える。クランは最低四人から始まり、<ポーラスター>のように肥大したところや、ルールを提示し人の流入、流出を最小限に抑えた<栄光の国>のようなところまで多種多様となっていた。単純に頭数で割ったとも取れるが、実際は何かデータを基にして分けたように思える。


「請負人が、どこに多く就くかで色々変わってきそうだな」


 ましゅ麻呂はベルトに付いたアイテムポーチからワッフルを取り出すとモカの前に差し出した。紙で出来た受け皿に五つほど、楕円型が特徴のリェージュワッフルが可愛らしく並んでいる。小さく頭を下げ、礼を言うとモカは一つ受け取り口に運んだ。


「グリムは? 」

「貰う」


 モカが、このゲームを始めて気づいた事の中に、男性も意外と甘いものが好きだということがある。現実世界では周りの目が気になるのか、それとも気にせず食べているのかは知らないが、ゲーム内では女性より男性の方が甘味を持ち歩く傾向が強い。ユミもよく飴をくれたりするが、彼女の場合は、MP管理のための補助的側面が強いだろう。

 女子の場合は、甘いものそのものより、どこでそれを食すか。なんのためにそれを食すか。が、重要なのだ。


「一ラウンド、ユニオン反映点は三百で、個人獲得限界は五百。ボーナス点考えなくても、十回はラウンド参加して限界まで稼げば、一つは武器がもらえる訳ね」


 もぐもぐとほお張りながら話していると、口の中がパサついてくる感じがする。モカはワッフルを貰ったお礼にとインベントリの中からアップルジュースを取り出し、ましゅ麻呂とグルム・リーパーに配った。二人から貰ってばかりでは悪いと今度はグリム・リーパーがチョコバナナクレープを出してくる。座談会が始まれば、食べ物が並ぶのはいつもの光景だった。


「個人都合で点数稼げなかった奴と頑張った奴の差もギリギリでつけてるのは運営GJだな」

「欲しい物があったら頑張れってことだろ」

「どれもトレード不可っていうのが凄いよね。マーケット出せないから、転売ヤー殺しに来てるし」


■報酬得点

 (三百点に届かなかった場合は、獲得点数で計算)


 一位 ユニオン反映点×2

 二位 ユニオン反映点×1.5

 三位 ユニオン反映点×1.25

 四位 ユニオン反映点×1


 地球時間で十二時間と長く一ラウンドを設けたのも、プレイする時間に囚われないで済むようにだろう。現実世界と仮想空間では時間の流れが違う。これも、狩場が独占されないようにの配慮であるだろうし、戦闘が得意なものとそうでない者用に目標を複数用意したのも采配としては優秀だ。何より、点数がラウンド毎に頭打ちになることと、誰がどのユニオンに所属しているかは一見して判らないのだ。他のユニオンに属するものに対し、嫌がらせをしようとしても非効率すぎて鼻で笑われる。


 強武器となると、スキル値やステータスが一定以上ないと装備できないという条件があるが、今回のこれにはそれがない。新しくスキルを伸ばそうとする者用に用意されたと言っていい物だろう。条件なしということは、それなりに性能は劣る。


燐光長弓(シューティングスター)は、色が変わったせいで魔界武器っぽくなったが、威力はお察しだ。見せ武器と割り切ってくれ 』


 考えを読んだかのように聞こえてきたみっちょんの声に、モカは笑ってしまった。

 ガチャで引き当てることが出来る贋作武器とほぼ同じか、若干劣る性能となっている遺物偽形武器では、生産職が死ぬようなことはない。やはり、落とし所としては、この辺りが最適なのだろう。


「武器防具揃ってる奴らは、武器一個と表装いくつか交換するのがいいんじゃね」

「生産連中は、アホの子のように食い物溜め込むだろうな」


 レアドロップの恩恵は、戦闘職より生産職の方が高い。グリム・リーパーの言葉にモカは深く頷いた。


「そういや、今日はもうユミりん来ないの? 」


 ユミは、生活のリズムが崩れることを嫌がり、遅くても夜の九時にはゲームから引き上げることにしている。今回のようにメンテナンスが延長となり、常にログインする時間帯が潰れてしまった場合は基本来ない。


