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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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39 おいでませ、ブルクカペレ 3


『 ガーゴイル、ギミック変更があったようだ。HPが半分ほど削れると特殊攻撃に変化がある 』


 全体を見ていたジェームズが確定事項として伝える。


「避ければいいってことだろ」


 連続して放たれる竜巻をステップで器用に避けながら、他者を巻き込まないように立ち回るましゅ麻呂がちらりと水のガーゴイルの方を見た。


「マメ、水ガゴ行ってやれ。アイツら凍結避けれねーから」

「判った」


 置き土産としてましゅ麻呂に<風の守護>をかけるとタケルたちの方に向かって駆け出す。


『 ユミりーん、元気ー? 』


 今度は随分高い位置まで上っている見た目少女に問いかけた。


『 元気よー 』


 暢気な返事が返ってくる。


 火のガーゴイルを相手取る彼女は綺麗に即死魔法を避けながら天井まで上り、円天井を作る交差リブヴォールトのリブの部分を蹴って直下した。

 <飛燕>は地上に降りることで再使用できる。そして、間接的でも地面と繋がる面に足をつければ再使用可能だった。この特性を生かすことで壁を走ったり、滞空時間を延ばすことが出来る。


「結構ぐだってるのに、なんであそこだけ普通なん? 」


 ましゅ麻呂の疑問に答えるようにほっぴーの嘆きが聞こえた。


『 ユミりんは元気だけど、俺らは死にそうだぞー 』


 極力決まった軌道になるようにユミは動いているが、ユミもガーゴイルも動きすぎるのだ。下でガーゴイルを狙っているメンバーに即死魔法が当らないように空中戦を余儀なくされているのは判るが、標的が動きすぎるため狙いが定まらない。

 動きを先読みし、アーツを置くことは出来るが本当にそこにやってくるかといえば絶対ではない。


 彼女の今現在の最優先事項は死なないことであり、下手に周りを意識すれば事故死に繋がる。


 無駄射ちが増えるだけで何の成果も得られないため、彼女が床を走る一瞬、その背中を追うガーゴイルに対し総攻撃をする作戦に切り替わっていた。

 弓を扱うもの全員がタイミングを合わせ、同じアーツを放つ。ステータスやスキルの差はあれど、この攻撃方法を取るとヘイトが平均化し分散する。そこにユミが衝撃波の一つでも当てれば、威力が高くなくても彼女に向けられるヘイトが急上昇した。


 システム上の落とし穴なのか、元からの仕様なのかは判らないが、この方法はやり方としてはハメ殺しに近い。とはいえ、全員が同じタイミングで同じアーツを放つというのは神経を使う。

 移動しない。もしくは動きを止めた状態でないと同時ヒットは難しい。

 成立条件が厳しいため、それ専門の固定PT以外では判っていてもあまり使われないやり方だった。


 最初は、通常通りの狩り方をしていた。それがガーゴイルのHPが三割削れた段階で、急にそれまで以上の高さに彼女は上ったのだ。


「なんだか、攻撃が早くなったの」


 彼女の言葉に下に取り残された人間はその差が判らず首を傾げたが、AGI135の見る世界では大問題なのだろうと納得した。


 現実問題、自分たちのマスターの事故死は衝撃的で、ユミの疑心は正解だったと思う。今、彼女が相手をしている火のガーゴイルは殴る蹴るの攻撃の後、必ず即死魔法を使っている。元から高頻度といえど、あそこまで乱発する姿は見たことがない。ガーゴイルのHPが半分を下回った時からそれが顕著になり、対応が遅れていたら屍が積みあがっていた。

 ユミは周りを気にしなくていい上空に戦いの場を移したことで、それらをすべて避け<衝撃波>や通常攻撃をあて逃げ回っている。その姿は空中サーカスさながらか、その域を超えていた。


「あそこまで息切れなしでやれるとか、半端ないな」


 沢蟹の言葉に周りから乾いた笑いが出る。支援するために合流したももかもユミに<風の守護>をかけ直す程度で仕事がないに等しい。


「ユミりんも最初に出会ったのがジェームズじゃなかったら、こんな事にはなってなかっただろうなぁ」

「元凶はあっちか」


 青息吐息といった具合の沢蟹だったが、ユミが降りてくる気配に弓を番える。


「俺らの神経、ゴリゴリ削りやがって」


 床に着地するとユミは動きを止めた。そこを狙いガーゴイルが飛来する。ユミの背中を狙ったガーゴイルの手が空を掻く。背中に圧を感じたユミは既に走り出しており、その場にはいなかった。


「<神 罰 執 行ディバインパニッシュメント>」


 ガーゴイルが体勢を崩した一瞬を逃さず、ほっぴー、沢蟹、エイタ、ユート。四人から同時にアーツが放たれる。


 <神 罰 執 行ディバインパニッシュメント>の軌道は独特だ。放たれた矢は着弾することなく途中で姿を消す。代わりに、天から光がスポットライトのように対象を照らすのだが、当たり判定は真下からだった。

