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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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45 失われた巨人の国 2


『 後方、槍来るぞ 』


 ジェームズの言葉通り、巨人の背中から生えている槍が射出される。落下地点にはエフェクトが表示されるため回避は可能だが、つい目の前の攻撃対象に夢中になり見落としがちになる事象にジェームズの指示は有難かった。


 勿論、タケルのように任せきりの人間ばかりではない。彼の言葉より早く退避する者もいる。こればかりは場数の問題もあるが、より広い視野を持って行動できる人間であるかの問題でもあった。


 巨人の腕は六本。左右、縦に三つずつ並んだ状態で生えていたが、中央の腕はやや前気味に生えており、胸の前で腕を組んだ状態で攻撃には使われていない。

 その腕の上と下に生える腕は背中よりに生えていた。関節の可動域を計算してのことだろうが、芸が細かい。


 下の手は、前面への張り手やなぎ払いを繰り出し、上の手はプレイヤーを叩き潰そうと振り下ろされる。巨人の腕は蛇腹のように伸縮し、張り手の場合はボスエリアの端近くまで届いた。

 硬い外殻に包まれてはいるが、伸びきった時は外殻の間に隙間が出来、柔らかな部分が露出する。


『 左上、沈黙 』


 遠距離職の集中砲火を浴び、巨人の右上段の腕関節が破壊された。破壊された腕は、脱ぎ捨てるように肩の関節より先を切り離す。

 攻略手順として巨人の腕には破壊する順番が定められていた。上段は向かって左から、下段は向かって右からとなっている。これにより野良や会話が苦手な人間同士でも火力の分散を防ぎ、スムーズに部位破壊を行えた。


『 遠距離は次へ。マッシュ、額は割れそうか 』


 近づく1回目のDPSチェックを懸念して、ジェームズがましゅ麻呂に問いかける。根元が固定されているとはいえ、上半身自体が動かないわけではない。振り落とされぬよう、腕が振られるタイミングを計って空に退避し、元の位置に戻ると再び額の目を狙って頭部に着地する。


 分厚い瞼の上からの攻撃ではなかなか破壊まで至らず、瞼が上がり開ききる一瞬を狙って斧を撃ち込んではいるが効率は悪かった。


『 腕が早すぎるんだよ 』


 ましゅ麻呂は額の目を狙っているが、彼以外でも空を駆けることが出来る人間は巨人の目を狙い顔付近を飛び回っている。しかし、ましゅ麻呂のように巧く捌けないのか揺れ動く頭部に巨人の肩や地面に降りることを余儀なくされ三つある瞳はどれも破壊までに至っていない。


 四本の腕が破壊されれば一度目のDPSチェックがくる。


『 ユミ、下の腕はいい。マッシュを手伝ってくれ 』


 繰り出される腕を器用に避けながら、鈴木たちと一緒に下の腕を攻撃していたユミが一瞬迷う。彼女が下にいた理由は、逃げ遅れが出た場合に彼女が抱いて逃げる為だったからだ。


「ユミりん、ここまできたら下のもすぐ割れる。<迅雷>使える奴もいるから大丈夫だ」

「究極、春Pが受ける」

「ウス」


 ロビンとオミに促され、逃げ遅れが出やすい魔法職を背中に守る春Pも頷くのを見てユミは彼らから距離をとった。狙ったように、そこへ巨人の張り手が繰り出される。


『 やべぇ、ユミりんくる。お前ら退避 』


 焦るましゅ麻呂の声に、顔の周りにいた遊撃手たちが次々に巨人の肩へと場所を移し、ましゅ麻呂も頭頂部へと着地した。

 ユミは繰り出された腕を易々と避けるとその腕に乗り、腕が引かれる動作を利用して巨人の本体へと一足飛びに移動する。


「腕の上、走るかぁ」


 VRMMOなんてエクストリームスポーツだから。雪江の発言を体現した動きをするユミに気を取られていたタケルの下がりかけた楯をシーグリフォンの槍が軽く叩く。


「あの人は無視しろ、見てたらこっちが死ぬ」


 ユミは腕を駆け上ると肩を蹴り、巨人の顔の前をわざとジグザクに移動した。その動きに釣られた巨人は、彼女を追って仰ぎ見るように顔を動かす。半ばまで開かれていた瞼から覗く瞳孔変わりの黒点がユミを捕らえると三つの瞳すべてが完全に開かれた。


 石化を表す拡散したライトのようなエフェクトが真下からユミに向かって放たれる。その瞬間を狙い、横からましゅ麻呂たちが瞳を攻撃した。

 それに合わせる様に、何故だか弓職たちのアーツも巨人の顔面に降り注ぐ。


『 あら、大変 』


 巨人の頭上に形成された氷塊がシールドの役目を果たし瞳から放たれた光は屈折しユミには届かず、巨人の瞳の黒点も様々なアーツのエフェクトに隠され彼女から見ることは出来ない。

 それでも何か見えないかと透明度の高い氷の上に着地したユミはしゃがみこみ、下を覗き込んだ。


『 危ないから、早く降りてきなさい 』


 走るユミを追ってきたのだろう、巨人の正面で剣を掲げたアデライードが促す。アデライードが駆け込んだことに気がついた沢蟹たちが、本来なら腕に落とすはずだったアーツの目標を変え、ましゅ麻呂たちを援護する形となった。


 混ざり合うエフェクトの光と破壊されたことで巻き上がる爆煙の中で動く人影が見える。ホワイトアウトに近い視界で、それでもしっかり部位破壊を完了させようとましゅ麻呂たちは動いていた。


 降りろといわれたユミは一度、下にいるアデライードを振り返って見てから状態不明の巨人の顔面を見る。


『 よし、全部割った! 』


 ましゅ麻呂の宣言に煙の中から彼以外の遊撃手が出てきた。それを見て、ユミは薄くなりつつある煙の中に飛び込む。


一度、倒す(ダウンさせる)わ 』

『 腕たためよ! 』


 ユミとましゅ麻呂の声に何かを言いかけて口を開いたアデライードだったが、すぐに剣を下ろし後方へと走り出す。


 あの巨体をどうやって?


