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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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43 おいでませ、ブルクカペレ 7


 たなぼた。


 棚から牡丹餅の略。

 意味:思いがけぬ幸運が舞い込んでくること。



 バンシーが何の変態も、新たなギミックも見せずに狩り獲られた訳では決してなく。HPが半分を割った段階でバンシーは変化を見せていた。

 しかし、その変異の特徴となる牙を何も考えず削りきってしまったため、誰も気がつかなかった。が正解である。


 逆に、バンシーを狩りに行ったのがユミではなくましゅ麻呂だったなら、状況は変化していたかもしれない。


 バンシーが変異したラウナンシーは、男性特攻を持つ吸血鬼だった。



「向こうもそろそろ終わりそうだな」


 応援に向かう気はないのかジェームズは魔導書を閉じすっかり休憩モードだ。

 雪江も本を閉じ、肩から()げたブックホルスターにしまう。ペンは同じくホルスターベルトの定位置へと差し込んだ。雪江のホルスターはショルダータイプだが、ジェームズはベルト装着型とそれぞれに個性が見られる。


「少し眠いわ」

「随分と頑張っていたからね」


 欠伸が出るほどではないのだろうが、気を張って目も疲れていたのだろう。ユミは目頭と鼻の付け根の間を右手でつまむように刺激しながらジェームズの隣へとフラフラと歩いていく。

 果たしてアバター体でツボ押しが効果があるのかは判らないが、気分の問題なのかもしれない。ジェームズも魔導書をホルスターにしまい、やって来たユミの首筋に空いた手を伸ばす。ユミの首が細いというより、ジェームズの手のひらが大きいため片手にすっぽり収まり、そのまま掴むようにうなじのすぐ下辺りを揉み始めた。

 完全にばーちゃんと孫の光景であるが、傍から見ると見た目が手伝って大型犬と小型犬のグルーミングに見える。


「あの二人って、いつもああ(・・)なの? 」

「色々思うところはあると思いますが、あの人たちはああ(・・)です」


 困惑気味のアデライードにタケルは肩を落として答えた。


「面白いね」


 邪心なく笑う彼女の顔は申し分なく美しい。思わず見惚れそうになり、タケルは慌てて首を振り懸想を払った。そもそも目線が自分と変わらない段階でおかしいのだ。線は細いが、どこか男性が見え隠れする顔立ちで、でも男とは言い切れない女性らしい稜線もある。

 「アイツは魔女なのか王子なのかはっきりして欲しいよな」鈴木たちの言い分に、今更ながらに同意せざるをえない。


『 よっしゃ! ファーシー没! 』


 ましゅ麻呂の叫びとともに、討ち取られたファーシーから虹色に輝く光の柱が立ち昇った。


「お、珍し。ボーナス引いたのか」


 沢蟹の言葉にバイタルを確認すると、レアドロップアップ200%と表示がされている。


「次の巨人の長(ペンカウル)が楽しみだね」


 雪江もバイタルを確認したのか、丁度画面を閉じる仕草をしていた。


 このゲームでLUCの要素は薄い。ドロップ品が増えたり、生産品のクオリティが上がったりする程度だ。そして、その方向に調整されている理由がこの討伐数(クリア)ボーナスに関係していたりする。一定の条件をクリアするとボーナスタイムが発生するのだが、マルチエリアで発生した場合はマルチエリアのみ。シングルエリアで発生した場合はシングルエリアのみ対象となる。

 勿論、時間制限はあり、一つの効果で短いものは5分、最大で20分となっている。ボーナスの種類も様々あるが、今回はレアドロップアップということでドロップテーブルの変更がされたことになる。


 『時の城』のカウントは独特で5層はエネミーを討伐してもドロップは発生しない。6層のボスを倒して初めて大箱と呼ばれる赤箱が落とされ、中に5層と6層のドロップ品が入っていた。


「やっぱ、あれか。スプリガンで討伐数稼いだ感じか」

「芋虫が一個体としてカウントされていたならそうだろうけど、始まりはそれより前の気もするよ」


 すべてのエネミーが倒されたことにより、崩れた祭壇の前に「天の鍵」と呼ばれるオブジェクトが姿を現した。大人の手のひら程度の大きさのこの鍵を手に取ることで6層へと転送される仕組みだ。足取りも軽く鍵に向かって歩き出す沢蟹に対して、雪江はやれやれといった感じで彼の後に続く。


