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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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55 錬金、それは生産職に与えられた奇蹟 6


 青銅の大剣というアイテムがある。


 青銅という響きからも判るように、駆け出しのプレイヤーが装備する武器であり、武具のスキルを習得する際にも最初のほうでお世話になる武器だ。


 NPCが販売する武器屋で買うと1,470Gする商品で、売却するとその半額である735Gとなる。


 【the stone of destiny】では、耐久や品質という概念があるが、耐久MAXであろうと、1であろうとNPCの買取価格は変わらない。それは品質にも共通していて、ノーマ(NQ)ルもハイクオリ(HQ)ティもロウクオリ(LQ)ティも変わらない。

 だが、売るときは「武器は武器屋」と言われる。関連する店で売ると買取値が1.2倍されるからだ。


 どこの店舗でも買い取りは行っている。青銅の大剣の買取価格は735G。しかし、武器屋で売れば882Gとなる。細かな話だが、この差は大きい。


 このゲームは、拠点設定というものを行う。拠点は宿屋であり、宿屋があればどこでも設定可能となる。所属国がワルター公国であっても、帝都マルガリテスの宿屋を拠点に設定すれば死に戻りをした際はその宿屋からリスタートとなる。


 拠点は常に一つしか設定できないが、引越しは可能。宿屋の主人ないし、フロントの人間に拠点設定をお願いすればいい。この時にかかる手数料が500Gである。


 振り返ってみよう。

 チュートリアル終了後、『初級者訓練場』で唯一受注することが出来るクエストの報酬が500G。無一文で放り出す開発からの温情である。


 このゲームに『冒険者』という正式職業はない。基本、どこかの国に所属しなければならないからだ。縛りプレイが大好きな人間ならば、所属しないと言う手もあるだろうが、正直意味がない。PvPがない以上、盗賊行為などで人様からアガリを頂くことも出来ないからだ。

 出奔し、再仕官までの待機時間でない限りプレイヤーは必ずと言っていいほど、どこかの国の国民である。


 国民は、国に貢献することで自身の国家ランクを上げることが出来た。だが、絶対上げなければならないものでもない。国家ランクが上がれば、国から支給される賞与の金額が上がるくらいのもので、出奔し再仕官すれば、その国ではまた最初の平民からやり直しである。平民の年間賞与額は10,000Gであった。


 随分と長い前置きとなってしまったが、このゲーム世界では物価がそれほど高くないのだ。献上隊が巧く機能している証拠でもあるのだが、装備が出来上がった戦闘職が普通に生活をする上で必要となる生活費は一日多くて3,000Gほどである。


 武器や防具など、プレイヤーが製作販売するものでも1(メガ)まで行くものはほぼ無い。百万を超えるとしたら一握りの職人が製作できる真作武器や最強硬度を誇る鎧くらいのものだ。これらは原材料費の高さからもこの値段が相応とされている。


 アランの所持金について話を戻そう。


 彼は現在、ジェームズから渡された分は銀行預金も合わせると1,000,000,000G。1(ギガ)、十億である。


 青銅の大剣の売却価格は882G。換算すると約113万3千787本売却したということになり、装備の手入れ代を含めても無駄な買い物を一切しない戦闘職なら900年は暮らせ、遺物作成の材料となり一番高価だと言われている『太陽の石』の相場は3~5Mであるが、5Mと想定しても200個買える金額なのだ。


 イチルの怒りもお解かり頂けたと思う。



「支度金にしても、金額おかしいだろぉ……アイツいくら持ってんだよォ」


 頭を抱えてしまったイチルに困ったアランは、ヨハンに助けを求めるが彼は笑いを抑えるのに必死らしく肩を震わせ耐えている。


「Ms.イチル? 」


 頭を抱え、そのまま蹲ったイチルだったが、アランの呼び声に応えるようにむくりと立ち上がった。


「……」


 完全に目が据わっている。


「あのクソ野郎、生産舐めやがって」


 ジェームズの名誉のために添えておきたいのだが、彼は一切の生産スキルを持っていない。更に言えば、生産品のレシピが幾らするか、何種類あるかも知らなければ、工房に立ち寄るのは装備品の修理の時ぐらいである。

 彼が知っているのは、レアドロップ素材や出来上がった現物の相場くらいなのだ。そしてそれは、ユミにも言える。いや、ユミはもう少し怪しいかもしれない。彼女は戦闘行為以外は無頓着だった。


