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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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41 おいでませ、ブルクカペレ 5


 雪江の読み通り、ジェームズと合流すると彼は壁沿いに部屋の隅に向かうよう促した。タケルの役割は万が一のためにバンシーからジェームズたちを守ることだったが、その心配がないほどの高さでユミがバンシーを相手取り健闘している。


 時折、沢蟹の<魔除けの矢>に反応しバンシーは下降しようとするが、その度に氷の槍が行く手を阻んだ。

 突如目の前に現れるそれにバンシーが怯むと、一直線にユミが飛んできてバンシーを吹き飛ばす。<飛燕>を使った空中で<迅雷>を発動するとあそこまで高速で移動するのかと驚くことばかりだった。


 ガーゴイル戦も見たかったと惜しむ気持ちが生まれてくる。


「たっくん、気ィ抜くなよ」


 沢蟹の声に我に返り、<主神の大楯(シュッツハイリガー)>を展開し直した。


「お嬢もいるし、そこまでピリピリすることないよ」


 ゆるい調子で雪江が横から口を出す。


「っーか。本当に降りてこないね、あの人」


 投げられた魔法触媒紙が独特のエフェクトを描くと光の粒となって消え、代わりにタケルの前に<大地の守護>のエフェクトが現れ、彼の体にぶつかって消えた。


「火ガゴん時は、ちゃんと降りてきたんだけどな。でも、あそこまでグネグネ動くとなると下手に下ろすとヤバイって思ってるのかも。あっち、かなり死人出てるぞ」


 沢蟹の指摘のとおり、ファーシーと対するあちらでは常にどこかで蘇生魔法の光の帯が天に向かって伸びている。シーたちの動きは泳ぐ魚のように滑らかで早く、突然方向転換もする為どこに向かって飛ぶか判らない。

 ユミと違いましゅ麻呂は動きを低空に抑えているため、泣き声を彼が捌いても飛び回るシーの手枷足枷から伸びる鎖が当たって周りが事故死している。

 しかし、すべて織り込み済みなのだろう。和気藹々とした罵詈雑言が飛び交う、あの人数だからこそ出来るゾンビアタック状態になっていた。


 討伐順としてましゅ麻呂が描いたのは、ファーシー撃破の後、全員でユミが抑えているバンシーの撃破だろう。

 それまでの間、ユミはバンシーと膠着状態を作ればいい。

 二辺を壁に囲まれているこの場所は、ユミにとって足場になるところが多い。下りる必要性がないのに、わざわざ降下しては来ない。


 それにしても。と、雪江はアデライードを見た。


 下りて来ようとするバンシーを邪魔する事しかしていない彼女の考えが読めない。元々少ないMP保有量の問題もある。彼女が余分に手を出さない理由がそれだと言われれば、確かにそうだろうとも思う。


 しかし、だ。


 彼女は負けず嫌いなのだ。


 自分たちが狩り終わるまで待っていろ。と、暗に言われた状況に甘んじるとは到底思えない。


 天井の程近くを飛び回るユミとバンシーを見上げているアデライードの口角が微かに上がった。


「あ、駄目だこりゃ」

「ん? 」

「え? 」


 思わずこぼれた呟きに沢蟹とタケルが反応する。なんでもないと雪江は顔の前で手を振った。


 なんか悪いこと思いついた時の顔だわ、アレ。


 タケルには悪いが、彼にはまだアデライードのあの悪人面は見せたくない。本人色々剥がれているが、それでも王子キャラを貫こうとしている以上は、見せなくてもいい部分は隠してやりたい。


「それが親心というものだろう、おいらの方が年下だけどッ」


 突然、雪江に肩を叩かれ涙を拭う仕草をされたタケルは、どうしていいのか判らず沢蟹に目で救いを求めたが、あっさり視線を外された。


「ジェームズ、相談がある」


 雪江の心中など知らないアデライードは、いい事を思いついたと言わんばかりに瞳を輝かせてジェームズに駆け寄っていく。


「うわー。アリ姉、今めっちゃ極悪な顔(いいえがお)してたぞ」


 言わなくていいことを沢蟹が報告した。タケルの瞳がアデライードを追いかける。


「痛ッ」


 雪江に無言で脛を蹴られ、アデライードを見るタケルの顔が引きつっていることに気づいた沢蟹は片目を瞑り、小腰を屈めて雪江に謝った。


 何やら楽しそうな二人を逆さに見ながら、ユミは身を捻るとバンシーが振り回す鎖を避ける。


 バンシーの移動速度は速い。

 だが、攻撃を仕掛ける時はバンシーもファーシーも一旦その場に静止する。空中に留まった状態でないと攻撃できないのだ。攻撃手段も手枷に繋がる鎖を振り回すか、即死効果のある泣き声を上げるかの二点しかない。どちらがくるのかはモーションで判る。

