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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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『 北には行くな、マツタケ狩りやってるやつらがいた! 』

『 東に行け! 』

『 轢き殺したら生産怖いぞー 』


 林を抜けた後の誘導方向に茶々が入る。


『 脳筋ども、こっち来たらマジ許さねーからな!! 』


 採取を行っていたのだろう、生産職からエリアシャウトで返答が来た。


「馬場ちゃんだ」

「馬場ちゃんがいる」

「馬場ちゃんマジ怖ぇぇ」


『 馬場ちゃん愛してるーー 』


 タケルの周りで笑いが起きた。どうやら馬場という人物はそれなりに有名な人物らしい。


『 その声、ましゅ麻呂だろ!ノブタの前に落ちて潰れろ!! 』


 彼の願いに呼応するようにケイオスグランジが足を止め、右に牙を振り抜く勢いで方向転換をする。


「やべぇぇ」

「馬場ちゃんマジか」

「ちょ」


 ケイオスの周りを囲んでいたプレイヤーが数人、牙に跳ね上げられ地面に落ちた。それまでの空気が一変し緊張が走る。


『 ケイオス暴走!ヘイトがおかしい 』

『 はぁ?! 何やってんの、絶対こっち来るなよ! 』


 誘導班から今までにない威力を持った弓のアーツが矢継ぎ早に放たれるが、ケイオスグランジの頭部がそちらを向くことはなく、思う様に目に入ったプレイヤー達に向かって突進し死体を量産し始めた。


『 馬場ちゃんごめん 』

『 馬場ちゃんマジごめん 』

『 マッシュ、お前も謝れ! 』

『 えー、俺悪くないじゃーん 』


 隊列を崩され、逃げ惑いながらも反撃の機会を伺うプレイヤーから気の抜けた声が上がる。頭の螺子が外れた人たちはどんな状況に陥っても自分のペースを崩すことはない。

 それまで、セオリー通り固定されていたヘイトが突然分散された形となったことを特殊固体としてのギミックではないかと疑う幾人かは、緩い会話をしながら糸口を探っていた。


『 DD止めろ 』

『 無茶言うな!近づけない 』

『 魔法職! 』

『 ヘイトが散ってるのよ!さっきから死人が出てるわ! 』


 魔法職が魔法(アーツ)を使おうとすれば即座に反応し、そちらに向かい突進する。足を止めたかと思えばその場で脚踏みし、頭を振り回して他者を守ろうと近づくプレイヤーを牙でなぎ払う。

 空中戦を得意とする遊撃手(アタッカー)たちも何とか食い下がろうとするのだが、一番ダメージが稼げる頭部は頻繁に動くため狙いが定まらず手を拱く状態となっていた。


『 マツタケ狩り、退避準備始めた。本当にやばそうなら教えてくれ 』

『 調薬です。少しpot(ヒルポ)あります。差し上げるので必要なら取りに来て下さい! 』

『 馬場すまん、まだ大丈夫だ。ヒルポ欲しいやつ貰いに行け 』


 北側には生産職がいると判っているため、なんとか南に誘導しようとするのだが、戦局はジリジリと北上している。


「アラベスクとモカが今、ケイオスの横を通った。ユミ、一瞬でいい。動きを止めることは出来ないか」


 暴れ回るケイオスグランジから距離をとっていたタケルの耳に、静かなジェームズの声が聞こえた。


「私ひとりでは難しいわね。あ、待ってマッシュがいる」


 答えるユミの声も冷静なもので、楯を抱え、成すすべなく右往左往していたタケルは動くのを止め、周囲を注意深く見回した。

 ケイオスグランジを中心に周りの動きを目で追うと自然と頭の芯が冷えていく。


 それぞれが自分の仕事をこなそうと動いている。なんとかヘイトを固定しようと奮闘するユミたちDD、ケイオスグランジの動く範囲を狭めようと肉壁を作る重量級。補助を振りまき、死人や負傷者を起き上がらせるのに必死な魔法職。


 火力も経験も足りない自分が出来ることは何か。死ねば、魔法職の手を煩わせる。ユミは死んで経験を積めと暗に言ったけれど、それは死なない方法を身に着けろということだ。


 タケルはケイオスの攻撃範囲を見定めるとギリギリ牙が届かない所に倒れているプレイヤーに向かって走り出した。補助や回復魔法が使えない自分が出来ることは、動けなくなっているプレイヤーを物理で助けるしかない。


 一人で歩けなくなっているプレイヤーを背後から抱き上げると傍に落ちている武器を掴み、少し離れた場所まで全力で引きずり退避する。タケルの姿を見た他のプレイヤーも同じように覚束無い足取りの負傷者を安全圏まで引っ張り出した。


 腰を落ち着け休んでいれば体力は回復するが時間が掛かる。ヒールポットやアンプルは経口摂取しなければ効果が見込めない。結局、魔法職に頼るしかないのかと苦い顔をしたタケルだったが、即断し顔を上げる。


「ジェームズ! 俺の周りに範囲回復ください! 」


 術者から届く魔法(アーツ)の有効距離は判らなかったが、彼なら何でも出来るのではないかと信じ叫んでいた。痛覚が抑えられているゲームだが、全く感じないわけではない。痛み止めを必要とするような痛みからは全て、倦怠感や痺れに変換されプレイヤーを苛む。


「<精霊魔法・範囲再生(芽吹きの雨)>」


 期待通り、即座に靄のような光がタケルと彼が抱える人間を包み、彼らを中心に周りに溶け込むように広がり消える。タケルたちが回収した人間殆どに行き届いた形だ。


「90秒は君の周りに回復効果があるフィールドが展開されるよ。動いても効果は消えないが、死に掛けている人がいたら暫く一緒にいてあげたほうがいい。持続効果がある分、回復量は少ない。3秒で体力の4%程度だ」


 目を凝らすと、効果範囲を知らせるサークルの外周が淡く光っている。


「ありがとうございます」

「……すまないが、少し忙しくなりそうだ。返事は出来ないかもしれないが、必要な時は言ってくれ」


 改めて、彼が破格なのだと実感する。それまで言葉を発することも出来なかった腕の中の人物が身じろいだ。


「大丈夫ですか」

「うん、ありがと。あのまま踏まれるのかーってちょっと怖かった」


 プレートアーマーに身を包んでいたため気がつかなかったが、中身は女性だったらしい。彼女と一緒に回収してきた両手剣を引き寄せ腹に乗せてやる。


「どもども」


 剣を受け取ると彼女はタケルの手を借りつつ、なんとか身を起こしその場に座り込んだ。


「ちょっと休憩。強暴種とか無理ゲーっぽくなってるじゃん」


 アーメットのバイザーを上げた彼女は、のんびりと目前で繰り広げられている数の暴力vs絶対王者を眺める。


「あの、俺、他の人助けてくるんで」

「おおぅ、ガンバレー……って、チョーっと待った」


 尾に撥ねられた人を見つけ、立ち上がったタケルの足首を細かなレリーフが施されたガントレットが掴んだ。


「二次災害危険」

「は? 」


 彼がどこにも行かないように左足をしっかり抱きこみ、全身鎧の女性はケイオスグランジを指差す。


「あそこ、同じ動きしてるDDがいる。片方<養護施設(SUPERNOVA)>だもん、アレ絶対なんかするから行かないほうがいい」


 彼女が指し示す方を見れば、ユミが宙を跳んでいた。




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