 重なり合った四本の光の柱がガーゴイルを貫く。


 ガラガラと咆哮するガーゴイルのHPが残り二割を切り、そこへ額の石を狙ったようにユミが放った<衝撃波>が突き刺さり更にHPを削る。


 光の拘束から解かれたガーゴイルがユミを追って飛翔した。


『 火ガゴ、合わせられるか 』

『 ユミりん次第だ 』


 ジェームズの確認にユートが答える。見事な乱高下を繰り返しながら、必ず自分達に攻撃の隙を与えてくれているユミだが、同時討伐となると無理をしてでも下に下りてこなければならない。


『 大丈夫よ。多分死ぬから起こしてね 』


 ――嗚呼。この人は、こうでした。


 沢蟹を除く火ガゴチーム全員の脳裏に同じ文字が浮かんだ。





 アデライードの元に残りたかったカレンだが、万が一タゲが跳ねて死んだ場合、魔法職が集まっているタケルたちのところにいた方が都合がよいと言われ、押し出される形でタケルたちのグループに合流していた。そこに豆丸も合流し、凍結と解除がほぼ同時となって水のガーゴイルの討伐組も持ち直している。


 他のグループに比べ随分と大所帯になっているが、ガーゴイルのブレスが単体凍結から範囲凍結に変わった事と盾役が回避型でない事を踏まえれば致し方ない状態だった。


「あの人、ホントさらっと死ぬよな」

「昔、あらビックリ。で済まされたことあったぞ」

「ユミりんって、何飛び出してくるのか判らないのが初心者。の典型だろ」

「無駄に出来る(ジェームズ)男が隔離して育てた結果、逆に野に放てられなくなったっていうな」


 散々な言い草だが、思い当たることが多すぎてタケルも否定できない。安定したことで無駄口を叩く余裕の出来た近接と違い、魔法職は支援に忙しく、ただ話を聞いているだけだ。


「そろそろ残り一割かな」


 オミがガーゴイルから距離を取り残りのHPを確認する。そのままジェームズの方を見れば、彼もこちらのHP残量を確認していたのか目が合った。


『 お待たせしたな。水ガゴ、一割いった 』


 一応、報告とばかり声を上げる。ジェームズはオミに薄っすら笑顔を見せると視線を外した。


 土や風は一割を既に切っており、いつでも止めをさせる状態だった。火のガーゴイルだけが気になったが、弓職の息が恐ろしいほどピッタリと合っている。ポテンシャルの高さから、心配は要らないだろうとジェームズは判断した。


『 ガーゴイル、同時討伐の受付時間は30秒だが、変更されている可能性もある。出来れば10秒以内に片付けて貰いたい 』


「無茶言うねぇ」


 既に機序を見切った竜巻を難なく避けながら、ましゅ麻呂が企み顔で笑う。


『 まずは水から。宜しく頼む 』


 指名されたことにタケルの顔が引き締まる。


「次、コーヘイが凍結したら一気に畳む。魔法職も回復せず、攻撃してくれ」


 オミの声に忠司とシーグリフォンがガーゴイルから距離を取り、<溜め(チャージ)>に入った。

 タケルはコーヘイと逆の位置に回りこむ。何度か固められている内に、凍結ブレスの当たり判定が真後ろには無いという事に気がついた。

 ガーゴイルは翼を二度はためかせ、前のめりに咆哮するようにブレスを吐き出す。


 凍結は文字通り<主神の大楯(シュッツハイリガー)>ごと凍らされる。凍結が解けると効果が無効となるのだが、凍結した状態ではまだ効果が生きている。

 <無私の勇気(クラージュ)>と<主神の大楯(シュッツハイリガー)>は併用できない。先に使ったアーツを後に使ったアーツが書き換えるからだ。

 だが、<無私の勇気(クラージュ)>を使い、HP残存1にして<主神の大楯(シュッツハイリガー)>を使えばどうなるか。


 自爆行為はDDの専売特許ではない。


 コーヘイが凍結すると彼のHPが0になった。翼の間に位置取り凍結を免れたタケルが、ゼロ距離で<必中強打(シールドバッシュ)>を叩き込む。

 仰け反るようにガーゴイルの体が揺れ、ステータスが低下した事で状態異常(パラライズ)に持ち込めた。タケルの二倍近くあるガーゴイルの巨体が床に落ちる。

 バックステップで下がるタケルと入れ替わるようにオミたちが飛び込んだ。彼らを追随するように<光の矢>が降り注ぐ。


『 水  没 』


 ジェームズの声を聞き、土のガーゴイルで巨大な氷の雲丹が弾け、風のガーゴイルでガーゴイルのものではない絡み合った竜巻が巻き上がった。


『 土、風 没 』


 残りは火だけ。と、他のグループの意識が火のガーゴイルに向くと轟音が響き、一拍遅れ光の柱が立ち昇った。


「ですよねー」

「判っちゃいたけど」

「死ににいくとは」

「死なばもろとも……」

「下ろすより落とす」

「確かに早い! 」

「ユミさん……」


 脱力する面々の横で、雪江は黙々と魔法を綴りコーヘイを蘇生するため触媒紙を投げた。



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