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「なぁ。今、物凄い音しなかったか」
アラベスクが〈必中の一矢〉を放ち、HPが殆ど削れていたクランプホーンに止めを刺すと彼の横に立って剣を構えていたプレイヤーが戦闘態勢を解き村の北側に目を向ける。
「あの音はジェームズの魔法じゃないかな」
「いやいやいや、幾らなんでも音が大きすぎだろ」
「面倒くさいから範囲殲滅してるんだと思うぞ。討伐数が一気に増えてる」
見てみろ。と言わんばかりに相手の視界に浮かんでいるだろうカウント数が表示された辺りを指差す。
「マジか」
クランプホーン狩りは沸き待ち時間の兼ね合いなどあり、24人の連結フルパーティでも完了まで早くて40分、普通で1時間とされるクエストだった。それが始まって10分で三分の一を消化していることに彼は驚いた顔を見せた。
「あいつ先週錬成したみたいだから、今は調整中で全力撃ちしてるだろうしな」
「錬成! 凄いな。ステータスが5増えるんだっけ? 俺まだ2週間くらい先だわ。でもなぁ……スキル上がり切ってないんだよなぁ……じゃなくて! 」
『錬成』という言葉に羨望を滲ませるが、クランプホーンは沸き溜まりであっても3匹程度しか固まっていないのに突然こんなに増加するのはおかしいと困惑する。
「ユミが……ああ、タケルは知らないのか。イケメンの横にいたチビっ子いただろ、あれがユミで多分トレイン狩りしているんだと思う」
「サザンクロス背負ってた子か」
言われ、タケルは村での集会を思い出そうと記憶を辿った。
魔法職定番のカソリックパターンのマグスコートを着て、長杖と魔導書を装備した背の高い男と双剣では珍しいサザンクロスエッジを背負った少女。
男の方はやたら美形で、中身西洋人丸判りの造形をしていた。
ここは日本鯖だ、自国鯖へ帰れ! と一瞬思ったくらいだったが、一緒にいる子がとても普通というか、装備を見る限りやり込んでいるのは伝わるのだが、纏っている雰囲気がどうしようもなく素朴で飾り気がなかった。
そんな彼女と並んでいると男の美形具合が妙に中和され、今度は寄り添っている姿が段々アフガンハウンドとホワイトテリアに見えてきて和んだ記憶しかない。
とてもトレイン狩りなんて物騒な真似をするような二人に見えなかった。
「ジェームズがユミにMob集めて来いって言って、集めてきた所を一気に焼いてるんじゃないかなぁ。火と光が魔法職のステ戻しには一番効率いいって話しだし」
「でも、あの音」
納得しがたい。と唸るタケルの肩をアラベスクは軽く叩いて引き寄せ。
「現在、練成リハビリ真っ最中のジェームズさんは魔法職憧れの元『聖賢』様だ」
「ごふぁッ」
息を吸った拍子に咽たのかタケルは咳き込んで身を折る。まだこのゲームを始めて間がないタケルだったが『聖賢』という称号は知っている。一種の都市伝説として、名前が上がる称号の一つだからだ。
「いやー廃人様ってのは怖ろしいねぇ」
HAHAHAと乾いたアラベスクの笑い声が空しく響いた。
このゲームは自由度が高い。故に何を得意とするかを可視化するのが称号である。そして、それ以外にプレイヤーが定める職業のカテゴリ分けも存在していた。
『戦闘職』と『生産職』、この二つだ。
『戦闘職』の中に『魔法職』も含まれるが、『魔法職』は使う属性魔法の種類が多く光・闇・火・風・水・土・時と、一般的ではないが破壊・神聖・精霊魔法があるため独立して考えるプレイヤーも多かった。
アラベスクが語った『錬成』は、正しくは『魂の錬成』という。
リアル1日でゲーム内で1つ手に入る『魂の欠片』というアイテムがある。これが90個集まると聖霊輝石というアイテムに変わり、これを一つ消費することによってステータスを+5することが出来る。
これによりステータス250縛りから解放されるのだが、魂の錬成を受けると全てのスキル、ステータスのリセットが行われ一からの出直しになる。スキルがリセットされる為、アーツも条件を満たすまでは使えない。
救いは称号取得に際して解放されたスキルは基本スキルと同じ扱いとなり、再び称号を所得するような手順は踏まなくてもよい事だろうか。
ただ称号は『スキルアチーブ』によって最新のものが適用されるため、練成を行った場合は振り出しに戻る。
故に現在のジェームズの称号は『聖賢』ではなかった。
ステータスはスキルに紐付けされているのでスキルが上がる判定が下れば、例えスキル数値に変動がなくても上昇する。一度上げた事があるスキルは初めて上げるより比較的楽に上昇したが、全て元通りとなるには概ね十日間ほどの時間を要した。
そして称号『聖賢』。
これはスキルの限界突破が条件の称号である。基本スキルはゲージ100%が上限なのだが、これを『生産職』なら『極意書』、『戦闘職』なら『奥義書』というアイテムを使って上限を+10することが出来る。あくまでスキルゲージを増やすことが出来るだけでスキルポイントが増えるわけではない。より特化型に絞っていく形のものだ。
称号『賢者』は、この限界突破を7属性全て行い、且つ其々一度でも150%にする事で得られる。そして『賢者』を獲得すると今度はその7属性を集めた上位概念の属性魔法が使えるようになる。それが『破壊魔法』『神聖魔法』『精霊魔法』の3種類だ。そしてその3種類を今度は150%まで突破させカンストする事で『聖賢』の称号を得る。
完全スキル制のいい所はスキルポイントの上げ下げが容易に行える事だが、80%を越えた所でどの職も上がりは悪くなる。100%まで上げるのもそれなりに時間と労力を要するものなのに、それを7属性150%まで上げるというのは忍耐との勝負であり、また限界突破させる奥義書を手に入れるのも至難の業となる。
この奥義や極意書は入手法が限られており、レイドボスのレアドロップ、もしくはフィールドボス討伐報酬として国からの褒賞、手に入れたプレイヤーから譲って貰うのどれかしかない。更に至難とされる所以はこれらに全て番号が付けられており、番号順に使わなければならないという事。
例えば『槍の奥義書Ⅲ』を使えばいきなり130%に限界突破出来るわけではない。全てⅠから順に使わなければならないのだ。
肉体労働者と揶揄されることが多い戦闘職だったが、踏む手順の多さから魔法職を極めようとする者は頭のおかしい人たちと呼ばれていた。
「アレだけの美形なのに、女が群がってない理由が判った気がする」
「あの二人はお触り禁止区域だからな」
「何だよ、それ……」
確かに、二人寄り添う姿はそっとしておこう。と思うほど、ほっこりとする光景だったが、ジェームズという魔法職の顔に気圧されなければ、決して話掛けれないとか他者を拒絶する空気はなかった。
「ま、百聞は一見にしかずだ。クランプホーン探しながら見に行ってみるか」
行くぞ。と、促すアラベスクについてタケルは北に向かい歩き出した。




