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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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80 反逆と徒花。または、奪われし王冠と色彩の騎士 7


 アデライードの検証癖が遺憾なく発揮されている頃。

 死に戻ったプレイヤーや、参加はせず後から結果を聞こうと待っていたプレイヤーたちで、三国のどの首都もごった返していた。


 遺品箱を取りに戻るため玄関口へ急ぐ者。所有権失効まで時間的猶予があるため、少し休憩してから向かおうとタヴァンに入っていく者様々だ。


 特に大口径レーザーブラスターを撃ち込まれたジェフサは、街の中にいても生きた心地がしなかったと、城壁からフィールドを見ていたプレイヤーは元より、響き渡った破壊音にNPCすら怯えていた。


 今回は、フィナーレ中にグウィンの声が聞こえたため、彼が今後のストーリーの糸口を握っているということになる。その為、いち早くジェフサ王に謁見したいと王都に押しかけるプレイヤーまで現れ、フロイデの街は二重の混乱に見舞われていた。



『 騎士よ・一度(ヒトタビ)・集え 』



 光がすべてを飲み込む光の中、響いたモリグナの最後の声。

 

 ジェフサ王国の攻城戦に端を発した混乱は、マルグリット帝国を巻き込み、ワルター公国まで拡がっていく。





  ◇  ◇  ◇  ◇



 ◆ 王都フロイデ・黄金の上で眠る黒猫亭 ◆



「何でお前らが、ここにいるんだよ」


 <TRUST>が集合場所として利用しているタヴァンの小部屋を開けた瞬間、キサラギは固まった。


 いつもどおりのタヴァンの小部屋。中央には、椅子が4脚ずつセットされた丸テーブルが2つと左右の壁には三人掛けのソファが2つ。ユミたちがいる場合は、ドアに近い方のテーブルに二人が。奥のテーブルは、モカたち女性陣が占拠していることが多い。

 長物や大楯を扱う人間は、壁に装備を立て掛け、横のソファに座って雑談している。それがいつもの光景だった。


 今日も勿論、それに準拠している。しかし、その屯しているメンバーに問題があった。


 ユミやジェームズは判るが、グランカスターの問題児たちまで混ざっている。しかも、何故かテーブルの上や壁際のソファの前の床に七輪が置かれ、焼かれる魚介類が香ばしい匂いを部屋中に漂われていた。


「おっつー、キサ。イカ美味いぞ」

「スルメ……だと? 」


 軽く七輪で炙った干物を差し出され、思わず受け取りながらアデライードの隣に腰を下ろす。


「て、いうか。そのザツな食べ方やめろ」


 頬張っているスルメの足が口の端から出ている性別不明(アデライード)に脱力するが、言われた側はどこ吹く風といった表情で、出ていたスルメを舌で絡めとり口の中に納めた。


「誰か、この状況を説明してくれ」


 七輪を挟んだ向こうに座るユミは、ジェームズにアジの開きの食べ方を教えているようで彼らには期待できない。場を仕切るのに長けたカタリナの姿はなく、聞いていないことまで話し出すモカも不在だった。

 頼みの綱のアラベスクもおらず、最後の望みとばかりにフェルトンを見れば、彼は楽しそうにましゅ麻呂たちと床で七輪を囲んでいた。


出海(ズミ)が、七輪と干物持ってきた」

「そこじゃない」


 次のスルメを炙り始めたアデライードに突っ込む。


「この前の釣り大会で、みんなが釣ったお魚だそうよ」


 使い慣れない箸で、ほぐしたアジを食べようと四苦八苦するジェームズが子供のようで微笑ましいのか、ユミは甲斐甲斐しく彼の世話を焼きながらアデライードの情報を捕捉する。


「ユミりんも、そこじゃないんだ」


 俺が知りたいのは、なぜここにアデライードやましゅ麻呂たちがいるかなんだよ。


 どこの国に仕官していようが、拠点をどこに設定していようが、友人関係は結ばれる。だが、常に行動を共にしたり、溜まり場に集まる仲間までとなると、同じ街を拠点とする者同士が圧倒的に多い。

 しかも、クランまで違うのだ。同じグランカスターを拠点にしながら、アデライードとましゅ麻呂は極力接触を避けていたきらいがある。それが仲良くフロイデにやってきて、別のクランが常用しているタヴァンで一緒に干物を焼いて食べている。おかしいと感じて当たり前だ。


「入るぞー」


 部屋の扉がノックされ、声と共に開かれる。キサラギが望む回答を出来る人間が入ってきた。


「お、キサ。おつー」


 店に入って来た時は気付かなかったが、カウンターで注文していたのだろう。アラベスクは飲み物が入ったガラス瓶が無造作に詰め込まれたバスケットを片手に下げている。彼の後ろに続く雪江は、両手でトレイを持っていた。トレイの上には、重ねられたグラスとカットされたライムやレモンの小皿が乗っている。


