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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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70 フロイデ防衛戦 8


「しぶといなぁ」


 硬い甲殻には亀裂が走り、剥がれ落ちている箇所も見られるが、見た目とは裏腹に健在なHPゲージの長さに、マツは溜息混じりに吐き捨てると隣のタスクを見た。


「のんびり構えてないで、準備しろ」

「へいへい」


 オーラに弾かれ、転がったタスクを蘇生したばかりだというのに、人使いが荒いと文句を言いながらも魔導書を開き杖を構える。

 威圧効果のあるオーラに当てられただけなら麻痺で済む話だが、タスクたち第六部(ゼクス)隊と第五部(フンフ)隊の一部は、振られた尾に撥ねられていた。


 <栄光の国>では、それぞれに役目が決まっている。


 彼らゼクス隊とナツが率いるフンフ隊は、尾の結晶を割るのが与えられた役目だった。


 ささやかな行動の積み重ねが、大きな流れを生み出す。故に<栄光の国>では、与えられた役割を完遂することが最優先であり、他者の仕事には手を出さない。が、一つのルールとして存在している。


「まだデカイの一つと、小さい角二本残ってますけどぉ? 」


 耐性や抵抗の強化をケイオスグランジは牙が担っていたが、ドラコーレプリーは角と結晶が担っていた。


「あと三回、キサキたちが弓を射る。その後はハトリのところが一回。それで折れなければ、イツキたちの特攻が早まるだけだ」


 両手槍を構え直したタスクが、マツの隣からドラコーレプリーに向かい駆け出した。


「逝ってらー」


 タスクの背中を見送りながら、ついでとばかりに彼に補助魔法を幾つかかけ直してやる。


「しかし……」


 黒いドラゴンを相手に戦う白い集団を一瞥した後、マツは視線を少し離れたところで戦況を眺めるクランマスターに視線を動かした。


 各隊には、それぞれ特色がある。

 基本、職バランスや所属する人間の相性を考えて配属されているが、どのスキルを伸ばすか、どう育成していくかをフォローするため、わざと偏らせている部分が特徴となって出ていた。

 中でも、顕著にそれが現れているのが、第二部(ツヴァイ)隊、第三部(ドライ)隊、第十部(ツェーン)隊。


 キサキが率いるツヴァイ隊は弓をメインウェポンに選ぶ者が多く、スケアのドライ隊は魔法職。イツキのツェーン隊は楯持ちが多い。


 今回のドラコーレプリー戦は、魔法職が一つの肝だ。

 本来なら使われない<石の壁>が多用できているのも、息の合ったクランならではでもあるが、魔法職同士のルーティンがしっかり出来ているからに他ならない。


「ドライをあの位置に置いて、ヒシボシを下げてるってことは本当に急いで討ち取る気か」


 【魔法騎士(マギナイト)】を筆頭に【聖賢(セージ)】や【賢者(ワイズマン)】などが多く所属しているドライ隊。

 元々ヒシボシはネロの人間だったが、燃費の悪いスケアのためにドライに移動した【聖賢】だ。

 ドライ隊の半分は優しさで出来ている。の半分を担うのは彼の存在だろう。しかし、元ネロだ。やはり勘はいい。


 ゲームシステムの中に組み込まれ、数値によって反映されるデータ以外にプレイヤー自身のリアルスキルで補える部分は幾つかある。

 記憶力、判断力、決断力。プレイヤーの個性の範囲でしかないそれらが、ゲームという一種の公平性の上に成り立つ世界では現実世界より大きな影響を与える。

 ネロに属する人間は、それらがずば抜けてよかった。


 隊を纏める隊長クラスは、勘の良さも然ることながら、人を纏めるスキルも要求される。それはキサキのように体育会系のノリのところもあれば、セイコウのように中身が子供だから助けなければ。と、人をその気にさせてしまう性格やハトリのようにRPに命をかけてしまうタイプ。フィーアやズィーペンは隊長と言うより隊自体がミリタリー趣味の集まりみたいなものだ。

 マツがいるゼクス隊は、やる気はあるが、やるべき時以外はやる気を出さない。をモットーにしているタスクが隊長を務めるだけあって、全体的にユルイ。


 ただ単に肩の力を抜いて活動しているだけで、怠慢しているわけではないのだが、ハトリ率いるアハト隊とは隊同士の相性はあまりよろしくなかった。

 全体的にユルイ。を言葉で装飾するなら傭兵的と言い替えれるのだが、どっちに転んでもRP重視のプレイヤーとは相性が悪いだろう。



 結晶を割るため群がるタスクたちを一掃しようと、ドラコーレプリーの尾が上がった。尾を浮かせ真後ろに叩きつけた後は、後方から左足まで地を滑るように薙ぎ払い、今度は右足へと往復させる。


