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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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78 反逆と徒花。または、奪われし王冠と色彩の騎士 5


 ドラコーレプリーの咆哮も地表を震わせ、状態異常範囲外にいたとしても、慣れていないプレイヤーは身を硬直させる。黒い竜のそれは、その比にならない恐慌を振り撒いた。


 <正義の剣よ、平定せよ>を束にしたような、光線が天空の城の中央に撃ち込まれる。爆心に相応しい波動が広がり、『王』の城を破壊していく。


 モリグナを相手取っていた<栄光の国>の面々も、あまりの威力に言葉を失い、手を止めて空を見上げていた。


『 オォ・オオ…… 』

『 許さヌぞ・小さき竜(エストラゴン)


 モリグナたちが周りを取り囲むプレイヤーを弾き飛ばし飛翔する。


『 何ヲ・しても無駄 』

『 既ニ・真王ハ戻らレタ 』


 近づくモリグナを威嚇するためか、体を捻ねるとともにその場で回転し、尾を振り回す。モリグナより、彼女たちと戦っていた<栄光の国>に被害が及んだ。


「まずい、一旦退け! 」


 <栄光の国>に敗走はない。

 しかし、浅慮で死者を出す愚かな統治者もいなかった。


 黒い竜の角が、再び発光する。


 上空に現れた城を一瞬で破壊した怪光線が、モリグナを追って地上すれすれに放たれればどうなるか。攻撃予兆に気がついたプレイヤーは、死を覚悟するよりも同時期に黒い竜の頭上に突如として現れた劫火球(メテオ)に心奪われた。


 地獄の劫火は、この世のすべてを焼き尽くす。


 墜ちた凶星に焼かれる黒い竜は、灼熱の炎に煽られその体色を赤く染め上げられていく。


「<破壊魔法・火球(怒りの火)>」


 次々に初弾と似たような大きさの火球が生み出され、黒い竜へと落とされていく。


「ジーニー」


 ハトリは両膝をついた友人に駆け寄ると彼女に肩を貸し、その場から後退した。目の端に米俵のようにタモンの肩に担がれたセイコウが映る。彼もまたスイッチングを行いMPを全て吐き出したのだろう。


「負けたわ……」


 ハトリに引き摺られるようにして逃げながら、ジーニーは呟いた。


 聖賢(セージ)ならば、誰しも戦い方の運用として常に頭の隅に置いているスイッチング。しかし、使い所は考えさせられ実行する場は少ない。自分たちは最初に撃たれた<怒りの火>を見て、それに倣ったに過ぎない。一番最初に詠唱した聖賢(セージ)がいる。

 <栄光の国>が後れを取った。その事実が許せない。


「私たちより、早かった人がいる」

「……」


 ゲームは名も無き人間の集まりだ。実力(PS)があっても、運次第で埋もれてしまうプレイヤーは多い。大人数で一堂に会するとはそういうことだ。常に華々しく活躍する実力者もいれば、逆に普段目立たない人間が、時として立役者になることもある。


 今回は、運が無かっただけ。そう慰めの言葉が浮かんだが、ハトリはそれを口にすることは出来なかった。





「燃えてんなぁー」


 <栄光の国>が一撃で蒸発しそうな場面が一転、プレイヤーに味方したはずの黒い竜が不可抗力とはいえプレイヤーに牙を剥こうとし、窮地に追い込まれている。

 熱で溶けた地面に足を取られ、巨躯を支えられず炎の海の中で呻吟する竜を見ながら、ましゅ麻呂は独り言ちた。

 もしも、あの怪光線が放たれていれば、展開していた位置的に<栄光の国>は壊滅状態に陥ったはずだ。

 それを救ったジェームズは、涼しい顔をして杖と魔導書を構えたまま竜の動きを観察している。


「あんなに沢山の<怒りの火>が、墜ちるところなんて初めてみたわ」


 ジェームズの<怒りの火>をきっかけに、そのあと続いた<栄光の国>の追撃は見事だった。

 ユミは純粋に楽しんでいるようだったが、復調したアデライードやキサラギは、竜がこの程度で終わるとは思えず懐疑的だ。


「魔法使いって、怖いっすね……」


 ハヤトやタケルはユミよりの態度だが、聖賢(セージ)とは何か。を初めて見せ付けられたハヤトは、『ゲームって楽しい』と同じくらい『職の頂点』の恐ろしさを感じていた。


「しかし、あれだけ燃えながらもまだ動くかね」


 後続の<怒りの火>に巻き込まれたモリグナも、地に落とされ竜と共に燃えている。

 遠く安全圏から見守るプレイヤーの目には、炎に巻かれた人型の何かが蠢いているとしか判らない。


「こっから、どう動くかだろ」


 いつでも弓を構えれるように手に持った沢蟹が、同じく弓を手にしたアラベスクに答える。周囲が燃えている以上、近接は近づけない。空中を主戦場とするDDも同じだ。これから先、戦闘が続行されれば、遠距離職が主役となる。


