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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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「つまり、このゲームはその運命の石を巡る物語で、特に目的が定められているわけではない。ということなんだね」


 ユミの隣に座り、彼女からこのゲームのあらましを聞いていたアランは、頭の中で今聞いた話をまとめる。


「そうよ。一応、ゲームの設定では四節ある物語の今は四節目。プレイヤーはこの四節目がスタートになるの。最初が神々の時代で、次がテレネウンネフェルの滅亡。その次がワルター騎士団のお話ね。今は新しき王の物語、ってところ」

「ふむ」


 顎に手を当て、瞑目する。その考える姿がジェームズそっくりで、ユミは緩む頬を両手で隠した。


「しかし、マルグリットの女帝の名がマーガレットというのだろう? 」


 思い当たる節があるのか、瞼を上げたアランが横にいるユミと、自分たちを心配そうに見守るタケルを交互に見る。


「マーガレットが死ぬと王位を巡って争いが起こるはずなんだ」

「そうなの? 」


 ユミに聞かれ、タケルは首を曖昧に振った。


「あくまで、歴史に倣った場合だがね」


 アランは一度、断りを入れる。


「エドワードというのがワルターの王なら、ワルター公国が介入する。そしてワルターが推す人間が次の王になるのだが、新しい王は別の国と手を組む。この場合の第三国はジェフサとなるのだろうけど、このゲームは戦争とかは起きないのだろう? 」


 確認され、二人は同時に頷いた。


「そうね。模擬戦はあるけど、このゲームはPvP……意味は……」

「プレイヤー・バーサス・プレイヤーです。PvEはプレイヤー・バーサス・エネミー」


 何の略だったかと思い出そうとするユミに、即座にタケルからフォローが入った。


「このゲームはPvPはないと明言しているので、大型対人戦が実装されることはないと思います」


 アランの疑問にユミから引き継いだタケルが答える。


「PvPがあると、どうしても殺伐としてしまいますから。このゲームはPvEのみなので、安心してプレイしているユーザーも多いんです」


 タケルの説明にアランは何度も頷いた。


「となると、新しい王とは何なのか、何をもって王とするのか、という考察が生まれてくるんだね。なるほど、面白い」


 主軸となるストーリーは用意されているが、明確にこれを行わなければ次のステージに上がれない。といった問題はない。


 やることが多すぎて、やることがないゲーム。


 それが【the stone of destiny】だ。プレイヤーが目的を決め、自分自身で物語を綴っていく。


 過去に三度、【the stone of destiny】は大型アップデートをしている。

 進入禁止だった土地の開放や新しいダンジョンの実装だ。


 どれも先触れは町人の噂話の変化やダンジョンの最深部のボスを倒すと現れるモニュメントのメッセージにあった。

 次に何が実装されるのか予測はある程度たち易いのだが、これらは時節で変化することもあり、特にダンジョンは一度挑んでクリアすれば終わりというものでもなかった。

 そのため、ドロップ狙い以外でも定期的に周回するプレイヤーは少なくない。


 過去にメンテナンスの時間延長が起こったが、公式発表ではバランス調整とドロップ品の追加。としかアナウンスされず、時間延長を要するほどの調整はなんだったのか、追加されたドロップ品とは何なのか、と物議を醸した。

 結果、初心者~中級者向けダンジョンのボス部屋の奥に、隠しボス部屋が設置されていたという「ここの運営は、腐れ外道」「仕事は出来るのに、仕事をしない運営」と印象付けた事件があった。


 直近で実装されたのは『時の城』だが、これはスキルの限界突破及び魂の錬成が可能なプレイヤーの20%がクリア可能な難易度に落とし込まれていて、実装初日は全体の46%が挑み、うちダンジョンボスの部屋に辿りつけたのは、そのうちの17%であり、更に初日撃破は2%と狭き門どころの話ではなかった。

 腐れ外道は健在である。


 現在は運営の想定通り22%がクリアしているので、中堅組が熟練組に仲間入りするいい目安となっていた。





 モカが運んできた珈琲を手にアラベスクは、和気藹々と話し込む三人組を少し離れたソファに座り見ていた。隣にはフェルトンが座り、椅子を引っ張ってきたキサラギがその前に座る。


「アラン・ウォーデンって、有名な学者の先生だろ? 」


 背凭れを抱えるようにして座るキサラギは、手持ち無沙汰なのかタワーを作り遊んでいたトランプをマジシャンのように切りながらアラベスクの話に答えた。


「やっぱ、そうだよな」

「VR黎明期に雑誌とか出てたし。でもなんだっけ、テロがあってわちゃわちゃしてた頃から見なくなったんだよな」


 フラリッシュしてカードの模様を二人に見せた。スペードのAを確認すると再び混ぜ合わせる。


多発(あの)テロの中で、ロンドンの地下鉄が爆破されたのがある。そこで、ご家族が巻き込まれた」


 無口なフェルトンが口を開いたことに、カードを切るキサラギの手が止まった。フラリッシュするとハートのAが顔を出す。


「家族って? 」

「……」


 アラベスクの質問に答えたくないのか、フェルトンは黙り込む。温くなってしまった珈琲の苦い匂いがその場を包み、キサラギがカードを切る音が、やけに耳についた。


「学生の頃、一年の予定でブライトンに留学したんだ。俺のいた所は平和だったが、やはりロンドンから電車で1時間程度だし、危ないからって帰国を促された。だから、ニュースも途中までしか知らないし、俺が話すことでもない気がする。すまない、余分なことを言った」

「……いや、変に詮索しようとした俺が悪い。この話はここまでにしよう」


 アラベスクが話を打ち切った所で、キサラギがカードを切る手を止める。トントンと束の尻を指先で叩けば、一枚のカードが頭を出し、更に叩くともう一枚せり上がってきた。それをフェルトンとアラベスクが交互に引き抜く。絵柄を見ればスペードとハートのAだった。


「どこで覚えたんだ、こんな宴会芸」

「マジックは女の子にウケがいいんだよ。特に飲み屋ではね」

「言ってろ」


 アラベスクはカードをキサラギに返すと立ち上がった。アランへの茶請けにと頼んだ菓子は、なぜかすべて甘いカップケーキとドーナツになり、それらはユミたちの隣のテーブルでモカとカタリナが食している。


 モカが運んできたトレイの上に並んでいるものを見て、ヤラレたと額を叩いたアラベスクに、私はこれで十分と受け取った珈琲を掲げてアランは笑っていた。


 それぞれが、それぞれに事情を抱えている。とはいえ、ゲームはそれを一時、横において楽しむものだ。ジェームズとアランは、単純に考えれば親子だろう。少し年が離れている気がしないわけではないが、あそこまで同じ顔をしていて他人であるとは思えない。

 ユミのことを気にしていたということは、親子の会話がないわけではない筈だ。ならば、なぜアランはジェームズに内緒でこのゲームを始めたのか。彼に話していたら、面倒見のいいジェームズのことだ。アランを一人で放置したりするはずがない。

 わざわざ親が子を追ってゲームを始める理由なんて詮索するもんじゃないな。と、アラベスクは一つ息を吐いて珈琲を飲み干した。


「おーい、アラン。このゲームのシステムについて説明するぞー」




申し訳ございません

次回更新は月曜日になります。

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