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受難

 暗殺計画二十分前、ポルシェ・ボクスターの助手席に座っているザフキエルは、違和感を覚えた。自動車は計画書に記された高層ビルの屋上から遠ざかっている気がする。

 何かがおかしいと思ったザフキエルは、首を傾げ、運転席の男に尋ねた。

「レミエル。どこに向かっている?」

「いいことを教えてやろうか。あの犯行計画書はフェイク。裏切り者を炙り出すためのなぁ」

 ポルシェ・ボクスターは、高層ビルの反対方向に進む。


 暗殺計画十分前。黒色のシトロエンBXは、お台場の高層ビルの地下駐車場の中で停車する。運転席から降りたアナフィエルは、トランクルームを開け、銀色のアタッシュケースを取り出した。彼はそれを手に持ち、足早に屋上へ向かうため、目の前にあるエレベーターのボタンを押した。

 一方助手席に座っていたサラフィエルは、頬を緩めて男の後を追う。間もなくしてエレベーターが到着し、防犯カメラの壊れた鉄の箱に、二人のテロリストが乗り込んだ。

 自動的にドアが閉まり、階数を示すボタンにアナフィエルが手を伸ばした時だった。

 突然天井から白色の煙が噴き出したのは。その煙を吸い込んだ瞬間、アナフィエルは強い睡魔に襲われる。

 スパイは不意に、サラフィエルの顔を見た。相棒を組むはずだった関西弁の男は、ガスマスクを被っている。

 そうして、アナフィエルは何もできず動き始めたエレベーターの床に倒れた。


 次にアナフィエルが目を覚ました時、彼は何の特徴もない白い壁に覆われた部屋の中にいた。なぜか体は縛られていない。部屋の広さは四畳ほどで、室内には二人の女。サンダルフォンとメルカバーの姿があった。

 メルカバーは机に座り、ノートパソコンと向き合っている。それに対し、サンダルフォンは腕を組み、裏切り者の顔を見つめている。

「やっと目を覚ましたんだ」

 サンダルフォンは体を起こしたアナフィエルに近づく。

「どういうつもりだ? てめぇ」

 アナフィエルの言動に、サンダルフォンは失笑する。

「分かるでしょう? あなたが公安のスパイだってことがバレたって訳」

「公安のスパイ? ふざけるな!」

 アナフィエルがいる部屋の出入り口は、後方しかない。白を切るアナフィエルは、出入り口の向かい歩き始める。すると、サンダルフォンは不敵な笑みを浮かべ、彼を呼び止める。

「そのドア。高圧電流が流れているんだよ?触ったら一発で感電死。それを合図に、あなたの仲間は爆死。そのドアに触れて仲間と一緒に死ぬのか? それともこの場に残って、私に殺されるのか? 好きな方を選んで」

 サンダルフォンは、どこからかリモコンを取り出し、スイッチを押す。すると、正面の壁がスクリーンに変わり、そこに手枷や足枷で拘束された公安の五人の刑事の姿が映った。刑事の瞳はアイマスクで覆われ、猿轡まで噛まされている。スクリーンの映像からは、嫌らしく公安の刑事が唸る声が流れている。

 その唸り声を聞いたサンダルフォンは、愉快でたまらないようだった。その態度にアナフィエルの体に悪寒が走る。

「唸り声とか脅える声って、いつ聞いてもいい物ね。そう思わない? アナフィエル」 

 明らかに狂っているとアナフィエルは思った。丁度その時、メルカバーがノートパソコンのエンターキーを勢いよく叩く。直後、ラグエルの音声が部屋に流れた。

『それでは説明します。一時間後に暗殺するのは、昨日殺せなかった次期法務大臣候補の、相田文雄……』

「はい。物的証拠ドーン」

 奇声のようにメルカバーが叫ぶ。その顔付きからは、心躍るような嬉しさが滲み出ていた。アナフィエルはメルカバーの前にあるノートパソコンを凝視する。それにはケーブルで見覚えのある機械が繋がれていた。

「お前……」

 アナフィエルの言葉を遮り、メルカバーは席から立ち上がり、彼の元に近寄る。

「あなたが気絶している間に、ズボンのポケットの中に隠してあった、ボイスレコーダーを回収したよ。面白い機械ね。音声データは自動的に公安のパソコンに送信されるって。もちろん、音声データは全て削除。同時に公安のパソコンにハッキングして、逮捕に繋がりそうなデータも破壊したから。これだけの作業を三十分くらいでやる私って天才!」

 自分が公安のスパイであることを示した、物的証拠。それを掴まれたアナフィエルは、強く唇を噛んだ。

「物的証拠も出て来たから決定ね。ということで、吐いてもらうわ。公安がどこまで掴んでいるのか。早く言わないと、拷問を始めちゃうよ」


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