表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Stone of Destiny  作者: 櫻井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/103

79 反逆と徒花。または、奪われし王冠と色彩の騎士 6


『 世の(コトワリ)より・外レタ一枝(セカイ)

『 真王ハ戻ラレ・大樹へと繋ぐ道筋ハ・結ばレタ 』



 モリグナたちの口上が始まり、一部のプレイヤーがボールカメラを飛ばしている姿が散見される。記録し、後で動画共有サイトにでも上げる気なのだろう。



『 人ノ子よ・汝らに問う 』

『 正邪を測ル天秤を・汝らハ持つか 』

『 終焉と救世・汝らハ剣を持つか 』

『 星冠を戴く髪を靡かせ・汝らハ威儀ノ弓を鳴らすか 』

『 滅びを懼レず・進む足を汝らハ持つか 』

『 人ノ子よ・汝らに問う 』

『 人ノ子よ・汝らに問う 』



 攻城戦が始まった当初のように、モリグナたちがプレイヤーの頭上を舞い飛び始めた。



『 正邪を測ル天秤を・汝らハ持つか 』

『 終焉と救世・汝らハ剣を持つか 』



 繰り返されるメッセージに、それが何かしらの意味を含むのだと判る。


「天秤に剣に、星冠と弓? 」

「いや、星冠はいらない。弓と……」


 モリグナの言葉に含まれるキーワードらしきアイテムを指折り数えるましゅ麻呂をジェームズは修正した。


「馬。といきたいところだけど、違うわね。ゲームにはドットダメージ以外に疫病なんてないし、死を振り撒くって部分に掛かっているんでしょうけど」


 アデライードも元ネタに気づいたのか、同意を求めるようにジェームズを見る。


「あの口ぶりでは、四騎士はモンスターエネミーとして実装されるわけではないとみるが」

「何かしらのアイテムを集めて、プレイヤーにどうにかさせるパターンかもね」

「なんにしろ、面倒臭いマラソンクエストの予感しかしないねぇ」


 今後の展開を予想する二人をキサラギが切って捨てた。

 

「四騎士って何? 」


 アデライードたちが語る内容が判らないユミがジェームズに問いかける。


「聖書に出てくる四色に色分けされた終焉の騎士だよ。そのままだと、このゲームの主旨とは離れてしまうから変えてくるとは思うけどね」


 ジェームズはユミだけではく、タケルやハヤトにも聞こえるように話す。


「ふふふ。ヤツは我ら四騎士の中でも、最イタッ」


 ボケようとしたましゅ麻呂の顔に氷塊が投げつけられた。


「扱い雑だわー」


 ヒリヒリと痛む額を撫でるましゅ麻呂に、キサラギが笑いながら回復魔法をかけてやる。

 プレイヤー同士の小競り合い程度では、HPに影響があるような怪我を負うことはないが、気持ちの問題としてのフォローだ。


「アリ姉、なんかヤバい」


 どこか意図的に。同じゲームを遊んでいながらも、偶然でなければ顔を合わせることもなくなった三人が、昔のノリでじゃれ合う。そんな姿を横目に見ていた沢蟹が、思わず声を上げた。


 炎が消えてなお、時折苦しむような仕草を見せていた竜の足先に残っていた黒い甲殻の部分が、侵食するように白い部分を覆い隠していく。



『 愚かなり・小さき竜(エストラゴン)

『 王冠を偽王に捧げた・愚かな子(エストラゴン)


 モリグナの挑発に応えるように、再び黒く色を変えた竜が背中の翼を広げ咆えた。


「伏せろ」


 パン。と、乾いた音が鳴る。それが、圧縮された空気が弾けた音だとタケルが気づいたのは、受けた風圧で地面に転がり、空高く舞い上がった竜が地上を見下ろしているのを見た時だった。


「っ……みんな、大丈夫か」


 アデライードが形成したカマクラ型の氷洞に守られたキサラギが、周囲の人間を心配して声を掛ける。アデライードの声に反応し、四つ這いになろうとした所をましゅ麻呂がキサラギにタックルし、二人でアデライードの背後に転がり込んだ。

 ましゅ麻呂の機転で風の影響を受けずに済んだが、彼らを守った氷はひび割れ、いとも簡単に砕けて消えた。消失速度の速さが、突風力の強力さを表している。


「飛ぶだけでコレか」


 アデライードは死の気配(ニオイ)には敏感だ。絶対に死なない。をモットーにしている彼女は、死亡フラグ回避に余念がない。しかし、今回のコレは予想を上回る速さと攻撃力だったらしい。