 予備動作さえ判っていれば、阻むのは簡単。


 マツの魔導書が煌いた。


 尾が叩き付けられ、左へと振られる直前に作り出された<石の壁>が遮蔽物となって動きを鈍らせる。その僅かの時間稼ぎに、後方にいたプレイヤーが攻撃範囲外へと退避した。


 (ゼクス)側はマツの担当、右側はフンフの【聖賢(だれか)】が担っている。


 タスクたちが離れたタイミングを狙ってではないだろうが、三度目のツヴァイ隊からの<神罰執行>が撃ち込まれた。ドラコーレプリーのすべての角が折れる。

 その場から逃れようとドラコーレプリーが翼を広げかけたタイミングを狙い、右前方に備えていたアハト隊から、同じく<神罰執行>が撃ち込まれた。


 だが、ツヴァイ隊より人数の少ないアハト隊では、飛膜に小さな穴一つ開けることも叶わない。一瞬、怯む素振りを見せただけで、ドラコーレプリーは悠々とその王者の威厳たる翼を広げ羽ばたいた。


「<時魔法・座標変換ポイントアットインフィニティ>」


 ドライ隊の魔法職が一斉に声を上げる。


 ドラコーレプリーは自分の体の半分も浮上させることなく、翼を広げたまま地に落ちた。


『 再詠唱!! 』


 ヒシボシの声に、二度目の<時魔法・座標変換>が唱えられ、身を伏せた状態から起き上がろうとするドラコーレプリーの巨体が、上から見えない力に押し込まれるように僅かに湿地に沈んだ。

 <時魔法・座標変換>の効果を簡略に述べれば、ブラックホールだ。時空を故意に歪める事で重力を作り出し、その場に対象を縛り付ける。


 ドラコーレプリーの周りを囲んでいた近接が、翼を足場にドラコーレプリーの背に登っていく。


『 効果三十! 』


 アーツの効果にはルールがある。<攻撃停止>や<攻撃連鎖(アタックチェイン)>のように、常に一つしか適用されないもの。

 <咲き誇れ、大輪の花フェ・デ・ネージュ・メリア>のように重複させないと最大効果を生み出せないもの。

 <座標変換>は単体魔法に数えられるため、効果は重複するが効果時間は延長しない。


 一人ではドラコーレプリーを押さえ込むことは不可能でも、頭数を揃え、タイミングを合わせれば可能。それを<栄光の国>は、数の暴力でやってのけた。


『 まずは右 』


 宣言とともにキサキから右の翼の付け根に<攻撃連鎖>が撃ち込まれる。すぐさま近接が群がり、様々なアーツの輝きに塗れたあと、受付時間終了とともに部位破壊を示す爆発が起こった。

 右の翼の色が変わり、弱体化したことが見て取れる。両翼の色が変われば、飛行制限が科せられドラコーレプリーは自由に飛び回ることが出来なくなる。


『 左! 』


 アハト隊から矢が放たれ、左の翼の根元に新しい<攻撃連鎖>が現れた。


 粛々と背中の部位破壊が進行していく中、<攻撃連鎖>の援護を受けれない結晶組は、自身の最大火力となるアーツを惜しみなく注いで結晶破壊に尽力している。結晶組に割り当てられたメンバーは、良くも悪くも実力主義だ。寧ろ<攻撃連鎖>無しで、有り組より早く破壊しようと勤しんでいた感すらある。


「こーれーはー……」


 引き分けかな?


 安全圏からタスクたちの奮戦を見ていたマツは、次の行動に移るためドラコーレプリーに走って近づく。


 心情としては、自分たちのゼクス隊が勝って欲しい所だが、ハトリのところのジーニーが補助ではなく攻撃に転じたことと、最近ハトリがメインウェポンとなる両手剣を遺物で作成し持ち替えた部分が大きいのか、菱形の結晶に亀裂が入り、内側から弾ける様に四散するより、左の翼が爆発し色を変える方が僅かに早かった。


