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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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62 神殿祭がやってきた 4


「キサラギさん、完全にやる気ないっすよね」

「あるわけねーだろ。なんなんだよ、この長閑な雰囲気」

「釣りですから」


 アラベスクから渡された釣竿をその辺で拾ってきた石で固定し、その前に座り込んだキサラギは眠そうで何しに来たのか判らない状態だ。

 それに対し、タケルはしっかりと釣竿を手にし、彼のバケツには釣った魚が泳いでいる。


「大体な、釣りって実装されてねーだろ。そら、魚泳いでるのは見えてたけどよ。公式的に解禁してない釣り勝手にユーザーが解禁ってどうなのよ」


 とうとうキサラギは、その場に横になった。


「一応、運営には問い合わせたみたいですよ。OK出たから、やってるんでしょうし」

「かもしんねーけど。つまんねーだろ、コレ」

「えっ、そうですか? 」


 目を輝かせるタケルの尻に、ブンブンと振り回される豆柴の尻尾を見た気がしてキサラギは溜息を吐く。

 少し離れた場所では、やたらとクランメンバーに構われ、強引に釣りを習得させられたジェームズが釣り糸を垂らしていた。最初に釣り上げた時は、腰が引けて針から魚を外すことすら出来なかった彼だが、今は釣りを楽しんでいるように見える。


「女子なら可愛いんだけど、男だからなー」


 どうすればいいのかとオロオロする姿は、モカが見たら爆笑の後、墓標が建ったな。と、フェルトンが丁寧に外し方を教えている姿を眺めながら思いもしたが、覚えが早い彼は今ではすっかり自分で何でも出来るようになっていた。


「俺、もう帰っていいかな」

「ログアウトしちゃうんですか? 」

「違う違う、神殿祭。ジェームズが心配で付いてきたけど、なんかアイツ楽しそうに釣りしてるし、俺いなくてもいいかなーって」

「ああ」

「よっと。店じまいするわ」


 起きたキサラギは、立ち上がって海から釣り糸を引き上げる。

 彼としては、神殿祭自体の出店内容も気になったが、それ以上に今日何かするであろう『中の人』たちが気になっていた。

 どういう形でイベントを仕掛けてくるのかは知らないが、釣り大会に集まっているメンバーを見ても、そこそこ名の知れたクランのメンバーが散見された。フロイデでの神殿祭の規模が大きいからという理由もあるかもしれないが、自分のように何か気づいた人間が用心のために出てきているという可能性もある。

 特に、三人一組で行動している<栄光の国>のメンバーが目に付くのだ。白いのが固まっていて、目立たないわけがない。


 運営(中の人)は全力が好きだ。

 今までの前歴から考えて絶対、手を抜かない。


 これだけプレイヤーが集まったなら、完膚なきまでに叩き潰そうと本気で仕掛けてくるだろう。


「こいつは、荒れそうだ」

「キサラギさん? 」

「お前もキリのいいところで釣りやめろよ」

「あ、はい」


 怪訝そうなタケルをその場に残し、キサラギは空のバケツを携えて出口へ向かった。


「おう、キサ」

「馬場か。なに、来てたの」


 釣竿を返却する窓口で馬場と鉢合わせする。

 彼は釣りをしに来た訳ではなく、釣り大会が思ったより盛況だったらしく至急追加を頼まれ、釣竿を納品に来たらしかった。


「お前んトコと出海んトコは、何でも作るな。一体何に挑戦してるんだよ」

「ま、システムの限界だな」

「楽しみ方の方向が違う気がする」

「生産は楽しいぞ」


 豪快に笑う馬場の装備が、生産職のそれではないことに目を細める。


「のわりに、戦闘装備じゃん。何、どこまで噂広がってるの」


 キサラギの質問に、馬場は含みのある笑いに切り替えた。


「十日くらい前、帝都に今まで見たことがない鳥が飛んでるのを<ポーラスター>の奴らが見つけた。最初は鳩かと思われていたんだが、大きさが違うんでクラン内で注意喚起がされたらしい。その後、グランカスターでも見つかった」

