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正体

 同じころ、イタリアンレストランディーノを一人の長髪の女が訪れる。ドアが開き、女が顔を見せた瞬間、店主の板利は声を出した。

「結構早かったな」

 店主の声を聞き、女はカウンター席に座る。いつものように、店主の男は女の目の前に、水が注がれたガラスコップを置く。

「ハニエル。お前がここに現れたということは、何か分かったんだな?」

 板利が尋ねると、その女は首を縦に振る。

「はい。十年前にも公安に取引場所が張り込まれたと聞いて、興味を抱きましたよ。十年前、未遂に終わったテロ事件」

「ああ、ラグエルも疑問視していたな。組織に資金援助していた財閥のパーティーを襲撃するのはおかしいって」

「そこで私は、キーパーソンに注目したんです」

「キーパーソン?」

 何のことかと分からない店主は首を傾げる。すると、ハニエルはハッキリと答えた。

「菱川奏。菱川財閥の一人娘で、十年前の四月に命を落としています。彼女が殺害された未解決事件。覚えていませんか?」

「確か、十年前の早朝、菱川財閥の別荘の丘の上で、当時十四歳の菱川奏が狙撃されたんだったな。犯人は未だ捕まっていない。その事件がどうしたんだ?」

「菱川奏暗殺事件に、私たちが所属する組織が関与していたとしたら……」

「あり得ないな。先程十年前の犯罪計画書を確認したが、そんな事件の計画書はなかった。それに、何で菱川財閥の一人娘を暗殺しなければならない」

「暗殺事件の計画書は、隠蔽されていたとしたら、どうですか? 十年前未遂に終わった人質籠城事件。その未遂事件の一か月後に、暗殺された菱川財閥の一人娘。十年前のテロ事件は、最初から菱川奏殺害を目的としていたら、辻褄が合います」

「犯行計画書が隠蔽ね」

 どうにも納得できないサマエルは、腕を組む。それに合わせて、ハニエルは説明を続けた。

「お話はこれで終わりではありません。新メンバーの三人の身辺調査を済ませた私は、あの三人の中に、十年前暗殺された菱川奏と繋がる人物がいることに気が付きました」

「いくら経歴を詐称しても、すぐに身元が分かる。流石だな」

 サマエルはハニエルの捜査能力の高さ舌を巻く。

「実は、あの三人の中には、今回我々が暗殺しようとしている相田文雄の息子がいるんですよ。さらに、菱川奏が暗殺される日、菱川家の別荘を、彼は訪れていました。因みに、相田家と菱川家は家族ぐるみの付き合い。あの日、別荘には相田家と菱川家の人間しかいなかったようです」

「早く言えよ。誰のことだ?」

 サマエルが急かすと、ハニエルは頬の隅に皮肉な笑いを漂わせた。

「相田の息子の名前は、相田修。コードネームはアナフィエル」

 ハニエルが語る名前を聞き、サマエルは思わず息を飲み込んだ。

「なるほど。そいつは面白い。だが、状況証拠しかないんだろう?」

「大丈夫ですよ。数時間後に実行される暗殺計画。あれで尻尾を見せるはずです。兎に角、私の推理をラグエルに伝えましょう」

 そうしてハニエルは、携帯電話を取り出し、ラグエルに電話を掛けた。


霞が関の道路の路肩に、一台の白色のランボルギーニ・ガヤンドが停車している。その運転席でラグエルは、ハニエルからの知らせを聞いた。

「確かですか?」

『はい。サマエルさんに確かめてもらいました。顔認証システムを使ったら、一発で分かりましたよ』

「なるほど。サンダルフォンには、僕から連絡しておきます」

 ラグエルは電話を切る。それと同じタイミングで、彼の元にウリエルからのメールが届いた。

『平成十六年四月、菱川財閥は一円も出資していません』

 スマートフォンの画面に映し出された事実を知り、ラグエルは頬を緩める。それから彼は、ハザードランプを消して、自動車を新たな集合場所へ走らせた。


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