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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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 ◆ 王都フロイデ・フロイデ正門前 ◆





「それで、倒れたお前を放置せず。慌てず騒がす、何かあったらいけないと案内人に交渉までして兵舎の中に運び込み、気がつくまで傍にいてくれた心優しい初心者様が、この方だと……」

「そうです……」


 腰に手を当て、仁王立ちのアラベスクは、いつもモカを叱るスタイルだ。珍しくモカはアラベスクの前で小さくなり、項垂れている。

 そんなモカの姿を、彼女の隣で好々爺然として見ている初老の男性がいた。


 卒倒したモカが意識を取り戻した後、アラベスクに連絡を入れ、男性を伴いフロイデに帰還したのだ。


「すみません。コイツがご迷惑をお掛けしました」


 モカの肩を押して、男性に向き直らせると背中を押し、頭を下げさせる。勿論、アラベスクもモカと一緒に丁寧に頭を下げた。


「いやいや。私も接続した状態でプレイヤーが意識を失うと、アバターがどのような変化を見せるか見てみたかったからね。有意義な時間だったよ」

「えっ……私、観察対象? 」

「バカ。どうみてもジェームズと同じ方向性の冗談だろ。気を使ってくれてるんだよ」


 軽くモカの頭に拳を落とす。


「ずみまぜん……」


 再び、モカが頭を下げた。


「それで……Mr.あー……」

「ウォーデン。アラン・ウォーデン。アランと呼んでくれていいよ」

「アランさん。アラベスクです。今回は本当に有難うございました」

「アランでいいよ」

「では、アラン。俺はアラベスクと呼んでくれ」

「よろしく、アラベスク」


 ゲーム内というより、現実でこういった場を経験しなれているのだろう。アラベスクは自然な流れで右手を差し出し、アランも迷うことなくその手を取ると二人、握手を交わす。


「しかし、VRMMOというものは面白いね。しっかり感触も伝わるし、現実と何も変わりないのが素晴らしい。言語も……申し訳ないが、私は日本語は話せないのだが、これは自動変換されているのだろうか? 私自身には、君たちが話している言葉も母国語に聞こえるよ」

「そうなるな。思考が一度、電子に変換されてゲーム内で音声再生されているわけだから。日本語の多様性がすべて他の言語に変換し切れているかは不明だが、概ねそのままのニュアンスで伝わっていると想定して構わないと思う。それは他言語も同じじゃないかな」

「成る程。彼女が私に話しかけてくれるまでは、やってきた人間はそそくさといなくなってしまってね。なかなか話が聞けずに困っていたんだ。案内人と表示された彼に色々聞いてはいたんだが、それは答えられません。という返答が多くてね」

「ゲームのプログラムに関する質問には、彼らは答えることが出来ないからな。それ以外は、聞いてないことまで話し出す奴とかいるぞ。プログラムに関わる事は無理だが、システムへの質問は、運営に問い合わせすれば三営業日もあれば返ってくる。ここの運営は働き者だからな。あとは経験則からプレイヤーが独自に導き出している事も多い」


 アラベスクの返答に、何度か頷いた後、アランはモカを見た。


「私はいい出会いをしたよ。彼女に感謝だね」


 アランに笑顔を向けられたモカが震え上がる。


「アラン。ここでは何だから、移動をしよう。この近くに、我々がよく利用するタヴァンがあるんだ」

「タヴァン! もう随分前に廃れた文化だが、成る程。確かに冒険ものの物語なら登場してもおかしくないね」

「とはいえ、現代日本人が考えたタヴァンだからな。女性ユーザーのことも考えて、かなりシンプルでスマートな内装になってるぞ。あと、入り口は一つだ」

「実に日本らしい。いいね」


 アランを誘い、アラベスクとアランが肩を並べて歩いていく。アラベスクは日本人にしては体格に恵まれ、背も高いが、ジェームズと並ぶと拳一つ分低い。その彼より、拳一つ半、アランは背が低かった。アラベスクは以前「英国人の平均身長は178cm(オレ)くらいだから、ジェームズは高すぎるんだよなぁ」とぼやいていたのを、二人の後ろを歩きながらモカは思い出していた。


「そういえば、Ms.モカ」

「はいぃ? 」


 急に振り向かれた事に小さく声を上げ、ぴょこんと跳ねた。


「ジェームズと知り合いのようだったが、『ユミ』と言う名のご婦人の事も知っているのかね? 」

「ん? ユミりん? 」

「失礼、アラン。ジェームズに似ていると思っていたけれど、彼と関係が? 」


 小首を傾げるモカが余分な事を話し出す前に、アラベスクが割って入った。


「関係……まぁ、そうだね。彼の保護者、かな? 」


 表情が乏しいジェームズに比べ、彼はよく笑う。ジェームズが年を取り、もっと感情表現が豊かになったらこんな顔になるのだろうな。と、簡単に想像出来る位に、アランはジェームズに似ていた。


 アラン・ウォーデン。彼が名乗った名前を、アラベスクは頭の中で反芻する。僅かに引っ掛かりを覚えた。


「ジェームズは、今日はまだ来ていないが」

「知っているよ。彼は昨日から……ああ、いや」


 なんでもないと、アランは軽く一度手を振る。アラベスクの耳に、モカからフレンド指名での囁きが飛んできた。

 通常のフレンド指名は、電話を掛けている状態に近い。だが、囁きは秘匿通話であり周りに声は伝わらない。


『ジェームズ、昨日用事があるってすぐ落ちたの。今日もINが遅れるって言っていたから、多分、その人言ってることホント』


 アラベスクはモカの目を見て一度、瞬きし、彼女に了解の意を示した。


「とりあえず、移動しよう。あのタヴァンは美味い珈琲を出すからな」


 アラベスクは腕を広げ、アランに移動を促す。


「よく私が珈琲党だとわかったね」

「ジェームズがよく飲んでる」


 わざとらしくウィンクをするアラベスクに、誰に似たのだか。とアランは笑った。


 アラベスクがアランの肩を抱き、歩き出したところでモカはフレンドリストを確認した。ユミは既にログインしている。彼女がどこにいるのか知りたかった。


「……フロ、イデってまさか」


 アラベスクがアランを連れて行くのは『黄金の上で眠る黒猫亭』だろう。ユミがフロイデにいるという事は、同じく『黄金の上で眠る黒猫亭』でジェームズを待っている可能性が高い。慌ててピアスに触るも、なんとユミに説明すればいいのか判らない。


 逃げて、っていうのもおかしいし。今から、ジェームズのそっくりさんが行くよ。っていうのも変だし。てか、なんでユミりん探してるのか意味判んないし……。


 と、いうか。これって、何か面白い展開になりそうじゃない?


 思考が一周回って、モカはピアスから手を離した。




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