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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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53/103

53 錬金、それは生産職に与えられた奇蹟 4


 【ポルテ】


 帝都マルガリテスにのみ設置されている移動手段。


 帝都内十二箇所に設置されており、それらは全て大正門前のポルテと繋がっている。


 ジェフサ王国やワルター公国に比べ、マルグリット帝国は歴史がもっとも古く、魔法分野にも造詣が深い。魔法が一番発展している国でもあり、街中の移動手段として時魔法を改良したワープポータル【ポルテ】が設置されていた。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 大正門からクエスト斡旋所まで歩いても20分ほどの距離であり、馬場としては歩きながら街の造りについても説明する予定であったが、イチルの強い希望によりポルテを使っての移動となった。


 大正門前のポルテから東工房のポルテへ移動し、そこから歩いて5分。クエスト斡旋所についたアランは、馬場からクエストの受け方や同じクエストを受注した仲間を探すやり方などを教えて貰った。


 途中、イチルが用があると少し席を外したが、物珍しさから少し興奮気味に馬場に質問をしては丁寧な回答を貰っている間に彼女も戻り、クエスト受注についての知識の咀嚼が終わると、次は実践あるのみと馬場によって連れ出され、今はマルガリテス前のプレイヤーからは第一MAPと呼ばれる場所に来ていた。




「これはまた、随分立派な出で立ちをしているね」


 クエストの準備アイテムとして貰った初心者用の木こりのオノを手に、アランは目前に広がる針葉樹の林を見て感嘆する。


 そんなアランを横目に、ファンタジー世界にスギとかヒノキってどうよ。もっと他になかったのか、運営よ……。と、馬場は遠い目だ。


「そういやジェームズも、こんな風に細く真っ直ぐに伸びる木は映像でしか見たことないって言っていたな」


 最初に「鉄を」と言った馬場だったが、イチルが考えがあると言って先に伐採を済ませることになった。


「私たちの身近な木は、もう少し、こう……」


 言いながら手で、きのこの様な形をなぞり木を表現するアランに、どこかユミに通ずるものを感じた馬場は横にいるイチルにどう思うか聞こうと口を開け、そのまま停止する。


「お前、何やる気になってんの」


 馬場の横にいたイチルは、いつのまにか負のTシャツに着替え、巨匠のオノを手にしていた。


「ついでだからね、いっちょやったるか。みたいな」


 準備運動と称してスイング練習を始めたイチルの後頭部を手首のスナップを利かせて(はた)く。


「お前が頑張ってどうするよ。クエストで必要なのは軟木10本なんだからいらんだろ。そのオノはしまえ、今すぐしまえ」

「えー。三人で伐ったらJP狙えるじゃん、どうせならJPまでもっていって、そーゆーシステムがあるってこと体感したほうがいいよ」

「お前の場合は、アランに重量制限食らわせたいだけだろ」

「最初の時に体験して、あれは恐ろしいものだ。って用心するようになったほうがいいって」


 子供の教育方針について言い争う夫婦のような二人を置き去りに、アランは一人林の中に入っていく。


 どれも同じような木に見えるのだが、よく観察すれば幹の色が黄色い物の中に僅かに赤みが混じった物があることに気づく。馬場が街の外の木は軟木だと言っていたが、色の違いはなんだろう。

 見上げれば、枝の張り方も違ったものに見えた。


 何か理由があるのではないか。


 気になったことは試すべし。と、黄色ではない赤みがかった木を伐る事にする。


 手にしたオノで木の幹を叩く。しかし、オノが幹に当る度、空気が抜けたような何とも軽い音がするだけで何の変化も起こらない。


「んんっ? 」


 三度ほど繰り返して、アランは木を伐るのをやめた。


「あー、いたいた」


 アランが木を伐る音を聞いて駆けつけたのだろう、イチルがオノを片手に駆けてくる。


 見た目が可愛らしい少女だから気にならないが、これが馬場だったら確実に()られるスラッシャー映画展開だ。


「アラン、その木は駄目だよー。幹が赤いのは堅木だから伐採が20くらいになってからじゃないと、まともに伐れないよ」


 オノと木を見比べ、怪訝な顔をしたアランを見たイチルは木の幹の色を確認して彼にそう告げた。


「木にも種類があるのかい? 」

「色々あるよ。街出てすぐは、軟木と堅木。マルグリット出てすぐは軟木が多いから、堅木探すほうが大変なんだけど。よく見つけたね」


 イチルの説明によると幹が黄色いのが軟木で、最初から伐る事が出来る木らしい。その後は幹が赤みがかった堅木で、こちらはスキルが20に達すると「全弾ヒット」とイチルは表現していたが、失敗することなく伐ることが出来るようになるとの事だった。

 第一MAP(街の外)で上げる事が出来る数値は粘っても50までらしく、40を越えた辺りから次のMAPに移っていくのだと教えられる。


「先に馬場ちゃんが伐ってくれてるから、あの木一緒に伐ろう」


 連れて行かれた場所で、馬場がオノを振るっていた。先ほどのアランと違い、木にオノが接触した時に聞こえる音に張りがある。


「私の時は、あんな音はしなかったのだが」

「ああ、それはね」


 あの何ともいえない音は、判定で失敗となった時の音で丸太は貰えず、スキルの上昇率も成功時の半分と無いに等しく、装備品の耐久だけが減る丸損に近いものだと続けられた。

 初心者用のオノの耐久は30/30がスタートで0/30となると全壊扱いとなり消滅する。耐久を全て使い切って十本ほどの丸太が手に入る計算らしく、音を聞いて慌ててアランを探したとイチルは笑った。

