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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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47 失われた巨人の国 4


「あれ? 」


 起き上がったペンカウルの姿に違和感を感じる。それはタケルだけではなかったようで。


「あー……」

「いないと思ったよ」


 何食わぬ顔で雪江の脇に立つアデライードの周りには六花が舞い。双剣を納刀したユミは、ジェームズの傍でたけのこ体操の最初のフレーズのような動きをして体を伸ばしていた。


「あの人自由だわ」

「一分で折るかぁ」

「変に凍ってるし」

「ありゃ、ジェームズもやったな」


 槍を撃ちだす器官全てを破壊されたペンカウルが、ギクシャクとした動きで肩を上下させる。まるで、予定と違う状況に戸惑い挙動不審になっているようだ。

 実際は、ダメージ判定の計算をしているのだろう。


「動かない、ってことは」

「オーバーキルっぽいな」


 次の動きを判っている沢蟹は、ユートと視線を交わすと弓を背負いなおし、両手を空けた。ペンカウルの背中に乗ったユミたちが何をしていたかを彼らは見て知っているが、正直どう転ぶかまでは予測できていなかった。


「頭打ちかと思ったが、全部(ダメ)入ってる」

「早く終わるのは結構だけどね」


 ユートもメロン飴を口の中に放り込みつつ、背中に弓を納める。

 武器を構える臨戦態勢と武器を収めた待機状態では、自然治癒となるHPやMP、マスクデータとなっている気力の回復量が違う。僅かな差だが『あと1足りなかったためにアーツが使えなかった。』を防ぐために、打射撃武器を扱うプレイヤーは被弾の恐れがない状態の時は武器を納める傾向にある。

 魔法職は装備条件付で戦闘中もMPが回復するパッシブアーツを所有しており、この限りではない。


 DPSチェックの基本概念としては、制限時間内に決められたダメージ量を与えること。総ダメージが必要量に達すれば、クエスト失敗といったギミックを回避できる。

 必要ダメージ量に達したかどうかは、ダウンしていたエネミーが起き上がって判る場合と成功と失敗では違うギミックが発動して判る場合と様々だ。仕様によっては、規定以上のダメージは無効とされる場合もあるので注意しなければならない。


 過ぎたるは猶及ばざるが如し。 


 <SUPERNOVA>のメンバーだけでも、十分な火力はある。あとから巻き込まれた<Schwarzwald>は誤差範囲などといえない完全な余剰分だ。そこにダメージディーラーの問題児まで参加している。火力過多はこのゲームではろくな事にならない。


 いつもと違うハラハラ感は十分に楽しめたけれど。と、沢蟹は大きく息を吸い込んだ。


 ペンカウルの残った腕が弛緩したように地面に落ちる。


「雪! 攻撃停止!! 」


 叫んで背中の弓を掴むと沢蟹は中央へと走り出した。


『 オーバーキル。DPSチェック二回目スキップ、フェーズ3省略、フェーズ4へ 』

『 ですよねーー! 』


 判っていたと言わんばかりに、両手斧に持ち替えたましゅ麻呂も矢を番えながら隣を走り抜けた沢蟹を追って走り出す。


『 ダメージ入り過ぎた。ペンカウル動くぞ、集まれ 』


 状況が飲み込めていない初見組にほっぴーが声をかけ、走れと促した。


 地に落ちた腕の亀裂の隙間が広がり、蛇腹が伸びきったようにだらりと下がる。地面と繋がっていた巨人の腰が引き抜かれるように上へと持ち上がり下半身が姿を現した。

 大腿部であるはずの場所に脚なく、植物の球根のように大きく膨らみスカートを穿いているように見える。

 動かないと思っていた巨人が、土を割りながら討伐エリアの中央へと突進した。


『 土偶来た 』

『 腕、避けろ 』


 高さは増したが、地面から生えていることは変わりない。定位置と思われる箇所に移動した巨人は、その場で腕を振り回すように腰から上が回転した。 


『 ちょっ 』

『 離れるな、巨人にくっつけば腕は当らない 』


 対象から一定の距離を保つことがクセとなっている魔法職が振り回される腕に撥ねられそうになる。


『 下、槍生えるぞ 』


 離れれば地面を削ぐように回る腕に当り、腕と胴体の隙間に入れば下から槍がプレイヤーを襲う。本来なら、ここでペンカウルの背中から放たれる槍も降り注ぐのだが、それはユミたちによって壊されていたため上空からの心配はない。

 

