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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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44 失われた巨人の国 1


 ――時は遡る。遠き昔へと……。


 巨人の長には娘がいた。人と背丈の変わらぬ小さな娘。


 見目麗しく、その歌声は何人をも魅了する。


 可愛い娘。愛しい娘。

 しかし、彼女は巨人の長の本当の娘ではなかった。


 ある日、巨人は夢を見た。

 娘と人間の若者が出会い、巨人に死を運んでくる。


 ――なんと怖ろしい夢か……。


 死を懼れた巨人は、娘に城から出るときは人の目に触れぬよう雌鹿に姿を変えるよう言い聞かせた。


「我が元から放れてはならぬ」


 娘が巨人の庇護から外れれば、死がやってくる。


 だが、ある日。娘は城の外、麗らかな午後の日差しに誘われるように誰もいない泉の畔で人の姿に戻ってしまう。


 冷たい泉に足を浸し、彼女は歌を唄った。何人をも魅了する魅惑の歌声は、近くを通りかかった若き騎士の耳へも届く。


 彼女は、彼は、出会ってしまった。


 死を招く運命の恋に。


 娘を娶るため騎士は奮起し、彼女の父たる巨人の長を討ち倒す。


 長を失った巨人たちは、二度と戻ることはないと誓いをたて、新たな世界へと旅立った。


 愚かな娘。人の子でありながら、巨人に育てられた幸運の娘。短い命は、巨人の命を分け与えられたことで継ぎ足されていたのに。


 娘は、自分が嫁げは死ぬのは巨人の長だと思っていた。


 可哀想な娘。自分の父親が討ち取られ、その命が尽きる時。彼女もまた灰へと帰した。


 一説では、『死人と生者の間の子』が灰の中から産声を上げ、騎士団により保護されたとも。その子の血筋が、ジェフサの王になったとも伝えられる。




『 ムービー長いわーーっっ!! 』


 視界が広がったと同時に始まった過去回想にすっかり浸っていたタケルは、ましゅ麻呂の叫びに我に返った。


「はいっ! 正面ドーン! 」


 デミオに腕を引かれ、立っていた場所から退去させられる。岩で出来たような巨大な人の手が、タケルが立っていた場所に張り手として繰り出された。


『 本日も初見殺し絶好調ッス 』

『 何人死んだー? 』

『 今日は死者数ゼロやで、超優秀 』


 どうやらムービー明けの攻撃はわざとらしい。


『 ムビキャンさせないあたり、担当者の意地を感じるよな 』


 プレイヤーに優しくない開発陣は今日も愛されている。


『 背中の後光みたいに見えるの全部槍だからな、飛んでくるから気をつけろ 』

『 逃げてる時は固まるな。狙い撃ちされる 』

『 糸目が開いたら視線は逸らす! 』

『 目が合うと石化するから、ぜってー目ぇ合わせるな 』


 正式にボス戦が始まったことを認識し、タケルは周囲を見回した。


 まるで空に浮かぶ浮島のように、抉り取られた大地が周囲に浮かんでいる。タケルたちがいる場所もそれらと同じなのだろう。崩れ、壊れた建物の一部が残る土地は囲いがあるわけでもなく、そこから落ちたらどうなるのだろうと気になった。


