57 錬金、それは生産職に与えられた奇蹟 8
このゲーム世界での生産品は、大きく分けて二種類ある。
作成する時に一度に一つしか作れない一点物と大量に作成できる量産物。
出来上がった生産品に、品質が存在するものとしないもの。
生産レシピには、ユーザーが名づけ分類した、謎増殖レシピ、錬金レシピ、スキル上げレシピと言われるレシピが存在する。
謎増殖レシピは成功率補正が極端に高いものを指し、錬金レシピとは原価を安く抑えた換金率の高いもの。スキル上げレシピは、スキル上昇判定を第一に考え、次に資金繰りで効率がいいものが選ばれた。
各レシピには成功補正率が存在する。
それはプラスであったり、マイナスであったり。
例えば、成功率が+36%のレシピを作成する場合、スキルはアイテム補正込みで64%あれば100%成功する。
現在、アランは雑貨スキルを上げているが、雑貨は生産道具のみならず、各種インゴットという武具と鎧で絶対必要となる素材を作り出す。
そして、このゲーム内最大の謎増殖レシピであり、武具、鎧の錬金レシピに深く関わってくるのが、雑貨スキルの銀鉱石を用いたシルバーインゴット作成40個だった。
材料となる銀鉱石20個を40個のインゴットに加工するこのレシピの成功補正は-20.5%。
同章のアイアンインゴット40個作成は-49%であり、カッパーインゴットは-51.5%。シルバーインゴットの数値がおかしいのは一目瞭然だった。
ゲームの中で一番換金率が高いと有名な錬金レシピは、シルバーグレイヴであり材料は軟木丸太と加工された銀鉱石だけである。
丸太の加工技術は武具スキルだが、鉱石は雑貨スキルで一度インゴットに加工しなければならない。それを小型剣身に武具スキルで加工し、グリップ、インゴット、剣身の三種類で作成する。
銀鉱石は二度、増殖した。
銀鉱石をインゴットに加工する際、一度目の異常増殖が起こる。そして、その増殖されたインゴットを剣身に加工する際、剣身は量産レシピであることから、ここでも増殖が起こる。
武具、雑貨スキルが96%以上あれば、銀鉱石を二千個使用し、シルバーグレイヴに加工すると平均735本出来上がった。
シルバーグレイヴのNPC売却価格は605G、武器屋で726G。仮に材料すべてを自力採取、加工した場合、武器屋で735本売却すれば、533,610Gとなる。
生 産 大 勝 利 。
苦難の道の果て、彼らは金を掴むことに成功した。
鉱石を掘り出すことが出来る結晶柱には種類があり、成分も異なる。銀鉱石だけを掘り出すことは出来ず、他の鉱石も一緒に掘り出す。
通常、銀鉱石は三種類以上の組み合わせに含まれるのだが、ジェフサの領土内に鉄と銀の組み合わせの結晶柱があった。
その結晶柱のJPは400。鉱石保有量は1200個となり、二種類しか産出されない結晶柱ならば最低保障で400個は銀鉱石が手に入る計算となる。JPは構成鉱石のどれが当るかは運でしかないが、運がよければ一つの結晶柱を枯らしただけで銀鉱石が800個手に入った。
シルバーグレイヴがあるなら、アイアングレイヴがあるのはゲームとしては当たり前だろう。アイアングレイヴの買取価格は425G、武器屋なら510G。
シルバーグレイヴ作成目当てで銀鉱石を掘り、ついでに鉄も持ち帰る。鉄鉱石は銀鉱石に比べインゴットに加工する際に増える量は少ないが、あくまでおまけの副収入であるし、鉄インゴは別の使い道も多い。どう転んでも金に換わった。
アランが馬場の説明で、感心したのはこの一切の無駄のない部分である。
生産一次職は採取職とも言われ、伐採、採掘、農作業、植物採集の四つ。伐採で伐りだされた丸太は、武具、雑貨、巻物で使用され、採掘で掘り出された鉱石等は、雑貨、彫金、巻物で使用される。農作業で手に入れたものは料理、植物採集で集めたものは料理と調薬に使われた。
