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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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36/103

36 中休み



 心臓に悪い場面はあったものの、無事スプリガンを時空の彼方に吹き飛ばし4層クリアとなった一行は5層へ来ていた。


 スプリガンの初期待機位置の石床には浅く掘り込まれた魔法陣があり、倒すことで光を帯び可動を示す。パーティメンバー全員が円の中に入ると5層へと転送される仕組みだ。

 ここからは一方通行となり、出るには完全攻略をするか全員が死亡しZAPするしか方法がなくなる。とはいえ、運営も鬼ではなくここから始まるボスラッシュを鑑みて転送される部屋は安置であり、ここで一旦引き返す事が出来るよう部屋の隅にモニュメントが置いてあった。

 モニュメントに触れると小さなコインが手に入り、ここでリタイアしたとしても次に挑む時、この位置からスタートできる。


 10m四方の小部屋は高校の教室より少し大きいくらいだろうか。それぞれが好きなようにインターバルを楽しんでいる。


「なんで一瞬で連携が取れたか? 」


 床に円陣を組んで座り込んでいたメンバーに、タケルは先ほどのスプリガン戦の復習を願い出ていた。

 場にいたのは、DDであるほっぴーとタケルと同じ楯と片手剣を扱うコーヘイ。杖を扱う魔法職のヨウスケとデミオにタケルを加えた五人だ。


「今回はマッシュが手抜きしようとして魔女に一任したから、始まりが始まりだったからな」


 タケルが疑問に思うのも無理はないと聞かれたほっぴーが一人頷く。


「あれ、通常種だったら一瞬で決着していたよな」

「やっぱ【魔法騎士(マギナイト)】は憧れるよ。やりたくねーけど」


 コーヘイとヨウスケは顔を見合わせると溜息を吐いた。


「王子カッコいいよね。マッシュに抱っこされた王子なんて眼福(レア)すぎて死んだ」


 デミオは思い出し笑いをしながら涎を拭うフリをする。


「お前は黙ってろ。連携って二次形態になるならないの時からのだろ? 」


 逸れていきそうになる話をほっぴーが引き戻した。


「あれは、ぶっちゃけみんなパニックだったと思うぞ。いきなり真っ暗になるわ、体中痛いわ、なんか噛まれてるし」

「私、モロにスプリガンの肉片浴びちゃったみたいなのよね。状態異常になったって判ったから解除しようとしたら、あのうじゃうじゃしたのに(たか)られたみたいで、死んだーって思った」


