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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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49 失われた巨人の国 6


 それをあっけない幕切れといっていいのか、正直タケルには判らなかった。


 視界に半透明の文字が浮かぶ。


 QUEST CLEAR

 CONGRATULATIONS


 その文字の向こう、崩れいくペンカウルの中に若い女性の姿が浮かぶ。彼女は寂しげな表情をしたまま天を仰ぎ、救いを求めるように広げた両手を天に伸ばすと光の粒子となって消えた。


 巨人が消えた後には、撃破報酬の入った赤箱といわれる赤い色をした宝箱が残されている。巨人の長(ペンカウル)戦は、大箱と呼ばれる赤箱より大きい宝箱になった。


 不完全燃焼といった感じの者もいれば、やっと終わったと談笑しながら歩いてくる人間もいる。皆、宝箱の中身を受け取るためだ。

 封印結晶を撃ち抜いたユートは、「オイシイところを持っていった」と女性陣に絡まれている。タケルは見なかったことにしようと視線を逸らした。


 触らぬ神に祟りなし、である。


「モニュメント出たから、クリアのメッセ読んどけよー。あと個別報酬が択んで受け取れるから、全員忘れないようにな」


 ほっぴーの説明に見回せば、巨人が最初にいた位置に成人男性の背丈ほどの石碑がいつの間にか置かれていた。石碑から少し離れた場所に、このエリアからの脱出口であるワープポイントも設置されている。

 モニュメントに触れればボードウィンドウが開き、クリアメッセージが表示されるほか、時の城では個別報酬として予め用意されている素材アイテムから一つ選んで取得できた。

 どれもリビルドする時に必要となるものばかりで、自分で使ってもいいし、市場に流せばそれなりの値段になる。レアドロップなど引けなかったとしても最低保障となり、リアルラックに恵まれないプレイヤーへの救済措置でもあった。


「んじゃ、開けるぞ」


 別に何処にいようと同一エリア内なら報酬は勝手にパーティワゴンなり、ワゴンを使っていなければ個人のインベントリに収納されるのだが、つい宝箱の周りに集まってしまう。地面に寝ていたアデライードもユミに助け起こされ宝箱を取り囲む輪の中に入った。

 ましゅ麻呂が箱を開けると中から色も大きさも様々な星のエフェクトが飛び出し、囲む人間それぞれにぶつかって消える。幾つか虹色に輝く星があったので、レアドロップを引いた人間もいた模様だ。


「アリ姉、今回ハズレ? 」

「金枠が幾つか着てるからどうかな。全体で見たらトントン、って所だと思う」


 アイテムウィンドウを呼び出し、インベントリの内容を確認していたアデライードは特に表情を変えることなく報告すると画面を閉じた。


「サワは虹引いたね、おめでとう」

「ありっす」


 レアドロップを引き当てたらしい沢蟹は、自分で言い出すより早くアデライードに祝われたことに礼を言うと、足取りも軽く個別報酬を貰いにモニュメントに向かう。残されたアデライードにデミオたちが駆け寄り、姦しくも華やかな集団が出来上がった。

 デミオたちから解放されたユートを抱え、シ-グリフォンとコーヘイが「えいせいへー」と叫びながらモニュメントに向かい走っていく。

 苦笑交じりにそれを見ていたアデライードは、手慰みで氷の薔薇作ると「私は優しい女性が好きだよ」とデミオたちに手渡しながら囁き、彼女たちを舞い上がらせた状態でゆっくりとモニュメントに向かい歩いていく。


「世の中、顔か……」


 呟く鈴木の肩を春Pが無言で叩き、彼らも連れ立ってモニュメントへと歩き出した。


「ユミりん、お嬢の胸触った? 」


 神妙な顔をしてアデライードを見送っていたユミに雪江が声をかける。周りに気取られぬよう声は小さい。


 聞かれると思っていなかったユミは、有り得ない速さで瞬きを繰り返すと誤魔化すように首を傾けて笑った。


 アデライードを抱えて飛んだ時、体躯の違いから彼女の腹に顔を埋める形で折り重なり倒れこんだ。直接手で触れたとかではないが、額が胸に触れていた。

 雪江はその事を懸念したのだろう。


「……。一応、ミステリアスキャラみたいなんで他言無用で頼んます」


 ユミとユミの横にいたジェームズにぺこりとお辞儀をする。その様子から、彼はアデライードのアバターの秘密を知ってるようだ。

 顔を上げ、ユミが大丈夫と頷くのを見ると安心したのか頬を緩ませ、もう一度軽く頭を下げて雪江はモニュメントに向かい走り去った。途中、ユミたちと合流しようと歩いて来たタケルとすれ違う。


