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◆ ジェフサ王国・ザフの村 ◆
「やってきました、ハンガイ平野! 」
じゃじゃーん!
コマンドでジングルを鳴らすモカがその場でクルクル回る。つられて走り出そうとしたユミをジェームズが背中のベルトを掴んで止めた。
「え~~では、今からクランプホーン狩りを始めたいと思いまーす」
主催者の男性が、村の入り口に集まる参加者の前に出て説明を始める。マヒガン装備と呼ばれる狼をモチーフにした装備を身に付けている弓術士だ。
この装備は武器1種、ケープとブーツの防具2部位の三点装備で、武器と防具1部位か防具2部位でセット効果が発生する。セット効果で上がるステータスはHP200とAGIとDEXが+15され、3部位揃えると効果がHP500、AGIとDEXが+20となり風の加護がつく。
この補正は【the stone of destiny】内では破格の方に位置づけられ、全てドロップ品な事や装備する条件からも弓術士では最終装備に近い。つまり3部位揃えている彼は、かなりやり込んでいるプレイヤーだと見て取れた。
「クエストはこの村のクエスト斡旋人から受注して下さい。難易度・高のクランプホーン討伐です。班分け連結パーティで望むので討伐数は共有となります。えーっと、何人だ」
説明を一旦区切り、参加者を数え始める。ザフの村限定クエストであるクランプホーン討伐は討伐数が225と多いため時間が掛かる。故に狩りを行う時は広範囲に声をかけ人数を集めるのが定石だった。
今回はクラン<TRUST>が主催し、その友人知人を集めていた。
「17人か、ユミとジェームズは二人で組んで4班な」
サクッと二人を除外したことにモカが挙手する。
「やだー! 私もユミりんと一緒のパーティ組みたいー」
「無力感を味わいたいならどうぞ」
「ハゲちゃんと一緒のパーティになりマース」
ころりと意見を変え、両手斧を背負った男性の元に行く。
モカの変わり身に、ユミやジェームズを知らないプレイヤーは怪訝そうな顔し、二人の狩り方を知っている面々からは笑い声が漏れた。
「では、他の参加者の皆さんは四人ずつに分かれてパーティリーダーになる僕アラベスクと、そこのちょっとおでこが広いフェルトン、その横のセクシーバげふぅ」
飛んできた円盤に顔面を直撃され、アラベスクは勢いよく後ろに吹き飛ぶ。円盤は露出度の高い、砂漠の踊り子のような格好をした女性魔術師の魔導武器だった。
「第3班は私、カタリナがリーダーを務めるわ」
彼女の動きにあわせ、ダイヤカットのスカートからシャランと涼やかな音が零れる。
「申請を飛ばすから、一緒のパーティになりたい人の前に来てね」
カタリナが右手を上げると、アラベスクの足元に転がっていた魔導具が瞬時に彼女の手の中に戻った。
カタリナはクラン<TRUST>のサブマスターを勤める魔法職で、称号は『運命を引く人』。ジェームズと同じ魔法職だが、彼が長杖に魔導書を装備する純系なのに対し、魔導具を扱う彼女は物理攻撃も行うハイブリットだった。
<TRUST>のクランマスター、アラベスクの称号は高速連射を得意とする『疾風掃射』だが、同じ弓を扱うモカは固定砲台と呼ばれる『豪気戦弓』である。
ステータスとスキルの組み合わせ、プレイスタイルなどで取得できるアーツが変わる【the stone of destiny】では、一見した装備で判断が出来ないため最後に条件を満たした称号がキャラクター情報のトップに表示され職業紹介の代わりをしていた。
「狩場はザフの村を中心に1班アラベスクは村の東、2班フェルトンは西、3班は南を受け持ちます。パーティワゴンは使わないので個人ドロップよ。インベントリが空いていない人はそこの銀行に預けて空けるか、ドロップ品は放棄ね。街で生産職に売れば、お小遣い程度にはなるから私は荷物をあけることをお勧めするわ」
速さに特化した装備を身につけているアラベスクが回避できずに命中するあたり、女性に年齢の話は禁句ということだろう。
このゲームにPvPは存在しないし、システムとして痛覚も抑えられている。が、痛いものは痛かったらしい。
立ち上がったアラベスクは僅かに涙目で額は赤くなっていた。
「ジェームズたちは北をお願い」
『青い半透明な板』と『緑の半透明な板』を表示させ、ハンガイ平野の地形からユミに説明していたジェームズはチラリとカタリナを見て頷く。
「中央はその時一番近い人が担当よ。クランプホーンは平野全体に出るから、走りながら見つけ次第狩った方が効率はいいわ」
ジェームズはユミに何かを指示しながら宙に浮いた『緑の半透明な板』の上を指で辿る。彼の指先を目で追いながら頷くユミは、自分を見るカタリナの視線に気づくと胸の前に両手で小さく丸を作り、微笑んで首を僅かに傾けた。ハートだったらどこぞのメイド従業員である。
「・・・・・・」
ユミを見るジェームズの片眉が跳ね、カタリナの口角が引きつる。
「やべっ」
モカは凍てつく波動が届く前に、ちょっとおでこの広い重戦士の背中に隠れた。
「今回、17人って事で225だから一人13匹ノルマで倒してくれ。勿論もっと刈ってくれてもいいぞ。クエストがその分早く終わるからな」
蛇に睨まれた蛙は無視し、アラベスクは話を続ける。
「それじゃあ皆、準備してきてくれ。揃った班から移動する」
号令に、それぞれ自分の準備をするため村の中に散っていった。