「ここ、どこですか? 」

「どこって、浮遊……岩? 」

「岩? 」


 城の中から外界に転移させられたことは判るが、空の上というのは関連性がわからない。タケルは、自分の腕を引いて走るデミオに思わず聞いてしまった。


 これがユミや沢蟹たちだったなら問題はなかったのだろうが、デミオは彼らと違い曖昧で彼女も判っていない様子だ。


 正面には討伐対象である巨人の長(ペンカウル)。下半身は崩れた壁に埋もれているようにも、タケルたちが立つ地面から上半身が生えているようにも見える。

 しかし、なんだろうか。巨人の長のビジュアルになんともいえない既視感を覚えた。


『 すっごい、見たことある顔なんだけど 』


 タケルだけではなく、初見組は巨人のデザインにざわついてるようだ。


『 ももか知ってるー。奈良の大仏ーっ 』

『 ちげーーよ!! 』


 高速でユートの突込みが入った。


『 どっちかっつーとモアイ顔だろ、アレ 』

『 ももかー、大仏には六本も腕ねーぞー 』

『 大仏で正解なの、大きさと背中の後光だけだろ 』


 下半身が固定されているため、巨人からの攻撃は腕による張り手と叩き潰し、張り手と挙動は似ているが、伸びる距離が短いものは、なぎ払うように半扇に旋回する。


『 ねぇ、ここってどこだっけ? 』


 判らないことは声に出してすぐに聞く。は、基本であるが、果たしてその内容が今すべきことか否かは考慮すべきである。

 しかし、お構いなしなところが<SUPERNOVA>が<SUPERNOVA>たる所以なのだと、タケルは痛感することになった。


『 は? 』

『 どこって、海の果てのしおっとぉ! 』


 答えようとした忠司に向かい巨人の腕が振り下ろされる。叩き潰されそうになるギリギリを<迅雷>で避けると忠司は態勢を整えるため、一旦後ろに下がった。


『 今? 今なの? 今する質問なの? 』


 デミオの質問に、やはり振り下ろされる巨人の腕を避けながらエイタが笑いながら突っ込む。


『 やべぇ楽しい 』


 緊迫した状態であるはずなのに、ゆるい会話にケンチも笑う。


『 どっから? どっから説明するの!? 』

『 うどん作るなら、小麦からだろ 』

『 説明終わるまでに、何体ペンカウル倒せるんだよ! 』


 口だけではなくちゃんと手も動かす彼らだが、会話に参加する気がない面々は黙々と自分の仕事をこなしている。

 それを象徴するように、振り下ろされかけた巨人の右腕の肘をアデライードの<氷楔(アイスエッジ)>が貫き氷結させた。


『 マジか 』


 ペンカウルの頭部に登り、額の目を狙っていたましゅ麻呂の動きが止まる。すぐに氷は砕け散ったが、氷結後の効(鈍重)果を表す白い薄靄のエフェクトはしっかり右腕に残っている。

 一部とはいえ、スプリガンの比にならない大きさのペンカウルまで氷結させたアデライードに、いよいよもって人外化の兆しを感じたましゅ麻呂は、あとでパーソナルデータを見せて貰おうと心の片隅に留め置いた。


『 3秒? 』

『 5秒だな 』


 行動不能に出来る時間を計っていたのか、アデライードの問いにジェームズが答える。


 通常なら90秒ある拘束時間が随分と短い。MP効率も悪く、緊急避難でしか使えないとアデライードは唇を噛んだ。


『 やっぱ、魔女の魔法は派手だねぇ 』


 苦行の果ての【魔法騎士】なのだから、その分の見返りとしては等価のはずだが、彼女の見た目も手伝って何割り増しかで演出されている。


『 王子かっこいいー 』

『 アデル様、男って言って。本当は男って言ってーっ 』

『 嫁にしてッ、駄目なら嫁にキテー 』


 攻撃より支援に重点を置いている脳内デッドガールズは余裕があるのか、何かにつけアデライードに絡みに行く。その都度、アデライードも彼女たちに笑顔を見せるものだから始末が悪い。


「様呼びかよ」

「ここでアピって、覚えてもらいたいんだろ。魔女あんま街いねーし」

「女に女の取り巻きが付くのも微妙な気持ちになるが、アレが男だったらそれはそれでもにょるな」


 叩き落とす挙動の時はすぐに腕は引き戻されるが、突き出す挙動の時は暫くその場に留まる。突き出されたタイミングで避け、伸ばされたまま動かない腕に鈴木たちが集まると殴りながら豆丸たちの反応について審議が行われていた。

 タケルも黄色い悲鳴を上げたデミオから離れ、その輪に加わり鈴木たちが狙う腕の関節を斬りつける。


『 お前ら、ソイツの見た目はアニメキャラだぞ 』

『 は? 』

『 え? 』


 ましゅ麻呂の爆弾発言に、ユミとジェームズ、そしてアデライード以外の動きが止まった。沢蟹たちも知らなかったらしく驚いた顔でアデライードを見ている。


『 顔は自前だ。コスプレと言え 』


 どっちにしても残念さんじゃないですかー。タケルの心の叫びがアデライードに届くはずもなく。


『 えっ、どうしたらいいの? 』

『 コスプレって、アデル様レイヤー? レイヤーなの? 』

『 顔自前とか王子最高 』

『 撮影会とかしちゃったりしてる? ツーショ、二千円とかで撮れちゃう? 』

『 待って、私最近はまってるアニメあるんだけど、リアルでコスプレして欲しい! 』


 姦しい娘たちを黙らせるつもりが、逆に火に油を注いでしまったらしい。


『 馬鹿なこと言ってないで、お前ら仕事しろ 』


 <SUPERNOVA>の良心に叱られ、デッドガールたちは一時解散となった。



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