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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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37 おいでませ、ブルクカペレ 1


「休憩タイム終了ーーっ、そろそろ行くぞー」


 ましゅ麻呂の声に、それぞれ寛いでいたメンバーは身支度をし彼の元へ集まっていく。


「今回は初見もいるから、一応説明をするぉ」


 笑顔で横ピースするましゅ麻呂の頭上に氷柱が数本召喚されると彼めがけて降り注いだ。


「ちょっと、串刺しになったら危ないじゃないッ」


 器用にそれを全てかわして犯人を睨みつける。


「当ったところで透過するんだからいいだろう」


 面倒くさそうな表情で胸の前で腕を組み、顎を逸らす。彼女はそれだけで絵になるのか、デミオたちの熱い視線を集めていた。


「最近、アタシの扱いゾンザイよ。釣った魚には餌をあげないタイプなのぉーオッホホッ」

「そのキャラは何だ」

「麻呂子デスっ」


 ダブルピースと共に星のエフェクトを出したましゅ麻呂を成敗しようと剣に手を掛けたアデライードを雪江と沢蟹が押し留める。


「っていうかぁ、指パッチンで氷り出すとか人外じみて怖いのォ」


 歯痛ポーズで白目を剥き「アデル、恐ろしい子」と煽るましゅ麻呂の側頭部をほっぴーが殴り飛ばした。


「春P」

「ウス」


 俵のように肩に担がれ強制退場させられる。


「イラチばっかやないけー」

「煽るな、話が進まん」


 訴えるましゅ麻呂をほっぴーが一蹴した。


「俺ちゃうわ、アデルが」

「春P」

「ウス」

「俺の話をぐももも」


 がっつり春Pに口を塞がれ、ましゅ麻呂は発言すら許されなくなった。


「ここから先は、ガーゴイルとシーの連戦だ。ガーゴイルは四体同時に倒さないといけない」


 粛々とほっぴーが攻略手順を説明していく。


 現在、集まっている小部屋は聖具室と言うらしい。この部屋と直結しているボス部屋は礼拝堂でハンマー・ビーム天井という造りらしく支柱がない、空っぽの空間だった。広さはかなりあり、聖具室の4倍ほどで正方形に近い長方形をしている。

 礼拝堂の中心には壷が浮かんでおり、それはジンというモンスターエネミーで壷型が第一形態、壷が破壊されると第二形態となる本体が現れる仕様だ。


 壷に攻撃がヒットするとジンを守るように四体のガーゴイルが現れる。

 ガーゴイルには属性があり、水、火、風、土。これらガーゴイルがジン本体と連動していて、四体同時に倒すことで戦わなくてもジンが破壊される仕組みだった。


「いいか、絶対壷に攻撃当てるなよ。壷はHP1だが本体のHPはカンストだ。本体出たら、高確率で全滅するからな」


 属性ごとに担当するメンバーが決められていく中、タケルは雪江と一緒に水のガーゴイルの担当となり、アデライードはヨウスケやデミオと土のガーゴイル。ユミは沢蟹と火のガーゴイルとなった。


「壷と管理はジェームズ。四方にガーゴイルが召喚されたら、盾役がタゲを取り、被らない場所まで引き離せ。纏まられると絶対勝てない。属性は額の石で判断しろ、赤は火、青は水、緑は風、茶金が土。間違えるな」


 組み分けは、


 水◇コーヘイ、タケル(楯・剣)・雪江(魔)・オミ(大剣)・忠司、シーグリフォン(槍)

 火◇ユミ(双剣)・ほっぴー(投擲)・沢蟹、エイタ、ユート(弓)

 風◇ましゅ麻呂(片手斧)・鈴木さん・ロビン(格闘)・ケンチ(両手斧)

 土◇アデライード(魔剣)ヨウスケ、デミオ、カレン、ももか、豆丸(魔)・春P(大楯)

 ジン◇ジェームズ(魔)


 本来なら物理攻撃を一切受け付けない土のガーゴイルに魔法職が一斉攻撃を仕掛けるのだが、水のガーゴイルに<攻撃停止>が有効のため雪江はタケルたちのグループにいた。理由が判らないタケルは、分けられた人数を見て首を傾げる。


