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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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74 反逆と徒花。または、奪われし王冠と色彩の騎士 1


 王城のバルコニーから紫紺に染まる空を見ていた白の女帝は、その美貌を憂いに曇らせる。後方に控える摂政は、そんな彼女をただ黙って見守っていた。


「アドニス」


 摂政の耳に、うら若き娘の声と齢を重ねた気品と智慧を感じさせる声が重なり届く。


「王が戻られるようです」

「はい」


 女帝の言葉に露ほどの動揺も見せず、いずれ来るこの時を予め知っていたというような冷静さでアドニスは短く答えた。


「王……」


 白のオペラ・グローブに隠された指で口元を覆い、女帝は肩を震わせ笑いを噛み殺す。


「今更、戻られるような王はいないわ」


 振り返った彼女の眼は、いつもの思慮深い深い紺碧ではなく燃える深紅をしていた。


「新しき王など要らない。侵略には破壊を、世界を喰らう偽王には、怒りの正義でこたえなさい」




  ◇  ◇  ◇  ◇




 ほんの一歩。


 あと一歩踏み込んでいれば、タケルは命を狩り獲られていた。

 地面に僅かだが段差が見える。落盤したように見えるその境界線はモリグナがいた位置を中心に円形を描いていた。


「ヤバイだろ、コレ」


 タケルより半歩下がった位置にいたハヤトは、あまりの惨状に腰が抜けたのかその場に座り込んだ。


「何かするとは思っていたが、まさかの即死魔法とは恐れ入ったな」


 ケイオスグランジなど、一部のモンスターエネミーに実装されている範囲即死。だが、ここまで広範囲で且つ発動が早いものは見たことがない。

 アラベスクは唸ると飛び去るモリグナを目で追った。


「モリグナとユミは、一緒にいたんだな」


 確認するジェームズの声は至極平坦で冷静なものだったが、タケルは彼を見るのが怖くて振り返ることが出来ず頷く。


「最後、ちょっとだけ見えた時、モリグナがユミさんみたいなDD追っかけてました」

「そうか」


 ブックフォルスターから魔導書を取り出したジェームズは、ゆっくりとタケルの横を通り歩いていく。少し進むと、杖で地面打った。

 彼の近くで幽体となっていたプレイヤーが起き上がる。


「あ、ありがとう」


 即座に蘇生されると思っていなかった相手は、戸惑いながらジェームズに礼を言う。


「蘇生魔法が使えそうな魔法職を優先に起こしていってくれ」


 言われた相手は頷くと、足元に落とした杖を拾い周りを見渡す。自分と同じ魔法職を見つけたらしい彼女は、ジェームズにお辞儀をして幽体の元へ走っていった。


「一瞬で起こすとか、もしかしてジェームズって凄い? 」


 どうにか立ち直ったらしいハヤトは、ゆっくり進むジェームズの後をついて歩くタケルにそっと耳打ちする。


「凄いとは思うが、あいつらは協調性はあっても親和性はないからな。負んぶに抱っこはしてくれないぞ」


 ハヤトの肩に腕を回し、彼を引き寄せたアラベスクがジェームズに聞こえないように釘を刺す。

 ジェームズもユミも、他者を受け入れはするが同調することはない。彼らは彼らの独特の価値観の元、このゲームを楽しんでいる。彼らがどこかのクランに所属することを望まないのは、そのせいだろうとアラベスクは考えていた。


「あっ」


 魔法職を優先に、倒れている人間を蘇生して歩くジェームズから目を離したタケルが、遠くで何かが動いたことに声を上げる。


「どうした? 」

「あっちの、幽体の向こう……。よく見えないんですけど」


 タケルが指差した方向に全員の視線が集まる。


「……ユミか! 」


 動く何かに目の焦点があったアラベスクが、立ち上がった人間の名を呼んだ。


「え、でも周り死体だけで誰もいないっすよ」


 ユミが死亡していた場合、誰かが蘇生しなければ起き上がることは出来ない。だが、彼女の周りには彼女以外の生存者の姿はなかった。


「……ふ」


 珍しくジェームズから零れた笑い声に驚いた三人は目を剥く。


「彼女は、本当に面白い」


 いやいやいや、そういう問題じゃないっすよね? 蘇生魔法なしで起き上がるとかあり得ないっすよね? そんなんで起きちゃったら完全にチートっすよね??