 あの暗闇の中でのことを思い出したのか、ニヤついた笑顔が一転、デミオは渋い顔をする。


「しぶとく生きてたけどな」

「てへっ」

「明るくなって初めてどうなってるか判ったけど、正直あの状態から盛り返せるとは思わなかったよ」

「詠唱しようとすれば芋虫が寄ってくるし、状態異常で少ないHPはどんどん減っていくし」


 舌を出すデミオを冷めた目で見るコーヘイが感想を言い。二度とごめんだとヨウスケは首を横に振った。


「あの時、全員混乱していたけど、それが表面に出なかったのがマッシュとユミ。魔女と雪江か。ジェームズは外にいたからな」

「ユミさんも? 」


 アデライードと雪江は対応が早く、ましゅ麻呂は指示を出していたから判る。だが、そこにユミの名前が混ざるのが不思議だった。


「ユミりんは早かったよな。気がついたら<飛燕>で空に逃げてるんだもん」

「マッシュもだろ。あんな都合よくマッシュの周りだけ普通の床とかないわ。明るくなって下に降りたんだろ」


 四人の会話を聞きながら、思い返す。確かに、ユミは常に空から降りてきた。


「双剣はリーチが短い。ユミはAGI型だから、ダメージ床なんて普通に走ったらすぐに死ぬ」

「だから、ポイントポイントで降りて芋虫潰して回ってたんだ」


 瀕死だったデミオが、ユミの動きを把握していたことに驚く。

 自分を見るタケルの視線に気づいたデミオは軽く微笑んで肩を竦めると、円陣の真ん中に置かれた焼き菓子が入った籠からクッキーを一枚摘み口に運んだ。


「届かない場所は<衝撃波>で散らしてたよ」


 マドレーヌを手にしたヨウスケがさりげなく報告する。混乱していたといいながら、他者の動きをしっかり見ていた面々にタケルは仰望するような瞳を向けた。


「そういやアデライード、状態異常になってなかったよな? 」


 ディップの掛かったドーナツに手を伸ばしたコーヘイが、ふと手を止め周りを見る。


「お嬢は、リジェネかかってるからね」


 突然聞こえてきた声に驚く間も無く、タケルの横から雪江が顔を出すとそのままそこに座り込み、焼き菓子に手を伸ばした。


「アリ姉が着てるジャケットについてるキャストチャームが、状態異常を自動回復すんのよ」


 雪江とは逆の隣に沢蟹が腰を下ろす。彼は既にドラゴンステーキを挟んだバーガーを手にしていた。

 二人に挟まれタケルは慌てるが、他のメンバーは気にした風もなく受け入れている。グランカスターを拠点とする者同士、普段から交流はあるのだろう。

 コーヘイはインベントリと直結しているマルチポーチから珈琲を取り出すと二人に手渡した。


「魔女のジャケットって元は虹蛇のマントだろ? 」

「そそ。元々HP自動回復ついてる上に、リビルドして状態異常回復もつけちゃった」

「何そのチート」

「死なないためでしょ。あの人ソロ狩り多いし」


 沢蟹たちが混じったことで装備談義が始まり、タケルは当初聞きたかったことから離れてしまった話題に残念な気持ちになりながらも話に耳を傾ける。オリジナルで使うかリビルドするか、装備によって異なる条件の組み合わせなど有益な情報が含まれる彼らの会話も興味深いことは確かだ。


「そういや、なに話していたん? 」


 黙り込んだタケルを気にして沢蟹がほっぴーたちに聞いた。


「あ、そうそう連携な」


 思い出したほっぴーが、申し訳なさそうにタケルを見る。


「連携? 」

「サワの<攻撃連鎖(アタックチェイン)>からの流れ。なんで何の相談もなく出来たのか気になったんだってよ」

「ああ」


 納得したのか沢蟹は『廃人ワールドへようこそ』とでも言いたげな温い視線をタケルに向けた。


「毒床ってさ、雷で消せるのよ。あの時、毒の霧と毒床のコンボで状態異常解除が出来ない状態だったでしょ」

「毒性のダメージ床って滅多に出会うこともないし、出会ってもあそこまで広範囲ってのは中々ないから皆ダメージ 織り込み済みで突っ込んじまって忘れがちなんだけどな」


 デミオの説明をほっぴーが補足する。


「ジェームズが毒床の特性覚えていたから助かった」

「Mr. Perfectだしな」


 軽く笑いが起こり、自然と集まった人間の視線がジェームズに向かった。彼はいつもと変わらず、身振り手振りを交え話すユミの話を微笑みながら聞いている。


「最優先は状態異常を撒き散らしてる霧と霧を発生させてる床や天井の染みを何とかすること。で、雷系の魔法ぶっぱが最適ってなったわけ」


 事も無げに説明されるが、あの一瞬で意思統一されることが恐ろしい。


「<攻撃連鎖(アタックチェイン)>は本来ならアーツを繋げてダメージを倍化させるアクティブアーツなんだけどさ、あれって相互不干渉のアーツを干渉出来るように強制変更するのよ。強力な分だけ、受付時間は短いんだけどな」


 沢蟹が弓を引く真似をして、対面に座るヨウスケを射った。


「で、お嬢の出番。お嬢のアーツは凍らせる事に特化してるからね。若が撒き散らした矢を凍らせて」

「それを、俺やマッシュたちが壊して回った」


 雪江から話を引き取り、ほっぴーが続ける。


「さぁ、ここからが高校化学と物理の時間だ」


 キリリと顔を整えた沢蟹に対し、現役らしいデミオとコーヘイが青ざめた。


「頭痛くなるからやめて! 」

「ミラクルパワーでいいじゃん」


 ぴったり息の合った二人にタケルの頬が緩む。


「んじゃ簡単に。ようは雷電流が広がりやすい磁場を作ったのよ。そこに雪が雷落としたら後は勝手にバリバリして染みは消える。ついでに芋虫も丸焼きになる。一石二鳥ってわけ」

「ああ」


 言われれば確かにと納得は出来るが、その後のスプリガンの突進についてはどうして予測が出来たのだろう。新たな疑問が湧いてくる。


「その顔。なぜ俺は死んだんだ、解せぬ。って顔してる」

「えっ、いや。まぁ……はい」


 否定すべきか迷うが、自分が顔に出やすいタイプだと承知しているタケルは素直に首肯した。


「落雷からの起爆を見て、ジェームズが部屋の中に入ったんだよ」

「錯乱したスプリガンはジェームズに突進するからな」

「向かう方向さえ固定できれば、そこに地雷埋めちゃお。ってなるでしょ」


 理解しきれず、首を傾ける。


「<主神の大楯(シュッツハイリガー)>の副効果に使用者が死亡した場合、リトリビューションが発動するってあるっしょ。あの説明じゃ判りにくいんだけど、リトリビューションって対象の基礎ステータスを5%低下させるのよ」