 結晶を失い、硬い甲殻に守られていない真皮が姿を現すと同時にドラコーレプリーが吼える。マツの足が止まった。


「マジか 」


 まだ<座標変換>の効果時間は残っていたはずだが、尾が強引に持ち上がる。


『 ドラコーレプリー動くぞ! 』


 マツの警告より早く、ドラゴンの尾は後方にいたプレイヤーを一掃した。


 すべてを織り込み済みで動ける人間なんていない。

 もしいるとしたら、それは犠牲を犠牲と思わず、最初から踏み台にする気だった人間だけ。


『 <悪しき願いは三度まで(グロリアスホラーズ)> 』



  ◇  ◇  ◇  ◇





 戦力外通告者二名は、仲良く肩を並べ胡坐をかいて消化試合となりつつある防衛戦を見ていた。


「アデル、お前は女子としての自覚はないのか……」


 回復所を運営するキサラギが、色々剥がれ落ちている友人に苦言を呈する。


「あ? ホーズ(ズボン)だし」

「そういう問題じゃねぇ」


 見た目がどれほど美しかろうと、端々から滲み出るずぼらさが性別を行方不明にしているのだとグリム・リーパーがキサラギの肩を持った。


「メンドクサイわー」


 心底面倒と空を飛び交う【戦いの女神(モリグナ)】を眺めていたアデライードの目が据わる。


「しっかし、燃やされて落ちても生きてるとかモリグナも丈夫だよな」


 こちらに背を向けているが、その猫背から漂う気配に自分で振っておきながらもキサラギは話題を変える事にした。


「生きてるっていうか、浮いてるだけだけどな」


 常なら目深に被っているフードを外したグリム・リーパーは、不気味系の胡散臭さは軽減されているものの、今度は路地裏で怪しい植物を売っていそうな胡散臭さが増している。


 ドラコーレプリーに焼かれたモリグナは、プレイヤーでは届かない高度まで上昇し、ただ浮いていた。彼女のドレスはまだ白い部分が残っていたが、時折残ったモリグナが彼女のところまで上昇し、その体に触れると傷が癒えドレスの色が赤く染まっていく。


「っーか、モリグナの存在理由が判らないよ」


 アデライードは、組んでいた足を伸ばすと両手を後ろに付き、丸めていたせいで硬くなった背を反らして伸ばした。


「アナタも大概マイペースね」


 棒読みになったキサラギをアデライードは寛いだ姿勢のまま首を後ろに倒して逆さまに見る。


「や、る、こ、と、な、いぃ……」

「その姿勢で話すな。声が伽椰子でこええよ」

「ああああ……」

「やめろッ」


 絞られた声帯から出る濁音交じりの声に笑う。グリム・リーパーもアデライードも九百秒ルールで今はただの村人AとBだ。死に戻りで街に還ればよかったが、それでは戻ってくるのに時間が掛かる。その場で蘇生され、今は安全圏からの観戦となった。

 <スケアクロウ>の面々に守られながら二人を運んできたユミとましゅ麻呂は、早々に戦線に復帰し、今は仲良くモリグナたちを追い回している。


「あいつら元気だな」


 アデライードと違い、観戦モードのグリム・リーパーは全体を眺め、ほぼノンストップで飛び回っている二人組に半ば呆れつつも舌を巻いた。


 モリグナを追う進路を邪魔するように飛来したドレイクをましゅ麻呂が蹴り落とす。そこにプレイヤーが群がり、きっちり命を刈り取った。攻城戦にはありがちだが、見ず知らずのプレイヤーたちとのルーティンがしっかり出来上がっている。

 エネミー排出用時空門も既にすべて閉じ、新たに追加されることもなくなってドレイクも随分数を減らしていた。


「モリグナのドレスが赤く染まったってことは、死人の数で色が変わったってことか? 」


 到着とともにエネミー殲滅に精を出し、のんびりモリグナの変化を見ていられなかったグルム・リーパーはキサラギに答えを求め後ろを見る。


「ドラコーレプリー大暴れプラスお前らが死んで一気に色が変わったから、多分、討伐数稼いでるプレイヤーが死ぬと進行が早いって事だな」


 回復所から戦局を眺めていたキサラギは、なんとなくだが自分が感じた事柄を二人に話した。


「討伐された攻城戦エネミーがカウントされていて、狩り取ったプレイヤーの戦績から算出されてるってことかなぁ」

「となると、プレイヤーはモリグナを成長させるためにエネミーを狩らされているってことか? 」

「怪我治っていってるみたいだし、永久機関っぽいよね」


 プレイヤーなら一撃で屠られるドラコーレプリーの火球を浴びて、生きている生命力もさることながら、もしそれが他の攻城戦エネミーの魂を蓄積して埋めていたリソースならば判らなくもない。