 あまりジェームズが楽しそうに、安心した顔で笑うものだから。タケルは心の中の突っ込みを口に出すことはしなかった。


「あっ、走り出した」


 ユミが自分たちがいる方向とは違う方向に走り出したことにハヤトが慌てる。


「待てー、ユミ!! 」


 彼女がどこに向かおうとしているのか判らないが、もし、自分たちを探してだったら逸れてしまう。エリアシャウトを使えば他者に迷惑になるため、あらんばかりの声量でアラベスクは叫んだ。


 その声が正確に彼女の耳に届いたのかは不明だが、立ち止まり周りを見回すユミの姿に取り敢えずの足止めは出来たらしい。


「ユミさーん、こっちですー」


 タケルもアラベスクに続き、彼女に居場所を教えようと叫んで手を振る。


「いや、姿見えてるんだから指定してPT飛ばしたらいいじゃないっすか」


 どこか気分が高揚していたのだろう。二人の慌てぶりにハヤトが冷静に突っ込んだ。


「あ。」

「おおぅ」


 そうだった。と、アラベスクがユミにPT申請を出す。三人のやり取りを見ていたジェームズは、先刻とは違う優しい微笑を零した。


「ああ、よかったわ。今から探しに行こうと思っていたの」


 PTに参加するとユミは、挨拶より先に雪江や沢蟹が自分を庇って死んでしまった事、蘇生して欲しいからジェームズが必要だと伝える。

 蘇生については問題ないとユミが立ち上がった場所を合流地点に選び、それぞれに目的地に向かうとしたが、走り出す直前、ユミを庇って死んだという部分に三人は申し合わせたように首を捻った。


 どんなやり取りがそこにあったのかはわからないが、少なくともこの惨状を生み出した即死魔法は確率死ではなく絶対死だろう。しかも、フィールド依存の設置型と考えるべきだ。


 範囲内にいる人間は、すべて巻き込まれる絶対死を回避するなど、庇ってどうにかなる問題ではない。ユミが何かを勘違いしているのではないかと考えもしたが、確かに彼女はあの閃光に包まれていながら助かっている。


「ユミ、もう一度聞くが、雪江や沢蟹から何か言われてないか」


 ジェームズに問われ、何か考えるような沈黙が訪れた。


 お互い目指す場所が同じなため、随分大きくなったユミの姿が確認できる。彼女は立ち止まると、思い出したのか両手で顔を覆って小さな声で答えた。


「<戦闘禁止区域>で、即死は回避可能……」

「それ、大事」

「結構、大事」

「大事だな」

「ドンマイ、ユミりん」

 忘れていたことを責めない優しさが痛い。ユミは、覆っていた手で一度両頬を叩くと気持ちを切り替え顔を上げた。


「しかし、<戦闘禁止区域>で回避可能といっても、あのぼんやり明るくなったと思った次の瞬間には死屍累々だ。普通の魔法職じゃ、発動間に合わないだろ」

「そうだな」


 まだまだ倒れている人間は多いが、起こされた魔法職や範囲外からもやってきた蘇生班が着実に死体を生き返らせている。元から一帯のエネミー数が減っていた事も手伝って、順調に作業は進行していた。


「どうします? シャウトで情報伝えますか? 」


 秘匿したところで何のメリットもない。現在、モリグナと交戦中のプレイヤーたちは、いつあの魔法が飛んでくるかと戦々恐々としているだろう。頷くアラベスクに許可を得たと思ったタケルが声をあげる前にハヤトが叫んでいた。


『 即死魔法は<戦闘禁止区域>で回避可能っすー 』


「おま」


 睨み付けるタケルの視線をよける為、ハヤトは明後日の方向を向いて口笛を吹く。


『 どういうことだ? 』


 即座に、他のプレイヤーからの詳細を求める声が上がった。


『 判らん。だが、<戦闘禁止区域>の中にいたプレイヤーが助かっている 』


 まだまだ要検証。しかし、嘘は言っていない。質問に答えた声がアラベスクだと気づいた人間がいたのだろう。<TRUST>やアラベスクといた単語が交錯するシャウトに混ざり始めた。


「アラさん、それって本当? 」

「ああ、ユミが助かってる」


 真偽を問うモカの声に、アラベスクは短く答える。


「えっ、ユミりん!? ユミりんいるの!? 」


 途端に騒がしくなったモカに、アラベスクはしまったと額を打った。その様子を見ながら、タケルとハヤトはそんなことをしても無駄だと判っていながらも、耳栓代わりに指を耳に突っ込んでモカの声をやり過ごそうとする。


「いるわよー」

「ユミりーーん」


 姦しく騒ぎ出すと判っているため、誰もPTシャットで発言しようとしない。だが、珍しくユミがモカを諌めた。


「ユミりんってば、猛獣使いの素質アリ? 」


 迷推理を披露するハヤトの頭をタケルは軽く叩く。彼は、友人には容赦ない男だった。




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