 アランを馬場たちが迎えに来る前、ジェームズとユミはアランがチュートリアル終了後に案内役を質問攻めにして、その後受けるべきクエストをやっていないことを知った。

 慌てた二人は、銀行開設のついでに生産を行う際に必要となるであろう資金を渡したのだ。


 その時、モカがいれば。

 もしくは、アラベスクがいれば話は違ったかもしれない。


 生産職の感覚を持たない脳筋二人は、銀行前で買取露天を出していた男性プレイヤーに注目した。そして、その金額を参考にアランに用立てたのだ。


 『オリハルコン鉱石、買取5千G。999個』


 石材屋では販売していないレア鉱石である。買取相場としては適切な金額なのだが、彼が鉄鉱石を求めていたら、きっと渡す金額は違っていただろう。


 余談だが、オリハルコン鉱石は産出される水晶を一つ枯らして、二十個獲得できたら大勝利と言われるレアドロップである。マックス買取を出しても百も集まらない品物であり、それを判っていながら募集するのが当たり前の鉱石だったりする。


 Mr. Perfect、まさかの情弱判明。



「アラン。今日のところは仕方ない。けど、今からシャフト作るからすぐお金は出来る。次にログインした時、ジェームズに貰ったお金全部返して」

「あ、ああ。それは構わないが」


 イチルの怒りに気圧されたアランは、もう一つ彼女に言わなければならない事があるが言い出せず言葉を飲み込む。


「ヨハン、雑貨レシピ出して。アラン、シャフト5個ってなってるレシピ買って」

「ひーっははっ、ジェームズって奴は相当な金持ちだなぁ。それだけ金持ってたら、オレぁ仕事辞めて嫁さんと田舎帰るわ」


 怒り狂うイチルの怒気など関係ないとヨハンは笑い飛ばし、嫁自慢を始める。


「ヨハン、マルガリテスの生まれじゃないんだ」

「おうよ。オレも嫁さんもレークス生まれだ」

「へー」


 黒板の内容が書き変わり、レシピが表示される。言われたレシピを購入しようと黒板に伸ばされるアランの指先が微かに震えていた。


「アラン」

「何かな? 」


 ヨハンの無駄話でイチルも落ち着きを取り戻したのか、語気は穏やかだ。


「ユミりんに貰った分も返してきて」

「Yes, Her Majesty.」






「っくしっ」

「風邪ですか? 」

「んー。健康には気を使っているから、そんなこと無いと思うんだけど」


 鼻腔にむず痒さを感じ、ユミは鼻を抓むと軽く左右に振った。



 『時の城』の攻略を終えた一行は、<SUPERNOVA>に巻き込まれる形でグランカスターに来ていた。

 各所にあるタヴァンだが、ワルターにあるタヴァンは他の都市には無い『フォンデュ』がメニューにある。グランカスターと言えば豚。と言われるくらい豚に似たモンスターエネミーが多い地方で、オイルフォンデュやスープフォンデュが提供されている。

 勿論、チーズフォンデュもあり、デザートとしてチョコレートファウンテンも用意されていた。


 滝のように流れ落ちる溶けたチョコレートに目を輝かせながら、ユミとましゅ麻呂が仲良く横に並び、串に刺したマシュマロをチョコに潜らせる。


「うめぇ」

「マッシュが共食いしてるー」


 ましゅ麻呂がマシュマロを口にした途端、離れたところにいたデミオが囃し立てた。


「んだとー」


 そのままデミオを追いかけ、ましゅ麻呂はどこかへ行ってしまい、入れ替わるようにジェームズとタケルが他のテーブルから分けてもらった料理を持ってユミの所に戻ってくる。


 そこで、ユミのくしゃみであった。


「季節の変わり目は体調を崩しやすい。用心するに越したことは無いよ」

「そうね、気をつけるわ」

「風邪にはカレーがいいらしいですよ」

「そうなの? 」

「ターメリックに含まれるクルクミンが免疫力を高めるからね」


 おぼろげなタケルの知識をジェームスが補足する。さすが、Mr. Perfect。しかし、一部方向に情弱。


「なら。今日は早めに寝て、明日の夕飯はスープカレーにして貰いましょう」


 楽しそうに今度は苺を串に刺し、チョコレートに潜らせるとユミは幸せそうな顔をして頬張った。


「今度会ったらあの二人、絶対ぶん殴る」


 知らないと言うことは、平和である。




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