 フィナーレ中は、プレイヤーは傷つかない。


 その過去の常識が、警戒をしているつもりでもどこか心に油断を生んでしまったのだろう。自分を守る精一杯の大きさにしか、氷壁を展開することが出来なかった技量不足に、アデライードは小さく舌打ちした。


 だが、それはアデライードに限ったことではない。多くのプレイヤーが油断していた。

 伏せることも間に合わず、まともに風を受けてしまったプレイヤーは、挙って吹き飛ばされ地面に転がっている。風そのものにも威力はあったが、それより突風で吹き飛ばされた人間が、他のプレイヤーに衝突し更に被害を大きくしていた。


 飛び回るモリグナを追って、エストラゴンと呼ばれた黒い竜が旋回する。

 高度の問題ではなく、何かのギミックだったのだろう。飛行するエストラゴンから風圧を受けることは無い。その事を確認してから、アデライードは周囲を見回した。


「雪ちゃん! 」

「だいじょーぶー! 」


 傍に雪江の姿がない事に焦るアデライードに対し、どこか気の抜けた雪江の暢気な声が返ってくる。

 声がした方を探れば、随分と離れた場所で沢蟹と共に倒れているのが確認出来た。


「サワが、仕事してる……」

「おま……」


 思わず漏れ出た心の底から驚愕。といった具合の呟きに、ましゅ麻呂はアデライードを見上げ溜息を吐く。


「色々、痛い」

「なんか俺、死にそうなんすけど」

「キサー」

「うぃうぃ」


 ハヤトとタケルを庇って地面に転がっていたアラベスクに、駆けつけたキサラギが休むまもなく回復魔法を唱える。


「ジェームズは……ああ、ユミか。アイツ早ぇぇなぁ」


 もう一人の回復役を探せば、雪江たちと似たような位置に転がっている二人が見えた。


「<迅雷>で飛んだのか」


 起き上がったアラベスクは、垂れた鼻水を拭いながらキサラギの視線の先にユミたちを見つけ息を吐く。


「大丈夫? 」


 横倒しに倒れたユミは、彼女の腕の中、仰向けに倒れたまま空を眺め動かない相手を心配し声を掛けた。


「ああ、大丈夫だよ。些か不都合が生まれたとしたら、全身打撲で感覚が微妙といったところかな」


 風圧といっても、ほぼ衝撃波に近い威力を持ったそれが襲ってきたのだ。<迅雷>で同方向に逃れ、威力を弱めようとしたがジェームズには辛かったようだ。ともすれば、風より転がった時の衝撃の方がダメージが大きかったのかもしれない。


 雪江と沢蟹なら、沢蟹の方が体が大きい。抱き込んでしまえば、いくらかパッシブアーツに守られている沢蟹が衝撃を吸収出来、雪江に伝わる衝撃は少ない。

 だが、ユミとジェームズではユミの方が明らかに小さい。どれだけ自分が下敷きになり、威力を軽減しようとしても限界があった。

 それに例えゲームといえど、職種の特性がそこにあったとしても、女性を犠牲にする男というのは如何なものだろう。

 男とは、身の丈に合わないと判っていても格好つけたい生き物なのである。


「まぁ、どうしましょう」


 勢いよく起き上がったものの、ユミは一切の魔法スキルを取っていない。ジェームズを治療することも出来ず、ただ彼の横に正座して座り込んだ。


「大丈夫だよ。しかし、こんな風に転がったのは久しぶりだからね。少し、満喫しようかと思ってしまっただけさ」


 言って彼は、胸の上に開かれたままの魔導書に手を置くとユミが握っていた杖を求めた。慌てて差し出された手に杖を握らせる。

 ジェームズを抱え後方へ飛ぶとき、咄嗟に彼の腰と杖を掴んで押し倒すように風から逃れたため、ユミが彼から杖を奪い取る形となっていた。

 渡された杖を胸の上で魔導書に重ね、ジェームズはブツブツと何ごとかを呟く。魔導書が発光し、彼の体と隣にいたユミも淡い光に包まれた。


「回復魔法では、髪までは直してあげられないね」


 起き上がったジェームズは、ユミを見ると残念そうに微笑む。

 今回はいつもより無防備に転がることが多かったためか、髪は乱れ、衝撃に耐え切れなくなった髪型の一部は解けてしまっていた。


「あら、失礼。お見苦しいところをお見せしました」


 結い上げられた髪が乱れていることを触って確認したユミは、慌てて髪を解き整える。簪に巻きつけた髪を捻って留め、さらに横から毛先を内側に隠すように櫛を挿し、一瞬で夜会巻きを仕上げた。