 その話を聞き、三回で止めてよかったとアランは胸を撫で下ろす。


「よ。お帰り」


 戻ってきた二人に馬場は手を止めた。


「ただいま。うんじゃアラン、この木伐りながら話聞いて」

「判った」


 お互いのオノが触れ合わない距離をあけ三人で木を伐り始める。


「一次生産、つまり採取行動にはJPって言われるボーナスがあるの」

「JP? 」

「ジャックポットって枯渇ボーナスのことだ。今伐ってる木の木材の産出量が合計で300だったとしたら、JPはその三分の一である100貰える」

「そんなことが」

「あるんだなー。このJPはどの採取にもあって、どれも三分の一に固定されてるの。ただ対象となる木とか鉱石とか、採取する場所にも因ってそれぞれに産出量は違うから、それは覚えてもらう必要があるよ」

「ここの軟木はJPが120。誰も伐ってない木だった場合、360本インベントリに収納したらJPがきて120本追加で貰える」


 相変わらずアランのオノからは失敗音が響くが、回数を重ねるうちにしっかりとした音も混じり始めた。


「誰かが伐った後の木だと、その分少なくなるんだけどJPの数は変わらないから、運がよかったりすると一回叩いただけでJP貰えちゃったりってこともある」

「そんなん、まずないけどな。でも、オノ一本使い切る前にJPってのは実際あるからリアルラックだ」


 三人の木を伐る音がリズミカルに響き、アランは気持ちが揚がり始める。


 なるほど、これは楽しい。


 そう思ったところで、アランのオノが壊れて消えた。


「おおっ」


 握っていた物が無くなった事に驚き、両手を見て呆然とする。消失するとは聞いていたが、こんなにあっさりと消えてなくなるとは思ってもみなかった。


「本当に消えるのだね」

「消えるよー」


 ゲームに対しまっさらな彼は、何をやっても、何が起こっても楽しいのだろう。そんなアランにイチルは手を止めると自分のインベントリから新しいオノを取り出して彼に差し出した。


「多分、納品する数はもう集まってると思うけど、JP貰うところまでやろうと思うから。もう少し頑張って」

「このオノは」


 恭しく差し出されたオノを受け取りながら、オノとイチルの顔を交互に見比べる。イチルが渡してきたオノは、彼女や馬場が使っているオノとは刃の部分の色が違い、初心者用のオノと同じ色をしていた。


「雑貨屋でも売ってる普通の木こりのオノ。さっきアランが、馬場ちゃんと斡旋所にいた時に隣の工房で作ったの。まだあるから遠慮なく使ってね。初心者用との違いは、耐久値だけで他は一緒」

「コイツは紙を作るからな。そのオノの材料となる軟木とかいつも持ち歩いてるんだよ」

「流石にアイアンインゴとか、いつもは持ってないけどねー。昨日、ナタ作ったときに余ったのそのまま持っててよかったよぉ」


 渡されたオノをじっと見ていると【木こりのオノ・HQ】75/75と文字が浮かんだ。


「このHQというのは? 」

「ん? ああ、クオリティの事ね。ハイクオリティ」


 アランのために作り置いたのだろう木こりのオノを更に取り出し、彼の足元へ並べながらイチルが答える。


 インベントリから物を取り出す行動にも種類があるらしいのだが、一番オーソドックスなタッチパネル式のウィンドウを開き、目的の物を選んで『取り出す』を選択する方法は、何もない空間に突如としてその物品が現れるため、なんとも刺激的で不思議な光景だった。


 あとでこっそり遊ぼう。そんな決意をしているアランの内心など露知らず、馬場がクオリティについて話を続ける。


「スキルが高いと優良品が出来るんだ。性能にバラつきはあるが、HQってなっているものは、元々の能力より上ってこと。こういった生産道具は耐久値が上がり、より多く採取できるし、武器や防具といったものは耐久値だけじゃなくて、補正能力がついたり、スロットって呼ばれるジェムを挿す穴が増えたりする」

「武器や防具にも、耐久値……スロット、ジェム……」

「あー、それは今考えなくていい。順番で行くから追いおいだ、追いおい」


 新たな単語に反応し手が止まったままのアランに、馬場は話は流して作業を続けろと促した。


 アランのための木こりのオノを並べ終わったイチルも伐採を再開し、雑談を交えつつもこの後の行動について話し合う。


 もともと馬場は、JPは望まずクエストの必要量だけ採取して街に戻ることを考えていたし、流されるままのアランも二人が決めてくれればいいと受身の姿勢だ。


 結果、軟木のJPを回収したら採掘では納品分のみ集め、街に帰る。クエストを報告し報酬となるワークエプロンを受け取ったら、そのまま隣の工房へ行くという流れになった。




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