「持ち替えてる人いますが、これって扱う武器で分けられているんですか? 」

「そだねぇ。弱点武器で分けてるのもあるけど、火と風の盾役は回避率だろうね。若も結構高いはずなんだけど」


 ユミたちと話をしていた沢蟹が戻ってくるのを見ながら雪江が答えた。


「AGI135とかと比べられても」


 途中から聞こえていたのか、沢蟹が両の手のひらを上に向け肩を竦める。


「ユミさんですか? 」


 少し前、ユミのステータス画面を見る機会があったが、装備補正後の数値がそんな数字だった。


「なるほどね。攻撃速度がかなり速いからAGI特化なんだろうと思ったけど、そこまでとは思わなかった」

「しかもだ。<TRUST>何出してくるかわかんねーなーって思いながら交換した名刺見たらさ、クラン入ってないのよ」

「は? 」

「無所属」


 雪江と沢蟹の視線がタケルに向けられる。対応に困り、視線を彷徨わせるが、ジェームズは春Pの肩から降りていたましゅ麻呂と何か話していてタケルの視線に気づかない。


「はい、そうです。一緒にはいますけど<TRUST>には入っていません」


 フレンド登録をしたということは別段、知られていけない情報があるわけではないということだろう。タケルは事実だけを告げた。


「……」

「厄介だろ」


 思うところがあるのか、タケルの答えに神妙な顔つきで二人は視線を合わせる。


「あの? 」


 以前のハトリもそうだったが、ユミやジェームズの存在をやたらと意識するのが気になり、訝しげに沢蟹と雪江を交互に見た。


「あ。ああ、ああ、悪ぃ。大丈夫、そーゆーのじゃない」

「てっきり<TRUST>に入ってるものだとばかり思ってたウチらが悪い」


 二人がユミたちを勧誘しようとか、害そうと考えてるとは思えなかったが、なんだか釈然としないことが多い。不安げな顔をしていたのか、沢蟹にサークレットがずれるほどに髪を掻き混ぜられた。


「たっくん<TRUST>で正解だわ、純粋培養いーわー」

「ちょ、あの。俺で遊ぶのはやめてくださいー」


 動機不明のじゃれあいを始めた二人の騒ぐ声に気がついたアデライードが冷めた目を向け、雪江と計ったように溜息を吐いた。


「お前らはしゃぐのもいいけど、そろそろ行くぞー」


 ほっぴーの声にタケルたち以外でも雑談で盛り上がっていた声が潜まる。


「カウントは60から。部屋に入ったら左手、中央に壷が見える。FAはジェームズ、ガーゴイルが出たら打ち合わせ通りに頼む」


 先ほどとは打って変わって真面目なましゅ麻呂に応えるように魔法職がBuffを掛けていく。

 雪江がサラリとペンを走らせ触媒紙を宙に投げたタイミングを見計らいタケルは彼に話しかけた。


「ガーゴイルってどんな感じなんです? 」

「見た目? 」

「いや、強さ的に」

「強さ的には翼の生えたヴェナトルって感じかな。飛べる分だけ厄介さが増すけど」

「へー……」


 雪江の説明に相槌を打ちながらまだ顕現していないモンスターエネミーを想像する。


「って、えええええ!? 」


 事の重大さを理解したのか、ぼんやり部屋の入り口を見ていたタケルの目が大きく開かれ、勢いよく首が回り隣の雪江を見た。


「たっくん頑張って耐えろよ」

「いやいやいや。かなりハードル高いっすよ!? 」

「何事も経験、経験」

「そうそう。雪が、ちゃんと死なないように回復してくれるから」

「任せろ」


 グッと親指を立て、歯を輝かせるような笑顔を見せる二人組に軽く絶望する。


「一度部屋の中に入れば、ここへは戻れない。忘れ物するなよ」


 ほっぴーの確認を最後にカウントを取るジェームズの声だけが響く。


「4、3、2、1」


 石床を打つ音が聞こえ、それを合図になだれ込むように礼拝堂へと侵入した。


 部屋の中央の壷に向かうジェームズは途中で足を止めるが、ガーゴイルの出現位置が判っているメンバーはそれぞれ左右に分かれ奥へと進み鶴翼のような形で壷を囲む。

 

『 <精霊魔法・範囲再生(芽吹きの雨)> 』


 所定の位置にメンバーが到着すると同時にジェームズの魔導書が輝いた。


 それが攻撃魔法でなくても判定が下れば、ガーゴイルは姿を現す。


 攻撃行動にシフトされる魔法では駄目だった。モンスターエネミーに対し支援魔法はターゲッティング出来ない。だが、設置型は別だ。エネミーに対し、効果はないが魔力が動いたことは感知される。


 壷は眠ったまま、ガーゴイルだけが呼び出された。


「よし、来い! 」


 ましゅ麻呂が真っ先に<衝撃波>を風のガーゴイルに当て、祭壇だったであろう場所がある南側へと引っ張る。ユミは火のガーゴイルの横を掠めるように飛び抜け、その際剣で片方の角を打ち落とし、ましゅ麻呂とは逆の南側の壁へと引っ張った。


「<必中強打(シールドバッシュ)>」


 水のガーゴイルの背後に回りこんだコーヘイがゼロ距離でスキルを使用し、範囲魔法(サークル)の外へガーゴイルを押し出す。それをタケルが更に<必中強打(シールドバッシュ)>で横へと弾いた。

