29 時の城にきたものの 3
「うんじゃ組み分けなー」
ユミたちを含め集まったのは20人ほどだった。そこに<Schwarzwald>の三人が合流したことは僥倖だっただろう。
ましゅ麻呂がPLを勤めるPTが5人、それ以外が6人の4PT連結、23人で攻略に臨む説明がされた。
玉石混淆の24人フルPTの玉の部分を抜き出したとしよう。
SNSなどで発言されている最小クリア人数は6人PTで、クランとして報告しているのはマルグリット最大クラン<ポーラスター>、ワルターの<スケアクロウ>、ジェフサの<GIULIETTA>といくつか続く。<Schwarzwald>も勿論そこに名を連ねていた。
<SUPERNOVA>はクリアしている者もいるだろうが、特に発言はない。<栄光の国>も同じだ。<TRUST>に関しては最少人数に拘る人間はいないため、野良で呼ばれたら参加している。
ましゅ麻呂にとって氷結の魔女の参加は嬉しい誤算だった。
実装当初、第一の関門として立ちはだかった第4層のスプリガンを彼女は装備とスキル構成からソロで狩り獲れるのだ。
馬場が面白がって動画共有サイトにあげた映像はコメント欄が荒れに荒れた。
大器晩成型と呼ばれる称号【魔法騎士】の完成型を見せられたのだ。嫉妬なり賞賛なりで埋め尽くされたコメントの中で、いつの間にか彼女は氷結の魔女と渾名がつけられていた。
とはいえ、今でも彼女の性別については論争を呼んでいるのだが。
「ジェームズ、魔法騎士んトコの魔法職は賢者だから、お前タイムキーパーやってくれ。今いる魔法職の中で、お前が一番潜ってる」
言われたジェームズはコートの中から懐中時計を取り出すと閉じた蓋に指を乗せ一周撫でた。カチリと音を立て、蓋が中央から割れる。二つに分かれた蓋が持ち上がるように更に二つ折れ、くるりと回転すると裏表が逆になりレリーフの柄が変わった。ジェームズの視界にクロノグラフが浮かぶ。
時計をポケットには戻さず、時間管理をしている証としてジェームズは見えるように腰に下げた。
「このメンバーならひき殺し余裕だから2層、3層は道中の敵殲滅で直行。出るのは小鬼とオーガ、オーグリス。オーガたちは擬態してる時があるから、初見は気をつけろよー。4層も同じ、扉の間のスプリガンの弱点属性は闇と炎、特攻ジェムぶっ刺してる武器あるなら持ち替えろよ」
ましゅ麻呂は春Pの上から見渡しアデライードを探した。彼女は暇そうに腕を組んで他のメンバーがタケルに色々教えているのを見ている。
「おーい、アデル」
呼びかけると、剣呑な眼差しを返された。
「手抜きしたいからスプリガン特攻頼むわ」
発言に、視線が汚物を見るようなものに変わる。それに対しましゅ麻呂は頬を赤らめ身悶えてみせた。アデライードの頬が引き攣る。
「どーせ端からやるつもりだったんだろ、サービスしとけよ」
半ば強制的な押し付けだが、反論がないところから彼女が了承したと受け取ったましゅ麻呂は他のPTを見た。
「魔法職は守護系切らさないように自PTの管理はしっかり頼むな。松串、ドラステは魔法と重複しない。料理のBuffと魔法のBuffは重ね掛け可能だからな、効果切れそうなら走ってる間に食えよ。他人任せにすんな」
注意事項を淡々と述べながら、参加者の反応を伺う。
「5層からはシングルエリアだ。ガーゴイル倒す順番間違えるな。シーが出たら回避型が相手しろ、VITは死ぬぞ。即死の範囲は前方扇、モーション入ったら全力で逃げる。竜巻は捨てる。6層、ジェームズのカウント聞き逃すな。あとは力でねじ伏せる、以上」
質問は。と投げかけても、話が長いだの早くしろとしか返ってこない。マイペースな面々にましゅ麻呂は満足げに頷いた。
「ほな、いこかー」
ましゅ麻呂を肩車した状態のまま、春Pは時の城の入り口に向かって歩き出す。
「あのまま行くんですか? 」
心配したタケルがユミに問いかけた。
「入ってすぐの1層は敵が出ないの」
「そうなんですか?」
「以前は建物しかなかったから、ケイオスグランジの沸き待ち時間とか中に入って鬼ごっことかしていたのよ」
「えっ」
「カタリナとキサラギが強かったな」
横を歩くジェームズが思い出したのか呟いた。
「ジェームズはやる気がないからすぐ捕まるのよね」
元は扉が填まっていただろう大きな入り口を潜ると、中は城と言うより神殿の内部のような作りだった。冷たい空気が漂う窓も照明もない建物だが、等間隔で並ぶ円柱が淡い光を放っており明るい。天井を見上げれば、そこも明るく建物全体が光を帯びているのだと気づく。
「左右の壁には壁画彫刻がなされているから、よかったら見てきなよ」
タケルの斜め後ろから声が掛けられた。振り返ると最後尾をアデライードたちが歩いている。
「敵は出ないし、柱しかない長方形のこの建物の中じゃ、迷子のなりようもないからね。行き先は突き当たりの王の玉座だから、そこにくればいいよ」
外の天然光の下では気づかなかったが、アデライードの腰の辺りから舞い上がった六花が柱の光を反射して輝くと空気に溶けるように消えていく。
ああ、この人は全体的に王子なんだな。と、タケルは息を吐いた。
銀の髪に薄青の瞳。その見た目に似合った装備を選んでわざわざ身に着けている。しかも、どれも性能は一級品だろう。そして、彼女は多分、装備に中身を合わせている。
そういったプレイヤーは少なからずいる。だが、タケルはエフェクトから彼女が腰に佩いているのはアイスソードを素材にリクリエイトされたアーティファクトだと確信した。
ましゅ麻呂が、魔法騎士と揶揄していた理由が判った。
彼女は間違いなく強者だ。方向性はジェームズと同じちょっとアレな人だろう。
【魔法騎士】は言ってしまえば浪漫職だ。憧れる人間は多いが到達者は少ない。
称号を得るためには、どちらが先でもいいが【賢者】と【剣聖】の両方を取り、両手持ちの条件を満たさなければならない。
杖の代わりにINT系打撃武器で魔法を唱え、魔法を放った後は武器による通常攻撃でMPを回復する。PvEでは丁寧な処理を求められるため、効率がいいかどうかは使い手のPS次第だ。
タケル自身、一度は憧れあれこれと調べたが、踏まなければならない手順の多さに諦めていた。
「いえ、今日は遠慮しておきます」
「そう。一度は見ておくといいよ」
微笑む彼女の顔に倒錯した思いを抱きそうになる。
自分は男で、彼女は女なのだから間違っていないはずなのに、なぜだろうか、この「抱いて! 」と言いたくなる思いは。
タケルは自分が新たなる性癖の扉を開けるのではないかと額を押さえた。
「タケルさん? 」
ユミが様子がおかしくなったタケルを覗き込む。
「お嬢、顔面卑猥物認定されたな」
「えっ、なんで!? 」
「アリ姉の守備範囲拡大だな」
「だからなんで!? 」
私は何も間違っていない。と騒ぐアデライードを見てジェームズは笑った。




