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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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48 失われた巨人の国 5


「キレてるやん……」


 スキル上げという長い道のりを制し、浮かれるましゅ麻呂のテンションが一気に下がった。

 色の白い端整な顔立ちをした人間が、歯を剥く姿は完全に般若のそれである。


「さっき二度目の舌打ち聞こえたから」


 全力で走れば、足の遅い魔法職でも槍に追いつかれることはない。追ってきた八本の槍をギリギリで振り切った雪江は、ましゅ麻呂の横まで逃げてきていた。


「アイツ、あの癖なおってねーのかよ」

「本人、気がついてないみたいだから」


 着たついでとばかりに雪江は、ましゅ麻呂にも<火魔法・肉体強化(炎の加護)>をかけ、その場で次の動きを待つことにする。


「あの舌打ち(おと)心臓にわりーんだよ」


 カンストした斧はもういらない。とばかりに、ましゅ麻呂は馴染み深い双剣へと持ち換えた。


「お嬢のポテンシャルの高さは頑固と負けず嫌いからきてるからね。許せないんでしょ、自分が(・・・)


 次の魔法を綴り始めた雪江をちらりと見て、アデライードにも彼女を理解する新しい仲間が出来ていることに卑しくも寂しさを覚える。


「ま。【魔法騎士(最高火力)】の本気、見せてもらおうじゃない」


 <永久凍土(パーマフロスト)>を展開し、準備が出来たアデライードがタイミングを計るため剣を掲げた。エイタが貼った<攻撃連鎖>が弾け、沢蟹の番になる。


「<命脈変換(コンバート)>」


 アデライードを包むように舞う氷塊の数が増え、白く煙った。


『 <攻撃連鎖> 』


 剣が下がる一瞬に合わせて、切っ先が狙う場所に沢蟹が<攻撃連鎖>を貼り付ける。


「<咲き誇れ、大輪の花フェ・デ・ネージュ・メリア>」

「ぶふぉっ」


 炸裂するように氷の華が開く。まさかの選択にましゅ麻呂は鼻から吹き出た水を手の甲で拭った。


「<復氷(チャージ)>! 」


 その間にも、アデライードは一切の通常攻撃を挟まず<復氷>し、ダメージを重ねていく。<攻撃連鎖>の受付時間は10秒、<咲き誇れ、大輪の花>はCTなしで<復氷>、完成までに六度かけ直すことになる。<命脈変換>を使い、通常を挟まければ時間内に間に合うのだろうが、容易く完成させて貰える筈がない。


 案の定、アデライードの足元に槍が突き出るエフェクトが発生した。


「アデル! 」


 ましゅ麻呂の声を切り捨てるように六度目の剣を振り下ろす。


「<復氷>! 」


大輪の氷花が、巨人のスカートを食い破るように花開いた。


 人の動体視力とはおかしなもので、集中力が振り切るとなぜか見えるものがはっきりと、スローモーションのように脳に焼きつく。それは現実世界でそうあるようにゲームでも同じだった。

 突き出る槍より早くアデライードの靴底がそこから浮いて離れる。ましゅ麻呂と逆側、彼の視界からは巨人のスカートが邪魔で見えない場所に待機していたのだろうユミが、アデライードの腰を抱いて横飛びにその場から逃れた。


 突き出た槍がアデライードを抱えて飛ぶユミの爪先を削る。二人に追いすがる槍を同じく待機していた春Pが大楯で受け止めた。


「<氷楔(アイスエッジ)>! 」


 二人に庇われた事すら意識にないのか、アデライードは宙に浮きながら剣先を定め氷の槍を撃ち込む。巨人の下肢に届いたか怪しいタイミングで時間切れとなり、ペンカウルが爆発を起こした。


「ざまぁ」


 今までと異なり、爆発によって外殻が弾け飛ぶ。一部だが本体が露出したのを見届けると同時に、アデライードはユミに押し倒される形で地面に転がった。


 このゲームのプレイヤーならば、<攻撃連鎖>が貼られたら反射的に攻撃してしまう性質(サガ)を持つ。雪江に予告されたほっぴーやオミも、アデライードが何かするからといって何もしないということはない。