 そんな疑問がタケルの頭を過ぎったが、あの二人が揃ったという事はやることは一つだとフィールドボス戦でみせた鮮やかな死にっぷりがすぐに浮かんだ。


「たっくん、こっち」


 いつの間に横に来ていたのか、雪江に呼ばれるまま左前方へと走る。


 晴れた煙の中から出てきた巨人の顔面は歪に抉れ、輪郭しか残っていない状態だった。生物であるはずなのに、やはり抉れた顔面は岩のようで中にあるべき器官が一切ない。まるで取って付けたような彫刻(ツクリモノ)に見えた。


 申し訳なさ程度に残っている額の上に立っていた二人が水平に飛び出す。動いていたケイオスグランジと違い位置固定のペンカウルではタイミングを合わせるまでもないのかと思えたが、微妙に跳躍する歩幅が違う。それを四歩目で向きを変える瞬間、<迅雷>で加速するタイミングをずらして調整した。


 見るべき目がないのに、自分に向かって飛んでくるユミたちを狙って巨人の腕が振り下ろされる。それを五歩目で器用にすり抜け二人は特攻した。


 地響きに似た音が巨人の顔から発せられ、その音に押されるようにペンカウルは仰け反り、崩れるように仰向けに倒れ込む。弛緩した腕が次々にタケルたちの周りに落ちてきた。


『 ダウン、30秒 』


 ジェームズがカウントを取り始め、下にいた人間の多くは左側の腕に、一部が右側へと集まり一斉に殴り始めた。降りてきた遊撃手たちは、着地位置から近いほうへと合流する。

 高火力のDDが二人沈んだ状態で、そんな短い時間で腕が割れるのかと危惧しながら全力で剣を振るうタケルの背中で右腕が砕ける音がした。


「一撃かぁ」

「元々、随分削っていたはずだけど」

「え、見逃した。何があったの」

「魔女がザクッって刺したら、バーンってなった」

「判りたくないけど、わかるー」


 倒れた腕は弛緩しているため、外殻と外殻の間に隙間が出来ている。そこを狙って攻撃しているのだが、一部でオーバーキルが発生したらしい。


「って、ことはー」


 共に殴る左腕の向こう側で鈴木の声がした。


『 ふっかーつ 』


 高らかに宣言するましゅ麻呂の声に被り、左上の腕が壊れる音が響く。


「ですよねー」

「やば、あとココだけ!?」


 精一杯の人数とアーツで攻撃しているはずが、火力がないと言われたような現状に焦りが生じる。


『 えっ。俺、もう出番なし!? 』

『 もう一つ、残っているわよ 』

『 ユミりん、ナチュラルに抉るのやめてー 』

『 おっしゃぁ、俺に任せろー 』

『 させるかぁ! 』


 ジェームズにより完全蘇生された二人のうち一人が、意気揚々とタケルたちに向かって駆け出す。しかし、彼が走り出すより早く右腕組の中から一人、白い人が向かっていた。


「そこ、どいて! 」


 後ろから聞こえた声に、タケルはステップで避けて場所を空ける。そこに飛び込んだアデライードが外殻の隙間、柔らかな関節部分を刺突した。


「<氷震(クライロサイズム)>」

「おっとぉ」

「怖ッ」


 逆側にいた鈴木たちが突然、突き出た氷筍に驚き声を上げる。


「チッ」


 一撃と行かなかったことに舌打ちするとアデライードは剣を引き抜き、斬りつけようと腕を上げた。


『 <神聖魔法・日(ハタタガミ)雷> 』


 アデライードが剣を振り下ろす直前、一筋の落雷に目の前で凍りついた巨人の腕が弾け飛ぶ。関節で分断された腕は即座に肩から切り離され、ポリゴンとなって消えた。

 そこに一拍遅れてましゅ麻呂が<汝、死を以って贖罪とな(スクラマサクス)せ>を纏った状態で着地する。


「えっ」

「え……」

「あ」

「あー……」


 障害物がなくなったことで、向こう側にいたメンバーとタケルの目があった。


「……。私、悪くないよね? 」


 剣を振り上げたままの状態で静止したアデライードが、目だけを動かし腕を取り囲んでいた面々を見回す。


 ましゅ麻呂は着地した状態のまま俯き動かない。


 救いを求めるようなアデライードの視線は、最後に場所を譲ったタケルとぶつかった。


「……いやぁ」


 どうっすかね。と続ける言葉は、乾いた笑いに消える。


「マッシュに獲らせないために飛び込んだ段階で同罪(アウト)だと思うよ、お嬢」


 半目になった雪江に静かに告げられ、アデライードは渋い顔で剣を収めると動かないましゅ麻呂に彼女にしては珍しく優しく声をかけた。


「まぁ、あれだ。……ごめん」

「謝るくらいなら、最初からしないでっ」


 涙を拭う真似をして蹲っていたましゅ麻呂は立ち上がる。様式美ではあるが、大技が不発だった恥ずかしさからは立ち直ったようだ。


『 ペンカウル、起き上がるぞ 』

『 どこまでも冷静だなぁ、おい 』


 事務的なジェームズの声に、その場にいたユミを除く全員の気持ちを代表するように沢蟹が突っ込んだ。




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