『 折っといてよかっただろ 』

『 スキップしたの、お前らが原因かもしれないって少しは考えろ 』


 面白がって笑うアデライードに、同じく笑いながらましゅ麻呂が嫌味を含め叫び返した。


『 <攻撃連鎖(アタックチェイン)> 』


 即断でスカート部分に<攻撃連鎖>をユートが貼り付ける。


『 次、誰か頼む 』


 ディレイの関係上、起爆と同時に次の<攻撃連鎖>を使いたい場合は持ち回りとなる。即座に弓職の点呼が始まり、順番が決められていく。


『 攻撃停止、切らすな。腕の動き止めれる 』

『 掛かっても槍には関係ない、避けろよー 』


 <攻撃停止>で動きを止めていられる時間はエネミーの抵抗力によって異なるが、ペンカウルに対しては三秒ほどとその場から逃げるには比較的余裕があった。だが、フェーズ4は時間経過とともに<攻撃停止>が掛かりにくくなる。今は腕の動きを制限することで下から生える槍を避けることは容易いが、長引けば分が悪くなる一方だ。


 ドクリ。と脈打つような音と共に巨人の下肢が暗い光を放つ。


「毒来た、誰か状態異常解除」

『 お任せ! 』


 豆丸が頭上に魔導具を投げ、対応する。

 暗い光は毒、弾けるような光は麻痺、赤ければ火傷と種類があり、光を浴びた人間にダメージと確率で状態異常を付与した。魔法抵抗が低ければ確実に状態異常になる。


『 ジェームズ、範囲再生 』


 短期決戦とばかりに巨人を囲みダメージを積み重ねていく中、巨人に斧を叩き込んだましゅ麻呂が手ごたえの違いに怪訝に顔を歪ませた。

 バックステップで下がり、顔の前で手を左から右へスライドさせると字幕のように彼の視界にシステムログが表示される。


「うおっ、カンストした」


 予想外だったのか、つい口に出してしまい慌てて左から右へ手を振り視界をクリアにした。


「カンストって、150いったかー」

「カンストおめー」

「おめー」

「今する報告かよ、おめでと」

「時の城オイシイです。ぷぷー」


 祝いの言葉が続く中、ましゅ麻呂は通常運転で返すが緩む顔は赤く照れ隠しであることは丸判りだった。

 そんなましゅ麻呂を横目に、ほっぴーは持ち回りの<攻撃連鎖>を放つ。


 状況としては決して悪くは無いが、良くも無い。


「スキップしたの地味に痛いな。結晶が割れてない」


 高い位置に移動してしまった獅子の下顎を見上げ呟く。


 封印結晶にヒビは入ったが、破壊までは至っていない。


「殻つきでも、火力さえあればブチ抜けるだろ」


 たまたま隣にいて、その呟きを拾ってしまったオミが軽く返した。


 ほっぴーが気にしていたのは、巨人のスカート部分がパージされていないためにダメージが通り難くなっていることだった。


 フェーズ3で二度目のDPSチェックをクリアすれば、巨人のスカート部分がパージされ、クラゲの傘のような半透明の本体が露出した状態でフェーズ4がスタートとなる。

 岩石で出来た鎧を身に着けたままか裸かで、防御力がどう変わるかなんて考えるまでも無い。


 エネミーには弱点部位が存在する。フェーズ1のペンカウルなら腕関節であったり、フェーズ2なら露出した封印結晶となる。弱点への攻撃はダメージが増強され大きくHPを削ぐことが出来るが、非弱点では減少するためダメージ効率は悪い。


 今、目の前の巨人は殴りやすい弱点を覆い隠された状態だった。


「まぁ、そうだな」


 ペンカウルに持久戦は不芳だが、この火力ならば問題ないかと思い直したところに<火魔法・肉体強化(炎の加護)>がかけ直された。


「そろそろお嬢がキレるから、準備してよ」


 ふわりと触媒紙を投げ、雪江はオミにも<炎の加護>をかけ直す。


「キレるて」


 妙なところで気が短いアデライードだが、彼女は本来のんびりしたタイプだ。機嫌が悪くなるのには法則がある。


「さっき下から生える槍に、掠めあたりだけど撥ねられた」

「あー」

「……お前も苦労してそうだな」


 オミに労われると雪江は肩を竦め、足元から槍が発生する予兆を感じ取り逃げるようにその場を去った。


『 サワ、次の<攻撃連鎖>私に合わせろ 』


 すぐさま聞こえてきたアデライードの声に、二人は笑いを堪え武器を握りなおす。


『 アリ姉何する気よ 』


 アデライードが撥ねられたところを見ていなかったらしい沢蟹は、何を言い出すのかと問い返す。


『 爆殺してやる! 』




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