 半分消し炭と化していたモリグナの外見は、元通りに近いほど修復されている。


「まぁ。赤いドレスで灰色の髪でモリグナって段階でアレだろ」

「だよねぇ」

「なんもしないで飛び回ってるんじゃなく、実は死者の魂を集めてるってか」

「グリム、それはモリグナちゃう。ヴァルキリーや」

「ああ、そうか」


 降りてきたモリグナを再びユミの双剣が捕らえた。彼女だけは、コンスタントにモリグナに攻撃を当てることに成功している。


「動きに無駄が多いちびっ子Aに対して、ちびっこBは自由だな」


 最初はユミの名を知らなかったグリム・リーパーだったが、既にお互い自己紹介済みだ。それでも、今日会ったばかりの女性の名を呼ぶのはなかなかハードルが高いのか、ましゅ麻呂とまとめてちびっ子呼ばわりだった。


「多分、ジェームズが何か指示出してるな」

「私もそう思う」


 キサラギとアデライードの頭の中に涼しい顔をした外人が浮かんだ。


「ジェームズって誰」

「ユミりんといつも一緒にいる外人」

「へぇ」


 ジェームズに興味がわいたのか、グリム・リーパーの目がユミを追って動く。


 ユミを観察するグリム・リーパーを横目に見ながら、アデライードは過去のシー戦のことを思い出していた。

 あの集中力の高さを維持し続けることが出来るプレイヤーは、なかなかいない。それを自分の手駒のように扱えるのだ。こんな楽しいことはないだろう。ポテンシャルの高さを見抜いて育てたのか否かは別にして、ちょっと怪しい組み合わせだ。

 城から戻ってすぐ、沢蟹が「元凶はジェームズ」と言っていたが、確かにそうかもしれない。


「キサさ、なんでアンタんトコあの二人入れないの」

「<TRUST>にか? 」

「そう」


 デミオたちに聞いた話だと<SUPERNOVA>はことあるごとに二人を勧誘しているらしいが、すべて断られているらしい。<TRUST>に義理立てしてのことならば、<TRUST>が声を掛ければ済むことなのではないだろうか。


「さぁ、なんでだろうな。モカがユミりん大好きだから、前はよく誘っていたみたいだけど、もれなくジェームズがついてくるからな」

「ジェームズがついてくると何」

「モカが、顔で死ぬ」

「……」

「……は? 」


 二人の会話をなんとなしに聞いていたグリム・リーパーが、ハニワのような顔になったアデライードの代わりに突っ込んだ。


「うちのクラン、美形見ると悲鳴上げるヤツがいるの。ジェームズ見るたび倒れてるから面白いぞ」

「なんなの、その理由」


 なんとか復旧したアデライードが顔を顰める。


「お前の顔見ても、絶対倒れるぞ。面白いから後で紹介してやるよ」

「いらないし」

「グリムは微妙ラインだな」

「微妙ライン……」


 褒められたのか、貶されたのか、それこそ微妙ラインだろうとグリム・リーパーは目で訴えた。

 彼からの熱い視線を笑って誤魔化し、キサラギは再詠唱すると周囲に回復するフィールドを貼り直す。ついで、戦線に復帰しようと動き出したプレイヤーにも補助魔法を投げた。


 キサラギが回復所としての役目を果たす僅かの間、三人の会話が途切れる。アデライードは膝を引き寄せると、そこに肘を乗せ頬杖をついてプレイヤー、エネミー共に間引きされた戦場を眺めた。


「さっきから、白い奴らの姿見えないけど」


 キサラギの回復所から、すべてが見渡せるわけはなく。けれど、アデライードといい勝負の全身ほぼ白い人は人ごみの中でも目立つ。それが規則正しく集団で行動すれば、さらに目立つ。その塊が、さっきから姿を消している。


「どうせ猫パンチ阻止しに行ったんだろ」

「キマイラ通っていった? 」

「多分」

「いつの間に」

「さっきの間」


 <スケアクロウ>のクランチャットでは、キマイラの現在位置がフィールドマップのX,Y座標軸で流れていた。

 本来なら、第一MAP全体に響くシャウトでキマイラの位置を公表すべきだ。それが流れていないと言うことは、黒猫が仕掛けた情報統制だろう。

 <ポーラスター>、<スケアクロウ>、<栄光の国>あたりで討ち取る気なのだろうとグリム・リーパーは考えた。

 アデライードと共にのんびり座り込んでいる彼は、一人梯子を外されたようなものだが、<スケアクロウ>全体でキマイラ討伐に向かっているわけでもなく、半分以上のクランメンバーが、この場に残っている。

