04.5 夜の宿
アラルフィを書き足りない気になりまして、
二十話近く投稿してから、加筆しました。
満天の星々が 美しいアラルフィを見守る頃…………。
町の諸処に、夜の闇を柔らかく遮る場が姿を現す。ランタンの淡い灯りに包まれたバールだ。岸壁に築きあげられた美しいアラルフィの町は、バールによって昼とは違う もう一つの表情を見せる。
それは、恋人たちの甘いひとときの表情だ。
交易の要所として栄えるアラルフィの町は、船乗りの町だ。船乗りたちは長い航海にて、愛する家族を、愛する妻を、愛する恋人を、愛する女性を故郷に残し、長い、長い旅へと出かける。
そんな彼らは、わずかに訪れるそれぞれの地で、別の恋人を、別の妻を、別の家族を持ち、それぞれに愛を注ぐ。それは海に生きる男の、一つだけには注ぎきれない、幾つもの、大きく、深い愛が成せるわざだ。
夜のバールには、男たちの深い愛を注がれる女たちの笑顔が輝く。まるで太陽の光を浴びて輝くひまわりのように…………。
その路地裏のバールには、日に焼けた船乗りが若い娘を腕に抱き、額と額を、鼻と鼻を合わせて、微笑みあいながら、静かにダンスのリズムにのる。何組ものカップルが愛を語り、愛を表すリズムにのる。
美しいひととき…………満天の星空が、彼らの愛を見守る。
愛に包まれたバールの向かいに、鉄格子がはめられた古い建物がそびえる。創業から三百年以上経つ宿屋ローフィーだ。古き良きローフィーの三階の窓に一人の美しい女性の姿がある。ゆるく波うつ美しい金髪と、慈愛に満ちた切れ長の目、翡翠のような美しい瞳に、雪のような白い肌の、美しいエルフの娘だ。娘は物憂げに、窓際の椅子に腰掛け、黒く深まる海を見つめている……………………。
■システィーナの視点
バールから流れる緩やかな曲を、聴くとはなしに聴きながら、私は窓際の椅子に腰を下ろし、ずっと一つの事を考えている。
愛し合っても結ばれない…………人と妖精…………。
愛し合っても…………結ばれない…………人と妖精…………。
愛し合っても…………結ばれない…………人と…………妖精…………。
私の中で…………その言葉が…………グルグルと回っている…………。
結ばれない、人と妖精…………。
結ばれない、人と妖精…………。
結ばれない、人と…………妖精…………。
コックリは……………………人………………。
私は……………………妖…………精……………………。
ううん! 関係ない! 関係ないっ!!
私たちには、関係ないっ!
人魚の姫と人間の王子の、悲恋の話し…………。
いったい、彼らに何があったの? お互いの愛で結ばれたのに、なぜ離ればなれにならなくてはいけなかったの…………?
なぜ……………………?
なぜ……………………?
博物館には…………人の王家と、妖精の王家の、それぞれの思惑があったと…………王家だからこそ…………王家だからこそ…………。
王家だからこそ……………………離ればなれに……………………。
だから……………………だから……………………っ!
違うっ!
私たちは……………………!
コックリと私は……………………違う……………………!
違うっ! 違うっ!
違うよねっ!
絶対! 違うよねっ!?
私は、すがるような気持ちでコックリを見た。彼は大きな体を横にして穏やかな寝息をたてている。逆三角形の体を私に向け、ベッドに横たわっている。
「違うよね…………?」
私はコックリのベッドの横に膝をつくと、彼の温かな背中に額をつけて眠りに着いた…………。