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「余の代わりにこの国を導いてやってはくれないか?」


隣で一緒に飯を食う大柄な魔族の男は唐突にこう述べた。


「何を突然言ってやがる。お前の代わりに導くったって代わりが務まらないだろうが!それに俺は敵国だぞバカシルト(・・・)!」

「ははっいきなりすまぬなユウト(・・・)。こんなことお主ぐらいにしか言えんのでな!」


隣にいる男は“オルドラン魔国連合”魔王の“シルトクーゲル”

そして俺は“エリスティア王国に召喚された勇者”高羽悠斗(タカバネユウト)


そして今ここ、は魔国連合の主都“セイブル”のとある居酒屋だ。

目の前の店主は最初の頃来たときは魔王と勇者が一緒にいるので、

驚きのあまり失神してしまっていたが……もう暇を見つけては来ているので慣れているようだ。

周りの客ももちろん魔族側の人たちだが、この光景にも慣れてしまっており一緒に周りで酒を片手に宴会状態だ。まだ俺はお酒も飲めないのでミルクなのだが…。


「まぁ俺もアンタもこんな役回りなんて投げ捨てて、のんびりとどこかで過ごせれば楽しんだろうけどな」

「はっはっは。まったくだユウト、余もこんな戦争なぞほっぽり投げてのんびりと過ごしてみたいのう。川に行って釣りをしてだな草原で……」

「いいな!そんな事できたら最高じゃないか!戦争なんてまっぴらだ」


二人でどこか遠くに行き戦争なんか忘れて釣りでもしたくなる。

そんなやりたいことを言い合いながら食が進む。

『戦争がなくなっちまったら俺どうすればいいんだ!勉強して文官にでもなるか?』

『お前が勉強したって文官なんて無理さ!だったらそのまんま頭の使わない職がお似合いさ!』


後ろでそんな会話が聞こえ言い合いが始まる。

その周りではみな笑顔でまくし立てている。そんな平和な光景だ。

それをつまみに魔王は日本酒を、勇者はミルクを飲む。


「まったくこんな世界でこんな出会いがあるとは思ってもみなかったぜ」

「まったくだ。これで敵同士なのだから恐れ入る、神とは理不尽なのだな」

「はぁ…おなじ地球出身者(・・・・・)として醤油だとか味噌だとかを作っていきたいが合う時間もそれに費やす時間もない。もう戦争なんか止めようぜ?」

「余もホントは戦争なぞやりたくはないのだがな。これもこの世界に魔王として転生(・・)された宿命なのかもしれんな」


そう、この二人出身地が同じ地球である為、急速に仲良くなり、

敵同士だというのによく合う仲である。


―――ある山の中で


勇者一行は魔王討伐の為歩を進めていてた。

その時に魔王軍に襲われ、勇者一人だけが魔王と対峙する状況に陥った。


「くっ魔王!ここで貴様を倒せば世界が平和になるんだ!死ねぇ!」

「くははっ!そんな剣で余がやられるとでも!小賢しい!遊んでやるぞ勇者!」


その時、まだまだ勇者の力は魔王に届かず遊ばれる状況に追い込まれていた。

幾何か、何度も打ち合い、山から草原地帯へと移動していく。


「はぁはぁはぁ……くそ魔王め!」

「よわい弱いぞ勇者!貴様なぞを警戒した余がおろかであったわ!死ね!!」


その時魔王の手の中に強大な魔力が集まり放たれようとしていた。

――ここまでか!

覚悟を決めて最後ぐらいは目を開けていようと剣を構える。


「『ジャッジメント…』うむっ?…むむっ!」

(んん??技を……止めた?)


魔王は魔法を発動直前に何かに気づき発動を止めた。

もう覚悟まで決めたのでその変化にいささか戸惑う。

そうすると魔王は勇者に近づき―――後ろの草原も見ていた。


「まっ…まさか……こんなところに探し求めていたものがあるとは!!!」

(????なんだ??)


魔王が戦いの事など忘れ長年探していたものの様に歓喜に奮えている。

気になって目線の先に向ければあれは――――稲だ。


「えっこの世界にも米があるのか!!」

「うむ!これは米だな!やっと念願の米が食べられる!!」

「えっおっ俺にも米くれ!白飯食いたい!!」

「うむっ!!まだ葉も青々しいもう少し穂が垂れてからだな!」

「やったぁぁ!米だぁぁあ!!……てっへ?魔王……米知っていたの?この世界じゃ米なんて概念なかったんじゃないのか?」

「うむ。そうだとも。どれほど探したことか……異世界であるからして懐かしの米が食べられないことには死活問題であるからな。ずいぶん探したものだ。米を知ってるとなると勇者は日本という言葉はご存知か?」

「異世界って……あぁ日本は知ってるぞ故郷だからな――という事は魔王は異世界という事は転生だとかそっちなのか?」

「ををっ!まさかの同郷に会えるとはな!うむ!まさしく転生にてこちらの世界にきたのである!稲に気づかなければ同郷者をやってしまっていたな!」


ここでお米つながりの異世界友情の誕生である。

これを境に、魔王と勇者の交流が始まり、時折合間を縫って稲の様子を見に行ったり語り合ったりしていた。それの時間は勇者にとっても魔王にとっても大切な時間となっていた。


―――――――――――――――――――――――


「シルト……いや魔王!この手で貴様を討ちとってやる!」

「やってみろ勇者ユウトよ!その手で我を止めて見せよ!」


この戦争も終盤、魔王城の玉座にて勇者と魔王がぶつかり合う。

二人が友であるがこれは戦争。仲を引き裂くように残酷にもその現実を叩き付けられる。

ここに来る途中、つき従ってきた勇者パーティーである賢者“マーリン”・剣豪“ダレン”・巫女にして第二王女“ローナ”・第二王女の近衛“ジャック”。この4人は勇者を玉座に向か合わせるため四大魔将と剣を交えている。




2人の戦いも苛烈を極め満身創痍の頃、どこからともなく時空の裂け目が現れ

―――極光の光線が放たれた。


そのことに気付いた魔王はユウトを庇うように光線へと向かい致命傷を負った。


『ふふふ。勇者よそなたのおかげぞえ』


どこからともなく空間に響く声が広がり、時空の裂け目が閉じていく。

その事態を目の当たりにしたユウトは――1歩も動けなかった。驚きと、あの強かった友が崩れていく姿に。

思考が回復し直ぐに魔王の元へと駆け寄った。


「ぐふっ……ふっ最後は友の手の中で逝けるとはな…光栄だ……」

「バカッ…バカシルト!なんでだよ…なんでなんだよ!一緒に戦争の無いとこで過ごそうって言ったじゃないか!バカヤロウ!」

「これも…グフっ……定められた運命なのかもしれんな…ユウト……この世界の神には気をつけろ…グハッ!」

「おい!……しっかりしてくれ!!くっ回復魔法が効かない!!おい!おい!」


必死に回復魔法を試みるが効かない。

最上級である女神の癒し(ビーナス・ヒーリング)を行うが効く気配すらない。


「ふっ……ユウト……娘の事は…ブルームのこ…とは…たの…む……ぞ……」

「シルト…バカシルト!目を…目を開けてくれ…シルト…」


その言葉を最後に魔王は息を引き取り。

勇者ユウトは真の英雄として称えられようになった。

――最大の友の命と引き換えに。






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