はじめての魔法
『それでは貴方のこれからをサポートする妖精を召喚しましょう』
何でも出来るシュミレーション魔法ゲーム。そんなキャチコピーに惹かれた私はとあるゲームを始めていた。
そしてどうにか自分のアバターを作り上げると、次の指示がこれだった。
目の前のウインドウには透明な三角の柱。底辺の角には数字のバーがある。
『お好きな三角を作って下さい』
「えー説明はないの?」
『お好きな三角を作って下さい』
「あ、はい」
何を言ってもそれしか返って来ないので適当に操作、せずに決定ボタンを連打してやった。
まあ、アレだったらやり直せばいいしね〜。
『次は高さを決めて下さい』
連打連打。
『次は広さです』
連打、と。
そして出来たのは極小の三角柱……てか点だ。
「続いて動きを作ります。箱の中で五回動いてお好きな線を引いて下さい」
今度は上下左右に動かしてから元に戻る線を引いた。
すると目の前の透明な三角の柱と箱がフワフワと動いて衝突、光を放つ。
そして現れたのは手のひらサイズのコウモリの羽根を持った黒い男の子。
「よう! 初めまして、おいらは闇の妖精だ。名前付けてくれ!」
「分かった、じゃあ……ミカゲね」
「りょーかーぃ。そんじゃ、あんたの名前を教えてくれ」
「……雪之丞」
「あんた女の人だよな?」
「うん」
「そっか、じゃあお丞って呼ぶな、これからよろしく〜」
∽────────∽∽────────∽
闇の妖精【ミカゲ】と契約しました。
∽────────∽∽────────∽
気の抜けた効果音とともにメッセージが聞こえる。
「じゃあ早速、お丞はここ始めてか?」
「うん」
「そっか、ここは魔法試験実験場。なげーんでみんな魔場って呼んでる。
お丞みたいな新人は最初に寮を選ぶんだ」
ミカゲと話しているうちに景色が切り替わり次元の狭間みたいな所から広い工場のような場所になっていた。
「あの高い建物が寮で、火、水、風の三つだ、どれがいい?」
「何が違うの?」
「お丞は魔法使いになるんだろ? 一応魔法使いには得意分野があって、一番基本的なのが火水風だ。それぞれが得意なのが集まるからやりたいのを選べばいい」
そう言われても、どれでもいい。しかし目の前には闇の妖精がいる。闇が得意な人は何処にいるんだ?
「闇は何なの?」
「闇は……プラスかマイナスかみたいなもんで、その三つに全部ある」
「……えーじゃあ風で」
「よし、風な、行こう!」
何故風にしたのか、何か他が居心地悪そうなイメージだったからだ。
連れて来られた風の寮で鍵を受け取り、部屋に向かう。六畳ほどで机と本棚、それからハンモックがあった。まあ、ゲームだから寝ないしね。
「お丞! 俺にもベットをくれ!」
「私でもハンモックなのに?」
「そこの引き出しにタオル詰めてくれればいいから」
「自分で出られないんじゃない?」
「じゃあドアも付けてくれよ」
「どうやって?」
「魔法だよ! 何しに来たんだよ!」
「ああ、でも魔法の使い方が分からないよ」
ミカゲは信じられないと言う顔をしたと思う。
「えーと、まずは魔法を使う動作を決めんだ。
お丞! きをつけ!」
「はい!」
何故か勢いよく出された指示に従ってしまう。
「よし、これからやった動きが魔法起動の合図になる」
「待って待って待って! 例えばどんなの? 例題を下さい!」
「えー、何でもいいけど、意識しないと絶対しないやつだな。右手で左耳触って、左手で右耳触るみたいな」
「かっこ悪っ、分かった少し考える」
……よし、浮かばない。もういいや、指パチッンで。音出せないけど。
「決めた」
「おーし、じゃあ合図するから動いてー」
そう言うとミカゲは手を叩く。
私は指パチッンを出来るだけ目立たないようにやった。
「オッケー、魔法陣が見えるか?」
「魔法陣?」
目の前にはさっきミカゲを作るときに見た透明な三角の柱と箱が見える。
「これが魔法陣なの?」
ミカゲは私の頭に乗ると、説明をはじめる。
「三角の方が、さっき話した基本の火水風の三要素の量で高さが発動時間。天井が発動範囲だ。意味分かるか?」
「要はデカイほど長い時間で広いって事?」
「そうそう、でも三要素の組み合わせはそうでもない。火がMAXで他がゼロなら火が付くし、水なら水が出る感じだ」
「ほー、試して見ていい?」
「まてお丞、ステータスを見ろよ」
「ステータス?」
「えぇっと、腕時計の上に何か数字があるだろ?」
「ああこれねー」
11:32 /雪之丞 :L1 H25 M10
確かに表示があった。時計しか見てなかったわ。
「Mの後が魔力値だ。ゼロになったら使えないから、気をつけるんだ」
「えーどれぐらい減るの?」
「知らん!」
「えー? でもドア何てどう作ったらいいのさ!」
「いきなりドアは難しいから、段階を踏もう。まずは穴を開ける」
なるほど、引き出しを取り出してみる。
「ここに穴を開けるなら風か水かな?」
「風と水を混ぜればいい」
「へー、ウォターカッターみたいになるのかな?」
「だな、火0水1風3で、範囲は1で時間は3って事かな?」
∽───────∽魔法陣∽───────∽
火:0
水:1
風:3
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域:1
時:3
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
コスト:8
「おお! 出来た、けどコスト8って?」
「魔力値から8減るんだ」
「エグいな! どうやったら増えるの?」
「方法は結構あるけど、とりあえず時間かな。一分で1増えるぞ」
「はぁー、そんなもんかぁ」
「まだあるぞ、次は箱の方だ。そっちは魔法の動きだ。起点から線を描くんだ。今回は何処でもいいから指で触るだけでいい」
言われた通りにやってみた。
動
1:・ 2:・ 3:・ 4:・ 5:・
∽────────∽∽────────∽
『オーダー入りました。命名しますか?』
謎のアナウンスがある。
「今の魔法に名前をつけると後で簡単に起動出来るんだ」
「後で変えられる?」
「うん。変えられるし、消せる」
「よし、命名ウォターカッター」
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ウォターカッターで命名されました。
待機:ウォターカッター
起動しますか?
はい:←
いいえ:
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ウインドウにはボタンが表示されている。
「これって、毎回ボタン押さないとなの?」
「名前があれば、読むだけでいいぞ?」
「ほー」
それは後回しだな。とりあえず机から羽根ペンを取り、インクを付けて引き出しに印をつける。
「これくらいでいい?」
「ちっちゃくないか?」
「外側で切るからいいの!」
と言う訳でやって見ました。まずはボタン操作で、起動っと。
魔力値が8減って指先に数センチの水が現れる。
そのまま引き出しに触れると、風の力で圧力と流れのあるらしい水が引き出しの木材に穴を開ける。触れたまま円を描くと綺麗に切取る事が出来た。
「おお〜出来た!! ……てこれいつ終わるの?」
指先にはウォターカッターがそのままだ。
「時間がくれば消えるよ」
「こっちで消せないの?」
「そのうち出来る様になるんじゃないか?」
「そんな……」
確かにウォターカッターは少しで消えたが、不便だ。
ミカゲは何処からかタオルと布を引っ張り出してベットと、引き出しに挟んで目隠しを作ると満足げにしている。
「寮の中を探検してみようよ」
「はぁーい」
ミカゲは私の肩に座る。
「まずはご飯食べようぜ〜」
「そうだね、食堂に行こう」
魔法レシピ
1:ウォーターカッター