 それまでの髪型であるギブソンタックの様な華やかさは無いが、髪を纏める目的ならば夜会巻きで十分だ。


 動きが激しい近接は基本髪は短い。お洒落にロングヘアを靡かせて戦うなど遠距離職くらいしか出来ず、ユミに限らず長い髪をもつアバターは、髪を括るか纏め上げるかして対処していた。


「髪を纏める仕草と編み物は、何度見ても魔法に見えるよ」

「褒めて頂いたのかしら」


 杖を支えに立ち上がるジェームズに手を貸し、ユミ自身も立ち上がる。周りを見渡せば、ダウンバーストで吹き飛ばされたプレイヤーが、広範囲に亘っていることが見て取れた。


「ユミりん、大丈夫かー」


 雪江と沢蟹が、こちら側に歩いてくるのが見える。


「二人とも平気? 」


 沢蟹たちと合流すると間もなく、アデライードたちもやってきた。


「モリグナとドラゴンが、ドックファイトやってる間に急いで移動しよう」


 アラベスクの提案に皆が頷く。

 羽ばたき一つで広範囲に被害が及んだということが、既存のルールが通用しない可能性を示唆していた。


「街に移動するなら、門開いた方が早いな。モリグナがいるからザブルー呼べないだろうし」

「馬場たちが、フロイデ前でキャンプしてるから合流しよう」

「<TRUST>は? 」


 アデライードの所在で大騒ぎをし、アラベスクたちのクランがどうなっているか確認していなかった事に気づいた沢蟹が訊ねる。


「俺達以外は安全圏に脱出してるよ」

「k」

「<SUPERNOVA>は」

「俺らは、勝てる勝負しかしないんで」

「潔すぎて清清しいな」


 とうの昔に撤退しました。と胸を張るましゅ麻呂を右から左へ受け流す。


 まだ周囲には、負傷しているらしきプレイヤーが散見されたが、それらすべての面倒を見るなんて言い出す慈善事業主は、この場にはいなかった。

 それに、そういった処理が大好きなクランが二つも居合わせている。


「オイラが開くよ」


 そう言って雪江が触媒紙にペンを走らせたとき、なんとなく空を見ていたハヤトが絶叫した。


「総辞職ビームは、やめろぉぉぉーっ! 」





「運営ってバカなの? 」

「いつものこと」

「うん。いつものこと」

「と、いう夢を見たんだ」

「おはよう、マッシュ。現実を見ろ」


 淡々と普段と変わらない会話が続いているが、今は全員が半透明の幽体だ。

 幽体は、倒れているアバターの頭が向いている方向で固定される。街に戻ろうと話していたのが幸いし、全員が互いの顔が見える場所で倒れ込んでいた。


 その場で蒸発したに等しい死亡扱いをされたのだろう。


 幽体状態では、地面に転がっている自身のアバターから離れることも出来ず、幽体の動きも制限される。しかし、身動きが取れない状態に心細さや死亡した事へのショックを受けることもなく彼らは通常運転だ。


 否。死に慣れているというのも聊か表現に問題がある気はするが、彼らはお互いの顔が見えなくても変わらないかもしれない。


「どこのゲームに、マップ半壊させるような高出力ビーム砲を撃ち出すドラゴンがいるんだよ」

「いたな。このゲームに」

「いたっスね」

「一瞬でしたね」


 痛みなど微塵も感じず、カメラのフラッシュを焚かれた。そんな感じだった。

 一瞬で視界が白く奪われ、気がついたら火砕流で燃える大地のような場所に投げ出されていた。

 今、目の前に見える景色は最悪を通り越し、ここまでやるのかと感心する気持ちまで生まれてくる。モリグナの声も聞こえない。彼女たちも自分たち同様、一瞬で屠られたのだろう。