「ちわっすー」


 キサラギの顔を見ると雪江は軽く頭を下げ、アラベスクに付いてましゅ麻呂たちに飲み物を配りに行く。元から彼らが頼んだ飲み物は奥のテーブルに放置されていたが、干物の味を損なわない落とし所として追加で発泡水を頼んだようだ。


「はい、水ー。はい、グラスー」


 流れ作業で配られていく飲み物を見ながら、キサラギは落ち着いて話が出来る瞬間を待った。






「で。なんでグランカスターの奴らが、ここにいるわけ」


 追加で更にやってきたサラダスティックのニンジンを銜えながら、キサラギはここに来てからずっと疑問に思っていたことを切り出す。


 テーブルの上に、焼酎でも置かれていたなら完全に管を巻く居酒屋の風景だ。


「私は、雪ちゃんが行くって言うからついてきた」

「俺は、たっくんと遊ぼうと思ったらスルメ焼いてるって聞いて参上しまつた」


 どうやらこの二人は、別々の目的でやってきて鉢合わせしたらしい。


 隣のテーブルから椅子を借り、テーブル席はキサラギ、アデライード、雪江、ユミ、ジェームズ、アラベスクが座り、床ではハヤト、タケル、フェルトン、ましゅ麻呂が地球はボクの家とばかりに寛いでいる。


「モカも最初はいたんだが、アデルに薔薇差し出された瞬間、後ろに倒れた」


 出海が七輪を持ってやって来たときと重なり、彼が釣り大会に参加したプレイヤーに干物と七輪を配るのを手伝って欲しいとモカを連れ出したそうだ。


 空気を読む男、出海。システムの限界に挑戦し、システムに愛された男。


 七輪も干物も生産レシピの中に名前はない。りんご飴を勝手に実装したときと同じ要領だ。素材だけならば、加工することは出来るのではないか。

 彼の考えは的中し、干物が勝手に実装された。ただし、天日干しである。暇人の極みと言っては失礼だが、自営業で時間がそれなりに自由に使える彼と彼のクランの人間の協力があってこその成功であろう。

 七輪については、構造を例のプリントシステムを利用してゲーム内に持ち込み、NPCの職人たちに協力して貰い作成したという事だった。


 NPCに無限の利用価値を見出す男、出海。恐ろしい子。


「そもそも、アジやタイやイカ、タコ、ハマチ。果てはマグロまで、あんな港で釣れる事がおかしい話なんだがな」


 フェルトン、それは言ってはいけないゲームのお約束や……。


「オレ、アンコウ釣ったっすよ」


 ハヤト、重ねるな。


 開発も遊び心が過ぎると思わなくもないが、他の似たようなゲームでは当たり前に『釣り』の項目があるものもある。つまり、「メニューに書いてないけど、実は出来るよ。」みたいなノリで放置された可能性だ。

 わざと説明不足をする運営ならやるだろうな。と、キサラギは溜息とともに眉間を揉み解す。


「うんでさ、ゆっきーは何でここきたの」


 シャフトに刺して炙ったタコの足を手に、キサラギがさっきから聞きたがっていたことを素朴な疑問とばかりにましゅ麻呂が口にした。


 人間、生きているうちに知恵は使ったほうがいいよな。

 でも、マッシュ。それは武器を作るときの素材であって、竹串代わりに半生のタコに刺すもんじゃない。


 暗鬱としてくるキサラギの表情に気がついた雪江が、自分がここに来たいと言い出した理由を説明し始めた。


 すべては、あのエストラゴンと呼ばれた黒い竜に起因する。


 エストラゴンにより破壊された環境は、ゲーム内時間で三日も経過するとほぼ元通りとなった。

 元々、外に生えている樹木はプレイヤーが生産で必要とし切り倒す。これは種類にも因るが、早いものなら地球時間で三十分経過すれば元に戻った。果樹類は三時間程度だ。城から遠くなるほど、城からの距離を表すマップの数値が大きくなるほどに、再取得可能になるまでの時間が掛かる。故に王都前MAPは、死に戻りした人間が自分の遺品箱を取りにいっている間に、元通りに戻っていたといっていい。

 山肌が削られ、見事な更地にされたジェフサ第一MAPだったが、平地については半日でほぼ元通りに。周りを囲む山々はゆっくりとだが形を戻し、あれから五日経った現在は破壊される前と今との違いが判らない。


 環境は元通りとなったが、変わった点はいくつかある。

 NPCとの会話内容や進入できるエリアの変更だ。


 あの攻城戦の後、グウィン王への謁見は出来なくなり、王城の中には入れるが会えるのは将軍までとなった。

 マルグリットでは、白亜の城に入ることすら叶わない。


「今ンとこ、ジェフサもマルグリットも王様には会えないだろ」

「マルグリットは昔からだけどな」


 公式サイトに追加されたムービーから、マーガレット・マルガリテスへの疑念が深まり、彼女や腹黒摂政アドニスへ謁見を希望するプレイヤーは増えたが、城の門は硬く閉ざされ門番に話しかけても帰るようにと促されるだけで進展はない。


