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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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59 神殿祭がやってきた 1

 


 神殿祭 とは。


 地球時間の月に一度、第一土曜日に三国いずれかの神殿街で開催される一クラン主催のユーザーイベントでは最大規模を誇るフリーマーケットである。


 主催クランは<ポーラスター>。

 出店参加申し込みは<ポーラスター>のクランブログから行う。


 申し込みを行い、受理されると参加スペース番号が通知される。当日は、その番号の場所でバザーカウンターを用いた露天を開くことができた。

 参加費は、神殿のNPCに支払うバザーカウンターのレンタル料100Gのみ。


 勿論、バザーカウンターを使用しない、通常の露天形式で販売することも可能だ。これは<ポーラスター>が作る配置図に含まれないため、行商人扱いだった。


 バザーカウンターは、神殿街だけで使用することが出来るショップカウンターで、祈祷所の前に立つNPCに話しかけ、バザーカウンターを借りたいといった主旨の話をすれば、一時的にインベントリに送り込まれる。

 通常の露天ならば、銀行で商品を設定しプレイヤーが任意のタイミングで販売を開始・中止できるのだが、バザーカウンターは銀行での個数、価格設定は行わず、カウンターの中に直接物品を並べるタイミングでプレイヤーが自由に設定できた。


 扱いは、あくまでカウンターの中に『置く』であり、所有権は置いたプレイヤー側にある。清算をせず、商品だけ持ち逃げしようとしても所有権を持つプレイヤーから一定距離離れると自動で所有者の手元に戻った。


 バザーカウンターの仕組みは、レジスターを使わないNPC販売と同じでカウンターの上に置かれた黒板で清算を行う。

 この清算が行われた段階で、所有権の移転が行われ物品は購入者のインベントリに、代金は元所有者のインベントリに収められた。NPC気分を味わえる装置となっている。


 このバザーカウンター。機能としては、なかなか優秀なのだが長机一台分の大きさをしており、見た目はケーキ屋のディスプレイに近い。最初は、神殿街限定ではなく、どこでも設置出来るようにと考案されたそうだが、このようなカウンターが街の至るところに放置されたら世界観が崩れるとのディレクターの鶴の一声で神殿街に封印されることとなった。

 今後の予定として、ハウジングシステムなどが調整に入っているということもあり、プレイヤーが自宅を持つことが出来たら、そこに機能として備え付けられるのではないか。と、噂の粋だが、期待はされている。


 神殿祭には、普段露天を出さないような戦闘職ですら行商人として参加する。街から出ない生産職も、観光をかねて出店しに来た。

 掘り出し物のレアアイテムを求める者。腕のいい職人を探す者。自作の良品を展示し、自分のスキルをアピールして仕事を求める者。


 売り買いだけではない。


 街中で戦闘行為は行えない。このシステムを利用して大道芸に発展させたプレイヤーもいる。完全に虚をつく発想だったが、これがなかなかプレイヤー間では評判がいい。他にも劇団を作り、演劇など自分の趣味を披露するプレイヤーもいた。


 神殿祭は、多くの人間が集まる祭典だった。


 このような一大イベントに成長した神殿祭だが、すべて奉仕的活動であり、このゲームを盛り立てたいという心意気で始まった行為だった。




 ◆ ジェフサ王国・王都フロイデ 神殿街 ◆




「石灰貰ってきたぞー」

「そこのライン引き使ってー」


 モカは、自身が作成、公開している動画『【the stone of destiny】の歩き方』シリーズの取材として、神殿祭の設営現場にきていた。

 主催者である<ポーラスター>の黒猫にくっついて、会場を歩き回っている。


「もっと人がいるのかと思いました」


 一人当たりのスペースを区切るため、二人組となったプレイヤーがライン引きを使って歩く姿がそこかしこで見られた。

 ざっと見回して人数を数えると三十人ほどであろうか。イベントの規模から考えて、もっと人手があると思ったモカは素直な感想を口にする。


「今日は多いほうね。フロイデの神殿街は他に比べて広いから」

「今集まっている人たちって、全員ボランティアなんですよね? 」

「そうよ。うちのクランだけで賄えたらいいのだけど、やはりそうもいかないから。設営は開催日の前の日、地球時間の夜九時から作業終了する迄。ってブログに公開するようになってから、それを見たプレイヤーの人たちが手伝いにきてくれるようになったわ」