どの生産職も必ず、どこかの生産職に繋がっている。
「イチル、まだこれを続けるのかね」
始めた当初は楽しかったアランだったが、一つ目の工具箱を使い潰した辺りから、これはいつまで続くのだろう。とネガティブな方向に意識が向くようになっていた。
「持って帰ってきた軟木丸太が、全部なくなるまで」
彼らが持って帰ってきた軟木丸太の数は、クエスト報告分を除いて470本である。イチルが作成した工具箱はすべて高品質で75回使用できた。現在アランは、三つ目の工具箱を使いひたすらシャフトを作成している。
イチルがアランに最初に買わせたレシピはシャフト(5)、軟木丸太1本でシャフトが5本作成できるレシピだ。
軟木丸太を売却すると1本5Gであり、シャフトは1本1G。
そのまま売っても加工して売っても同じ金額であり、金額が変わらないならスキル上げの恩恵を受けてから売った方が得と彼女は考えた。
多少、失敗して数が減ったとしても必要経費と思えば気にならない。
他に軟木丸太1本で作れるものにスモークチップがあったが、これは成功補正率はシャフトと変わらないが、こちらは売却価格が4Gだった。
たかが1G、されど1G。
条件が同じなら、利益の高いほうを取るのがイチルだ。
「なんというか。疲れたとか、そういうのではないのだがね。ただ、こう……」
同じ動作に飽きてきたと言えないアランは、何とか穏便に伝わらないかと言葉を濁す。
イチルは床に蹲り、紙とペンで計算していた。近くに算盤が転がっているが、あまり使っていないようだ。
「アラン、今使ってる工具箱が壊れたらスキルとステータスの数を教えて。あと、シャフトが合計でいくつ出来たかも」
予想されるステータスの上昇値とスキルのパーセンテージを計算し終わったイチルは顔を上げてアランの背中を見た。手を止め、イチルを振り返っていたアランと目が合う。
「作業、続けて」
「aye, ma'am」
確実に何かが進化していた。
ステータスには一日に上げることが出来る上昇可能値があり、ログイン時の『現在のステータス』を元に適用される。リセットは午前四時となっていた。
上昇可能限界まで使用しなかった可能値は蓄積可能で20まで保有できる。
ステータス 上昇可能値 適正MAP
初期値~50 +16 第一MAP
51~90 +14 第二MAP
91~130 +12 第三MAP
131~170 +10 第四MAP
171~200 +8 第五MAP
201~230 +4 第六MAP
231~250 +2 時の城~ ←New
250以上 +4
スキルは一日毎の上昇限界はないが、線グラフで表すと20%を越えた辺りから曲線を描き始め、60%を超えるとほぼ平行な緩やかな曲線。80%を超えると途切れたと言われる。
一つの目安として、ステータスが合計50を超えるまではスキル2%上昇でステータスが1上がる。とされていた。あくまで目安であり、絶対ではない。
ステータスの上昇条件はスキル上昇であり、スキル値は成功判定によって上昇する。
一度上げ、下げたスキルは『到達度』のランクに従い上げ直しは容易であるため、このシステムを利用し、ステータスやスキルの振り直しを行うことをスキルシーソーと呼んだ。
現在、アランは伐採、採掘、雑貨のスキルを選択し、ステータスはSTRとINTを上昇させている。行動によって上がりやすいステータスがあり、アランはINTよりSTRの方が数値としては伸びているだろう。
上げ始めのスキルは、結果に関わらず二十回行動すれば1%上昇するとされている。5%までが適用範囲で、それを超えると徐々に判定は厳しくなっていく。
二十回の行動が、二十回の成功になり、二十回の成功が四十回の成功になる。といった感じだ。
工具箱を三つ消費した段階でのアランの雑貨スキルは10%に届くか否かと推測された。ここから、シャフトは失敗より成功が増え始める。
