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疑惑

 組織幹部の集合場所に公安の刑事が張り込んでいたという情報を、ラグエルはイタリアンレストランディーノで知った。

 それから数分後、カウンター席に座る彼の携帯電話が鳴る。それを耳に当てると、聞き慣れた関西弁の男の声が、ラグエルの耳に届く。

『俺や。そっちにサマエルがおるやろ? 調べてほしいことがあるねん』

「何でしょうか?」

『十年前にも、同じように公安の刑事が俺らの組織の幹部が姿を見せる場所に先回りして張り込んだんや。確証はないんやけど、もしかしたら公安の鼠は十年前にもいた可能性もあり得るわけや。せやから、十年前の幹部メンバーについて調べてほしいねん』

「新たにコードネームを得た3人はフェイク。本当の鼠は、十年前の組織メンバーの中にいるってことですね?」

『確証はないんやけどな。俺らはサンダルフォンの元へ向かってる所や』

 サラフィエルからの報告を聞き、ラグエルの脳裏に、ガブリエルの顔が浮かんだ。

「分かりました。調べます」


 疑惑を抱いたラグエルは携帯電話を切り、隣に座りノートパソコンを操作しているサマエルへと視線を向けた。

「サマエル。十年前の組織メンバーのリストを見せてください。それと、十年前サンダルフォンが行おうとした犯罪計画についても調べてください。もしかしたら、その計画に関わった幹部の中に、公安の内通者がいるかもしれません」

「やってみよう」

 サマエルは、組織のコンピュータにアクセスして、画面に組織幹部のリストを表示させた。その後で、組織が関わった犯罪ファイルを画面に映し出す。

「それで、十年前のいつだ?」

 サマエルが頭を掻きながら尋ねると、ラグエルはハッキリと答えた。

「平成十六年三月九日」

「了解」

 サマエルは犯罪が行われた日付を入力する。その日付で検索した結果を見て、サマエルは大声を出す。

「見つかった。十年前に計画が頓挫した犯罪計画」

「本当ですか?」

 ラグエルは画面を覗き込む。すると彼の瞳に『シオミヤビル人質籠城事件』という文字が映った。サマエルがファイルをクリックして、計画の詳細が表示される。それをサマエルは読み上げた。

「菱川財閥の一人娘、菱川奏ひしかわかなでの誕生パーティーを襲撃する。要求は十億円。だが、計画が実行される前日。三月九日に公安の妨害で取引が中止となり、計画は中止となった。中止の理由は、計画に必要な高性能爆弾が公安によって取り押さえたから」

「菱川財閥?」

「知らないのか? 菱川財閥。経済界を牛耳る財閥で、百億円以上の資産がある。ところが、四年前に頭首の菱川愛之助ひしかわあいのすけは、人に会うと言って失踪した」

 サマエルの話を聞き、ラグエルは顎に手を置いた。

「その要求。何か違和感がありますよ? 他に何か別の要求があるのではありませんか?」

「いいや。要求は十億円としか記載されていない。もしかしたら、別の目的があったのかもしれないな」

「それです。僕の記憶が正しければ、菱川財閥は、我々の組織のスポンサーとして、資金を横流ししていたはずです。それなのに、なぜパーティーを襲撃しなければならなかったのか? 気になりますね」

 腑に落ちないラグエルを他所に、サマエルは画面をスクロールする。

「出て来た。これだろう? お前が見たかった奴。計画に参加した組織幹部のリストだ」

 ノートパソコンに大きく表示されたリスト。それを見たラグエルは、胸に抱く疑念が強まった。

『参加者。レミエル。サンダルフォン。ウリエル。ガブリエル。ザドキエル』

「ウリエルも計画に参加しているのかよ。あいつ何歳だ?」

 思わず疑問を口にするサマエルに対し、ラグエルは頬を緩める。

「違いますよ。今のウリエルではなく、昔のウリエル。本名は麻生恵一。三年前に病死したから、容疑者から外して構わないでしょう」

「そういえばアイツは、父親の跡継ぎで組織の幹部になったんだったな」

「そうですよ」

「それと、一人だけ聞き覚えがない奴がいるな。ザドキエルって奴」

「サマエル。面識がありませんか? あの方直属の部下で、現在の主な活動拠点は、九州地方。アズラエルのように、古参メンバーのようです。その正体は謎に包まれていて、本名や職業は不明。最も本名不明なのは、サンダルフォンも同じですが」

「どう思う?」

 サマエルがノートパソコンの画面から顔を上げ、ラグエルに尋ねる。すると、ラグエルは淡々とした口調で答えた。

「十年前にも公安の内通者がいたというサラフィエルの推理が正しいとすると、容疑者は四人。その中には、俺が疑念を抱いている人物もいるんですよ」

「そいつは誰だ?」

「ガブリエル。あいつが公安の内通者だったら、全ての謎が解けるんですよ」

「それはどういうことだ? どうしてお前は、アイツを疑う? ガブリエルはお前の幼馴染ではないのか?」

 ラグエルの心理が理解できないサマエルは、慌て、矢継ぎ早に質問を重ねた。だが、ラグエルは表情を変えない。

「犯行動機は不明ですが、十年前や今回のように、取引場所に公安を張り込ませて、レミエルを拘束しようとした件。そして、相田を逃がした件。全ての事件には、ガブリエルが関与している。それを偶然と言えますか?」

「確かにおかしいが、本当に良いのか? その推理が正しかったら、ガブリエルは殺される。そうなったら……」

「寿々白が悲しむと言いたいのですか?」

「そうだ。そしてお前はガブリエル暗殺を許さない」

「あくまで可能性の一つですよ。兎に角、探りを入れてみる必要はありますね。ということで、ウリエルに探ってもらいましょうか?」

「えっ」

 その瞬間、サマエルは目を点にした。

「何でしょうか?」

「だから、自分で調べないのか?」

「言いましたよね? 彼女の元に行くってことは、寿々白と再会するってことと同義。それを寿々白と僕は許せません。だから、回りくどくウリエルに調査を依頼するんですよ。ハニエルは、警視庁に潜入調査中。レミエルとサラフィエルは、別件で動いています。僕は行きたくないから却下。残るは、ウリエルとサマエルとサマエルのみ。サマエルは店を閉めるわけにはいきません。ウリエルは、仕事中。だから、ガブリエルの命令で捜査しているハニエルを頼ります」

「それもいいが、お前の方が良いんじゃないか? こういう捜査は、二手に分かれてやった方がいい。その方が効率的に真相に辿り着ける」

 サマエルの正論を聞き、ラグエルは肩を落とす。

「分かりましたよ。ガブリエルを呼び出して聞き出します。それなら寿々白に会わなくてもいいですから」

 サマエルは、心の中で『最初からそうしろ』と呟いた。

「それとサマエル。ウリエルにも連絡してください。菱川財閥の帳簿を調べてほしいと」

 ラグエルは勘定を済ませ、イタリアンレストランから立ち去った。


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