 泣き声の場合は、前方に扇形に当り判定があるため注意を払うが、それも慣れてくれば障害物のない空中では楽に避けることができ、特に問題はなかった。


 闇魔法はその冠から連想できるように闇色のエフェクトを纏う。闇系の追尾型魔法は動作が遅いため、視界の妨げになりやすい。

 雪江もジェームズもそれに気づいているのか無用の手出しはしてこなかった。


 ユミはリブに双剣を突き立てると、それを楔に天井に着地する。タイミングを計ったようにジェームズから補助魔法が掛けられた。斬っては避け、避けては斬るを繰り返しながら逃げ回り、時折ジェームズからの補助魔法を貰うため僅かの間、天井や壁に留まる。

 それらを繰り返しながらバンシーのHPを薄く削ってきたのだが、ガーゴイルのような違和感は感じない。ただ、少し動きが早い気がする程度だ。


「シーだけ普通って、あるのかしら? 」


 薄く下唇を噛み、考えを巡らすユミの正面に逆さまのバンシーが顔を出した。天地が逆になっているのはユミの方なのだが。

 思わぬ近距離にバンシーの顔を見てしまい、驚きに数度瞬く。


 啼泣(ていきゅう)するためバンシーの口が大きく開かれる。


「虫歯がないって素敵よ」


 全力でリブを蹴ることで同時に双剣を引き抜き、バンシーの前から姿を消す。泣き声が放たれるが既に彼女は移動した後で、誰もいない空間が空しく波紋の形に歪むだけだった。


「ユミさん、怖いよ」

「今のは確かに怖かった」


 様子を疑うために静止したわけではなく、今のはユミの不注意だったのだろう。危うい避け方にタケルは焦り、それに同意しながら沢蟹は矢を番え、ジリジリと狙いを定めるように鏃を動かす。


「でもなぁ、もっと怖いことさせる気でいる人がいるからなぁ」


 結局、矢を放つことなく彼は腕を下ろした。


「ユミ、バンシーを捕まえることは出来るか」


 アデライードとの相談が纏まったジェームズが、ユミに声を掛ける。


「捕まえてどうするの? 」

「私の前に、落として欲しい。欲を言うなら、そのまま暫く身動きが取れないように押さえつけていてくれると助かるかな」


 ガーゴイルと違い、バンシーには実体がない。見た目にはしっかりと姿かたちはあるが、あれは夜の帳を集め人型に固めたような存在だ。

 破魔の効果を持つ武器でしか攻撃は通らない煙のような存在を捕まえ、あまつさえ押さえつけろとまで言う。

 一体何を思いついたのかと、雪江は呆れ半分、興味半分の視線をアデライードに向けた。

 その視線に気づいた彼女は、優雅に口角を引き上げる。


「妖精は、魔法にかけられた(・・・・・・・・)存在。でしょ」


 それで判れと言われましても。溜息を一つ、吐ききったところで雪江は目を開いた。ましゅ麻呂たちの方を見る。相変わらず死人が出ているようだが、ファーシーの行動範囲は確実に狭められていた。


「いや、でもお嬢」


 あくまで仮説だ。この状態でもう少し待てば、ましゅ麻呂たちが処理をしにやってくるはずだ。机上の空論をわざわざ証明しようなんて、なんでこんな時に思いついたのか。


「なになに、何するの? 」


 何か怖いことを思いついたのは判っていたが、内容までは把握できてない沢蟹が会話に混じってくる。


「動かない標的に存分に<魔除けの矢>撃たしてあげたいけど、今はその弓しまって両手空けて」


 言われた沢蟹は素直に弓を背中に背負うと両手を空け、その手をひらひらと振ってみせた。


「何が始まるんです? 」


 バンシーが下りてくるとなると自分の仕事が出来る。やる気に顔を輝かせるタケルを見て、沢蟹まで人の悪い笑いを浮かべる。


「多分、自分の背中か顔を確認したくなるスプラッタホラー。たっくんの出番まで回ったら正直、俺らの負け」


 武器をしまえと言われ、雪江の反応とで沢蟹も予測はついたらしい。


「えっ」

「試すなら、今。みたいなのマジ迷惑だけど、アリ姉のこと結構好きなのよねぇ俺」


 沢蟹は愉しそうに左右に体を揺らしながら、ユミを見上げる。


「あの、俺は一体……」


 戸惑うタケルに雪江が不承不承で説明を始めた。


「今から、<戦闘禁止区域ディミリトライズゾーン>の真上にバンシーを落とす気なんだよ」

「そんな、出来るんですか」


 タケルの疑問はもっともで、雪江は仕方ないと言いたげな顔で首を横に振る。


「彼女が出来るっていうならね」

「寄せてみるけど、言われた位置に落とせるかは判らないわ」

「出来るんかい! 」

「出来るんすか! 」


 同時に雪江とタケルが天井に向かい突っ込んでいた。


「判った。調整はこちらでするよ」

「アンタも大概だな! 」


 何の問題ないとでもいうように了解を示したジェームズに雪江は驚き呆れるが、タケルに至っては言葉も出ない。沢蟹は、ましゅ麻呂たちに気付かれないように必死に笑いを押し殺し、アデライードも口に手を当て顔を伏せている。肩が小刻みに震えていることから笑っているのが判った。



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