 他の二国に対して新興国のジェフサは、街の建築については様々な改善が見られた。

 正門からの銀行や工房の近さ、区画整備。なにより、神殿街がフロイデの街は広い。神殿街の主通路はマルガリテスはLを逆さまにした形、グランカスターはIの形をしているのだが、フロイデはTの形をしていて横棒の距離分、土地が広かった。


「神殿祭って、優しさの塊みたいですね」

「ふふ、そうね。というか、みんなお祭り騒ぎが大好きなだけだと思うわ。貴女も楽しいこと、大好きでしょ」

「大好きです」


 今回の参加スペースは四百と他の二都市に比べ百以上多い。元は売買を目的としたフリーマーケットだったが、今では様々な催し物も行われる。

 フロイデの神殿街は、余分に伸びている部分にそれら催し物を披露する場を設える事で販売スペースを多く確保することが出来た。


「えっと、今回は幻想歌劇団の公演と優勝マンズShowも予定されているんですよね」


 事前に作成されたパンフレットを開き、タイムスケジュールを見ながら質問する。

 幻想歌劇団はミュージカル調のお芝居をする集団で、優勝マンズは『筋肉の素晴らしさを布教する』をコンセプトに結成された筋肉バカの集まりだ。


「どちらもコアなファンが多いから、それを目的に来てくれる人もいると思うわ」


 仕事をしない仕事ができる運営は、公式サイトにゲーム内に反映できるアップローダーを置いている。

 クランシンボルなど、元々が規格に沿ったものならそのままゲーム内に反映され、それ以外は一旦作成したデータをアップローダー経由で運営に送り、審査を通るとゲーム内に持ち込めた。


 神殿祭のパンフレットなどは、デザイン画として審査を受け、可能と判断されればゲーム内の『印刷所』で発注が出来る。この内容は<ポーラスター>のブログで公開されているものと同じだが、ゲーム内でも見たい人間は、同じくブログで公開されている印刷コードを『印刷所』で入力することで、広告チラシのような状態の紙が手に入った。それを冊子に加工するも一枚紙のまま扱うもプレイヤー次第だ。


「バンド演奏とか大道芸とかBBQ大会とかは、いつものことだから判るんですけど、この釣り大会って何ですか……」

「リクエストがあったの。フロイデの街は海に面してるから、釣り大会したいって」


 なんとなく、神殿祭がカオスな発展をしてきた理由をモカは察した。


「ごめんなさい。私、この後、明日の警備を手伝ってくれるプレイヤーの方たちと打ち合わせがあるの」


 囁きでもあったのか、ハッとした顔をした黒猫がモカに切り出す。


「あっ。お時間戴きまして有難うございます」

「よかったら、設営しているところ詳しく見ていってね。神殿祭は、皆楽しくがモットーだから、それを実現するために働いている縁の下の力持ちがいるって、知ってもらえたら嬉しいわ」

「はい。もう少し、お邪魔していこうと思います」


 ペコリと頭を下げるモカに手を振って、黒猫は神殿街の出入り口に向かって走っていった。鳥居代わりにも見える石柱で作られた門のところに、数人プレイヤーが集まっている。彼らが当日、参加者たちが混乱しないように誘導したり、迷惑行為などが起こらないよう目を光らせる役割のリーダーたちなのだろう。


「なんというか、夏と冬の祭典に某会議を混ぜたようなイベントなのよね。よく毎月開催できるわ」


 ノウハウを画一するまで、内部では紆余曲折があったのだろうが、情熱で乗り切った黒猫と<ポーラスター>の面々は凄いと素直に感心する。


「さ、尺稼ぎにもうちょっと話し聞こー」


 近くで「ラインが歪んだ」、「歪んでない」と計量しながら線を引くプレイヤーに狙いを定め、モカはボールカメラを引き連れて彼らに向かい走っていった。


 いよいよ明日、神殿祭である。



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