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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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30/103

30 それは手抜きかギミックか



「本当に大きいな……」


 タケルは捨て置かれた王の玉座を見上げ、感嘆の声を漏らした。


「<飛燕(アーツ)>を使わないと昇れない高さだからね、推測される巨人の大きさは6mといったところか」


 建物と同じ素材で作られた椅子をジェームズも一緒になって眺める。


「出てくるモンスターも皆大きいんですか? 」

「いや? スプリガンは流石に3m規模だが、他のオーガやオーグリスは『イダルゴの風車』に出てくる大きさとさほど変わりはないかな」

「ああ、だから……」


 『イダルゴの風車』はワルターの第2MAPにあり、グランカスターを拠点にしている人間なら誰しもが潜る廃墟迷宮だ。

 仕事は出来るのに、仕事をしない運営。を印象付けた第一の事件現場でもある。


 グランカスターを拠点とする<SUPERNOVA>なら、狩り方は心得ている。ましゅ麻呂がひき殺しは余裕といったのは火力的な話だけではなかったのだと合点がいった。


「観光は済んだかー? 上あがるぞー」


 玉座の裏からましゅ麻呂の声がする。回り込むと同時に人が集まってきた。


「先行は俺とほっぴー、初見と魔法職は真ん中に挟むこと。最後尾、分断された場合を考えて一人道判ってるヤツ入ってくれ。それと……え? なに? 」


 壁を背に説明していたましゅ麻呂が振り返る。首を傾げた後、向き直り続きを話そうと口を開きかけ、また振り返った。


「マッシュ……? 」

「いや、なんか声が」


 壁画彫刻が施された壁に近づいたましゅ麻呂が、彫刻に触れようと手を伸ばした瞬間、壁の中に彼の体が半分埋まっていた。


「ええっ!? 」

「マッシュ!? 」

「ちょ!? 」


 タケル以外からも驚きの声が上がり、慌てて彼を助けようと駆け寄ったところを壁の中からましゅ麻呂が顔を出す。


「呼んだ? 」


 呆然とする駆け寄ったメンバーを前に、ましゅ麻呂は面白がって壁から出たり入ったりする。


「初見からかうのやめろ」


 ギミックを判っている人間が、声を震わせながらましゅ麻呂の悪戯を嗜めた。




 『時の城』の迷宮は、元々造られていた建物に迷宮機能が追加されたものだ。


 迷宮実装前はただの四角い建物でしかなく、敵が出ることもない。壁画彫刻は美しいので観光に訪れる者もいたが、何度も足を運ぶようなものでもなかった。

 ただ、ここの運営の手口に慣れてきていたプレイヤーからは、あの建物には何かある。と、疑われてはいた。そんな中での迷宮実装である。


 新たに建物内部を作り変えたのか、オブジェクトの設置などで転移する入り口を追加したのか、実装当日は期待を胸に『時の城』に来たプレイヤーは多かったらしい。


 だが、何も変わっていなかった。


 実装予告動画での戦闘シーンなど情報はそれなりに開示されていたため、実装は確実だった。だが、あるべきはずの迷宮の入り口がない。


 つまりは、そこから『時の城』を攻略しろと運営は言っているのだとプレイヤーたちは受け取った。


 困惑しながらも、どこかに隠し扉でもあるのではないかと柱を叩いて回ったり、玉座の周りを観察したりと試してみたが成果はない。やがて作業に厭きたプレイヤーが一人壁に凭れた、はずだった。叫び声を上げ、盛大に後ろ向きに倒れたプレイヤーの脚だけが壁から出ている光景は、その場で目撃した人間に衝撃を与えた。


