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再会

 その日のイタリアンレストランディーノは、相変わらず閑古鳥が鳴いていた。昼休みの時間にも関わらず店内には、前髪を七三分けにした優男、愛澤春樹あいざわはるきしかいない。

 カウンター席に座り、ミートソーススパゲッティを食べている愛澤の正面では、シェフらしい白色の清潔感のある調理服を着た男、板利明いたりあきらがコーヒーカップに口を当てている。

 そんな板利は、何気なく正面に設置されたテレビへと視線を移した。

『次のニュースです。昨日午後十時頃、群馬県清明村の山中で、男性の白骨死体が発見されました。群馬県警の発表によりますと、遺体は死後数年が経過しており、県警では身元の確認を急いでいます』

 このニュースが流れた直後、ドアの開閉を知らせる鈴の音が店内に響き、一人のグラマーな女性が店内に入ってきた。

「いらっしゃい」

 店主の板利は挨拶しながら、女の顔を思わず二度見する。黒髪のショートボブと二重瞼が特徴的な顔。間違いないと板利は思った。

 その女は、愛澤の隣のカウンター席に座る。そうして板利は水を注いだコップを女の前に置く。それから愛澤に声を掛けた。

「隣に懐かしい奴が座っている」

 板利の声を聞き愛澤は、顔を右に向けた。それに合わせ女は微笑む。

「春くん。久しぶり。一か月ぶりだよね? 会いたくなったから来ちゃった」

 女の声を聞くも、愛澤は表情を変えない。そんな彼のことが気にかかり、板利はジド目で愛澤の顔を見た。

「一か月ぶりの幼馴染との再会じゃないか。喜べよ」

「違います」

 思いもよらない愛澤の答えに、女は一瞬表情を曇らせた。

「どういうことだ?」

 板利が疑問を口にすると、愛澤はため息を吐く。

「あなたは彼女のことを、江口寿々えぐちすずじろだと思っているようですが、実際は違います。まず胸が江口寿々白よりも大きい点。そして、あなたの動機。僕に会いたくなったから、一カ月ぶりに会いに来た。本物の江口寿々白は、罪を償わないと姿を見せない。たったの一か月で罪を償ったと思うような不届き者ではありませんよ。彼女は」

 愛澤の推理を聞き、その女は再び微笑んだ。

「簡単に見抜くなんて、凄いですね。そう。私は江口寿々えぐちすずな。寿々白は双子の妹だから、成り済ますことも容易だと思ったのに」

 頬を膨らませる寿々奈に対し、愛澤は首を傾げながら尋ねた。

「それで何の用ですか? ただ寿々白に成りすますという内容のドッキリがやりたかっただけじゃありませんよね?」

 その疑問に対し、江口は手提げかばんからスマートフォンを取り出し、それを愛澤に見せた。

「とりあえず、このニュースを聞いて」

 寿々奈は右眼でウインクしてから、ニュースサイトの動画を再生する。

『東都港に浮かぶボードが爆破された様子を撮影した動画が、マスコミ関係者に送られました。そのことから、警視庁公安部では、爆破テロが発生するのではないかと警戒を強めています。また、東都港では同様の爆破事件が発生しており、警察は関連性を調べています』

「知っていますよ。それがどうしたのでしょうか?」

「この爆破事件は私が仕組んだ物。新たにコードネームを得たメンバーで構成されたチームを使い、ある人物を誘拐したのが発端ね。相田文雄あいだふみおっていう次期法務大臣候補。今回の刑法改正の内容は知っていますか?」

「組織犯罪の死刑囚は共犯が逃亡していたり、公判が終了していない場合、死刑執行が行われません。これまで様々な事件に関与してきた我々の死刑は確実でしょう。しかし、戸籍上は死亡扱いになっているあなたを、警察は逮捕できない。あなたを被疑者死亡で野放しにすれば、世論が黙っていない。だから刑法を改正して、あなたを逮捕するための法整備を進めようと法務省は動いているのでしょう」

 愛澤の説明に、寿々奈は首を縦に振る。

「正解。刑法改正を主張する彼を誘拐して、私たちは法務省と取引をしようとしたの。もちろん法務省は、テロリストとは交渉しないっていう姿勢を貫いた。その結果、相田はボードに乗せられ、そのまま爆死。そのはずだったのに、妙なことになっていてね」

