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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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32/103

32 氷結の魔女 1




「ジェームズに仕事させるなー」

「近接だって、やれば出来る子! 」

「上位魔法が使えなくたって強いところ見せてやれー」


 2層で見せた混乱が嘘のように<SUPERNOVA>の足並みは揃い、湧き出るエネミーをなぎ倒して進む。


「一回波に乗ると強いんだよなぁ」


 討ち漏らされたエネミーを弓から持ち替えた槍で払いながら沢蟹が呟く。


 オーガとオーグリス。

 どちらも鋭い爪と硬い皮膚を持ち、裂けた口からは牙が覗く。頭は大きく、腹回りも太い。その見た目とは異なり、動きは俊敏で突進を得意とする。両手を振り回し鋭利な爪で引き裂く攻撃を主とし、武器を持つ個体も時折紛れ込む。


 知性は低く最初に目に入ったものに襲い掛かる性質を持ち、猪突猛進そのままの戦い方をする。弱点部位といえる箇所は特にないが、頭部攻撃(ヘッドショット)はダメージボーナスが有効となるため爪を捌くことが出来るプレイヤーが盾役を務め、他の人間が背後から頭部を狙って攻撃するのが一般的な対処法だ。


 他は脚の腱を狙い行動不能にするか、凍結魔法などで自由を奪う事も有効とされている。肌が赤い個体はHPが一定以下になると三箇所に火柱を吹き上げる火魔法を使うため注意が必要だが、火柱が立つ前に地面にエフェクトが表示されるので回避は容易であった。


「あいつらウルサイからそっちばっか目立つけど、実力はあるんだよなぁ」


 3層は既に通過し、4層もスプリガンが待つ部屋の近くまで来ている。

 沢蟹の横で楯を構え片手剣を振るうタケルも<SUPERNOVA>の無駄のない連携に頷くしかなかった。


「お、もうすぐ出口だわ」


 前方に目印となる黄金の葡萄を掲げる乙女の石像が目に入る。


「なんか、殆ど仕事せずにきちゃったんですけど」

「あー? たっくん初見っしょ。初見は道覚えるのが最優先だから仕事は二の次でいいんでね? 」

「そう、ですね」


 ユミやジェームズも同じ事を言っていたと思い出す。

 ここで自分たち(初見)がお荷物だと考えるのは、きっと間違っているんだろうな。と後ろ向きになりそうな思考を正す。今回の自分の仕事は戦力になることより、道順を覚えることなのだ。火力貢献は次回からでいい。


「はい、ここで復習です。本物の石像とオーガたちの擬態の見分け方は? 」


 不承不承に頷いているように見えたのだろうか、沢蟹がタケルに質問した。


「金の細工がどこかにある石像は本物」

「正解。じゃ、石像のある分岐はどっちに曲がるのが正解? 」

「葡萄を持ってる手の方向。出口に近くなると房の金の実が増えていく」

「正解。あとは慣れだから」

「はい」

「うんじゃ、俺の名刺送るから承認して」

「え? 」

「今度暇な時、一緒に遊ぼうぜ」

「は、はい。是非」


 高火力のプレイヤーと繋がりを持てるのはタケル自身渡りに船ではあるが、順風満帆すぎるゲームライフに些かの不安を覚える。

 ユミたちと関わるようになってから、随分派手な人たちと知り合いになるようになったとタケルは思った。


「いやぁ<SUPERNOVA>に<Schwarzwald>とか、たっくんのフレンド欄がどんどん廃人仕様になってくねぇ。ハッハ、フー」

「ハッハ、フーって」


 煽るような独特の笑い方に引きつった笑いを返す。だが実際、タケルのフレンド欄には<SUPERNOVA(ましゅ麻呂)>や<|Schwarzwaldさわがに>だけではなく、<栄光の国(ハトリ)>までいるのだ。

 <TRUST>のマスターであるアラベスクは人脈は大切にしろとよく言っているが、この傾向で増えていくのは果たして正解なのかと些か心配になる。

 どうしたものかと泳がせた視線の先で、前を走っていたましゅ麻呂たちが止まるのが見えた。


「霊廟の守護(スプリガン)者ついたぞー。はい、集合~~」


 通路の行き止まり、扉の間と呼ばれる部屋の入り口は道中に見た他のどの部屋より大きく、自分たちが小人になったような感覚に襲われる。


「嫌な予感しかしない大きさっすね」

「そりゃ巨人が住んでた城だから」


 感情がダイレクトに表情に出たのか、今度は普通に笑われた。



 そんな二人のやり取りを見ていたアデライードが、微笑ましいものをみた後の緩みのような、それでいて、どこか困ったものを目にしてしまったような複雑な表情を見せる。


「アデル」


 名を呼ばれたアデライードは、スプリガンが待ち構える部屋を覗くましゅ麻呂に近寄った。


「悪い、残念なお知らせがある」


 さっきまでの陽気さが消えた声色に、怪訝な顔をしたアデライードは言葉の意味を確かめるため彼の横から部屋を覗き込んだ。

 通路と違い、部屋の中は薄暗く奥へ進むほどその闇は深くなる。部屋の中央で仁王立ちするスプリガンが見えた。

 スプリガンは巨人の残留思念が具現化したという生い立ちのため、視力がない代わりに熱と魔力に反応する。部屋の中に入らなければ索敵外とされ、どれだけ観察しようともエネミーが襲い掛かってくることはない。


