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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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38 おいでませ、ブルクカペレ 2



「あの顔面詐欺、いつか後ろから刺されるぞ」


 風のガーゴイルの攻撃を捌きながら、土のガーゴイルを見ていたましゅ麻呂が呟く。


「お前が言うか」

「全くだ」

「マッシュだって、似たようなもんだろ」


 横からガーゴイルを殴りながら、他のメンバーが突っ込む。古参で固められたこのグループは、ましゅ麻呂が壁役を務めていることもあり、安定していた。


「俺はネタキャラだから、いーいーのッ」


 斧を下から上に振り抜きガーゴイルの顎を打ち上げると鼻を鳴らす。


「魔女と付き合い長いんだろ。俺らは楽しけりゃなんでもいーけど、なんで一緒のクランにならなかったんだよ」

「鈴木さん、マッシュにダイレクトアタック」

「漢だな」


 鈴木はユミたちが『時の城』に着た時に指遊びをしていたメンバーの一人だ。


「アデルは……」


 彼にしては珍しく言い淀む。


「アデルと馬場が、このゲームやってるって判った時は、もうお前らと一緒にノヴァやってたからな」


 ハハッと笑い飛ばすが、その表情はどこか暗い。


 一緒にいた五人が、今は別々の仲間と遊んでいる。よくある話だ。仲が悪かったわけではない。けれど、ある日ふとした切っ掛けで袂を分かつことはある。


 あの時、レッドマーシュは嗤っていた。嗤いながら、アデライードにKILLされた。


 たった一人を助けるために、彼女は自分のギルドのメンバーをKILLし、殺戮者という不名誉な罪科を受けた。それでも彼女は自分の正義を悔やむことはなかった。


 何がいけなかったのか、どこでボタンを掛け違えたのか。今更考えても始まらない。


 真面目すぎた男の成れの果ては、瓦礫の玉座に座る王様だった。


 あの日、ギルドは崩壊した。自分を(・・・)助けるために、アデライードとキサラギはその場にいたプレイヤーを皆殺しにしたのだ。


「おっ、義理堅いねぇ」

「マッシュってば、案外さびしんぼうだから魔女に干され過ぎて死ぬんじゃね? 」

「さびしんぼうとか言うな」


 笑い話にしてくれる仲間が有難い。


「あ、でもさ。今度【ユニオン】とか来るんだろ」

「ユニオン? 」

「何それ」


 ロビンの口から出た単語に一斉に反応する。


「いや、詳しくは判らないけど、街の噂屋(NPC)が「神殿街が騒がしい」って言ってたらしいんだよ。んで、聞いた人間が片っ端から神殿のNPCに話しかけてったら、一人ブツブツ言ってて応えてくれない神官が居たんだと。で、何言ってるんだろうって聞き耳立てたら「早急にユニオンを~」とかなんとか言ってたんだってよ」

「はぁ?? 」

「神殿街って事はクランに関係してるって事だよな。クランの管理管轄ってあそこだし」

「だから、多分。クラン同士で同盟組めるようになるんじゃないかって」


 大きく翼をはためかせ、ガーゴイルが舞い上がった。ましゅ麻呂の視界にノイズが走る。竜巻が投げ込まれる予兆だった。


「竜巻捨てるぞ」


 バックステップで下がり、ガーゴイルや他のメンバーから一気に距離を取る。

 地のガーゴイルが一時保留となったことで、分散した魔法職が駆けてくるのが見え、彼らが巻き込まれないよう更に横に移動したところでましゅ麻呂の足元から竜巻が生えた。


「コワッ」


 コンマの差で渦を巻く風の刃から逃れたましゅ麻呂に賞賛の声が上がりかけたその時、再びましゅ麻呂の足元から竜巻が生えた。


「え? 」

「マッシュ! 」

「おい!? 」


 錐揉みに巻き上げられた彼の体が宙に舞う。


「ど……」


 どうなっているんだと困惑するケンチの横顔をガーゴイルの左前足が捕らえ、殴り飛ばした。


「待て、非常事態発生」


 鈴木が石床に<震央(テンブロア)>を放ち、ガーゴイルが吐き出した麻痺霧をアーツで起こした風の振動で打ち消す。


「ちょ、マッシュとケンチ死んでるし」


 笑いを堪えながらデミオが詠唱を始める。デミオより遅れて駆けつけた豆丸は魔導具をロビン近くへと投げた。


「<地魔法・攻撃耐性(大地の守護)>」


 ロビンと鈴木に連続して<地魔法・攻撃耐性(大地の守護)>をかける。無いよりはマシ程度かもしれないが、デミオがましゅ麻呂たちの蘇生を完了するまではロビンたちに耐えてもらうしかない。

