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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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28/103

28 時の城にきたものの 2


 膠着状態で睨み合う。1分か、2分か。はたまた5分か10分か。時間が引き延ばされたように長く感じた。


 このゲームにPvPはない。だが、アーツを使用しない殴り合い程度のじゃれ合いは出来る。


 どちらが先に動くか、互いの出方を伺うましゅ麻呂たちの足元が輝いた。


 移動を示す魔法陣が描かれる。転移先に他の人間がいた場合の衝突事故を防ぐため、事前予告となるエフェクトが展開する。

 誰かが時空門で転移してくるのを示すそれに、慌てたましゅ麻呂は後ろに下がり円の外へ出た。レッドマーシュたちも同じく下がり、二人の間に今まで以上の距離が出来る。


 魔法陣の中に一際明るい光の粒子が集まったかと思うと、その中から人が現れた。何もない所から人が歩き出てくる姿は、何度見ても不思議な光景でユミの心は躍ったが、転移してきた側は、一触即発の空気のど真ん中に放り出された状態に何事かと怪訝そうな顔で左右を確認しながら光の外に出た。


 最初に転移してきたのは、肩より少し上で銀髪をオカッパに切り揃えている女性だった。御伽噺に出てくる王子のように凛々しい出で立ちで、全体的に凹凸がなく、上背もあることから一瞬性別に迷うが、装備に隠されていない頭の小ささからユミは女性だと判断した。


 淡いウォーターオパールにグラデーション染色された装備は、肋骨服(ドルマン)の袖がベルスリーブで袖口には小花を模したビジューが付いている。一目でマントをリビルドに出したのだろうと判るジャケットは、ハンギングスリーブで袖の一番長い部分にひし形のキャストチャームが揺れていた。

 首元のクラヴァットはレース造りで申し分ない華やかさがある。腰に下げた細身の長剣にも繊細なレリーフが施されており、サイハイ丈のホーズには刺繍が、黒いブーツには金の飾りが付いていた。


「…けどさー、とりあえず行ってみようとか、かなり無」


 何かを話している途中だったのだろう、アラベスクと同じマヒガン装備を身に付けた弓術士が次に転移してきたが、場の雰囲気に言葉を切り、何、何? と小声で繰り返しながらやはり左右を見て円の外に出る。


「とか言いながら、若もノリノ……」


 次に現れた人間は、先に来ていた二人の顔を見て硬直し、周りを見た。その場で動かないところから、彼が最後の人物で門を開いた人間なのだろう。手に魔導書を携え、纏う濃紺のマグスコートには、全体に黒糸で刺繍が施されている。


 見た目が豪華な装備は補正が強い。徹底したわかり易さは、銀髪のオカッパを含む三人組がそれなりの実力者なのだと示していた。


「おいおいおい、なんで魔法騎士(マギナイト)まで来てんだよ」


 転移してきた人間の顔を見て、ましゅ麻呂が歯を見せて笑う。対してレッドマーシュの頬はピクリとも動かなかった。


「マジか、<Schwarzwald>キタ」

「お前が変なこと言うから」


 指遊びをしていた面々が、遊ぶのをやめて前方の様子に集中する。


「私の感想を言っていい? 」


 銀髪のオカッパが、場の空気に物怖じせず口を開いた。


「正直、最ッ低な気分なんだけど」


 左手を腰に当て、ツンと顎を突き出すさまから気の強さが伺える。横に立つ彼女より小柄な魔法職が「お嬢」と窘めた。


「随分な言い草だね」


 穏やかに笑っているが、レッドマーシュの細い目は冷たい。


「軽いピクニック気分で時の城に着てみれば、仲の悪いアンタたちのど真ん中とか最悪すぎて今日の運勢を呪うわ」

「ボクは彼を嫌っていないよ」


 レッドマーシュの視線が、銀髪からましゅ麻呂へと向けられる。


「ただ、存在が消えてなくなればいいと思うことはあるかな」

「ん、だと? 」


 突進しようとして<SUPERNOVA>の面々に止められたましゅ麻呂はその場で地団太を踏んだ。


「あのさ、面倒くさいから。<栄光の国>はマルガリテス、<SUPERNOVA>はグランカスターって住み分け出来てるんだからいいじゃん。外で会いたくないなら一生引きこもってろ」

「アデライード、キミは会うたびに言葉遣いが悪くなっているね。一緒にいる人間が悪いんじゃないか? 」


 急な飛び火に弓術士が鼻白み、魔法職が彼の腕に手を沿え押し留める。


「……巣に帰れ、王様」


 それまでの嫌そうな口ぶりが嘘のように感情が抜け落ちた静かな声だった。どこか茶化すような雰囲気だった<SUPERNOVA>のメンバーですら一瞬で黙り込む。


 冴え冴えとしたアイスブルーの瞳に映るレッドマーシュの顔から笑みが消えた。


「興が殺がれた。今日は引き上げるとするよ」


 レッドマーシュが背を向けると、彼の後ろに待機していた魔法職が時空門を展開した。その様子を見ていたましゅ麻呂が、小さな子供のようにイーッと歯を剥いて帰れ帰れと宙を蹴る。両腕を抱えられた彼は、完全に宙に浮いていた。