「妙な事?」

 愛澤が首を傾げると、寿々奈はスマートフォンに保存された写真を、彼に見せる。そこには、愛澤が記憶している相田の姿が映し出されていたのだ。

「これが撮影されたのは、昨日のこと。私が手に入れた情報だと、彼は今日の飛行機で成田空港から某国へ逃げるらしい。もちろん、その前に暗殺するけど、問題はそこじゃない」

「なぜ彼は生きているのか?」

「そう。組織内に公安の内通者がいる。手足が縛られて動けない男が、爆破炎上するボードから脱出させるためには、あの三人の中に裏切り者がいないと、不可能だから。もちろん予め公安が、アジト周辺に潜んでいた可能性もあるけど、それなら彼らは、緊急逮捕されているはず。それがないってことは、ユダが相田を助けたってこと。そして相田は、何事もないように、海外で隠居生活。何をしてほしいのか? 分かるよね?」

「内通者探しですね?」

「正解。そういう調査は得意でしょ? ラグエル。同じ調査は、探偵のハニエルにも頼んでいるけれど、一応あなたにも調べてほしいから」


 自身のコードネームを聞き、愛澤は頬を緩めた。愛澤春樹は、テロ組織『退屈な天使たち』に所属するテロリスト。同じく江口寿々奈も愛澤が所属するテロ組織の幹部。そして、板利も組織のメンバー。つまり、この場には三人のテロリストたちが集っていることになる。

「面白い仕事ですね。ところで、あなたの計画に関わったメンバーは誰ですか?」

「私を除外すると、容疑者は三人。全員組織の新メンバー。とりあえず写真を見せるわ」

 そうして、ガブリエルは三枚の写真をカウンターの上に並べた。まず彼女は、一番右端に置かれた、二十代後半くらいの、清潔感なる短い黒髪の男の写真を持ち上げた。

「彼のコードネームはアナフィエル。巧みな話術を駆使して交渉を担当する面白い男」

「面白い男?」

 サマエルが口を挟むと、ガブリエルは赤面しながら顔を上げた。

「彼のコードネームを弄ったら、下ネタになるでしょう」

「そのことは、どうでもいいでしょう。次は誰ですか?」

 ラグエルがガブリエルを急かした。その後でガブリエルは、中央に置かれた茶髪の髪を長く伸ばし、前髪をコケシのように垂らした若い女の写真を、ラグエルに見せる。

「彼女のコードネームは、メルカバー。典型的なハッカー。自己顕示欲が強いナルシストタイプ。自分のハッキング能力を他人に見せつけるために、あらゆるコンピュータにハッキングを繰り返す」

「なるほど。サマエルとは違うタイプのハッカーですね?」

 ラグエルはサマエルの顔を見る。サマエルはハッカーだが、必要以上のハッキングは行わない謙虚なタイプだ。

 最後にガブリエルは左端に置かれた、厳つい表情の大男の写真をラグエルに見せた。

「コードネームはザフキエル。この筋肉質な体付きに関わらず、爆弾クリエイターとして、多彩な爆弾を作り出すスペシャリスト。そんな彼は、ラグエルに会いたがっている」

「なぜでしょう?」

「サーモっていう人間が発する熱に反応して爆発する奴を開発したラグエルに、話が聞きたいと言っていました」

「なるほど。新メンバーね。それなら泳がせましょう。組織に潜入した愚かな内通者さんを」

 ラグエルは、不敵な笑みを浮かべ、スマートフォンを取り出した。

「泳がせるって、どういうこと?」

「計画通り実行するってこと。このことをサンダルフォンに話したら、ノリノリで計画を変更すると思います。だから、ガブリエルは帰ってもいいですよ? こっちの管轄はサンダルフォンだから」

 笑顔になり、自分の顔を見た愛澤に、寿々奈はムッとした。

「何も知らないの? 数か月前に発生した同時多発連続殺人事件で、私は政治家生命が絶たれたって。だから、今は東京在住なのね。もちろん寿々白と仲良く同居しているから、遊びに来てもいいよ」

「だから、会いたくありません。罪を償うまで、会わないという約束ですから」


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