 黒い、今はマグマが内側で燃えているような赤黒き竜が咆哮とともに甲殻を弾き飛ばした。内側から真新しい鱗が姿を現す。

 それは、今までの黒ではなく、輝く白。


「第何形態? 」

「知らん」


 竜の形態変化に驚きながらも、矢を番える。焦ったプレイヤーが竜に向かってアーツを放ったようだが、何かに守られるように弾かれ攻撃が通らない。


「マジか」

「バリア? 」


 アーツを反射する<再帰反射>に似た反射光が見え、遠巻きにしていたプレイヤーに動揺がはしる。

 そこに、その動揺に追い討ちをかけるような声が、謀ったかのように響いた。



『 やめよ! この地は我らが同胞の眠る場所 』



 その声は、ジェフサを仕官国に選んだプレイヤーなら誰もが知っている声。



『 悲憤と怨嗟に満ちし土地より来られた使徒よ、汝の毒爪にてこの地を穢すこと相成らん 』



 だが、戦闘イベント中は、絶対に干渉しないはずの声。

 彼らの役割は、イベント開始と終了を知らせるのみ。フィールドにエネミーが残っている状態では、絶対に聞かれない声なのだ。


「ジェ……フサの王様? 」

「マ? 」

「マジで、ドラゴンスレイヤー出てきたのかよ」

「今更? 」


 それまでの攻城戦……既に攻城戦ではない流れになってきているが、過去のイベントと違う演出が入ったことに、プレイヤーの意識が目の前の竜たちから、後背する王都フロイデへと向けられる。



『 ソレハ・願いか・利生ノ子よ 』

『 鉄ノ靴音に追ワレシ・血に連ナル者よ 』



 ジェフサの王、グウィンの声に応えたのは、モリグナ達だった。

 燃え盛る炎が消え、姿を現した彼女たちは傷を負ってはいたが、その美貌に遜色は見られない。彼女たちが健在であることに気づいた竜が首を伸ばし噛み付こうとするが、それを避け空へと飛び立つ。



『 悠久を廻り・時ハ来タ 』

『 欺瞞に満ちタ・偽りノ王ハ・騎士により・討タレル宿命 』



 モリグナたちが初めて、韻を踏むような言葉遊びではなく、まともな意味を持った言葉を話し出したことにプレイヤーたちは驚きながら、ジリジリと竜やモリグナたちがいる場所から後退し距離を取り始める。

 <怒りの火>によって起こされた炎上も、徐々に鎮火しつつあった。



『 見捨てらレシ箱庭・正シキ時より・棄て置かレシ世界 』

『 始まりハ偶然・継続ハ偽計 』



 モリグナに対しても、竜に対しても一切の攻撃が通らない。

 それはつまり、このイベントが今、フィナーレを迎えているのだと気づいたタケルは、口の中に溜まった唾を飲み込もうとして失敗し、唇の端から零しれたソレを手の甲で拭った。


 タケルだけではない、攻撃が通らないということは非戦闘状態(システム保護)になっているということ。これから先、例えモリグナたちが戦闘を再開したとしても、プレイヤーに被害は及ばないはず。そのことに気づいたプレイヤーたちは次々と武装を解除し、茶番ともとれる三文芝居を観賞する態勢に入った。

 過去、似たような演出が入ったイベントはあるが、それらはすべて【GM】主催のものだった。今回は彼らがいないため、グウィンがその役を担っているのだろう。そうプレイヤーたちは解釈し、戸惑い、気付いていないプレイヤーたちに伝言ゲームがよろしく伝播していく。

 


『 最果ての、その先より訪れし乙女たちよ。時の狭間へ戻られよ 』


『 聞けヌ願い・我ラハ此ノ場にて・開門を宣言スル 』



 『開門』という言葉に反応したどよめきが、波のように広がる。まるでどこかのコンサート会場のようだと、ぼんやりとモリグナを見上げながらタケルは思った。

 少し前までは殺しあっていたはずなのに、今ではアイドルのMCに聞き入る熱狂的なファンのようだ。


「開門ってなんだ? 」

「開門って? 」


 そんな周りの声を聞きながらアラベスクは、ほんの数刻前の雪江たちとのやり取りを思い出してした。


「ま。ってことに、なるよねー」


 沢蟹も合点がいったのだろう。やれやれと肩を竦める。


「どういうこと? 」


 場に居合わせなかったアデライードは、怪訝な顔をして沢蟹たちを見た。


「『至る門』のことだよ、お嬢」


 魔導書を閉じ、ペンと共にホルスターにしまいながら雪江が答える。アデライードはそれで納得したのか「そう」と、短く答えただけでそれ以上は言及せず、視線をモリグナに戻した。



『 コレより先ノ苦難・騎士を求めよ 』

『 偽王を討つハ・騎士ノ定め 』

『 王冠ノ返還を 』

『 奸謀に与スルならば、粛清を 』



 繰り返される『王冠の返還』と『騎士』というワード。

 『開門』が『至る門』を示すなら、転移型の新MAPもしくは新ID実装だろう。身を寄せるアラベスクたちより後方、どうやらキマイラを討伐したらしき一団が集まっていた辺りで何やら声が上がった。

 それが、瞬く間に広がっていく。


 どうやら<ポーラスター>の誰かが、『至る門』に気づいたらしい。大型アップデートとなると早くて半年、通常でも十ヶ月は間が空くものだろう。前回の『時の城』からそろそろ十ヶ月。頃合としてはおかしくない。

 雪江のように記憶の断片からたどり着くものもいれば、今後の実装予定として候補に挙がっていた名称からたどり着く人間もいておかしくない。


「すんげー昔から、告知出てたから忘れてた」

「いつ実装って書いてなかったしな」

「予定は未定の代表格だっただろ、『至る門』って」

「こりゃ、次の公式配信(ライブ)荒れるな」


 喉もと過ぎればといった感じで地面に座り、寛ぎ始めたハヤトをタケルがつま先で突いて立たせる。

 確かに状況としては終戦(フィナーレ)だが、気を抜けばまだ何かあるんじゃないか。そんな猜疑心を植えつける事に運営は成功していた。その実、アデライードだけは剣を抜いたまま、モリグナと竜を交互に見て何かを考えるように空いた手の親指で下唇を触っている。

 ジェームズもまた杖は下ろし、魔導書も閉じてはいるが、ホルスターにしまうまではしていない。



『 人ノ子よ・汝らに問う 』



 突然、モリグナの意識の先が変わった。



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