「おいアデル。お前、さっき何やった」


 のんびりとタケルを伴いやってきたアデライードに、決定的瞬間を見逃したましゅ麻呂が話を聞きたくてしようがないといった顔で問いかける。

 肩幅に足を開き、腕を組んだその姿は三下感漂ういじめっ子で、彼の子供らしい見た目も手伝って微笑ましくタケルは吹き出しそうになるのを必死に堪えた。


「何って、複合魔法のこと? 」

「複……それも気になるけど、じゃあなくて。なんでユミりん<戦闘禁止区域ディミリトライズゾーン>の上に乗ってたんだよ」

「ああ」


 目を細めたアデライードは、優越感溢れる笑みをわざとらしく浮かべる。


「キィーッ、くやしぃ」


 その場で足を踏み鳴らすましゅ麻呂は完全に子供で、どのタイミングでましゅ麻呂を回収するか悩むほっぴー以外の<SUPERNOVA>は、ただ笑って自分たちのクラマスを見ていた。


「ほら、時間勿体無いから行くぞ」


 折角引いたレアドロアップを無駄にするつもりかと「天の鍵」の前に陣取った沢蟹が急かす。仕方ないといった風情で頬を膨らまし、恨めしげに自分を見上げるましゅ麻呂にアデライードは肩を竦めた。


「<戦闘禁止区域>の中に嘆きの妖精は入れないのは判っているだろ」


 ましゅ麻呂の視線に負けたわけではなく、元々教えようと思って少し焦らしていたのだろう。アデライードが話し出した。


「プレイヤーは<戦闘禁止区域>を通過する。これも当たり前だ」

「ああ」

「なら、嘆きの妖精を盾にして<戦闘禁止区域>の上に落ちたらどうなると思う? 」

「それは……。けど、そんなん無理だろ。あいつらは攻撃がヒットする時にしか触れない。それに動きも素早いからすり抜けられるし」

「アンタの死の先触れ(レイブンマスター)でも、やろうと思えば出来るんじゃない? 」


 ましゅ麻呂が保有する武器の中で、嘆きの妖精に一番有効なのはファーシーを屠る時に使っていた黒の双剣(レイブンマスター)だ。そのことを指摘され、ましゅ麻呂は首を傾げる。


「彼女、武器を持ち替えたりしないみたいだから馴染み過ぎて忘れてるだろ」


 彼女と言われ、何のことか判らなかったがアデライードの視線の先を追うとユミが暢気に魔法職にメロン飴を配っているいつもの光景が目に入った。

 ユミが背負う武器に目が留まる。


死者と死の精霊の眼(サザンクロスエッジ)……! 」


 二世代前でありながらいまだ現役。実装当時は産出量の少なさも手伝って、実装し忘れや都市伝説扱いを受けていた双剣。


 死を司る精霊の一部と死を運命付けられ受け入れた死者の一部が宿るとされるサザンクロスエッジと死を嘆き悲しむ妖精とでは相性が最悪だと気がついた。


「と、確実に捕まえて逃さないAGI120超え。そして、反応が早い両手持ち(トゥーウェイ)ね。シー相手に落とせる位置なんて正確に決められない。今回は人が揃ってて運がよかった」


 成立条件が難しいから、試したくても試せれなかった。そう付け加えるアデライードの顔からはすっかり棘が抜け落ちている。

 シーたちの倒し方として確立することが出来たとしても、この方法は万民が再現することが出来ないやり方でしかない。誰もが少し頑張れば手が届く、再現可能な方法まで落とし込まなければ価値はなく、今回はただアデライードの探求欲を満たしただけに過ぎなかった。


「あと、最後に使ったのは<氷の剣林(タルタロスドルサ)>って複合魔法。妖精、精霊あたりで動かない相手には有効ね。使いどころが殆どないから、こんなの実装してどうするんだろうって思っていたけど。こーゆー使い方みたいよ」


 軽くましゅ麻呂の肩を叩くと「天の鍵」の傍へと歩いていく。その背中を見送り、ましゅ麻呂は一つ唸ると難しい顔をして、やはり「天の鍵」へと歩き出した。

 二人のやり取りを近くで聞いていたタケルだが、イマイチ説明が頭に入ってこない。もう少し詳しく。と、聞きたいところだったが、とても二人を呼び止める勇気はなかった。


「たっくん、はよう」


 沢蟹に急かされ、慌てて「天の鍵」を中心に集まる人の輪の中に紛れ込む。


「んじゃ転送始めるけど、入ったらすぐ目の前に巨人の長(ラスボス)だからな。安置なし、休憩なし、途中DPSチェックは2回、時間制限は20分。ま、そんなに掛からないと思いたいが、宜しく頼む」


 確認するように参加者の顔を一巡してから、ましゅ麻呂は鍵を手に取った。眩しい光が鍵から放たれ、一瞬で景色が暗転する。


 暗闇の中、プレイヤーだけが淡く光を帯びて存在している不思議な光景だった。


「転送、抜ける」


 一点を見つめたジェームズの声にそちらを見ると闇の中、閉じられた扉がこちらに向かい迫ってきていた。

 押し迫る扉が開かれ、向こう側の景色が顕わになる。まるでトンネルを抜けるようにタケルたちは城の外へと送り出された。




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