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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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40/103

40 おいでませ、ブルクカペレ 4



 四方のガーゴイルが没し<戦闘禁止区域ディミリトライズゾーン>に縛られていた壷が震えだす。


 やがて吊り上げていた糸が切れたように床に落ちると壷は砕け、ポリゴンとなって消えた。代わりに細かな光の粒子がどこからともなく渦を巻いて集まってくる。

 それは淡く輝く薄い膜となって一つの形を作り出した。 


『 壷 没、シーが出る 』


 彼の声に、役割を持った人間がそれぞれベルトに付いたポーチやポケット、懐の中から4cmほどの大きさの小さな玉を取り出し、床に叩き付ける。


 膜が剥がれ落ち、中からガーゴイルと変わらぬ大きさの男と女が現れると彼らは建物を震わせるほどの絶叫をした。


「怖ッ」


 壷があった位置に現れた二体一対のモンスターエネミーを見て驚いたタケルが、答えを求め周りの人間の顔を見回す。彼だけではなく、彼と同じく初見と思われたカレンも驚いた顔で豆丸に抱きつきエネミーを見ている。


「女がバンシー、男がファーシー、どっちも嘆きの妖精だよ」


 説明をしながら、雪江はタケルたちに補助魔法を掛けていく。


「この薄い透明なテントみたいなのは、何なんです? 」


 学校の体育祭で校長先生たちが座ってるテントの形にシャボン玉の薄い膜のような物が張られ、中に閉じ込められている。自分たちだけではない、ユミやましゅ麻呂、アデライード、北の壁際に逃げたジェームズのところにも同じような膜が張られ、白く煙った波紋が勢いよくそれにぶつかって消えているのが見えた。

 テントの中にいるタケルが耳を澄ませば、微かにバンシーたちの声が聞こえる。その声と膜に当って消える波紋が同期していることから声が波紋を描きだしているのだと理解した。


「これは防音ユニット、ミュート君」

「は? 」

「ミュート君」


 聞き返すタケルにキリリと顔を作ったオミがサムズアップして答える。グランカスターではこの挨拶が流行っているのだろうか。突っ込むことも飽きてきたタケルを置き去りにコーヘイが話を続けた。


「雑貨屋に売ってるだろ、卓球の球みたいなアイテム。世界で一人取り残された気持ちになりたいアナタ向け便利グッズって奴」

「あー、売ってましたね」


 記憶を探る。雑貨屋にはツルハシや木こり斧など生産職用の道具から、化粧筆やポーチといった生活雑貨、ザブルーの餌など売っていた。その中に、ミュート君と書かれたアイテムもあり何に使うのか判らず困惑した思い出がある。


「アレがコレ」

「え? 」


 人差し指をテントの天井に向け、理解してくれと目力で訴えられると共に静かに頷かれた。


「やだー、ミュート君ってもっと違う使い方するんだと思ってたー」

「ねーっ」


 ふふ。と二人仲良く身を捩じらせるデットガールにやれやれと忠司が肩を落とす。


「ミュート君って言うのは文字通り消音、弱音器のことなんだ。何に使うんだろうって思われてたアイテムがまさかのバンシー対策グッズだったってわけ。バンシーのあの声はただの音だからね」

「音……」


 もう少し丁寧に説明しろとシーグリフォンがコーヘイの腕を肘で押しながら話してくれた。


「そう、あいつらは音で人を殺すんだよ。泣き声だけでね」

「ただの声だから、攻撃判定に含まれない。魔法の<攻撃停止>が効かない代わりにミュート君は有効って捩れてるよ、全く」


 魔法職としては仕事を一つ奪われたことが納得いかないのかヨウスケは渋い顔だ。


「初日、ミュート(コレ)君に気づいた猛者って誰だっけ」

「<ポーラスター>の誰かだろ、城の前で配ってたから」

「そうだっけ」


 シーたちが動き出さず、ただそこに浮いて泣き叫んでいるのをいいことに雑談タイムが始まっていた。


「あいつらは対象者が死ぬまで泣くことを止めない。つまり、俺らが全員死なない限りあの状態ってわけさ」

「え、そんな」


『 あーあー、聞こえますかー 』


 ならば、どう攻略するのか。忠司とシーグリフォンに聞きたかったタケルだが、聞くより先にましゅ麻呂たちの準備が整ったようで彼の声が聞こえてきた。


『 こいつらで、この層は終わり。城前でも言ったけど、シーはあの泣き声喰らうと即死するんで用心のため回避型以外は常に背中から狙うように。因みに、今は泣き声が反響しまくってるからミュート君の外に出るなよー。出たら死ぬからなー 』


 波紋が飛び交う外へ出ようとは思わなかったが、なかなか物騒な状態になっているらしい。タケルは身を震わせ、バンシーを観察した。


 どちらも灰色のローブのような襤褸布を身にまとい、腕をだらりと下げたまま、出現位置に立ち尽くし天に向かい絶叫している。

 こちら側を向いているのはファーシーでその顔は青白く一つ目だった。バンシーは反対側を見ているため顔は判らないが、緩くウェーブが掛かった髪は長く足元近くまである。


 どちらも豪奢なサークレットやトルクを身に着けているにも関わらず、ローブに隠された手や足からは飾りが切れたブレスレットやアンクレットとは言い難い千切れた金色の鎖が伸びていた。


 まるで殉葬された副葬品のようだとタケルは顔を顰める。


『 シーはガーゴイルと同じ飛行型、属性は神聖。一旦動き出すとガーゴイルより動きは早い。存在自体が魔法だから、破魔系の武器じゃないと通常は通らない。持ってない奴は魔法で補助貰え。魔法職は闇系使うか、近接の支援に尽力して欲しい。……んだけど 』


