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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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「マッシュ、お久しぶりー」


 ユミは自分と同じ高さまで飛んで来たましゅ麻呂に声をかけた。様式美のようにユミを勧誘するクラン<SUPERNOVA>のマスターだ。

 ダメージディーラーとしては優秀な彼だが、普段の奇行から一般的なプレイヤーからは一線を引かれている。


 本人曰く、あざと可愛いを目指したという見た目は、薄茶色の巻き毛に色白で背格好はユミとほぼ変わらない。男性としては随分小柄で貧弱だったが、一部の嗜好者(プレイヤー)からは彼の狙い通り絶大な人気を誇っていた。


 しかし、自身を紅顔の美少年と語りながらも、街にいると暇だからという理由でエリアシャウトで下ネタを連発するなど見た目と中身のギャップが激しい人物でもあった。


「あー、ユミりんおひさー」


 上空から二人、ケイオスグランジを観察しながら挨拶を交わす。


「ユミりんがいるってことは、あの色男もいるの? 」

「いるわよ。<TRUST>も一緒」

「君達、ホント仲良いよねー」


 自由落下に任せ、一旦ケイオスグランジの両脇に下りると二人同じ動きで再び跳躍し頭上に戻ってくる。上に戻る際、ケイオスの牙を狙う事は忘れない。


「それでね、ジェームズが動きとめて欲しいって」

「ハイキタ無茶振りー、もう面倒だから下の連中と一緒にアイツが焼いちゃえよ」

「出来なくはないだろうけど、先に牙折らないと魔法耐性消えないからジェームズでも殺しきれないと思う」

「サラッと怖いこと言ったわね、アナタ」


 宙を蹴り、更に高度を取る。ケイオスグランジの後方を見れば、両手持ち(トゥーウェイ)が二人何か話しているのが見えた。


「ジェームズと……誰だ? 」


 目を凝らしてみるも、ベールで顔を隠した魔法職(廃人)の女性としか判らない。装備する上で、高い国家ランクを必要とする聖女装備(マドンナリリー)で全身を固めている段階で察するに難くない。


 三百人近く集まった討伐隊のうち、百人近くが戦闘不能状態に陥り、今現在も足元で死体が積み上げられている。

 ケイオスグランジの顔面を跳び回る遊撃手も例外ではなく、気を抜けば煩わしいハエとばかりに振り回された牙に撃ち落とされていた。


 ケイオスグランジのヘイト感知範囲外からしか魔法は使えず、蘇生もままならない今の状況ではジリ貧は免れない。死に戻りを選択したとしても、結局ココに戻ってくるまでは戦力外だ。


「そろそろマズイよなー、馬場ちゃんたち見え始めてるもんなー」


 ケイオスグランジの進行方向にまだ小さいが人影が見える。


 リッシュ平原には倒壊した立石(メンヒル)が点在していた。土に埋もれ、草が茂るそれらの中に一際大きな平岩状ものがある。支石が壊れた巨石墓(ドルメン)と推測されるそれの上が、季節が夏から秋にかけ、マツタケ狩りの名所となる場所だった。


「ユミりんがいて、俺がいて、下ではノブタが大暴れ」


 見知った弓術士が二人、迂回しながらケイオスグランジの前に出るのが見えた。


「廃人様は暗躍中で、目の前の馬場ちゃんはめっちゃ怒ってる」


 ましゅ麻呂は手にしていた投擲武器を一瞬で双剣に換装した。元から二振り一対のユミのサザンクロスエッジと違い、左右で色も長さも違う彼の双剣は別々の短剣をリビルドで双剣としたものだ。彼が装備を変えたことにユミが微笑む。


「ユミりん。斧の奥義書Ⅴ引いたらさー、俺に頂戴? 」

「いいわよ」

「来週あたり、時の城攻略しに行くんだけどさー。ジェームズ連れて一緒に来てくれる? 」

「いいわよ」


 土を踏み、再び昇る。ユミの動きが僅差で早い。


「俺がヘイト取っていい? 」

「いいわよ」

「<SUPERNOVA(ウチ)>入って」

「それはだめ」

「チッ」


 三度、地を踏む頃には僅かにあったズレが修正されていた。


「オッケー。じゃ、一回逝っとこうか」


 ましゅ麻呂は右に、ユミは左に、重力に任せ落ちていく。


「お、イイ位置。ちわっす」


 ケイオスグランジの右目がましゅ麻呂の姿を捉えた。金色の眼に逆さまになった少年の姿が映る。彼はケイオスに切っ先を向け笑っていた。


 <衝撃波>


 図体に似合わず、円らな瞳から血が吹き上がる。硬い膜に覆われた眼球は、その硬さが徒となり衝撃波に押し込まれる形で眼球を支える薄い骨を折った。


 油断大敵、とほくそ笑むましゅ麻呂を邪魔なハエとばかりに牙で振り払うが、それらを綺麗に身を翻し交わしたましゅ麻呂は、同じタイミングで地上に降りたユミと共に一直線に前方へ駆け出す。


「「<迅雷>」」


 瞬時に加速し、ピタリと動きを合わせ往復走の要領で振り返る。


「かーらーの」


 踏み切る足に力がこもり、地表を抉る。


 右目から血を流したケイオスが嘶き、回避が間に合わなかったプレイヤーが範囲攻撃に巻き込まれ弾き飛ばされる。本来なら、放電している間は動けないはずのケイオスグランジが雷を纏った状態で二人を追って走り出した。放電でヘイトがリセットされた気配はない。


「「<無私の勇気(クラージュ)>」」


 二人の体から血煙が上がった。視界が赤く染まるのは、眼から出血しているからだ。細く流れ出た鼻血が口の中に入り込み鉄の味が広がる。何度体験しても慣れない血の味に、ましゅ麻呂は血涙が伝う頬を引き攣らせた。


 剣術スキル150保持と過去に一度でも<守護の楯(イージス)>の称号を得た者だけが所有し発動できるアクティブアーツ、<無私の勇気(クラージュ)>。60秒間(HP-1)/10の数値をSTRに変換し上乗せする絶大な攻撃力増強は、その代償として生命力を要求する。

 <無私の勇気(クラージュ)>を発動しての大技はまさに一撃必殺であり、その反動に耐え切れない体から必死の攻撃でもあった。




「<追撃待機(バンドル)>」


 燃え立つ炎のように見えるエフェクトを身に纏い、ユミとましゅ麻呂が撃ち出される弾丸が如く駆け出したのを合図にモカは天に向け矢を3本放った。


「「<飛燕>」」


 全く同じ動きでユミとましゅ麻呂が天への階段を駆け上る。


「<我、天が落ちようと正義を(スカイフォール)為す>」

「<汝、死を以って贖罪とな(スクラマサクス)せ>」


 駆けるケイオスグランジの前頭部に真正面から激突した。


 衝撃にケイオスグランジの前足が宙を掻き、巨躯が後方に押し込まれる。その距離5m。


『 <豪気戦弓(アウトバースト)>!! 』


 揺れる巨躯を支えられなくなったケイオスが、崩れるように膝を折った瞬間を逃さず、モカは彼女の称号でもあるアーツを放った。流星がケイオスの左牙を射抜く。

 着弾と同時に上空に待機していた矢が煌き、同じ威力をもって左牙を貫いた。内側から爆発するように砕け散る牙の破片に紛れ、ましゅ麻呂とユミの体が地面に落ちていく。


『 ハイ、死んだーーーー!! 』


 戦局が一変したことに鬨の声が上がる中、ましゅ麻呂の笑い声が響いた。



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