 ガーゴイルの力は強く、楯を構えていてもまともに一撃を食らえばHPがデッドゾーンに突入すると教えられたタケルは、慎重に向き合いながら西の壁側に移動していく。


 土のガーゴイルはその特性としてHPが低いものを無差別に襲う習性がある。

 回転しながら姿を現した土のガーゴイルは、召喚された向きから真っ先に目に入ったジェームズへと翼をはためかせた。

 それを見越していた春Pがジェームズと土のガーゴイルの間に走りこみ、その前にアデライードが滑り込んだ。


「<命脈変換(コンバート)>」


 元から多くはないアデライードのHPが三割減退する。結果、その場にいた魔法職の誰よりもHPが低くなった。


 <命脈変換(コンバート)>は打撃によるMPの回復が見込めない、もしくは一気に畳み込む時に使われるアーツだ。

 HPを犠牲にMPを高速回復する。効果時間は60秒と長いがその間、減ったHPは最大値の減少扱いとなり回復は出来ない。効果が切れるまで攻撃を受けなければ使用前のHP残量で復活するが、一度でも攻撃を受けた場合はたとえ回復しても三割減退したままでの最大値開放となる。事故死の原因になりやすく、そのクセの強さから緊急手段とでしか使われない【魔法騎士(マギナイト)】専用のアーツだった。


 ジェームズを標的としていたガーゴイルの金眼がアデライードに向けられる。


「お前はこっちだ」


 自分に標的が移ったことを確信するとアデライードは東の壁に向かって駆け出した。

 純正の近接に比べ動きが遅い彼女をガーゴイルはガラガラと嗽のような声を上げて追いかける。ガーゴイルが殴りつけようと突進するたび、アデライードと行動を共にする春Pが楯で遮り守った。


『 各自、現在の位置でタゲを維持 』


 <戦闘禁止区域ディミリトライズゾーン>を展開し、壷を守るジェームズの声が響く。

 <戦闘禁止区域ディミリトライズゾーン>は位置指定型魔法で半径2mほどのドーム型に効果範囲を得る魔法(アーツ)だ。範囲内での戦闘行為は禁止され一切できず、また範囲外から範囲内への攻撃も無効化され一切通さない。

 MPの消費コストはそれなりだが、効果時間よりCTが僅かに短いため、効果が切れると同時に掛け直しが利く連続使用が可能な魔法(アーツ)だった。これにより壷は目覚めたが、その場に拘束され動くことが出来ない。


 ジェームズの視界にはプレイヤー各人に掛けられた様々な支援魔法効果が表示され、動き回る人間のそれを一瞬で見分けている。


『 ハルのHPは私が回復する。一斉に攻撃を。アデライード、タゲは保持できるか 』

『 どうかな。もうすぐ効果が切れる! CTは120、60秒隙が出来る 』


 アデライードの返事に僅かにジェームズの眉が動く。


『 土ガゴ、残りHPは? 』

『 もうすぐ半分だ 』


 <魔弾>を主に各魔法職が得意とする魔法(アーツ)の集中砲火を浴び順調に土のガーゴイルのHPは削れているが、春Pを挟みガーゴイルから逃げている状況では接戦で威力を発揮するアデライードの火力が半減していた。


『 あーっ、面倒!! 』


 剣を天に向けたアデライードが<永久凍土(パーマフロスト)>を展開する。


『 <犀利な星よ、墜ちて(オキシペタルム)貫け> 』


 無数の氷の矢がガーゴイルを押し潰すように降り注いだ。ガーゴイルのHPが面白いように削れていく。だが、残り二割というところでとまった。


「さすが王子」

「巧いところでとめるなぁ」


『 削りきれなかったぁ 』


 土のガーゴイルのHPが残り一割となった状態で次の行動に移るため、それに近い数値まで削ったアデライードは褒められるべきなのだが、本人は納得がいかなかった様だ。

 その間にも次々と魔法(アーツ)が着弾し、土のガーゴイルのHPが一割を切った。


『 土ガゴ、残り一割 』


 ガーゴイルのHPの変動を見ていたジェームズが他のガーゴイルと対峙していたメンバーに伝える。


『 <命脈変換(コンバート)>効果切れた。タゲ動くよ 』


 アデライードのHPが元に戻り、彼女を狙っていたガーゴイルが向きを変えた。


「えっ、私!?」


 土のガーゴイルのHPを一定まで削った後は水のガーゴイルへと攻撃対象が移る。コーヘイたちの元へ走ろうとしたカレンの前に旋回した土のガーゴイルが回り込んだ。


「フンッ! 」


 カレンに繰り出されたガーゴイルの前足を横から春Pが<必中強打(シールドバッシュ)>で弾く。アデライードは立ち竦むカレンの腕を掴んで引き寄せると彼女を背に庇い、剣を構えガーゴイルと対峙した。


「このまま1分待って」

「ああああ、はいっ」


 ガーゴイルの標的となったことよりもアデライードに庇われていることの方が彼女を混乱させたらしく、魔導書を抱きしめ舞い上がっている。


「出来れば、<大地の守護>を貰えると嬉しいんだけど? 」


 ガーゴイルの動きを目で追いながら首を後ろに下げ、アデライードは一瞬だけ後ろを見て笑う。


「ハイッ、ヨロコンデ! 」


 垣間見えた稚気な笑顔にカレンは飛び上がる勢いで魔導書を開くと触媒紙にペンを走らせた。




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