 唯一、ワルター公国だけは大公に謁見できるが、あの厳格が服を着て座っているような大公を前に、世間話をできるプレイヤーはいなかった。

 性格破綻者の期待の星とされる<SUPERNOVA>でさえ、残念なことに必要最低限の会話しかしない相手だ。


「公式のムービーからも判るとおり、マーガレットとアドニスが噛んでるのは絶対だ」

「モリグナは、利生の子ってグウィン王のこと呼んでいたわよね」


 干物を堪能したユミは、締めとばかりに温かい緑茶を啜る。


「知り合いなんすかね? 」


 ハヤトがマツタケの串焼きを七輪で温め始めた。


「知り合いかどうかは判らないが、何かしらの事情は知っていたのだろうな」


 フェルトンまで、面白がって松串を炙りだす。テーブル席の面々とは違い、こちらはまだまだ食べる気らしい。


 今回の騒動を経て、一部のNPCの会話内容が変化している。『街の噂屋』は当たり前だが、神殿街の神官たちや職人、貴族や町に暮らす人々など、対象は多岐にわたった。

 多くのプレイヤーが、あの日から考察に余念がない。様々な意見や今後予想される展開として、なるほどと感心するものや、流石にそれはないと呆れるものまで。殴り書きのような内容も多くネットにあがった。


 あの日、アデライードがアラベスクたちと話した内容を雪江に聞かせたことが、彼の考察欲に火をつけたわけではないが、一つの要因にはなっている。

 彼は生まれつき、人より少しばかり記憶力がよかった。


 元々持っていたゲームの舞台設定の知識、穴あきのように変化し埋まっていくNPCの文言。フレーバーテキスト程度の扱いだった各国に設えられた図書館の文献。


 それらバラバラの断片的な内容を繋げていくと一つの物語が出てくる。


 英雄王と四人の騎士。


 【The Stone of Destiny】の舞台となる【ファルモア】が、【ファルモア】となる前の時代の物語。


「その四人の騎士っていうのが、モリグナたちが言っていた騎士ってことか? 」


 ましゅ麻呂は串の先に一口残ったタコで雪江を指し、質問とともにそれを振り回してから口の中に入れる。


「今から話すことは、あくまで噂と調べたことから組み立てた仮説なんだけど」


 先に断りを入れる雪江に、アデライードは目で先を促した。


「まず、モリグナの言っていた騎士。これは『英雄王と四人の騎士』の騎士で正解だと思う。三国の図書館と神殿で文献を調べたんだけど、彼ら四人は色彩の騎士とも書かれていて、色は白、赤、青、黒」

「妥当ね」


 黙示録に準えた色合いなら、間違いはない。

 アデライードはライムに手を伸ばすと一口齧り、酸味に顔を顰めた。


「モリグナは王冠を返せといっていた。この相手は、マーガレット・マルガリテスのこと」


 公式のムービーからも、それは示されている。


「王冠を奪った。もしくは、マーガレットに与えてしまったのが、麗しの小さき竜アドニス・エストラゴン

「……」


 腹黒摂政と言われる彼は、初代マーガレット・マルガリテスの時代からマルグリットの国に仕えていた。彼の尖った耳から、エルフ族なのだとプレイヤーたちに勝手に解釈されていたが、正体がドラゴンとなれば、それはそれで納得がいく。


「『至る門』の先には、多分『英雄王』がいる」

「でも、それだと『至る門』を攻略するわけだから『英雄王』が敵にならないか? 」


 アラベスクが首を捻った。

 このあたりの相関図が、はっきりしない。

 マーガレットは英雄王を偽王と呼び、モリグナはマーガレットを偽王と言った。


「その辺りは、次の生配信(ライブ)で詰めてくると思う」


 先走って考えても、予想を覆されることは間々ある。あくまで今は、雪江が立てた仮説の話だ。


「昨日のメンテは、通常。来週が大型アップデート。日曜が公式生」


 気まぐれにアデライードが、全員が見える形でインフォメーションを表示した。カレンダーには二種類あり、地球時間に合わせた現実の予定のものと、ゲーム内日時にあわせたゲーム世界での催し物が記載されたものがある。

 アデライードが選んだのは現実の予定のもので、アップデートや公式生配信番組といった表示がされていた。


「ありがと、お嬢。オイラが睨んでいるのは、この『色彩の騎士』っていうのが『ユニオン』に繋がるんじゃないかってこと」


 ―― 何かがあって、ユニオンに繋がらなくちゃいけないんだ。


 黙って話を聞いていたキサラギの脳裏に、神殿祭で馬場に言われた言葉が蘇る。


「なーるほどねぇ」


 椅子の背凭れに体重を預け、キサラギは堪え切れないと喉奥で笑った。


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