「シャフト450本かぁ、まー想定どおりね」
アランから出来上がった数を聞き、手にしたメモ用紙に数を書き込んだ。先ほどまで計算していた紙を折りたたんだものだ。
「雑貨スキルは9.3%、伐採が6%、採掘は1.2%……STRが12でINTが7と」
スキルは小数点第一位まで表示される。システムログを確認すると小数点第二位まで表示されているので、パーソナル画面での数値は端数が切り上げられた状態だ。
現在のアランのステータスでの上昇可能値は+16。前回ログインからの蓄積分+20があるため+36までは、本日中に上昇させることは出来る。
とはいえ、老体にそこまで鞭を打ったら馬場に叱られそうなので止めておこうとイチルは考えた。
「もうすぐ地球時間で二時間経過するから、そろそろ警告が出ると思うんだよねー」
「地球時間? 」
「現実での時間。ゲーム内では時間経過が早いから、ゲーム内時間と現実の時間を区別するためにそう呼ぶの」
説明しながら、自分が計算していた紙とは別の紙に、新しく何かを書き加える。
「現実の時間で二時間プレイするとログアウトするように警告が出るよ。無視してもいいんだけど、そうすると三十分ごとに警告が出ちゃうから一回ログアウトして一時間経過してからログインするとか長時間プレイする人はやっているねー」
「それはまた、執念というか」
「ジェームズも結構長い時間いるよー。いるって知ってるアタシもおかしいんだけどねぇ」
イチルの自虐に、どうフォローしていいか判らずアランは笑って誤魔化す。
「じゃぁ、はい」
思いついたことを書き終わったイチルは、その折りたたんだメモ用紙をアランに差し出した。
「これは? 」
「アタシや馬場ちゃんがいなくても、一人でやっていけるようメモ。上げるスキル順とレシピ切り替えるタイミングとか書いておいたよ」
渡されたメモを広げれば、かなり細かな指示が書かれている。
スキルの上げ方やその時々にあった錬金の仕方もさることながら、生活の知恵と見出しをつけ、ポルテがどこに結ばれているか、ポルテを出て、どこを進めば主要施設への近道になるかなど書かれていて、この街でこれから暮らすことになるアランには有り難い一枚となっていた。
ただ、そのチャートの余白に可愛らしいイラストとともに辛らつな言葉が並ぶのはどうなのだろう。
「システムに怒られる前にシャフト売りに行って、帰りに銀行寄ろう。預かってる丸太渡すね」
「私は、よい先生にめぐり合ったのかな? 」
ジェームズもユミも生産は門外漢で全く判らないと首を振っていた。
だから、自分たちの知っているクリエイティブな人間を紹介する、と。彼らの言うとおり、馬場もイチルも丁寧で詳しい。
人に教えるスキルは生まれ持ったものもあるが、経験則からそれを整理分析し、必要事項だけを簡潔に伝える技術がいる。
無駄を省く。彼らは思考もドライなのだろう。
「いいか悪いかは判らないけど、知ってることは全部教えるよ」
イチルはからからと笑う。
工房へ入る前、ジェームズに対し怒っていた彼女だったが、最初の扉を開ける頃にはすっかり元通りに戻っていた。
「アイツは直下型だから、三歩も歩いたら忘れてらぁ」
ヨハンが教えてくれた言葉のとおり、イチルはすっきりとした飾り気のない性格に思えた。
「さ。片付けて、片付けて」
彼女に急かされ、作業台を停止させる。
あとは時間いっぱい、残務整理となるのだろう。シャフトを売却して資金を作り、他のレシピも買わなければならない。
次にログインできるとしても、三日はあけることになる。その時に速やかに作業に移れるよう、準備が必要だとアランは気を引き締めた。
「千里の道も一歩から。アタシ、絶対アランをジェームズの総資産より金持ちにするって決めたんで。覚悟してね」
訂正、イチルは意外と執念深かった。