 魔導具が他の魔具より優れている点は、ステータスの縛りなく無詠唱で魔法(アーツ)を使え、且つ消費MPは他の魔具と同じであることだが、世の中そんなに旨い話は無く、威力は半分近くまで落ちる。

 扱い方は紐のないヨーヨーといった具合で手先で操り、魔法(アーツ)を放ちながら打撃するハイブリット型だが、咄嗟の支援では杖持ちより適していた。


「デミ、マメ、後ろ下がれ。俺らじゃタゲ固定できない」


 鈴木の声にましゅ麻呂を有効範囲に捉えながらも、ガーゴイルから距離を取っていく。


「連続竜巻とか、今まで無かっただろ? 」


 初めての挙動に幽体のましゅ麻呂が首を傾げる。


「<光魔法・蘇生(救いの手)>」


 詠唱が完了し、ましゅ麻呂が起き上がった。手元に魔導具を引き戻した豆丸が即座にHPを回復させるが、同時に彼女が掛けたわけではない魔法のエフェクトがましゅ麻呂を包む。

 ジェームズから<破壊魔法・肉体(閃迅)強化>と<神聖魔法・肉体強化(天空の加護)>が飛んできていた。


 水のガーゴイルと対峙しているタケルたちに保険として雪江をつけた分、ジェームズの全体管理はやり易くなっていたのかもしれない。

 それでも<戦闘禁止区域ディミリトライズゾーン>の維持と春Pの補助。一番の曲者となる火のガーゴイルは即死魔法を連発する為、ユミたちが崩れないよう神経を尖らせつつ、自分のMP管理もしなければならない。

 そんな状態の隙を突いて自分に補助魔法を投げてきたジェームズに素直に感心する。


「やるねぇ、色男」


 取り落とした斧を拾い上げると、鈴木を追って自分に背を向けるガーゴイルの翼を狙い<飛燕>で空を駆け上った。


「デミ、ケンチ起こせ。ジェームズは他で忙しい」

「k」


 ジェームズからの魔法にデミオも気づいたが、その事には触れず倒れたままのケンチの元へ急ぐ。

 豆丸も何も言わず、今の間にも減ってしまった鈴木とロビンのHPを回復している。


 蘇生魔法は他と違い確率の魔法だった。


 杖持ちが一番成功率が高く、次点で魔導書、魔導具は難しくなる。使うMPの多さも然る事ながら、杖持ちの賢者(ワイズマン)ですら成功率は九割と絶対ではない。魔導書は描く図形が精密で一筋でも線を間違えればそこで失敗しMPの無駄になる。

 聖賢(セージ)まで上り詰めれば、完全蘇生が出来るのだろうが消費するMPを考えたら余裕がある時でなければ無理だろう。特に彼は<両手持ち(三割増)>だ。


 蘇生は私に、回復は豆ちゃんにお任せってことねん。


 ガーゴイルがこちらを向かないようにヘイトを維持するましゅ麻呂を見ながら杖を掲げ詠唱を始める。


「疾く来たれよ、光の御柱に座する方。不幸の野原に倒れ、暗闇に飲まれし者に目を留められよ。其は常若に迎えるには早き者、成すことを成し、至るところへ至る者。その手に持ちし三百六十五の命の草、一茎を与え癒しとされよ」


 デミオの足元に魔法陣が光で描かれていく。


 ご期待に応えましょう。


 彼女の意気込みに呼応するように、掲げた杖を振り下ろすと光の魔法陣から命の草を抱いた乙女が浮かび上がった。


「わが望みを速やかに叶えよ。<光魔法・蘇生(救いの手)>」





「なんか向こうの方、騒がしくないですか? 」


 <主神の大楯(シュッツハイリガー)>を展開した状態でガーゴイルの攻撃を受け止めるが、それでも一撃でタケルのHPが半分近く持っていかれる。即座に雪江が触媒紙を投げ、削れた分が回復された。