「<Schwarzwa(黒き森)ld>、<栄光の国(我われ)>はいつでも君たちを歓迎するよ」


 首だけ振り返り、アデライードに向けて言い残すとレッドマーシュは光の中に消える。次々に<栄光の国>のメンバーもその後を追った。

 唯一、ハトリだけがタケルを気にして何度か振り返るも、魔法の有効時間が消失する直前に、時空門の中に飛び込む。

 誰もレッドマーシュの発言に異を唱えない。その異常さに何故気がつかないのかとましゅ麻呂は<栄光の国>が消えた跡地を睨んだ。


「……やばいぃぃぃぃ<栄光の国>にケンカ売ったぁぁぁぁ」


 <栄光の国>のメンバーが全員消え、魔法陣がその効力を失い消失すると同時にアデライードは頭を抱えその場にしゃがみ込んだ。


「アリ姉のそーゆートコ好きだけど、アレはヤバイ」

「お嬢、これは馬場ちゃんマジギレするわ」

「あああああ、マルガリテス行きたくないぃぃ」


 小さく円陣を組むようにしゃがみ込む三人組に生温かい視線が集まる。


魔法騎士(マギナイト)やべぇ、さすが馬場ちゃんトコの特攻隊長」


 地面に下ろされたましゅ麻呂が腹を抱えて笑う。


「黙れ、吐瀉物! 」


 カッとアイスブルーの目を見開き、咆えるアデライードは現れた時と印象が変わっていた。ユミは隣に立つジェームズの袖を引いた。


「<Schwarzwald>ってイッチーのいるクランよね? 」

「そうだよ」

「生産の人しかいないと思っていたわ」

「<Schwarzwald>は、生産はマルガリテス、戦闘職はグランカスターに拠点を置いているからね。ユミはグランカスターに行かないから、知らなくて当然だよ」

「だから二人、仲良しさんなのね」


 男装の麗人と言って過言ではないアデライードが、ましゅ麻呂に対しバックチョークを決める姿を納得するように眺め頷いた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「ハーイみなさーん、ごちゅうもーく」


 <SUPERNOVA>イチの巨漢、春Pに背負われたましゅ麻呂が手を上げて存在を示す。本気モードのアデライードに落とされ掛かったましゅ麻呂だったが、涙目でギブっギブっと繰り返し、やっとのことで彼女の魔手から逃げ出し春Pの背中へと避難していた。


「もうド初っ端からぐだぐだなんでー、ぐだぐだのまま進むわー。俺もう無理」


 やる気がなさ過ぎるクランマスターに<SUPERNOVA>の面々からその場で毟った草や丸めた触媒紙が飛ぶ。


「お前ら、少しは俺を敬えよ」


 春Pの背中をよじ登ったましゅ麻呂は勝手に肩車へと体勢を変化させる。春Pといえば無言で、諦めているのか慣れているのか岩の如しだ。


「そのなりで敬えとか」


 小さく笑ったアデライードが顔を隠すように下を見る。サラリと銀糸の髪が流れて、音声がなければ憂う王子の図に見えなくもない。


「うっせーよ。もう、お前ら三人はユミりんトコのPTな。どうせ三人同士なんだから丁度六人でいい感じだろ」

「は? 何勝手に組み込んでるのよ」

「時の城攻略に来たんだろ。一緒に行きゃいいじゃん」

「だから、なんで勝手に決めるの」


 ハイ、決まり。と手を振って取り合わないましゅ麻呂にアデライードは尚も食い下がろうとするが、それを無視してましゅ麻呂はユミに向かって指を差し、次にアデライードの方にその指を向ける。

 一瞬、首を傾けたユミだったがましゅ麻呂の意図を理解したのか頷くとアデライードの傍に歩み寄った。


「こんにちわ」


 オカッパたち三人の視線が自分に集まったところで、ユミは頭を下げる。


「ユミです。よろしくお願いします」

「ちわ、沢蟹(さわがに)っす」

「どーも、雪江(ゆきえ)です」


 ユミに声をかけられた事に驚き硬直したアデライードを除き、二人は至ってマイペースにユミに挨拶を返した。


「ハッ」


 我に返ったアデライードは気を取り直すように一度、ぱっつん前髪を右手で払うと、その手をユミの前に差し出す。


「こんにちわ。お嬢さん、どうか私のことはアデルと呼んでください」


 氷で出来た薔薇が一輪握られており、どこから出したのだろうかとユミは目を瞬かせながらその花を見つめた。


「ご挨拶代わりです。どうぞ」


 声に促され、薔薇を受け取りつつ視線を上げれば、アデライードはその中性的な顔立ちを活かした笑みを浮かべていた。


「お嬢、色々無理だから」

「アリ姉、既に剥がれてるから」


 背後の突っ込みなど物ともせず、アデライードはキラキラを纏い続ける。薔薇と彼女、沢蟹、雪江と順に見て、ユミはましゅ麻呂を見た。彼は自分の両頬に指を押し当て、不自然すぎるほど口角を上げている。


「PTよろしくお願いしますね」


 ユミがにっこりと笑うと目力を増したアデライードは即答した。


「こちらこそ、よろしく」


 まんまとましゅ麻呂の計略に乗せられたアデライードにお供の二人が肩を落とし、ましゅ麻呂はユミに向かって親指を立てた。






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