 結局はゲーム。それぞれが好きなことを好きにすればいい。


「アンタに指名された段階で判ってはいたけど、ヤラレタ感が凄いわ」


 <ポ-ラスター>としては、自分たちの看板イベントに泥を塗られたのだから、きっちり自分たちでお返ししたい。という大義名分はあるだろう。

 けれど、見方を変えれば大手クランがすべてを制する状態にも思える。それでは、既存の大手クランにばかり人が集まり、気の合う仲間同士でこじんまりと楽しんでいるプレイヤー達が割りを食う。


 不満そうなアデライードの顔を見て、グリム・リーパーは片側の口角を上げると再び空を見上げた。


「狩り方が判ってるエネミーより、わかんねーあいつらの方がドキドキするだろ」


 グリム・リーパーの声につられて、キサラギとアデライードも空を見上げる。


「確かに」


 ドラコーレプリーは<栄光の国>に譲り、キマイラは<ポーラスター>に譲った。残るは、新モンスターエネミー【戦いの女神】。

 攻城戦エネミーに夢中になっているプレイヤーもいるだろうが、【戦いの女神】狙いで居残っているプレイヤーも多いだろう。


「キマイラ戦、始まってる? 」

「いや。まだだ」

「そう」


 モリグナたちのドレスは赤く、飛び回るたびに赤いエフェクトの光の尾すら零すようになった。

 二次形態に変化するか、プレイヤーに直接攻撃を始めるのか、モリグナに何らかの変化があってもおかしくはない。


 あと五分もしないうちに、自分たちのステータスは元に戻る。モリグナを見るアデライードの目が細くなった。


 <ポーラスター>の実力、<栄光の国>の実力。キマイラとドラコーレプリーの行動パターン。それらを天秤に掛けた時、確実に早く終わるのはドラコーレプリーだ。

 レッドマーシュが戻ってくる。

 それまでに、モリグナを討ち取ってしまいたい。


「ねぇ、アイツ<悪しき願いは三度まで>使うと思う? 」

「使わねーだろうなぁ。いや、使ったとしても二度までだな。アレのデスペナは割りに合わん」

「だよね」


 レッドマーシュが持つ選定の剣(アーティファクト)報復の死(ティルヴィング)。その固有アーツである<悪しき願いは三度まで>は、装填数を持つ少し変わったアーツだった。

 一日に使用できる最大数は三。使用した時から二十四時間で一つ使用回数が回復する。単体火力としては、選定の剣すべてに備わっている<正義の剣よ、平定せよ>に劣るが、<悪しき願いは三度まで>の特殊効果は即死判定。


 <悪しき願いは三度まで>は、確率で対象に即死判定を下す。それは即死耐性を持つボスクラスでも有効だった。しかし、同時に使用者も判定を受ける。このアーツの落とし穴は、エネミーをアーツ効果により即死させたら、同時にプレイヤーも死亡する、だった。


 報復の死。その名は、エネミーではなく使用者に対する。


 確率判定のアーツではあるが、三度目の判定は百パーセント。相手の耐性や抵抗が劣っていれば、一度目の判定で両者が死亡する。効果が有効となると装填数が残っていても破棄、全回復まで三日掛かった。

 蘇生魔法がある以上、死亡しても対象を屠ることが出来るのなら最強のアーツではないか。

 単純に考えればそのとおりだが、そんな易いギミックを開発が用意するわけもなく。


 <悪しき願いは三度まで>を使用しての死は、装填数が完全回復するまで【魔法騎士】と同じくデスペナルティによるステータス低下、アーツ使用禁止を受けた。


 <報復の死>は諸刃の剣であり、効果につられ使用すれば泣きを見る結果となる。


「そうかな」


 レッドマーシュは自分が死ぬような真似はしない。と、結論付けた二人にキサラギが口を挟んだ。


「あいつにとって、一番大事なのは自分じゃなくてクランだ」

「……」


 身を捩り、後ろを振り返ったアデライードは探るような視線をキサラギに向ける。それを正面から受け止めながらキサラギは繰り返した。


「自分より、クランなんだよ」



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