「だから、たっくんたちがバンバン跳ね飛ばされた分だけ、スプリガンのステータスが低下していったってワケ」

殿(しんがり)の春Pが耐えれたのは、他の盾役が死んでくれたからだな」

「……なんか、すごいギリギリな話のような」

「そりゃ、ギリギリだよ」


 カラカラとほっぴーが笑う。


「一か八かの大博打で超余裕とかありえないし」

「たけぽん、ユミりんたちと一緒に居過ぎて感覚おかしくなってるんだよ」

「たけぽん……」


 段々、不思議な渾名が増えていく。眉間に皺が寄ったのだろう、デミオが親指でその皺を伸ばしてきた。


「ぐいぐきますね」

「ふふー」


 されるがままのタケルに満足したのか、彼の頭をひと撫でするとデミオは手を引っ込めた。


「あれは外にいたジェームズありきで考えてたからな。残ってる護石さえ壊しちまえば、あとはアイツがなんとかするだろうってマッシュお得意の丸投げだ」

「だからマッシュたちもお構いなしで死んでっただろ? 」

「ジェームズが失敗しても、お嬢がいたしね」

「Mr. Perfectが失敗するとかあんの? 」

「そりゃするだろ、人間だもの」

「まさお? 」

「みつを」

「oh……」


 横座りに膝を崩して座るデミオが、驚愕する貴婦人のポーズを見せるとコーヘイは彼女の脛を狙い剣の鞘を繰り出した。


「ごめんごめん、やめて」


 ひたすら脛を狙うコーヘイと床を転がりながら逃げるデミオ。誰も止めない所を見るといつもの光景らしい。


「結局は、自分の持ってる手札で一番有効なものを出せるかどうかだよ」

「んで、連携は仲間が切るであろう手札にあわせて、自分の手札を切る」

「ミスっても誰かがリカバリしてくれる。慌てず騒がず落ち着いて、ってやつだ」

「つまり、よく観察し、あらゆる状況に対応できる人間が最終的に強い」

「観、察……」


 意外な言葉に戸惑う。「でも」や「だって」と続けたいが、空気が温いのだ。あっさりとしていて優しい。横の沢蟹がニヤついているのが気になるが、厭味な笑いではない。


「Lv制だろうがスキル制だろうが関係なく。観察して引き出しを増やし、適宜、状況に対応できる人間が一番強い」

「ユミりんなんて、一日二時間。ゲーム内だと六時間か……しかゲームしないけど、すっごい強いだろ」


 言われ、はたと気づく。確かに彼女はほぼ毎日ログインしているようだったが、常にゲームに入り浸っているというわけではなかった。


「どんな高火力だってPSがなきゃ死ぬ。じゃーPSって何ってなる」

「PSってのはセオリーに基づいて瞬時に判断できる観察眼だよ」

「俺たちだって、対応ミスれば普通に死ぬ」

「銀箱落としたことないヤツなんて、引きこもりの生産職だけだろ」

「確かに」

「難しいことなんて考えずにさ、やれることだけやってればいいのよ」


 じゃれ付き終わったのか、這うようにしてデミオが戻ってきた。同じように戻ってきたコーヘイも元居た位置に座り直すが肩で息をしている。かなりの熱戦が繰り広げられたらしい。


「『死に覚え』ってのもあるし」

「たっくん<TRUST>なんだからさ、アラベスクが「敵の動きをよく見ろ」って毎回言ってね? 」

「あっ」


 タケルの中で繋がっていく。アラベスクだけではない、ユミもジェームズも何が起こればどうなるか、どうするか。を常にタケルに言っていた。


「判った上で対処が遅れるようなら、武器変えればいい」

「色々やってみて、自分にあったの見つけて、それ伸ばしていけばいいの。スキル制のいいところってそこじゃん? 」

「特化にしてもいいし、散らしてもいい」

「スキル散らした結果、特化になった【魔法騎士(マギナイト)】とか意味判んないのが最高火力の一翼なんだぜ」

「ここの開発、プレイヤーを試してくるよねー」

「思ったんだけどさ……」


 ジェームズとアデライードが戦ったらどっちが強いかと話が逸れていく。


 タケルが自分で考え、納得できる時間をくれているのだと感じた。


「ゲームなんだからさ、どんな遊び方をしても自由」

「VRMMOなんてエクストリームスポーツだから」


 両横から言われ、肩と背中を叩かれる。


「ガッチガチに固まる必要性なんてないよ」

「楽しんでいこうぜ」


 早く強くなりたいと思う。もっとずっと自分は出来るのだと。カッコいいとか凄いとか、そんな風に思われたい。

 モチベーションとして、その動機は間違いではないし、正解の一つでもある。


 でも、多分。それを解としたなら、きっと長くは続かない。成果を得られなくなった段階で、腹を立て理由を探し何かのせいにしてやめてしまうだろう。


 妙な話だが、自分がどう思い感じるかに帰結するのだ。


 結果として、強くなってました。の類たる人たちが目の前にいる。彼らは何度失敗しても、腹を立てたり原因を探して責めたりしないだろう。

 その時間が無駄だと、気持ちを切り替え次へと挑んでいく人たちだ。


「なんつーか、ゲームの癖に奥深いっすね」


 タケルの呟きに珈琲を飲もうとしていた沢蟹が咽た。


「真面目か? 」






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