特殊個体(ネームド)か」


 スプリガンは、モンスターエネミーらしく両腕は床に届くほど長く、直立二足歩行をするナマケモノの顔をした毛のないゴリラといった見た目をしていた。他にも色々混じっているのだろうが、目立つモチーフはその二つだ。

 逞しい肉体を覆う皮膚は老人のように垂れ下がり、皺を模したひび割れから淡い光を発している。通常固体なら青白い光が、今回は暗く沈んだ紫色で薄闇の中、その異形の姿を浮き上がらせていた。


「右肩三つ、左は二つ。護石が余分についてるな」


 目を眇め、ましゅ麻呂は遠目に護石の数を確認する。


 通常種は腹部と額にだけ護石と呼ばれる宝石が嵌っている。ケイオスグランジの牙と同じで、護石は魔法抵抗や物理ダメージ軽減などの役割を持つ。だが、目の前のスプリガンは歪に膨らんだ両肩にも護石が埋もれているのが見えた。


「紫ってことは、破滅種か。毒さえ気をつければ問題ないね」

「護石は無視(スルー)なの? スルーするぅするーなの? 」

「別に」


 重要視するポイントの違いに唇を尖らせるましゅ麻呂をアデライードは一蹴する。


「額はすぐに叩き割るからいい。これだけ人数がいるんだから、凍らせてる間に腹の護石は魔法職に砕いて貰って」

「すぐに叩き割るとか、男前発言過ぎて惚れそう」

「……」

「はい。ごめんなさい」


 自分を見てすら貰えず、小さく聞こえた舌打ちにましゅ麻呂は素直に謝ると彼らの判断待ちのメンバーへと向き直った。


「中のスプリガンは破滅種。通常より一撃重いし、状態異常も確率で付与してくるから気をつけろ。魔法職は裏方仕事が増えるが頼む」


 破滅種に反応しざわつくが、マイナス印象というより早く挑みたいといったプラスの反応だった。


「護石は頭1、腹1、肩、右3、左2。頭はアデライードが割る。魔法職は腹を優先で。近接は飛べない自分は雑魚だと思うなよ、しっかりアノなげー腕から魔法職守れ」


 事前の確認事項にそれぞれが頷く。


「ジェームズは悪いが、護石が全部割れるまで下がっててくれ」

「判っている」


 スプリガンの特殊行動の中に魔力保有量感知がある。小鬼がHPが低い者を狙う習性を持つのと同じで、スプリガンは魔力保有量が多い人間に反応し、その魔力量が一定を超えていた場合、錯乱状態に陥る。

 魔法職は索敵圏外である通路でBuffをかけ直すなどMPをわざと消費させ、突出しないよう調整するのだがジェームズのようなタイプは元の保有量が多すぎるためそれが出来ない。

 護石すべてを破壊すると錯乱しなくなるため、彼の参戦はその後となった。


「今から2分後に突入、ジェームズがカウントを取るから、今のうちにBuffのかけ直しや武器の持ち替えをすませてくれ」


 準備万端とばかりに武器を手にしたメンバーが入り口に居並ぶ。


「動画見てる連中は知ってると思うけど、アデルが凍らしたら突入な」

「k」

「カウント30」


 ジェームズの声に無駄話をしていた人間は口を噤み、魔法職が次々に支援魔法を重ねがけする声だけが響く。


「10、9、8、7……」


 既に幾つかのアーツを展開しているのだろう、ゆっくりと吸い込んだ息を吐き出すアデライードの吐息が白く色付いている。


「3、2」


 ジェームズの杖が床を打つ。


「アデル! 」


 ましゅ麻呂が彼女の名を呼ぶより早く、アデライードは行動に出ていた。スプリガンの前に躍り出る。


「<永久凍土(パーマフロスト)>」


 剣の柄に手をかけた彼女の周りに、大小さまざまな大きさの氷の塊が魔法発動エフェクトを展開しながら浮かんだ。


「<氷楔(アイスエッジ)>」


 一閃。


 抜き振るわれた剣の軌道そのままに、突如隆起するようにアデライードの傍らに現れた氷山が柔らかな氷の槍となってスプリガンに向かい、その右肩を貫いた。

 右肩に埋まった三つの護石のうち一つが砕かれる。氷が刺さった場所から凍結が上半身に広がり、スプリガンの動きを封じた。

 下腹部にある腹の護石は凍結を免れ、左肩も護石の下、肘から上が凍結している。一瞬にしてスプリガンを氷漬けにした彼女だが、アデライードの魔力保有量は一般的魔法職より少ない。今のアーツで彼女はMPの半分近くを失っていた。


「効果90! 」


 アデライードは投げつけるようにジェームズに言うと氷で出来た足場を駆け上がる。


「魔法職、腹の護石砕け! 届く奴は氷から出てる護石! それ以外は具足殴れ! 」


 ましゅ麻呂の声に全員が動く。

 ユミはアデライードを追って氷の上を走り、タケルはスプリガンの足元へ、沢蟹は左肩の護石を狙って矢を番える。


「我は乞う、鋼の如き……」

「麗らかなる春の日差しは……」

「掲げし杖を鍵にして、開くは……」


 杖を持つ魔法職は一斉に詠唱をはじめ、魔導書を携えた雪江は触媒紙にペンを走らせると、宙に放った。




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