「メンテ明けた時間が微妙だったから、来てくれなくもないけど。でも、来てもラウンド始まる前に落ちちゃうだろうから、だったら来ないんじゃないかな」


 ましゅ麻呂に聞かれたモカは、昨日のユミとのやり取りを思い出すが、また明日とは言っていなかった気がする。

 フレンドリストを表示し、ジェームズの所在を確認したが、彼もログインしていなかった。


「ジェームズもいないから、今日は二人とも来ないんじゃないかなぁ」


 ユミがいる日はジェームズがいる。彼は何かセンサーでも内蔵しているのではないかと思えるほど的確に、ユミがログインしてくる日は、ゲーム内にいた。


「ジェームズ……」


 名前に引っかかりを覚えたグリム・リーパーが、顎に手をやり首を傾げる。


「グリムは遊んだことねーのか。ジェームズは、すげーぞ。<栄光の国>のマツより目敏く、セイコウより馬火力だ」

「へぇ」


 そして、多分。今一番、レッドマーシュが自クランに欲しがっている【聖賢】。

 スッとましゅ麻呂の目が細まる。


「あ。ちびっこBの司令塔」


 真面目な顔をするましゅ麻呂を見て閃き、グリム・リーパーは、つい言葉に出してしまった。

 攻城戦の時、すぐに話が逸れてしまったから忘れていたが、アデライードがその名を口にしていたことを思い出す。それと、もう一つ。


「ちびっこB? 」

「いや、それはこっちの話」


 ちびっこAに言葉尻を取られ、慌てて手で制止する。あの日以来、僅かに人の流れが変わった。グリム・リーパー自身、ましゅ麻呂と顔を合わせれば、それなりに雑談をする中に成ったし、神殿祭で出会った女性プレイヤーが、出海と一緒に七輪を届けに来てモカという名前と存在も認識した。

 交友関係が広がるのはいいことだが、世の中、それで好転することばかりとは限らない。


「よっと」


 ましゅ麻呂は両足を振り上げ、勢いをつけると腰掛けていた花壇の縁から立ち上がる。


「鈴木さんたちに呼ばれたから行くわ。今度、ユミりんたちと一緒に『至る門』行きたいって言っておいて」

「おっけー」

「どうせなら、グリムんトコも一緒に行こうぜ」

「ウチはどうかな」

「じゃー、お前だけでも来いよ」

「k」


 ましゅ麻呂は、グリム・リーパーとモカに手を振ると駆け出し人ごみの中に消えた。【GM】の話も丁度終わりを迎え、人が散っていく。


「俺も行くわ」

「うん。またねー」


 立ち上がるグリム・リーパーにモカが手を振る。


「ああ。ひとつだけ」


 立ち去ろうと一歩外に踏み出したグルム・リーパーだったが、その足を内側に向けた。身を屈め、座ったままのモカの顔の横に自分の頭を下げる。


「<ポーラスター>の性悪女が、ジェームズを探してる。気をつけろ」


 <スケアクロウ>と<ポーラスター>は協力関係にあり、表向き関係は良好。そんな背景から、グリム・リーパーは<ポーラスター>のミケが、攻城戦で出会ったジェームズという名の両手持ちを探していることを耳にした。彼女は、些か問題のある性格をしている。

 名前被りなどよくある話だが、両手持ちまで被ることはないだろう。ましゅ麻呂が、<栄光の国>の両手持ちの名前を出したということは、きっとジェームズも両手持ちだということになる。

 最大クランと言われる<ポーラスター>は、どこにメンバーがいるか判らない。<ポーラスター>に所属していなくても、傘下となるクランや信者は多い。その誰にも声が聞こえないように、グリム・リーパーはモカだけが聞き取れるギリギリの音量で囁いた。


「えっ」


 <ポーラスター>の性悪女。調査好きなモカなら、知っている噂の一つだ。俗に言うサークルクラッシャー。その属性を持つ女性プレイヤーが<ポーラスター>にいる。


「またな」


 フードの中のグリム・リーパーの顔を間近に見たモカだったが、彼の笑うと予想外に爽やか過ぎる笑顔に悲鳴を上げるより、彼から齎された情報に驚きすぎて呆然と立ち去る背中を見送るしかなかった。




『ユニオン』


白き騎士 勝利の上に勝利を求めん

赤き騎士 剣を掲げよ、怒りを忘れぬために

青き騎士 死に向かう欲動

黒き騎士 この手のはかりは、善悪を判定する


ユニオン参加により、称号【色彩の騎士】獲得

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