お買物がしたい
モーションコントロールのVRゲーム。
さすがというか何と言うか、無駄にリアルで移動が面倒くさい。
四階の自室からエレベーターへ、エレベーターを降りると渡廊下を通って、食堂へ。
広い食堂はヴィッフェスタイルだ。中世ヨーロッパっぽい雰囲気に合わせてか素材の分からない魔女っぽい鍋には黒くてドロドロとした液体が……。
「ミカゲ君。ごはんはどこだろう?」
「コレコレ、この鍋のやつ」
ミカゲは親切にもトレーに深皿とスプーンを用意してくれる。
「この毒っぽい物はなんだい?」
「これはオールミールつって、一日二食、三日間食べ続ければ魔力が1上がる奇跡の料理だ!」
「ほ〜ぉ。しょうがない。食べてみようか」
VRには今のところ味覚再現機能はないのでどんなゲキ不味料理でも大丈夫なのだ。やっぱり魔法といえばイギリス。イギリスといえば……って感じの料理なんだろうなぁ。
さて、食堂の片隅でごはんを食べようとすると、ミカゲがどこからともなくマイスプーンを取り出して私の皿から食べ始める。
「おいしい?」
「……う〜ん。無味」
「この色で?」
「うん……いや、薄〜い塩味かも……」
「そうか……」
ひと匙すくってみるとドロっとした感覚が伝わってくる。う〜ん。触感はおかゆ? おかゆだな。味は……ないな? 無味。食感もなし。
これを三日かぁ〜。
このゲームは一日が48時間なので六日間ログインして食べればいいのだが……。厳しいな。
『魔力が回復しました』
「! ミカゲ!魔力が回復したよ!!」
「うん。オールミールだから」
「へぇ……そうなんだ」
なんとか食事を終え、寮の外に出てみる。
ミカゲが私の周囲を飛び回る。その度にピロロロロ〜っという音がする。
「いい天気だな〜〜。お丞! 誰か来るぜ〜」
ミカゲの方を見てみると金髪の女の子が白っぽい妖精を連れている。
「こんにちは」
「こんにちは、新人さんですか?」
「はい。さっき始めたばっかりで」
「どちらの寮ですか?」
「風です! その子は何の妖精ですか?」
「この子はミュシャ、光の妖精です」
「へえー光かぁ。いいなぁ」
「お丞! 闇だっていいんだぞ!」
私の頭に降りてきたミカゲが人の頭をテシテシしながら言う。
「あなたは闇の妖精なのね? はじめましてエンデです」
金髪の女の子が微笑む。
「おう! エンデにミュシャ。俺はミカゲだ。よろしくな!」
「ああ、私は」
「お丞の名前は分かってると思うぞ?」
「え? なんで?」
「見れば分かるだろ?」
名乗ろうとした所をミカゲに遮られたのでよく見てみると、緑のカーソルにエンデと表示されている。
「お丞は字が読めないのか?」
「読めるわい!」
ミカゲに突っ込んでいるとエンデに笑われる。
「面白いお二人なんですね、私も風の寮だからまた会いましょうね?」
「はい!」
そしてエンデは寮へと戻っていく。
「初めて人に会ったわ〜」
「それよりこれからどうするんだ?」
「町へ行ってみよう!」
「おー!」
私は今魔場の敷地内いる。かなり広い敷地はぐるっと壁で囲まれているので門で通行証を受け取る。出入りの時に見せないといけないらしい。
通行証は首からぶら下げるタイプで生徒手帳みたいになっている。
∽────────∽∽────────∽
アイテム
【魔法試験実験場通行証】を手に入れました。
∽────────∽∽────────∽
「よ〜し。まずは買い物だぁ! って、お金ないな」
「お金は自分で稼ぐしかないな」
「そうなの……とりあえず何が売ってるか見てみよ〜」
「道具屋はこっちだぞ〜〜」
ミカゲはピロロロロ〜っと飛んでいく。町は魔場の敷地に沿って中々広いが、通り一本向こうは空き地だった。
「いらっしゃ〜い」
気の抜けたドアベルの音共に店員の声がする。
「お邪魔しまーす」
棚には色々な瓶が並んでいる。
「ミカゲ君。あの8cってのはなんだい?」
「値段だぞ。8コインだ」
「1Kcってのは?」
「1キロコイン。1000コインってこと」
「あーメートルとかグラムとおんなじなのね〜」
一番安いのはオールミールの丸薬。効果はさっき食べたのと同じだが量が少なく持ち運びに便利らしい。
一番高いのはステッキだ。
ぱっと見で欲しい物はなかった。あっても買えないけど。
「また来まーす」
「ありがとさーん」
私以外に客もいないので声をかけてから外に出た。