40 それぞれの想い:システィーナ
久々の連日投稿です
■システィーナの視点
私とディートリッヒは、この光る海を見渡せる断崖の中腹に来ている。
そこからは美しい緑の草原と、そこで揺蕩うような美しいガレー船が見て取れる。コックリとは別行動だ。彼は聖鏡と話があるそうで、まだガレー船のところにいる。
空の海が近い。マリンスノーを食べるおとなしい首長竜の親子が上空を泳ぎ、巨大なクジラの群れが鳴き声を掛け合いながら私たちの様子を眺めている。
美しい世界……
「どうした、システィーナ?」問いかけるディートリッヒ。
「ううん……何でもないの……」
私とディートリッヒは断崖に作られた階段を上ってゆく。
上りきったそこには小さな滝が流れ落ち、そのそばにひっそりとたたずむお墓があった。
「クレメンティア様……」
ディートリッヒが膝をつき深くこうべをた垂れた。そう、この景色を一望のもとに見渡せるそこに、人魚姫のお墓があった……
一人の人間の王太子を想い、その人のすべてを心と体に刻み付け、大切に生きた女性のお墓が……
愛する人を心と体に刻み付けて生きる……
私は……
うらやましく思った……
「王太子さまへの想いを貫いて生きた……素敵な女性だったのね……」
「ああ……。ああそうだな……私も思う……」
ディートリッヒは人魚姫のお墓から立ち上がると、私に話した。
「人魚の国で、ハネローレお婆さんと話したな……。人間に恋しても、いつか別れることになると。だから幸せなのか分からないと……」
「ええ……」
「私はサメ属性のためか誰かに恋するとか、そういう心境になったことがないから、頭で考えていたのだ。頭で考えると貴女たちは理解できなかったが……」
「ええ……」
「心でクレメンティア様の想いを感じ、クレメンティア様の気持ちになったら、すっと納得できるようになった……。愛する者を想って生きる……そういう幸せがあるのだな……私には到底無理だが……」
「ふふ……いつかできるわ……」
私は微笑んだ。
肉体に心が宿る人間と異なり、心が肉体を持った妖精は、寿命が極端に長い……
でもその長い寿命の中で、真に尊敬し、愛することができる人と出逢えるのはどれほどだろうか……
人魚姫は、その人に出逢えたの……
彼女の心は、どれほどの喜びに満ち溢れただろうか……
そしてその人に自分のすべてを捧げ……
その人のすべてを受け入れ……
自らの心と体に刻み付け……
その想いを胸に残りの人生を捧げられた……
合理的ではないかもしれない……
論理的でもないかもしれない……
理屈ではないの……
でもそういう幸せもあるの……
想いとともに生きる幸せが……
コックリは、私がずっと一緒に生きていける人と結ばれることが幸せだと信じている。
長命なエルフと結ばれることが、幸せだと信じている。彼らしい、合理的な考え。
でも私は、わずかな時間でも心から愛した人とともに過ごし、その想いを胸に添い遂げることが幸せだと思っているの……本当に、理屈ではないの……
コックリと私は、ずっと平行線だと思う……
コックリは、私のすべてをもらってはくれない……
受け取ってはくれない……
私の心と体に、彼を刻み付けてくれない……
彼の生きた証を、私に刻み付けてくれない……
でも、かまわない……
私は覚悟を決めたの……
彼が私を想って刻み付けようとしない、その想いを……
私の幸せを願っているその想いを……
その想いだけで……私は生きていける……
その想いを胸に刻み付けて……