 常ならの説明だったのだろう、そこまで話してからましゅ麻呂は一旦言葉を切った。


『 スプリガンといい、さっきのガーゴイルといい。この前のメンテで色々追加してきているようなんだよな。ぶっちゃけ、シーもいつも通りで終われるとは思ってない 』


 誰しもが感じていたことなのだろう、いつの間にか無駄話をする声は消え、皆、静かに彼の言葉の続きを待つ。


『 ってことで、いのちだいじに 』

『 は!? 』

『 繰り返しまーす。いのちだいじにー 』


 アデライードの突っ込みを華麗にスルーし繰り返す。何か有り難い話でも聞けるのかと静まり返ったメンバーから一斉に溜息が漏れた。


『 バンシーはユミりんPTで対応、残りは全力でファーシー。バンシー初撃はアデル。んじゃ、よろしく 』


 随分大雑把な締めだったが、誰からも不平の声が上がらないことから彼の意図は伝わっているということだろうか。自分はバンシーへ行けばいいのかと不安げに離れた場所にいるユミやジェームズの方を伺っていると誰かが背中に触れた。


「これからお嬢がバンシーの泣き声止めるから。そしたら、ジェームズの方向へ走る」

「雪、さん」

「一体以上いる嘆きの妖精は、どちらかの声が止まると自分も泣くのをやめるから、外に出ても平気。あと、中にいる全員が外に出るとミュート君は消滅するから安置は無くなるからね」


 時間がないと判ってるのか早口で雪江が説明してくれる。


 バンシーのタゲはユミが取るだろうということ。その後はアデライードとジェームズの中間、その奥の部屋の角まで引っ張っていくだろうから自分たちも後を追うこと。

 バンシーは飛行型で、タケルのようなタイプは戦力にはならない。が、縦横無尽に飛び回るバンシーとプレイヤーが衝突する事故があるため、タケルは下でバンシーを狙う人間を守って欲しい。ということだった。


『 ジェームズ、カウント5から 』 


 アデライードの声に応え、ジェームズがカウントを取り始める。


『 <包囲せよ、氷の尖塔(バーティカルブランチ)> 』


 彼がゼロを数えると同時にバンシーの頭上にエネミーを取り囲むように氷の柱が現れ、それは等間隔に垂直に伸び床に突き刺さった。

 バンシーは自分が氷の檻に閉じ込められた事に気づかず絶叫し続ける。その叫びに僅かに表面に亀裂が走るも柱は砕けず、そこに在り続けた。やがて、波紋は歪みバンシーが泣くほどに彼女に向かって跳ね返り始める。負帰還による声の消失が起こりバンシーの声が消えた。


「走れ! 」


 雪江に背を叩かれ、タケルはジュームズがいるであろう場所に向かい走り出す。


 バンシーの声が消えたことで、ファーシーの声も途絶えた。


『 いーのーちーだーいーじーにーっ 』


 叫びながらましゅ麻呂がアデライードが作った氷の柱を駆け上り、上空からファーシーの後頭部目掛けて片手斧を投げた。

 だが、破魔の効果を持たないそれはファーシーを通過し床に落ちる。


『 ガンガンいこうぜ 』


 エイタがアーツを纏った矢を放つ。弓術士には<魔除けの矢>というアーツがある。見事にファーシーの肩にヒットし、ましゅ麻呂を追おうと向きを変えたファーシーがエイタに向かって突進した。


『 いろいろやろうぜ 』


 エイタを捕まえようと両手を広げるファーシーの顔面を横から投擲された槍が掠める。南側に走りこんでいたシーグリフォンが投げ入れたものだった。進路を阻害されたことでファーシーは後退しながら上昇する。そこを狙ったように、武器を持ち替えたましゅ麻呂が背後から切りつけた。


 彼のインベントリには常時持ち替えれるように複数武器が収められている。そのうちの一種、赤黒く鈍い光を放つ黒の双剣は魔法すら断ち切る効果を持った絶望装備に数えられる遺物だった。


『 めいれいさせろ 』

『 じゅもんつかうな 』


 面白がった面々が文言を続けていく。


『 うわ、つながったじゃん 』


 デミオが杖を掲げ、自分を中心に<戦闘禁止区域ディミリトライズゾーン>を発動した。嘆きの妖精は魔法にかけられた存在であり、魔法を消失させる効果のある<戦闘禁止区域>内には進入が出来ない。泣き声は貫通するため安置ではなかったが、障害物の役割は十分に果たせた。

 ましゅ麻呂は<戦闘禁止区域>内を通過し、再び宙へと駆け上っていく。ドームに阻まれたことで一旦静止したファーシーを逃すはずもなく、矢を番えたメンバーから一斉に<魔除けの矢>が放たれた。


『 お前ら真面目にやれッ 』


 ましゅ麻呂を追うファーシーを狙い<魔除けの矢>を射ちながらほっぴーが遊びを止めさせようとする。

 

『 マジメッス 』

『 すっごい真面目だよー 』

『 あ。悪い、即死そっちむいてる 』

『 オミ避けろー 』

『 俺が死んだじゃねーか! 』


 ほっぴーの叫びに笑いが起こる。



 <SUPERNOVA>の良心頑張れ。


 背後から聞こえてくる会話に心の中で祈りつつ、タケルは目の前で繰り広げられている空中戦から目が離せないでいた。


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