「マッシュが事故死したみたいだねー」

「えっ、大丈夫なんですか」

「大丈夫じゃね。土ガゴから流れた魔法職走って行ったし」


 水のガーゴイルは凍結ブレスを吐き出すことが厄介だったが、難易度は他のガーゴイルに比べ高くはない。タケルとコーヘイの二枚楯のお陰で、どちらかが凍り付いても片方が直ぐにアーツでヘイトを稼ぎ、安定している。

 雪江としても管理がし易く、火力役も攻撃に専念できボーナスゲームの様相を呈していた。とはいえ、彼のMPも無限ではなく、息切れが始まるギリギリを綱渡っている。


 ブレスが高頻度になってる気がする。あと、たっくんとコーちゃんの差があんまし無いってことはガゴの火力上がってないか?


 どちらも条件は同じだ。<鋼鉄の肉体(レインフォース)>で身体能力を上げ、<主神の大楯(シュッツハイリガー)>を展開し、受ける物理ダメージを減少させている。雪江から守護系魔法も受け万全な状態のはずだ。

 火力役はベテラン揃いだ。それなのに、ガーゴイルのHPの減りが遅い。


 弱点属性や弱点武器は存在する。


 水ガーゴイル 単体ブレス、停止可能、剣と槍が弱点。

 火ガーゴイル 即死攻撃高頻度、槌と弓が弱点 即死攻撃は装備込みAGI125で回避可能 風の守護有効。

 風ガーゴイル 竜巻、麻痺霧。 斧、格闘が弱点。

 土ガーゴイル 近接武器の攻撃は受け付けない、魔法で削る。


 アデライードはスプリガンとの属性相性はいいが、土のガーゴイルとは最悪な方に近い。それが判っていての <犀利な星よ、墜ちて(オキシペタルム)貫け>だったはずだ。

 副効果である凍結が起こらないことは込みだっただろうが、想定していたダメージまで通らなかった事に彼女は反応していた。


「これってば、ヤバくね」


 スプリガンの悪夢再び。と軽口を叩こうとしたところで、コーヘイとタケルが同時に凍りつく。


「は? 」


 驚いたのは雪江だけではなく、凍りついた二人は言わずもがなだが、オミたちも動きが止まった。


「疾く来たれよ、裁きの秤を持つ者よ」


 ユミたちの元へ向かったはずのヨウスケの詠唱が聞こえ、我に返った雪江は<攻撃停止>を触媒紙に書き付けると放り投げる。ヘイトは凍結したタケルが持ったままであり、身動きが取れない彼に向かいガーゴイルの前足が振り下ろされた。

 接触する直前、有効判定が下り、弾かれるようにガーゴイルがタケルから離れる。見えない鎖に縛られたガーゴイルがガラガラと喉を鳴らし、首を巡らすと金眼に雪江を捉えた。


「雪、下がれ」


 鎖が砕け、雪江に標的を変えたガーゴイルが羽ばたき迫る。

 雪江の前にオミが飛び込み、大剣で攻撃を受け止めると横からシーグリフォンと忠司がガーゴイルの腹を狙い槍で突いた。ヘイトを持つ者が目まぐるしく変化し、ガーゴイルは狙いが定まらず三人の間を飛び回る。


「我が声を聞き、不浄を秤て光に変えよ。<光魔法・状態異(浄化)常解除>」


 先にコーヘイの凍結が解けた。


「あり」


 礼を言われたヨウスケは、タケルの凍結を解くため次の詠唱に入っている。返事の代わりに頷き返した彼を横目に捉えると、コーヘイは凍結したことで無効となったアーツを展開し直した。


「タゲ貰う」


 タケルから離れ、宣言したコーヘイの周りに淡く輝く花弁が舞う。ジェームズからの<精霊魔法・補助再(花冠の王)生>だった。効果時間内は最大HP値の一割が10秒毎に自動回復される。


「Mr. Perfectアイツ、怖すぎだろ」


 完璧な統御を見せる魔法使いにコーヘイは苦笑いを浮かべ、水のガーゴイルに向かい<威嚇>を使いヘイトを奪った。



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