 「 またやりやがったクソ運営 」


 幅140cm高さ200cm、扉一つ分、壁画彫刻の壁に見えない穴があった。




「周りの壁と色が違ったり、目印があったりしませんね」


 唸るタケルの横にアデライードが立つ。


「そんな親切設計、ここの運営がするわけがない。君はどうにも素直な人間みたいだから、気をつけないとトラップ踏んで苦労するよ」


 クスリと笑って、壁の中に入っていく。忌々しくも、その表情や仕草が似合っているのが憎らしい。憮然と唇を歪めるタケルの肩を雪江が叩いた。


「ごめんよ、お嬢あれで気を使ってるつもりだからさ」

「ガンバレたっくん」


 雪江と沢蟹もタケルに声をかけると壁の中に消えていく。


「我々も行こうか」


 ジェームズに促されるまま、タケルも壁の中に足を踏み入れた。


「暗い……」


 暗闇の中、正面の大階段が淡く光を放って浮かび上がっている。入ってきた先を振り返ると真っ黒な壁に、タケル達が入ってきた場所だけ明るく口を開けていた。


「階段をのぼったら2層目。今度はちゃんと入り口出口は判るから大丈夫よ。4層までは同じつくりだから覚えてね」

「ましゅ麻呂が初見を連れて来ているということは、道を覚えさせるつもりなんだろう。出る敵は先頭組がなぎ倒していくはずだ。後続はこぼれた敵を処理するだけでいい」

「今回は小部屋に入らないみたいだし、タケルさんも道を覚えることを最優先にするといいわ」


 階段をのぼりながら、ユミたちの説明を聞く。程無くして、緩く螺旋を描く階段の終わりが見えた。


 暗い空間を抜け、2層目にたどり着く。開けた空間は、1層目とは全く違った。

 まっすぐ伸びた廊下のリブ・ヴォールト天井は高く、尖頭アーチの窓にはすべてステンドグラスが入り、差し込む光によって城の中は明るい。


「全員上がったなー。色男(ジェームズ)! 」


 人数を確認したましゅ麻呂がジェームズを呼んだ瞬間、彼は右手の長杖を掲げた。


「<詠唱短縮(ショートカット)><範囲拡大(ワイルドサポート)>」


 宣言と同時に杖の尻を床に打ち付ける。彼の足元に浮かんだ魔法陣が、その場にいる人間すべての足元まで広がった。


「<破壊魔法・肉体(鋼の体)強化><破壊魔法・肉体(閃迅)強化><破壊魔法・武器(紫電)強化><神聖魔法・肉体強化(天空の加護)>」


 左手の魔導書が眩い光を発し、メンバー全員に補助魔法が重ねがけされる。


 鋼の体は文字通り防御力を、閃迅は速度を、紫電は攻撃力を強化する。天空の加護は属性を持つ全ての攻撃に対して耐性とダメージの軽減値が上がるものだった。


「よし、キター」


 先陣を切ってましゅ麻呂が駆け出し、状況が判っている人間が嬉々としてそれに続く。立て続けに掛けられた上位魔法に、驚き呆然としていた人間も周りが走り出したことに気づくと慌ててそれに続いた。


「アリ姉、今の」

「ああ」


 ましゅ麻呂を追って走るアデライードは、渋い顔をしていた。


「雪ちゃんじゃなく彼を指名した時に、両手持ち(トゥーウェイ)だからだと思ったけど、まさか【聖賢(セージ)】とは思わなかった」

「<TRUST>は掘り出し物見つけるの巧いよね」

「<TRUST>? 」

「たっくん<TRUST>だってさ」

「そう」


 飄々とした掴みどころのない男が記憶の隅から顔を出す。


「お嬢! 」


 雪江の鋭い声に、アデライードは足を止めると同時に抜刀した。


「<氷化(フィルン)>! 」


 脇道から飛び出してきたオーガを左に切り上げる。雪のように白い氷の粒が飛び散り一瞬でオーガが凍結した。

 吸い込まれるようにアデライードの剣が、でっぷりと膨れたオーガの腹を刺突する。


「<氷震(クライロサイズム)>」


 途端、オーガの強靭な肉体を食い破るように内側から無数の氷筍が顔を出し粉微塵にオーガを爆散させた。


「早えぇ」


 飛び出してきたオーガに驚き、ジェームズを背中に庇い避ける事が精一杯だったタケルはアデライードの鮮やかな手並みに目を輝かせる。


「拾い忘れてるぞ! マッシュ!! 」


 吼えるアデライードの銀の髪が舞う。


「うっせぇ! 」


 脇道から来るオーガは一体で済まず、二体、三体とこちらに向かってくるのが見えた。


「先客が湧かしたまま放置でいきやがった! 」


 先行組も戦闘に突入しており、一匹見かけたら三十匹状態になっている。


「マズイっ。魔法職、下がれ! 」


 パリパリと静電気に似た音を聞き取った人間が足元を見て叫ぶ。音を鳴らしながら床に黒い染みが広がり体長が1mほどの小鬼がそこから湧き出た。


 単体としての攻撃力は低い小鬼だが、HPが低い者を狙う習性を持つ。足元から次々に沸いてくる小鬼に飛び付かれまいと逃げる魔法職と彼らを守ろうとする人間が交錯し、武器が思うように振れない。


「どうなってんだコレ! 」

「火系は使うな! 延焼する!! 」

「ジェームズ、こっち」


 ジェームズに飛びかかろうとする小鬼をユミが衝撃波で打ち落とすのが見えた。


「たっくん! そいつオーグリスだ! 」


 タケルの肩が、柱に張り付くように置かれた女神像に触れる。


「え? 」


 沢蟹の声に、何が? と聞きかえす余裕はなかった。頭上から金属同士が擦れ合うような、それを声と認識したくない音が聞こえる。

 見上げたタケルの目に、豊満というには禍々しい硬化した肌が鎧のようになった乳房が飛び込んできた。そこに女神像はなく、2m以上あるオーグリスが口を大きく開け嗤いながら、タケルを見下ろしている。

 落ち窪んだオーガレスの双眸に映る自分の顔と目が合った。


「……あ」

「たっくん! 」


 速射で周りに湧き出た小鬼を打ち抜き、沢蟹がタケルに手を伸ばす。


「<我が剣が描くは、光、それ(ジオメトリック)自体>」


 タケルを捕らえようと振り上がったオーグリスの両腕はそこにはもうなかった。いや、腕だけではなくオーグリスの上半身がタケルの前から消失していた。そして、残された下半身も床に崩れ落ちると同時にポリゴンの粒となって消える。


「ジェームズの傍まで下がって」


 ユミの声だけがそこに残されていた。


「おい。あの人、今、壁走って行ったぞ」

「マッシュ以外に出来る人いたんだ」

 

 動けないでいるタケルの肩を沢蟹が掴み、引きずるように後ろに下がる。ユミが援護に向かった前方でオーガたちが数体、はじけ飛ぶのが見えた。


『 全員、目ェ閉じて耳塞げぇぇぇぇ! ジェエエェムズ!! 』


「<精霊魔法・禍殃(裁きは不変なり)>」


 そよと吹いた風は、渦雷を伴う吹雪と化し、乱れ飛ぶ氷晶はあらゆるものを切り刻む。荒れ狂う狼の口(恐ろしき冬)は不浄なる魂をすべて飲み込んだ。





イギリスでは現在でもメートル法とヤード・ポンド法が混在してるんですけど、これはちょっと未来のお話なので、帝国単位ではなくメートルでジェームズには話させています。


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