 見上げれば、フロイデ前エリアをグランドゼロとしたエストラゴンが悠々と旋回し、どこへともなく飛び去っていく姿が見えた。


「真っ直ぐにフロイデまで届いたようだが、街はどうなっているのかな」

「待ってー、イッチーが中にいるから聞いてみるよ」


 人間には生理的嫌悪という生存本能に基づく脳の反射がある。無意識下での忌避したいという心理。生理的嫌悪をストレスと言い換えるなら、一定のストレスをプレイヤーが感じた段階で、強制的にゲーム世界からログアウトさせられる。

 『死』というものは、ダイレクトに恐怖を伝える。だから、人は無意識に死ぬことを回避しようと立ち回るし、それを気にしない割り切ったプレイを出来るユーザーは少ない。

 ゲーム内であっても死亡すればストレスを感じ、それ以上ゲームを続行出来なくなるのは当たり前のことで、その死亡時のストレスを如何に軽減し、娯楽として享受して貰えるか。の、ラインを探ってゲームをデザインすることがVR系ゲームでは重要とされている。

 時々、そのガイドラインを忘れているのではないかと思う暴挙に出るのが【The Stone of Destiny】なのだけれども。


「謎バリアで、街は無事だって」

「代わりに、街の前は全滅だそうだ」

「あと、津波が来るんじゃないかってNPCが大騒ぎしてる」


 雪江と沢蟹が、聞いた情報をそのまま流す。


 フロイデの街は、唯一海に面した都市だ。正門側の土地をすべて吹き飛ばされた挙句、側面や背面から津波まできたら堪ったものではない。

 NPC(かれら)が心配する気持ちもわかる。だが、この世界では津波や地震といった自然災害は大人の事情で起こらないとされている。「見えない部分までテクスチャーを組むとか、俺がアイツに殺される。」いつだったかの公式配信で、視聴者からの質問に【GM】みっちょんがそう答えていた。


「ま。こうしていても埒が明かないし、街に戻るべ」

「ああ、蘇生待つより銀箱取りに来た方が早いからな」


 言うが早いか、その場からましゅ麻呂とキサラギの姿が消え、代わりに銀色の遺品箱が現れた。


「うんじゃ、俺らも行きますわ」


 雪江と沢蟹が消え、後を追うようにタケルとハヤトが消える。


「ん。アデライード、お前は戻らないのか? 」


 全く動こうとしないアデライードが気になり、『拠点に戻りますか? 』と出ているウィンドウに触れる前に、アラベスクは彼女に声をかけた。


「今、拠点戻ってみなよ。リスポンした瞬間、モッシュで潰される」

「寧ろリスポーン待ちで、フォールし続ける可能性が高いな」


 怖いことを言うジェームズに、『はい』の文字まであと数センチのところで指先が止まる。


 死に戻りを行う際の感覚は、突然足下の地面が消え、真下に落ちる感覚だ。

 一段高いところから落とされたら、拠点設定している宿屋にいた。そんな一瞬の浮遊感でリスポーンされるのだが、これが拠点として設定している先が定員オーバーになっていると、飛んでくるプレイヤー分床面積が空くまで、真っ白な空間で降下し続ける待機状態となる。

 絶叫マシンのような急速なものではないが、それでも不安定な状態で落ち続けるというのは気分のいいものではない。


「確かに。この人数死んでたら、そうなるな」


 アラベスクは、伸ばした指先を引っ込めた。


 今日は神殿祭ということもあり、ログインしているプレイヤーがいつも以上に多い。最後まで残っていた人数は開始時より少なくなっていたが、どの国の宿屋も今は人で溢れ返っているだろう。

 流石に街に宿屋が一軒だけとかではないから、ある程度は分散されるとしても、それでも多い。少し時間をずらせば改善されるだろうから、急いで戻るより少し時間を空けたほうが賢いと合点がいった。

 首を動かし、なんとかユミを視界に入れれば、彼女も判っているのか、時折眠そうに瞬きを繰り返しながらも拠点に戻ろうとはせず、棒立ちのままだ。


「死亡した状態で寝てしまうと、ログアウトさせられるよ」

「そうね。でも、動けないのは暇だわ」


 アラベスクの視線に気づいたジェームズが、ユミに声を掛け覚醒を促す。思ったよりしっかりとした受け答えが返ってきたので、見た目ほど眠いわけではないのかもしれない。


「丁度いいから、少し私に付き合わないか」


 アデライードは、この場に残ったメンバーに少しの間の暇つぶしだと言って、今回の騒動で判明したことを確認し始めた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