「へぇ」

「街の噂屋が、『神殿街が騒がしい』って言い出したのは二週間。何かあるんじゃないかって思うのは考察趣味の奴らじゃなくてもだろ」

「確かに」


 二人は連れ立って神殿街へと足を進める。


「『ユニオン』の全貌もはっきりしていない。けれど、何かがあって、ユニオンに繋がらなくちゃいけないんだ。ユニオンって団体とか連合って意味だろ」

「なるほどね」


 『ユニオン』について、ユーザーの反応が鈍かったんじゃない。彼らはそれに付随して『中の人』が何を仕掛けてくる気か、息を潜め伺っていたんだ。

 よく訓練されたプレイヤーは、そろそろ辛酸を舐めさせられる事に飽きてきたということだろう。


 全力対全力、武力対武力か……。


 キサラギは近づいてきた神殿街の石門を睨んだ。


「黒猫は、念のために<スケアクロウ>に声をかけ、<栄光の国>にも頭を下げた」

「だから、白いのがうろついているのか。でも、人が少なくないか? 」


 釣り大会の会場にもいるのが見えたが、釣りを楽しんでいるようには見えなかった。


「本体は別にいる。あそこは良くも悪くも統率が取れているからな」

「哨戒部隊ってワケか」

「レッドマーシュ的には、<栄光の国>で獲りたいんだろ」

「ははーん。アイツらしいわ」


 自身のクランこそ至上。確かにいいアピールにはなるが、そうそう巧くいくとは思えない。


「主催の<ポーラスター>としては、何事もなく過ぎて欲しいと思ってるだろうがな」

「空気の読める運営なら、終わりがけ狙うだろうが……」

「空気を読まないことに定評のある運営だからな」


 ハハッ。と笑い飛ばした馬場が不意に足を止めた。


「馬場? 」

「来やがった! 」


 空を見上げ、抜けるような青空が紫色に変色するのを確認した馬場は踵を返し、街の出入り口たる正門へ向かって走り出す。途中、通りがかった乗合馬車に飛び乗るとキサラギを振り返り叫んだ。


「キサ、お前ン所の全員集めて外に出ろ! 」


 言い残された言葉に即座にイヤーカフスに手を触れ、クラン専用チャットに切り替える。

 街中ではシャウトの声が聞こえるが、神殿街は隔離されているのかシャウトの声が届かない。


「ユミとジェームズ連れて全員、街の外に出ろ。何か来た! 」


 キサラギの声に何があったのかと質疑応答を求める声が交錯するが、それらを遮るように国家からの緊急伝達事項が街に流れた。


『 Call or Quartets ジェフサ領土内にキマイラの出現を感知。わが国に集いし同胞よ、力を貸して欲しい 』


 引きこもり王こと“竜殺し王(ドラゴンスレイヤー)”の声に、地響きに似た声が街中に広がる。彼の声は、彼の領土すべてに届いた。


 今、この瞬間から【GM】イベントが開始された。


化け猫(キマイラ)きたー! 』

『 猫パンチは絶対阻止しろ 』


 各所で声が上がり、街の出入り口となる正門へと人が吸い込まれていく。

 キマイラは【GM】イベントのみ出現し、猫に似た見た目から化け猫とも呼ばれる。キマイラの目的はプレイヤー殲滅ではなく、ゲートアタックを行うこと。

 通称「猫パンチ』を食らうと国の発展度が最低二つ、最大五つ下がる事から【the stone of destiny】では厄災の獣とされ、プレイヤーには忌み嫌われていた。


『 CQ、CQ、第ニMAP宿営地より西600mにてア・バグの群れ確認。現在、宿営地方向へ進行中 』

『 CQ! 第二MAPキマイラ発見。プレイヤーが登れない山肌を移動中 』

『 山ってどこだ! 』

『 山どこ!? 』

『 キマイラで山って言ったら外周だよ! 第一MAP入ったら降りてくる 』


 街中をシャウトが飛び交う。


 斥候たる<栄光の国>の伝達力の早さに舌を巻かざるえないが、第二MAPで発見し、早々にCQシャウトが入ったことが事態の重大さを示している。

 <栄光の国>で対応できないくらいの群れが確認されたということだ。


「第二MAPにア・バグ。斥候は<栄光の国>、やつらで無理って判断したんだ急げ」


 既に今走っている乗合馬車は馬場を乗せて行ってしまった。次の馬車が通りかかるまで10分ほど待たなければならない。

 急ぐため、正門方向に向かいながら足がかりとなる場所を探してキサラギは走った。


「なんでそんな事知ってんの」


 モカも走っているのか、少し息切れした声が聞こえる。


「さっき、馬場に会った。<栄光の国>全員着ている、外で張ってたんだ」


 ちょうどいい樽が詰まれた場所を見つけ、キサラギはそこを駆け上って建物の屋根の上に出るとそのまま正門へ向かい走った。

 同じショートカットを考えたプレイヤーたちも続々と屋根の上を伝って正門方向へ走っていく。


「ユミりん先行った。キサラギ見つけたら拾って」

「ジェームズは」

「アラさんが抱えて通りかかった馬車に飛び乗りました。俺たちは走って追ってます」


 二箇所出口があるグランカスターと違い、フロイデは一箇所しか街の出入り口がない。

 正門前に辿り着くと、朝のラッシュ時のように混雑していた。


「ここが第一関門かよ」


 下に下りるための足場を探していると誰かに腰を掴まれた。


「掴まって」

「ユ、ミってちょっとマテェェ」


 キサラギを肩に担ぐとユミは問答無用で飛び降りる。


「このまま、城壁飛び越えるから喋らないで」


 振り落とされないように彼女のセーフティベルトを掴むのに必死のキサラギには話す余裕などない。

 ユミはキサラギを抱えたまま、器用に人波をすり抜けると<飛燕>を駆使して城壁を駆け上った。そのまま城壁の上を横断し、鋸壁の上から身を踊らす。


 一瞬感じた無重力にキサラギは死を感じた。


「勘弁しろ、ユミィィィ」


 クランチャットに流れるキサラギの絶叫を聞きながら、モカとカタリナは、どちらか一人なら背負っていけると言った彼女の申し出を断ってよかったと心の底から思った。



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