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『をを!召喚に成功したぞ!我らが救世主が降臨された!』
転移の光が消え、辺りを見渡せばフードを被った魔人や龍人など比較的高位の魔力持ちが魔方陣を取り囲んでいた。
『なっ!?人間族が召喚されたぞ!』
『くっ一縷の望みを賭けて古代召喚呪紋を使ったが失敗だったか!!』
『殺せ!人間族など殺してしまえ!』
―――召喚草々、やる気に満ちてるねー…はぁ
召喚成功の歓喜からの一転。光が収まってみれば見えたのは人間族。
周りの者達は一様に憎悪の視線を召喚した者に向け、武器を構える。
希望に縋ったのだが、召喚されたのは憎き人間族。
手間と時間と労力をかけてが武器を向け戦闘態勢に入る。
「はぁ……まぁ落ち着けって召喚したのはそち……」
『黙れ!!しゃべるな!!貴様なぞが意見するでない!』
「たくっ頭に血が昇ってるっての――『グラビティフィールド』」
今にも襲い掛かってきそうで話もできない。
まずは話を聞いてもらうため重力魔法を周囲に展開し動きを押さえるが
少し強かったのか踏ん張れ切れずに地に伏す者もいた。
『ぐはっ!な…んだこの……魔法は……』
「すこしばかり話を聞いて貰えませんかねー?こちらも聞きたいことがあるんですので、まずは武器とその殺気を押さえてくれませんかねー」
部屋の中央で一人佇む男と周りで倒れ伏すもの。
彼らの目には先程憎悪で向けていた視線の中に少しばかりの人間族に対する怯えもあった。
しかし今の目の中には混乱と―――強者に対する目に変わっていた。
『ぐぅう。わ…わかった…だからこれを……止めてくれ』
「話を聞いて頂けるのであれば……分かりました」
そういうと周囲を覆っていてた重力力場がすっと消えていった。
まだ力あるものは直ぐ立上り男を睨む。力なきものはヨロヨロと立ち上がる。
『皆の者!敵意を見せるでない!その場におれ!……大変失礼しました。突然の召喚に応じて頂きありがとうございます。この国は“オルドラン魔国連合”そして我が名はサイラス・フォン・アトランと申しますじゃ。ここ、主都の“セイブル”にて大公の地位を頂いてございます』
先程から話をしている魔族のおじいさん。
黒いフードを被っており、大公でわかるとおりこの中ではトップなのだろう。
男の中ではまだこの世界の出来事は5年前である。一目見て、目の前にいるサイラスが、面識のある魔族だと直ぐに分かったが、来たばかりだ。少し魔法を使って反応を見てみた。
「ふむ。なるほど魔国か…」
『はい。20年程前に勇者殿が先代魔王“シルトクーゲル”様を討たれ、ご息女であらせられた現魔王“ブルーム”様が魔王になっており現在、人間国と戦争中でございます』
サイラスから先代魔王“シルトクーゲル”の事を聞き昔の事に思いを馳せる。
最後は命を賭けあう事になってしまったが、今でもこの世界の最大の友は彼だろう。
戦い以外でも出会う事もあり意気投合したものだ。
その時に娘――現魔王“ブルーム”のことも聞いており、一度目にしたこともある。
「―――そうか。あの娘は魔王となる道を選んだか」
『でありまして現在、人間国では――もしや…魔王様をご存じで?名を…名をお聞かせ頂けますでしょうか?』
ぼそりとサイラスが話している最中につぶやいてしまったので気づいたようだ。
今更だが名前も言ってないことを思い出し名を名乗る。
「ああっそういえば名乗ってなかったな。“高羽悠斗”…ユウト・タカバネの方が分かりやすいかな?―――こっちだと20年ぶりだなサイラス。元気だったか?」
伸びきった前髪を上げ顔が見えるようにオールバックにし、微笑む。
『つっ!ゆう…勇者殿…お久しぶりで…ございます!!そんなに髪を伸ばされては直ぐに分からなかったではないですか!……お帰りなさいませ』
「うん。ただいま」
サイラスや周りにいた者達も含め驚愕に目を開く。
だが次に皆の目からは――落ちる涙。
それは悲しみの涙ではなく喜びの、再会の喜びを表す涙であった。