「触ったのか? 」


 下世話というより、状況確認で問うたのだろうユミを見下ろすジェームズの声音は平坦だ。


「うーん、触ってはいないわね。ただ、在るか無しかで言われたら無い、けど在る。わね」


 独特の言い回しに、ジェームズの眉が寄る。彼を知らない人間から見れば、気分を害したように見える表情だが、単に困惑しているだけだった。


「さ、報酬貰って帰りましょ」


 まだ個別報酬を受け取る作業が残っているとジェームズを促し、雪江とすれ違ったところで足を止め二人を見ていたタケルを誘ってモニュメントに向かう。


「どうかしたんですか? 」


 雪江が離れた後、何かを話していた二人が気になり横を歩くユミに聞けば、彼女にしては珍しく意地悪な顔で笑われた。


「んー……アデルがね。モカちゃんの好きそうな顔だったから、ここにモカちゃんがいたら、面白かったかなって」


 ユミの発言に、読込不良のように固まった二人だったが、ジェームズの方が復旧は早く困惑とも苦笑いとも言えない笑みを浮かべる。


 <TRUST>が誇る美形計測器のHPをゼロにしようとするユミの背後にタケルは悪魔の尻尾が揺れる幻を見た。


「確かに面白そうな発案だが、流石にあの絶叫を彼女(アデル)に聞かせるのはかわいそうだ」


 やんわり、やめたまえとユミを嗜めるジェームズだったが、モカの精神的HPについては言及しないあたりモカの普段の行いが跳ね返ってきている。


「二人とも、時々鬼畜っすよね」


 さめざめと泣くフリをしているとモニュメントの前に着いた。既に受け取りが終わっているメンバーは、ワープポイントから外に出てしまったらしく残っている人間は少ない。


 『時の城』の攻略は初めてとなるタケルは、個別報酬を受け取るのも初めてで恐る恐るといった具合でボードウィンドウを操作し報酬を選択した。

 何を選ぶのが一番いいのかユミたちに聞いたら、目的がないならオリハルコンインゴットが汎用性があり無難とのことで、それを選択し、タッチパネルの要領でウィンドウに触れる。


 報酬はインベントリではなく直接銀行の受取倉庫に送られるということだった。時々ドロップ品が重すぎて荷物を捨てたり、他人に預け街まで運んでもらうプレイヤーもいる。全員が移動倉庫を所持しているわけでもなく、重量ギリギリで活動しているプレイヤーもいるため、その配慮ということらしい。


「お待たせしました」


 タケルの操作待ちだったユミたちに声をかけ、頭を下げる。


「クリアメッセージは全部読んだ? 」

「一応。でも、あとでイベントクロニクルで確認します」


 最初の三行まではちゃんと目を通したタケルだったが、そこから先は目が滑って内容が入ってこなかった。

 クリア時の情報はパーソナルデータ内のイベントクロニクルに保存されるため、街に戻ってからゆっくり読めばいいと後回しにすることにした。


「なら、いこうか」


 歩き出したジェームズの後を追い、ワープポイントへと向かう。小さな時空門といった感じの光る床の上に足を踏み入れるとそこは『時の城』の外だった。


『 お疲れーい 』

『 お疲れさーん 』

『 おつおー 』


 出てきたタケルたちに声が掛けられる。声がしたほうを見れば、案の定<SUPERNOVA>のお約束、勝利の舞が踊られていた。

 アデライードたちの姿は見えないことから、既に移動した後なのだろう。なんとなくだが、あれが始まった途端、即座に雪江が時空門を開けた気がする。アデライードは綺麗だが、いろんな意味で怖い。


「はぁぁぁ……」


 どうしようもない疲労感に襲われ、タケルは額を押さえながら腹の底から息を吐き出した。


「あれは、絶対やらないといけないものなんですか」

「アイデンティティの問題らしい」

「戦闘部族たるもの、勝利の喜びは踊りで表現する。って言っていたわよ」


 いや、アンタたちも冷静に受け入れるなよ。



 人との出会いは、新しい出会いを生む。


 今、その時でしか結べない縁を繋げ『時の城』の攻略は終了となった。





 ・ イベントクロニクル ・



 【 我執せし娘の贖罪 】クリアメッセージ



 <長を失った巨人たちは、【ファルモア】の地を去ることにした。>



 我らは【海の果ての島】へ身を隠そう。


 この地には、小さき人が増えすぎた。


 我らを過去とした新しき神は既になく、我らもまたこの地を去る。


 小さき人たちよ、我らは汝らとともに在った。


 我らがこの地に還る日はない。


 王は戻らない。我らも戻らない。


 王との約束を果たせぬ無念。しかし、それも汝らの選択。


 生き延びよ、王が戻るその日まで。


 生き延びよ、王は必ずこの地を見つけるはずなのだから……




 ◇ ◇ ◇ ◇




 ああ、お父様


 お父様


 お許しください。


 私は閉ざします。


 【海の果ての島】への道を


 私は護ります。


 【海の果ての島】への道を



 ああ、お父様


 小さき人々の鉄の靴音が聞こえる。


 黒き竜が楽園へ至る道を見つけてしまう


 あれは怖ろしい


 あれは小さき人ではない。



 私は、道を壊します。


 私は、道を護ります。



 小さき人よ、鉄の靴音を奏でる者たちよ


 気をつけなさい


 黒き竜は汝らの傍らに


 あれは破壊と死を望む。


 気をつけなさい


 小さき人々よ、テレネウンネフェルを忘れてはいけない





  <巨人の長(ペンカウル)


 ・HP:1500000

 ・弱点属性:水・闇


 ・出現場所:『時の城』第6層(海の果ての島/転送)

 ・クエスト名:我執せし娘の贖罪

 ・六本ある腕の内、中央二本が胸の封印結晶を守る姿が基本姿勢。

 ・フェーズ1→顔面の破壊

 ・フェーズ2→封印結晶露出、DPSチェック

 ・フェーズ3→2に同じ。背中と封印結晶を破壊をするとフェーズ4が楽

 ・フェーズ4→とにかく殴れ。いつか死ぬ。



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