 だが、瞬く間に大きくなる氷の花に戸惑い、手数が減ってしまったことは確かだ。

 そしてそれは、ペンカウルを囲んでいたメンバー全員に共通していた。ジェームズですら、急成長する氷の花を観察するような目で眺め、<攻撃停止>以外の魔法は使わなかった。


 なのに、である。


 受付時間を終了し、爆発を起こした<攻撃連鎖>だったが、今までと様相が違っていた。アデライードが打ち据えた箇所が外殻を失ったことではない。


 内側から盛り上がるように爆発する。そこまでは普通だった。火力過多による強引な部位破壊は当たり前にある。だが、起爆点となった場所から氷柱が生えたのだ。

 それは蔦がコンクリートの壁を侵食するように見る間にスカート部分全体に広がり、爆発の衝撃で動きを止めたようにも思える上半身へも網目を伸ばす。そして、氷は膨張すると言わんばかりに氷堤が体積を増し外殻を割り開いた。


倍率を征す者(バランスブレイカー)畏るべし……」


 ギシギシと軋る音を立てるだけで動かないペンカウルを見上げ、ましゅ麻呂が呟く。スカート部分がパージされた状態は見たことがあったが、全身が露出した姿は初めてだった。

 彼だけではない。過去に一度でも正攻法でペンカウルを倒したことがある人間ならば、全員が呆然と飛瀑に晒されたように凍りついた巨体を見上げる羽目になった。


 <咲き誇れ、大輪の花>の恐ろしさは、初撃の威力を基本とし、二撃目からは50%増しとなって積み重なっていくダメージ倍率にある。六撃目の初撃から五撃目までの累計200%加算というふざけた計算式も使用できるプレイヤーが限定的だという理由からの褒美のようなものだ。

 <攻撃連鎖>の受付時間内に見事走りきり、今回は完成ダメージを倍に出来たが、こんなこと歩道を歩いていて車に撥ねられるくらいの確率だろう。


 ペンカウルの想定HPは150万。フェーズ4へはHPが40%、残り60万になって突入する。それまでに削っていた分を考慮に入れたとしても、アデライードが<攻撃連鎖>を利用し、20万近いダメージを叩き出したことに変わりはない。


「アホと天才(バケモノ)は紙一重ってか」


 やれやれと首の後ろを掻いて、ましゅ麻呂はアデライードを振り返った。


「どうなってる、アデル」


 ユミに抱きつかれたまま、倒れて動かないアデライードに説明を求める。だるそうに身じろぐと彼女は腕を支えに上半身を起こした。


「ギシギシ言ってるから、まだソイツ死んでないよ。結晶割って」

「はぁ!? 」


 ましゅ麻呂の傍らに砕けた氷が落ちてくる。アデライードに集まっていた視線がペンカウルに戻るより早くユートが<豪気戦弓(アウトバースト)>で封印結晶を撃ち抜いた。


 巨人の長(ペンカウル)だったモノが、断末魔の代わりに盛大な音を立てポリゴンとなりながら崩れ消えていく。


「やっぱ、弓が最強っしょ」


 言って出されたユート舌の上には、小さくなったメロン飴が乗っていた。




メロン飴。

使用から10分間 INT+7(INT1=MP5)


魔法職の常用食。

MP効率が悪いスキル、ステータス構成だと

魔法職以外も食べることはある。


ステータスが150に達していても+効果有。(別計算)

同系列及び同一効果による積算不可。


但し、効果が切れる前に使用すれば効果時間は上書きされる。


イチゴ飴INT+5使用、残り時間5分でメロン飴を使用した場合は、

メロン飴の効果が上書きされる。

後から使用したものが優先されるため、注意すること。



非戦闘時のMP回復量:最大MPの6%/秒回復

座ると更に効果UP(気持ちの問題程度)



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